鬼とドラゴン

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黒髪の少年

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 ヴァンは食事を済ませた後、自分とガニアンの食器を洗った。食事を作ってもらった方が片付けるというのがこの家の暗黙のルールだった。蛇口から流れる水は冷たかったが、真冬に比べれば苦痛ではなかった。季節は春を迎えていた。春といえば新学期で明日から中学校の一年生だった。ヴァンは新しくなる環境に多少の不安を感じていた。

 食器を片付けた後、ヴァンは玄関を出た。庭の適当な場所を見つけて仰向けに寝転ぶ。ここ数日雨は降っていなかったので芝生の地面は乾いていた。ヴァンは不安な夜にはこうして星を眺めるようにしていた。宝石箱をひっくり返したようなと使い古された表現だが、まさにそのとおりの美しい夜空であった。眩ゆい星々を眺めていると心が落ち着いていく。そうしていると、つい父と母のことを想ってしまう。
 
 何度か聞いてみたことはあった。そういうとき、祖父はわかる範囲で隠さずに教えてくれた。ただし、父親のことしかわからなかった。母親の方は祖父も会ったことがなく何も知らないということであった。

「新学期は不安か?」

 いつの間にかガニアンがすぐそばに立っていた。

「まあね」
 どうせ見抜かれるのでヴァンはガニアンに強がりは言わない。ヴァンはまた父親のことを聞いてみたくなったので質問をしてみることにした。
「ねぇ、僕って父さんに似てる?」
 そうだなと言ってガニアンは考える素ぶりをみせた。こういうときガニアンはヴァンの期待する答えを考えているわけではなく、ただ事実を伝えようとしていることをヴァンは知っていた。だからこそ質問してみたくなるし、そんな祖父が好きだった。

「うーむ、あまり似てはいないな。髪は黒色でお前と同じだが、目は俺と同じで赤色をしている。まぁ、目の色は種族特有のものだが。無愛想な奴でお前みたいにコロコロ表情は変えなかったな」

「髪は黒か。じいちゃんは白なのにね。そういえばその色って鬼には珍しいんでしょ?」

 鬼族の頭髪は基本的に黒色で、年をとっても白髪に変化することはない。

「そうだな。ロアー家の始祖が白髪だったらしく、たまに俺みたいな先祖返りが現れるらしいな」
「なんかかっこいいなぁ。……ところで僕ってコロコロ表情変わるの?」

 この質問にガニアンは答えずに、ガニアンは話を続ける。

「だが、やっぱりラインとお前は似ているよ」
「どんなとこが?」
「さあな。どこがと言われてもわからん。だが似ている。お前を見ているとラインを思い出す」
 ライン・ロアーはヴァンの父親の名前で会った。

「さて、俺はもう寝るぞ」

 そう言ってガニアンは家の中に入っていった。ヴァンはもう少し外にいたかったので、おやすみと言って祖父を見送った。
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