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前編
ルーメンの異変
しおりを挟むほとんどの悪魔を避難させたリーネン。大切な者を奪われたのだから、怒り狂っていてもおかしくはないことで、それに仲間を巻き込むわけにはいかない。
だからこそ、この場に残っているのは三人とラピエールだけとなっていた。
取り戻しに来るのだから、一直線にやってくるはず。避難させれば、他の仲間は被害を受けないだろうとリーネンの考えだ。
間違ってはおらず、凄まじい力を放つ気配は真っ直ぐに近づいて来る。
「来た…」
察知したリーネンが、あまりの力量差に唾を飲み込む。ここからは一歩も間違えられないと。
「やばい…まだ遠くにいるのに、この気……」
自分達では太刀打ちできないどころではないと、カルディスが震えあがると、しっかりしろとリベラが背中を叩く。
そうはいうが、リベラの身体も震えていた。完全に飲まれているのだ。リュツィフェールが放つ怒り狂った力の気配に。
(私にもわかる…)
どれだけ無知であっても、ラピエールも感じ取れた気配は、いままでの彼からは想像もつかない。怯えるのも無理ないと思ったほどだ。
自分にはなにもしないとわかっていても、ラピエールすら怯えさせてしまった圧倒的な力。これが六枚羽根の堕天使なのかと、息を呑んで待つ。
徐々に近づいて来る気配に、このままでは三人が危険なのではないかと見る。目的のために手段を選んではいられないのだろうが、事を成す前に殺されてしまう。
せめて交渉の地に立たせてあげたいと考えていれば、大きな音を立ててドアが壊される。
「見つけた」
見たことのない冷酷な視線。すべてが凍り付いてしまったリュツィフェールの姿に、これが出会う前の彼なのだとラピエールは知った。
忌み子と蔑まされた日々を過ごしてきたリュツィフェールの姿。なんて悲しいのだろうか、と胸が苦しくなる。
リュツィフェールの手が剣を握り締めると、三人がビクリと反応した。問答無用で攻撃してくると察したのだ。話などさせてはもらえない。
仲間を護るためとはいえ、これは賭けだっただけに仕方ないこと。もっとも大切にしている天使へ手を出しているのだから。
「待って! この人達、悪い悪魔じゃないの!」
覚悟を決めた瞬間、目の前に両手を広げて立ち塞がるラピエールに、リュツィフェールの表情が微かだが動く。当然ではあるが、ラピエールの声は届くのだ。
「やり方は間違えてると思うけど、必死だったんだよ。だから、話だけでいいから聞いてあげて!」
お願いと懇願すれば、一先ず剣から手が離れていく。問答無用で攻撃ということはやめてくれたようだ。
ホッとしたように胸を撫で下ろすラピエールと、ありがとうと感謝を述べるリーネン。勝手に連れてきたのに、手を貸してくれるとは思っていなかったのだ。
「だって、仲間を護るためなんでしょ」
誰かを傷つけたり、殺したりということじゃなくて、大切な仲間のためだから、手を貸していいと思っただけのこと。
弱いからこそ、このような手を使って護ろうとした。気持ちは理解したし、なによりもバックにもっと強い悪魔がいる。
そちらの目的はわからないが、下手に刺激しないほうがいいかと思えたのだ。
「それにね、乱暴なことはなにもしなかった。私がリュフェの大切な人だから、なのかもしれないけど」
違ったら扱いが変わったのかもしれないと思ったこともある。けれど、彼らはそういったことをしないとも言い切れた。
ここで一緒に過ごしていれば、裏表のない悪魔達だということぐらいはわかる。
すっかり打ち解けている四人に、怒り狂っていたリュツィフェールがとりあえずはと攻撃態勢を解く。話からして、乱暴なことはしていないと理解したのが大きいだろう。
もしものときは、この辺りをすべて破壊するつもりぐらいではいたのだ。
「追いついたぜ! リュツィフェール!」
話し合いができるか、とラピエールが思った瞬間、新たな声と部屋に駆け込んでくるアルトゥス。同時に飛び込んできたウィリディスに、ラピエールがハッとしたように見る。
「ラピエール!」
「ウィリディス!」
駆け寄ってきたウィリディスに、同じように駆け寄って抱き合う。助かったのかどうかもわからないまま、気が付いたらここにいたことで気になっていたのだ。
よかったと安堵する。自分はちゃんと大切な友人を助けられたのだと。
つまり、アルトゥスを絶望に落とさないで済んだのだ。どちらもよかったと、心の底から思っていた。リュツィフェールの冷え切った姿を見てしまったからこそ、余計に思うのかもしれない。
「もう、どこも苦しくない?」
「大丈夫だって。ラピのお陰で元気だ」
「よかったぁ」
本当によかったと安堵すると、視線はアルトゥスへと向けられる。そのまま笑えば、アルトゥスもありがとうと感謝を述べた。
取り戻したら伝えようと思っていたのだ。ラピエールがいなければ、今頃助かっていなかったとわかっているからこそ、今度は自分がと思っている。
それで、この状態はどうなっているのか、とアルトゥスが問いかける。リュツィフェールに任せると、とんでもないことになりそうだと判断したのだろう。
同時に、悪魔達がなにもしていないことにも気付いている。ラピエールが庇うように立っていたのも、意味があるのだろう。
「たぶん、私を連れてきたのはリーネン達じゃないよ。もっと上がいるんだよね」
振り返って問いかければ、リーネンが同意するように頷く。
「ラピエールがここにいれば、きっと取り戻しにくる。だから、あとは自分達でどうにかしろって」
「なんだ、それ」
どういう意味かとアルトゥスが怪訝そうに見た。これでは、彼らの目的とは別に、連れてきた悪魔の目的があることになる。
そいつらの罠にはまっているのではないか、と思ってしまったのだ。
「なにもされてないし、すごく大切に扱ってくれたの。だから殺さないで、リュフェ」
彼らの望みを聞いてとは言わないから、とラピエールが言うことで、とりあえずは納得してくれたリュツィフェール。
完全に矛を収めてはくれたが、それでも表情は変わらない。ため息をついてアルトゥスは提案した。自分が話を聞くから、少し部屋を借りて休息にしようと。
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