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前編
楽園からの脱出3
しおりを挟む悪魔を追っていたストゥルティは、追いつけなかったかと悔しげに拳を握り締めた。これだけが二人より勝る能力なのに、逃してしまったなど悔しくてたまらない。
なによりも、アルトゥスを救ってくれた存在であるウィリディスを汚した行為。これだけは絶対に許すことができないと周囲を見る。
本当にいなくなってしまったのか。まだ可能性があるなら、と思っていたが、アルノームが慌てたようにやってくるのを見て、それどころではなくなったらしいと察する。
「ストゥルティ! 逃げて!」
楽園への侵入が完全にバレてしまい、多くの天使が殺すために向かっていると言う。
おそらく、普通ではない二人を警戒しているのだろうが、かなりの人数送り込まれているらしいと、アルノームが伝える。
「そりゃ、さすがにバレるか」
これだけ騒げばバレて当然だ。むしろ、バレない方がおかしいのだから、この辺りが引き際だろうと思う。
問題は、一人で逃げられるかということだ。自分があの二人より劣るとわかっているだけに、囲まれると厄介なことになる。
(ルーメンは、リュフェ達といるから大丈夫だよな)
最悪は考えておかないとな、と思った辺りで、どうやって逃げだすかと考えた。
悩んでいれば、こっちだとアルノームが動き出す。逃げ道は知っているから、いけるところまで案内すると。
「いいのか?」
自分達といるところを見られでもしたら、大変なことになるのではないか。それこそ、アルノームは罪人扱いになってしまう。
「大丈夫。うまくやるから」
そういったのは得意なんだ、と笑うアルノームに、確かになんとかできそうだ、と思ってしまったストゥルティ。よくわからないが、隠密に長けているからこそ思えたのだろう。
「俺達と一緒には」
行かないかと問いかけた。楽園の中にいなかったことから、交流自体はそれほど多くはない。
それでも、すでに仲間だとストゥルティは思っている。ルーメンの保護をしていたことも考えれば、一緒にと思ってしまったのだ。
「僕には、堕天使になる勇気がないから……」
「そっか…」
当然だよな、と笑う。本来なら神に反逆するような行為であり、簡単に堕天使になろうなど思うことはない。思ってしまえる自分達が、普通ではないのだ。
けれど、普通ではなくしたのも天使達。忌み子と蔑まされることがなければ、自分達はこうなっていなかったと言い切れた。
案内されるままに進む先は、楽園にある滝。一度だけ、ラピエールが気に入っているのだと見せてくれた場所でもある。
「ここに抜け道がある。滝の奥に洞窟があって、さらに進むんだって」
「誰がそんなこと…」
あのとき、ラピエールですらそのようなことは知らなかった。正確には、洞窟があることは知っていたが、奥に抜け道があるなどとは気付いていない。
リュツィフェール達と中へ入ったが、そのときも気付いてはいなかった。
「アルビオン……。よくわからないけど、楽園のことはすべて把握しているみたいだった」
ここまで案内して、ストゥルティを逃すように言ったのもアルビオンだと言えば、さすがに驚く。
「……僕が言っちゃいけないと思うけど、気を付けて。アルビオンは、たぶん普通の天使じゃない」
完全な味方として見るべきじゃないと言われれば、わかったと頷く。おそらく、その考えは間違っていないと思えたから。
「それじゃあ、元気で。ルーメンをよろしく」
「あぁ、任せろ。あいつは俺が護るから」
二人がどれほど一緒にいたのかはわからないが、自分は傍にいると安心させれば、ストゥルティは振り返ることなく進んだ。
合流した三人は、門を使って地上界へと向かった。まずは自分達の新たな拠点へ。ラピエールのことはそのあと考えるのだと思っていたのはアルトゥスだけ。
リュツィフェールはすぐにでも魔界へと考えていた。早く取り戻さなければ、ウィリディスのようになってしまうかもしれないと思えば、ジッとなどしていられない。
「ここか?」
「うん。部屋が少ないのが少し問題かもしれないけど、俺はルーメンと使うから」
見た目を平凡にして、実際は大きい家を用意することも考えたが、力を使うことで天使を引き寄せる可能性もあるとやめた。
最悪は、もう一軒みつければいいかと思っていたりもする。分散する方がなにかあったとき困るが、そのときは自分とルーメンが離れればいい。
自分達はそれほど重要ではないと思っていたからこそだ。
「いや、判断は間違っちゃいねぇ。一応、地上界での武力行使は禁止されているが、やってこないとも言い切れない。なにせ、楽園の天使だけじゃなく、楽園の秘密を知った俺らがいるんだからな」
始末したいと思われているだろうとアルトゥスが言えば、リュツィフェールも頷く。間違いなく、天使達は自分達を逃すつもりはない。
こうなってくると、ここでの安全を確保しなければ動けないかと悔しそうに表情が歪む。
ウィリディスはラピエールが大切にしている友人だ。ここでアルトゥスがいるからと放置していくことはできない、と思ってしまったのだ。
思考がラピエールで回っている自覚があるリュツィフェール。それを嫌と思うことはなく、自分といることを選んでくれたラピエールのためなら、なんでもしてやると思う。
「湯を沸かしてやるから、きれいにしてやれ」
未だシーツ一枚で包んでいる状態のウィリディスを見て、リュツィフェールが休もうと言った。少なくとも、今は動かないと示すことで、二人が休めるようにしたのだ。
「本当だな」
「あぁ…」
今すぐ行きたいのは事実だが、動かないとハッキリ伝える。二人の視線が絡み合い、嘘ではないとわかればアルトゥスが息を吐く。
今日は動かないということなのだろうが、それでも嘘ではないならいいかと思えたのだ。
「部屋、勝手に使うぞ」
どこを使うか話し合うのは面倒だと向かう姿に、ストゥルティは呆れながらも後を追う。
去っていく二人の背中を見ながら、リュツィフェールが小さく呟いた。ラピエール、と。
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