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前編
悪魔との交流3
しおりを挟む暗闇の中、一筋の光が差しこんでラピエールが現れた。自分はラピエールに助けられたのだと、ウィリディスは理解している。
けれど、目を覚まし先にラピエールの姿はない。あの笑顔が見られると思っていたのに、なぜかいないのだ。
「目を覚ましたか…」
聞こえてきた声はアルトゥスのもので、視線を向けるとどこか疲れ切っていた。どれほど彼に心配をかけたのだろうか。
申し訳なくなると同時に、ウィリディスは自分の身になにが起きていたのかすべて思いだしていた。
「アルトゥス…」
ずっと会いたいと思っていた彼が目の前にいる。夢の中で悪魔に見せられていた幻ではない。自分がずっと想い続けてきた、現実のアルトゥスだ。
「ラピは……」
一緒にいてくれると思っていた人物がいない。どうしたのかと問いかければ、アルトゥスの表情が曇る。そのまま視線が逸らされるのと、どこからか聞こえてくる破壊音。
「……悪い。リュツィフェールが荒れててな」
小さく呟かれた言葉で、ウィリディスはすべてを差した。ラピエールがなぜいないのか、どこにいるのかはわからないが、それでリュツィフェールが荒れ狂っているのだと。
それでも自分が完全に大丈夫とわかるまでは、ここに留まってくれているのだとも。
「ウィリディス…ごめん……。お前を護れなくて……」
苦しそうな表情で、けれど今にも泣きそうなアルトゥスを見て、彼がどれだけ心配してくれていたのかわかる。自分をどれだけ想ってくれているのか。
忌み子として愛情を得ることのできなかったアルトゥスが、自分に向けてくれる愛情。
「アルトゥス…」
気にするな、と言うことはできない。言ったところで、彼の気持ちを軽くすることはできないとわかっているからだ。
自分も悔しいと思ったが、彼も悔しいと思っている。それがわかり、どこかで嬉しいと思う気持ちがあることに驚く。
おそらく、自分とはまったく違う遠い存在と思っていたアルトゥスが、自分と同じだと知れたからだろう。
「なぁ、約束……」
覚えているかと問いかける。今する話ではないのかもしれない。それでも、早くと思ってしまうのは悪魔に汚されたからだろう。
約束した。元気になったら、悪魔に触れられた身体をきれいにしてもらうと。叶えてくれないのかと、視線だけで問いかける。
「フッ…」
ここでその話をするのか、と呆れたような笑み。どのような笑みでも、笑ってくれたことにウィリディスは嬉しくなる。
今だけ、女になっていいだろうか。ラピエールのお陰なのか、身体は完全に回復しているウィリディスが見上げれば、アルトゥスが笑みを浮かべたまま頷く。
気持ちは十分に理解しているつもりだ。本人が望むなら、拒む理由はどこにもない。むしろ、自分が未成年だからとこだわっていなければ、これは避けられたかもしれないのだ。
もちろん、あの悪魔の行為をというだけであり、他の悪魔がやってきた可能性も十分にあり得る。
「恥ずかしい…」
「お前が言ったんだろうが」
別に女じゃなくてもいいとアルトゥスが言えば、自分がこうしたいのだと返すウィリディス。それでも、いざとなると恥ずかしくなってしまったのだろう。
ラピエールならどのような状態でも裸を見せられたのだが、アルトゥスにとなると無理だった。
中途半端な身体も恥ずかしいが、女の身体も恥ずかしい。どちらでも恥ずかしいなら、結局は同じではないかと思うのだが、違うとも思ってしまう。
この感情はどうしたらいいのだろうか、と身体を隠しながら見る。
困ったような表情を浮かべたのは一瞬で、アルトゥスが容赦なく布団を剥ぎ取ると、服へ手を伸ばした。
触れられると思った瞬間、ウィリディスの身体は強張る。胸がドキドキと高鳴る反面、呼吸が妙に浅く息苦しくなっていく。
「緊張しているか?」
「う、うっせぇよ」
緊張なんてしていないと強がるが、自分でもどこかがおかしいと感じている。よくはわからないが、なにかがおかしいのだ。
変な話だが、夢の中とはいえ悪魔に散々抱かれている。抱かれるという行為は初めてではない。なのに、どうしてと微かに視線が泳ぐ。
アルトゥスも軽口を叩くわりには、どこか慎重になっている。薄々察しているのだろう。
優しく頬に触れた手が、そのまま顎を持ち上げると唇を重ねる。
「んっ…ふっ…」
咥内を犯す舌に、ウィリディスがもっとと思いながら、やめてくれと思ってしまう。待ち望んでいたはずなのに、どうしてと困惑すれば、空いている手が胸に触れて身体が跳ねた。
次の瞬間、ハッとしたように離れるアルトゥスに、なぜやめるのかと視線を向ける。
「やめよう、ウィリディス」
「なんで! 約束しただろ!」
どうして触れてくれないのか。悪魔に汚された自分では、いやなのかと涙が溢れた。
「身体が震えてる」
「えっ…」
言われてから、ようやく異変の正体に気付く。自分の身体が震えている理由など、言われなくてもわかるもので、拒絶しているのだ。
相手がアルトゥスだから大丈夫ではなく、そういった行為を完全に受け入れられなくなっていた。
「どうして……」
自分の手がガタガタと震える様子に、やっとアルトゥスに触れてもらえたのにと涙を流し続ける。その姿を見ながらアルトゥスも痛ましげに見ることしかできない。
こうなるほどに、ウィリディスが深い傷を負っているということ。これは簡単に癒えるものではなく、むしろ癒えるのかと聞きたくなるほどだ。
「俺……アルトゥスを受け入れられないのか……」
汚された以上の苦痛はないと思っていたが、愛する人を受け入れられないというさらなる絶望がやってくるなど、誰が思うだろうか。
絶望しかないのなら、あのとき死んでいればよかったとすら思っていれば、休もうと促される、今はゆっくり休むべきなのだと。
「……うん」
ゆっくり休めば、元に戻るだろうか。戻らなかったら、そのとき自分が耐えられるのかと、ウィリディスは悪い方向にしか考えられなくなってしまった。
(ラピ…)
こんなときは、ラピエールに話を聞いてもらいたい。どこにいるのか、と俯いた。
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