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前編
悪魔との交流
しおりを挟む触れる風で目を覚ましたのはラピエール。ぼんやりとした視界の中、どこにいるのだろうかと起き上がり驚く。
見知らぬ部屋の中。なぜか天蓋付きのベッドに寝かされている。窓が開いていて、ここから吹き込む風で目を覚ましたのだということだけはわかった。
けれど、どこにいるのかはわからない。リュツィフェールが迎えに来たのだから、これからみんなで過ごす家だろうかと思うが、違うと言い切れた。
「リュフェ……」
もしもそうなら、絶対に起きるまでリュツィフェールがいる。彼が傍から離れるわけがないのだ。
いないということは、ここは新しく暮らす家ではないということだ。リュツィフェールとはぐれてしまったのかもしれないと、ベッドから降りた。
「目を覚まされましたか」
「えっ」
どこから声がと見渡すと、窓の縁に黄色い小鳥が一羽。どうやら声の持ち主らしいとわかれば、可愛いと近寄る。
「小鳥さん、話せるの?」
「はい。私は使い魔ですから」
使い魔という言葉に、それはなんだろうかと首を傾げた。聞いたことのない言葉だが、そもそもラピエールは知識がほとんどない。
家主に目覚めたことを伝えに行くと飛んでいくのを見て、一体誰だろうかと再びベッドに座る。他にやることもなく、どこにいるのかもわからない。
いい人だといいな、と思いながら待っていれば、室内に入ってきた少年にラピエールは身構えた。
「悪魔!」
そう、入ってきたのは背に大きな翼を生やした悪魔。天使とは違う、独特の翼は一度見たら忘れない。なにせ、酷い目に遭ったのだから当然だろう。
どれだけ目の前にいるのが幼かろうが、悪魔に変わりはない。
「目が覚めたみたいでよかった。聖なる天使」
穏やかな声で話しかけてくる悪魔は、自分が知っている悪魔とはまったく違う。本当に悪魔かと問いかけたくなるほどで、どうするのがいいのかわからずに困惑したラピエール。
ここには自分しかいない。武力で身を護ることはできないかもしれないが、逃げ出すことはできる。幸いにも窓は空いていて、すぐにでも外へ出ることができそうだ。
油断してはいけない。するわけにはいかないのだと、必死に言い聞かせた。
警戒心丸出しで身構えるラピエールに、少年は丁寧な姿勢を崩さない。近づけば信頼を得られないと思ってなのか、一歩も近づくことなく、真っ直ぐに見ていた。
「このような形でお連れしてすみません。けど、どうしてもあのお方が我々には必要なのです」
どこか必死な様子に、悪魔にも色々あるのではないか。天使がそうであったように、と思うようになっていく。
彼らには、彼らの事情があって自分をここへ連れてきた。いや、と思い直す。協力した誰かがいるのかもしれないと。
そうでなければ、彼ではリュツィフェールとはやり合えないと思ってしまったのだ。
「お察しの通りです。あなたを連れてきたのは我々ではありません。まだ、詳しいことは話せないのですが」
あのお方が来たら、という言い方をする悪魔に、一体誰のことを言っているのだろうかと思う。自分を連れてきた理由もこれだったが、楽園にいた自分には知り合いなどいない。
助けに、と思ってから、まさかと思う。彼らはリュツィフェールを求めているのだろうかと。
(そんなことあるわけないか。リュフェに悪魔の知り合いなんて)
ストゥルティならハーフだから、と考え、それもあり得ない気がするなと悩む。
とりあえず、あのお方とは誰なのか。これぐらいなら教えてくれるだろうかと聞けば、少年もそうだったと頷く。
「リーネンいるか?」
話そうとした瞬間、もう一人悪魔が入ってきてラピエールが警戒心を強める。一人ならどうにかなるかもしれないが、二人になると逃げられないかもと思ったのだ。
「リベラ、どうしたの?」
「あのお方、来てくれそうか?」
それが気になったから来た、と言う少年。ここでもあのお方か、とラピエールは視線を向ける。
よくはわからないが、悪魔にとってとても大切な存在なのか。それとも、彼らにとって大切な存在なのだろう。自分と引き換えで手に入れたいということなのか。
なにもわからないことから、自分が今どういう立場なのかもわかってはいない。
わかったところで、無知の自分では判断できないかもしれないと思えば、少しばかり悔しくもなる。戦えないだけではなく、知識面でも役に立たないのだ。
(なにかできるようにならなきゃ)
このままでは、リュツィフェールのお荷物だと新たな決意をする。
「おっ、聖なる天使じゃん! 起きてたのかぁ」
ラピエールに気が付いた少年、リベラと呼ばれた悪魔が近寄ってくると、少しだけ後ろに引いてしまった。
短い会話から、あの悪魔とはまったく違うとわかっているのだが、それでも反射的に動いてしまったことに、少し申し訳なく思う。
「あー、気にしなくていいって。詳しくは知らないけど、どっかの悪魔がやらかしたってことは聞いたからさ」
「すみません。本当に、どこの悪魔がやらかしたのか知らないですけど」
なぜ彼が謝るのだろうか、と思うと同時に、やはり悪魔だからすべて同じではないのだと痛感した。少なくとも、目の前にいる二人は違う。
なら、話せば理解してもらえるかもしれない。自分には知り合いなどいないのだから、あのお方とやらは関係ないのではないか、と。
「これであのお方が来てくれれば…」
小さく呟かれた言葉に、今度こそこの話をしようとラピエールが二人を見る。
「来るよ。絶対に、あのお方は来る。ルプス様も言っていただろ。聖なる天使とあのお方は恋仲みたいだから、ここに連れ込めばって」
「ん?」
リーネンという名の悪魔は、今なんて言っただろうか。思わぬ内容に、ラピエールの思考が一瞬固まる。
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