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前編
ひとつになる二人
しおりを挟む同じ布団で寝ることはできた為、隣で眠っているアルトゥスを眺めるのはウィリディスだ。自分が目を覚ますまで、一睡もしていなかったのではないか、というほどぐっすり眠っている。
おそらく、自分が動いたぐらいでは起きないだろうと思うほどで、それだけ自分が眠っていた証だ。わかっているから起こすことはできない。
(抱いて、もらえなかった……)
気持ちでどうにかなる問題ではなく、身体が完全にそういった行為を拒絶してしまったのだろう。
嫌だったのは悪魔に触れられること。アルトゥスに触れられることは嫌じゃないのに、と言いたくなる。言っても自分の身体なのだから意味はないのだが。
待ち望んだ瞬間は、あっという間に消えてしまう。この気持ちをどうしたらいいのかわからず、ただアルトゥスの寝顔を眺めている。
もやもやとした感情で、眠ることすらできなくなってしまったウィリディスは、気分を切り替えなきゃと考えた。
普段なら、お風呂に入ることで切り替えていたことから、今回もそうするかと思う。そっとベッドから抜け出し、起きないことを確認すると、そのまま部屋を出た。
部屋を出てからふと思う。ここはどこだろうか。目を覚ましてから、そういった話をしていなかったと思いだしたのだが、だからといってアルトゥスを起こす必要もないと見渡す。
楽園の家とは違い、広くはないようだとわかれば、なんとかなるだろうと歩いていく。
(二階建てか……)
二階はすべて私室用に思えれば、降りようと一階へ。リビングが見えた瞬間、外を眺めているリュツィフェールに息が詰まる。
今までに見たことのない表情を浮かべている姿は、あれが本来の姿なのかもしれないと思った。アルトゥスと同じく、忌み子として生きてきたリュツィフェールなのだ。
それをラピエールが救ったのに、今はここにいない。誰よりも連れ戻したいはずなのに、動くこともできずにいるのだろう。
だから、こうやって外を見ながら想っているのかもしれないと思えば、いたたまれない気持ちになり離れる。
こんなリュツィフェールは見ていられないと思うと同時に、自分が助かっていなければ、アルトゥスがこうなっていたのかもしれないと思う。
これ以上、アルトゥスを苦しめたくはない。ならば、自分は強くならなければいけないと思う。力がなくても、なにかできるはずだと。
リビングを過ぎれば、探していた風呂場はあった。あったのだが、向かった先にはストゥルティとルーメンが入っているようで、声だけが聞こえてくる。
「ルーメン! 翼洗ってないだろ!」
「だっ…いってぇ」
「泡で転ぶなよ」
なにやってるんだと呆れているストゥルティの声と、楽しそうにしているルーメン。いつの間に、二人はこれほど仲良くなったのか。
考えてみて、そうだと思う。ルーメンはあのとき一緒に逃げた。自分には空白の二ヶ月があるが、二人には空白の二ヶ月などない。
当然だが、その二ヶ月でルーメンはリュツィフェールやアルトゥスとも仲良くなっているはずだ。
「あっ…ルティっ…んっ…」
「やっぱ可愛いな」
怪しい雰囲気になったのを感じ取れば、部屋に戻ろうと後にする。
気分転換をしようとして、逆にストゥルティとルーメンがそういった関係なのだと知ってしまう。ラピエールもリュツィフェールと結ばれている。
自分だけが、と思うと、虚しい気持ちをどうすることもできなくなってしまった。どうして自分だけがアルトゥスと。なぜ、と思えば涙が溢れていく。
部屋に戻れば、慌てたようにアルトゥスが近寄ってきた。大丈夫と思ったが、どうやら抜け出したことで起こしてしまったらしい。
「よかった……いなくなったから、どこへ行ったのかと捜しに行くとこだった」
「ごめん…」
ゆっくり寝かせてあげたかっただけだが、返って心配をかけてしまったと項垂れる。自分はどうして、こうもダメなのだろうか。
自己嫌悪に陥れば、アルトゥスの手が優しく頭を撫でる。見上げれば穏やかな表情を浮かべていたが、きっと自分がいなかったときは酷い顔をしていたのだろう。
リビングにいるリュツィフェールのように。
「眠れなかったのか? さっきまでずっと寝てたようなもんだも……て、なにやってんだ」
急に服を脱ぎ出したウィリディスに、慌てるのはアルトゥスの方だ。さすがに惚れた天使の裸は勘弁してくれと視線を逸らす。
トラウマと化している状態だ。触れるわけにはいかない。けれど、裸など見せられたら触れたくなってしまう。
「ま、待て!」
裸体で抱き着いてきたウィリディスに、離れろと言いかけたが、強引に唇を重ねて封じられてしまった。
なにを考えているのかわからず、どうするべきかと頭をフル回転させていると、ウィリディスの手がアルトゥスの手を取り触れてはいけないところへ持っていかれる。
「んっ…っ…」
女の部分へ強引に運ばれた手と、震え始める身体。強く振り払うこともできず、やめろと声をかけることしかできない。
「ウィリディス…やめろ。こんなに震えてて、無理だ……」
「無理じゃねぇ……無理なんて……あっ」
はずみで指が入った瞬間、身体がビクリと跳ねて呼吸が荒くなる。さすがにやばいと強引に手を引くと、今度は自らアルトゥスのを扱きだす。
悲しいことに、惚れている天使に触れられて息子は喜んでいる。情けないと思う気持ちと、どこか必死な様子で見上げてくるウィリディス。
「俺…こんなに望んでるのに……どうして……ラピもルーメンも大丈夫なのに……」
ルーメンの名前が出れば、ハッとしたように見た。部屋を出て会いに行こうとしたのかもしれない。けれど、その場に遭遇してしまったのだろう。
二人の関係が恋仲になったことは、ウィリディスの知らないこと。知っているということはそれしかないと表情が翳る。
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