堕天使の愛

朱璃 翼

文字の大きさ
68 / 69
前編

ルーメンの異変

しおりを挟む

 ほとんどの悪魔を避難させたリーネン。大切な者を奪われたのだから、怒り狂っていてもおかしくはないことで、それに仲間を巻き込むわけにはいかない。

 だからこそ、この場に残っているのは三人とラピエールだけとなっていた。

 取り戻しに来るのだから、一直線にやってくるはず。避難させれば、他の仲間は被害を受けないだろうとリーネンの考えだ。

 間違ってはおらず、凄まじい力を放つ気配は真っ直ぐに近づいて来る。

「来た…」

 察知したリーネンが、あまりの力量差に唾を飲み込む。ここからは一歩も間違えられないと。

「やばい…まだ遠くにいるのに、この気……」

 自分達では太刀打ちできないどころではないと、カルディスが震えあがると、しっかりしろとリベラが背中を叩く。

 そうはいうが、リベラの身体も震えていた。完全に飲まれているのだ。リュツィフェールが放つ怒り狂った力の気配に。

(私にもわかる…)

 どれだけ無知であっても、ラピエールも感じ取れた気配は、いままでの彼からは想像もつかない。怯えるのも無理ないと思ったほどだ。

 自分にはなにもしないとわかっていても、ラピエールすら怯えさせてしまった圧倒的な力。これが六枚羽根の堕天使なのかと、息を呑んで待つ。

 徐々に近づいて来る気配に、このままでは三人が危険なのではないかと見る。目的のために手段を選んではいられないのだろうが、事を成す前に殺されてしまう。

 せめて交渉の地に立たせてあげたいと考えていれば、大きな音を立ててドアが壊される。

「見つけた」

 見たことのない冷酷な視線。すべてが凍り付いてしまったリュツィフェールの姿に、これが出会う前の彼なのだとラピエールは知った。

 忌み子と蔑まされた日々を過ごしてきたリュツィフェールの姿。なんて悲しいのだろうか、と胸が苦しくなる。

 リュツィフェールの手が剣を握り締めると、三人がビクリと反応した。問答無用で攻撃してくると察したのだ。話などさせてはもらえない。

 仲間を護るためとはいえ、これは賭けだっただけに仕方ないこと。もっとも大切にしている天使へ手を出しているのだから。

「待って! この人達、悪い悪魔じゃないの!」

 覚悟を決めた瞬間、目の前に両手を広げて立ち塞がるラピエールに、リュツィフェールの表情が微かだが動く。当然ではあるが、ラピエールの声は届くのだ。

「やり方は間違えてると思うけど、必死だったんだよ。だから、話だけでいいから聞いてあげて!」

 お願いと懇願すれば、一先ず剣から手が離れていく。問答無用で攻撃ということはやめてくれたようだ。

 ホッとしたように胸を撫で下ろすラピエールと、ありがとうと感謝を述べるリーネン。勝手に連れてきたのに、手を貸してくれるとは思っていなかったのだ。

「だって、仲間を護るためなんでしょ」

 誰かを傷つけたり、殺したりということじゃなくて、大切な仲間のためだから、手を貸していいと思っただけのこと。

 弱いからこそ、このような手を使って護ろうとした。気持ちは理解したし、なによりもバックにもっと強い悪魔がいる。

 そちらの目的はわからないが、下手に刺激しないほうがいいかと思えたのだ。

「それにね、乱暴なことはなにもしなかった。私がリュフェの大切な人だから、なのかもしれないけど」

 違ったら扱いが変わったのかもしれないと思ったこともある。けれど、彼らはそういったことをしないとも言い切れた。

 ここで一緒に過ごしていれば、裏表のない悪魔達だということぐらいはわかる。

 すっかり打ち解けている四人に、怒り狂っていたリュツィフェールがとりあえずはと攻撃態勢を解く。話からして、乱暴なことはしていないと理解したのが大きいだろう。

 もしものときは、この辺りをすべて破壊するつもりぐらいではいたのだ。

「追いついたぜ! リュツィフェール!」

 話し合いができるか、とラピエールが思った瞬間、新たな声と部屋に駆け込んでくるアルトゥス。同時に飛び込んできたウィリディスに、ラピエールがハッとしたように見る。

「ラピエール!」

「ウィリディス!」

 駆け寄ってきたウィリディスに、同じように駆け寄って抱き合う。助かったのかどうかもわからないまま、気が付いたらここにいたことで気になっていたのだ。

 よかったと安堵する。自分はちゃんと大切な友人を助けられたのだと。

 つまり、アルトゥスを絶望に落とさないで済んだのだ。どちらもよかったと、心の底から思っていた。リュツィフェールの冷え切った姿を見てしまったからこそ、余計に思うのかもしれない。

「もう、どこも苦しくない?」

「大丈夫だって。ラピのお陰で元気だ」

「よかったぁ」

 本当によかったと安堵すると、視線はアルトゥスへと向けられる。そのまま笑えば、アルトゥスもありがとうと感謝を述べた。

 取り戻したら伝えようと思っていたのだ。ラピエールがいなければ、今頃助かっていなかったとわかっているからこそ、今度は自分がと思っている。

 それで、この状態はどうなっているのか、とアルトゥスが問いかける。リュツィフェールに任せると、とんでもないことになりそうだと判断したのだろう。

 同時に、悪魔達がなにもしていないことにも気付いている。ラピエールが庇うように立っていたのも、意味があるのだろう。

「たぶん、私を連れてきたのはリーネン達じゃないよ。もっと上がいるんだよね」

 振り返って問いかければ、リーネンが同意するように頷く。

「ラピエールがここにいれば、きっと取り戻しにくる。だから、あとは自分達でどうにかしろって」

「なんだ、それ」

 どういう意味かとアルトゥスが怪訝そうに見た。これでは、彼らの目的とは別に、連れてきた悪魔の目的があることになる。

 そいつらの罠にはまっているのではないか、と思ってしまったのだ。

「なにもされてないし、すごく大切に扱ってくれたの。だから殺さないで、リュフェ」

 彼らの望みを聞いてとは言わないから、とラピエールが言うことで、とりあえずは納得してくれたリュツィフェール。

 完全に矛を収めてはくれたが、それでも表情は変わらない。ため息をついてアルトゥスは提案した。自分が話を聞くから、少し部屋を借りて休息にしようと。




.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足
恋愛
 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。  途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。 *元の話を読まなくても全く問題ありません。 *15歳で成人となる世界です。 *異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。 *なかなか本番にいきません

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLの白瀬凛は、過労死した翌朝、異世界の侯爵令嬢アリア・ヴェルナーとして目を覚ました。   転生初日。 婚約者であるシュルツ公爵令息から、一方的に告げられる。   「君は無能だ。この婚約は破棄する」   行き場を失ったアリアが選んだのは、王城のメイドに志願すること。 前世でブラック企業に鍛えられた凛には、武器があった。 ——人を動かす技術。業務を改善する知識。そして、折れない心。   雑用メイドからスタートした凛は、現代の知識を武器に王城を変えていく。 サボり魔、問題児、落ちこぼれ——誰もが見捨てたメイドたちが、次々と凛に懐いていく。   そして転生からわずか一年。 凛は王城に仕える500人のメイドを束ねる、史上最年少メイド長となっていた。   「——なぜ、君がここに」   国王主催の晩餐会。 青ざめた顔で立ち尽くす元婚約者の前で、500人のメイドたちが一斉に頭を下げる。   「アリア・ヴェルナー・メイド長。晩餐会の準備が整いました」   私を捨てたあの日、あなたの後悔も始まっていたのです。 ——もう、遅いですけれど。

処理中です...