5 / 51
従兄弟
1
しおりを挟む
新学期の教室は独特の緊張感に包まれていた。気の弱い動物なら死んでしまうかもしれない。教室にいる新入生たちは顔見知りを見つけてはなんとか自分達の居場所を確保していた。ヴァンは入り口のドアが開かれるたびに救世主が現れないかと期待して見ていた。
アップシート市の小学校は東西南北の区域と中央の区にそれぞれ一校ずつあるのに対し、中学校は中央区に一つしかなかった。クラスは十二もあり、人の多さに戸惑う者も少なくなかった。
ヴァンが落ち着かずソワソワしていると、またドアが開かれ一人の少年が教室に入って来た。少年は誰かを探しているようで、しばらく教室を見渡していたがヴァンを見つけると真っ直ぐに向かって来た。
「そんな不安そうな顔するなよ。ヴァン」
ヴァンの目の前まで来た灰色がかった髪の少年が声をかける。
「してないよ。アラン」
「してるさ。俺は従兄弟だぞ? お見通しだ」
自信ありげな従兄弟に反論したかったが、やっと顔見知りが現れてホッとしたヴァンは、まぁいいやと言って認めることにした。
「ところで、まだじいちゃんと組み手やってんのか?」
「まぁね、今日も負けたけど」
「もうやめとけよ、ヴァン。あんな超人に勝てっこないぜ?」
「そんなのわからないだろ? いつか一本くらいとってみせるよ」
アランは呆れているようだったが、ヴァンは本気だった。
「お前ってほんと諦めること知らないよな」
「いいじゃんか別に。それより何でアランここにいるのさ? もしかして同じクラス?」
アランはますます呆れ顔になった。
「お前、クラス表で自分の名前しか見なかったろ? 同じクラスに知ってるヤツがいるかとか気になったりしないわけ? 俺は別のクラスだよ」
ヴァンは落胆した。知り合いは少しでも多い方が良かった。
「もういいよ。アラン、早く教室に行かないと友達できなくて孤立しちゃうよ?」
「お前みたいにか?」
ヴァンは怒った顔をつくってアランを追いやった。
「まったく!」
アランがいなくなるとヴァンはまた一人になり心細くなった。もう少しいてもらった方が良かったかもしれないとすぐに後悔した。
「ふふっ。相変わらずね」
背後から声をかけられたが、振り返らずとも誰かわかった。ハナ・クエスだ。ヴァンと同じ小学校出身で、長年の片思いの相手だった。実のところ、ヴァンはクラス表で自分の名前以外にハナの名前を確認していた。同じクラスになっていた事が嬉しすぎて、他の人を確認せずに急いで教室に来てしまっていたのだ。
自分のだけじゃない。ハナの名前も見たんだよと、心の中でアランに反論した。
「おはよう、ハナ。同じクラスだね」
ヴァンは振り返ってハナの方を見たが、相手の目はまともに見れずに挨拶をする。
「おはよう、ヴァン。アランとは別になっちゃったね。寂しくない?」
「あんなヤツいない方がいよ」
というかハナさえいれば他のヤツなんてどうでもいいよ、と心の中でヴァンは付け加えた。さっきは知り合いが多い方が良いと考えていたのに、ハナが実際に目の前に現れたことにより一瞬で心変わりしていた。
そしてここでやっとヴァンは恋する相手をじっくりと見た。身長はヴァンより少しだけ小さく髪と目は桃色だ。なかなか珍しい色でヴァンが興味を持つようになったきっかけでもあった。
うっとりと見惚れていると、
「気づいちゃった?」
「うん?」
ハナは何やら恥ずかしそうに、頬を薄く染めながら髪に触れた。
「中学生になった記念に少し切ってみたんだ」
ヴァンは髪型の変化に気づいていなかったが、
「すごく綺麗だ。とても似合っているよ」
と、言ってみる。
ハナはもう完全に頬を赤くして、それじゃまた後でねと言って自分の席に行ってしまった。
女が髪型を変えたらとりあえず全力で褒めろ。たとえそれが、ゴリラのメスが三つ編みのおさげを携えたような状態であっても。偉大なる祖父の教えだった。ありがとうじいちゃん、とヴァンは心の中で祖父に感謝した。
アップシート市の小学校は東西南北の区域と中央の区にそれぞれ一校ずつあるのに対し、中学校は中央区に一つしかなかった。クラスは十二もあり、人の多さに戸惑う者も少なくなかった。
ヴァンが落ち着かずソワソワしていると、またドアが開かれ一人の少年が教室に入って来た。少年は誰かを探しているようで、しばらく教室を見渡していたがヴァンを見つけると真っ直ぐに向かって来た。
「そんな不安そうな顔するなよ。ヴァン」
ヴァンの目の前まで来た灰色がかった髪の少年が声をかける。
「してないよ。アラン」
「してるさ。俺は従兄弟だぞ? お見通しだ」
自信ありげな従兄弟に反論したかったが、やっと顔見知りが現れてホッとしたヴァンは、まぁいいやと言って認めることにした。
「ところで、まだじいちゃんと組み手やってんのか?」
「まぁね、今日も負けたけど」
「もうやめとけよ、ヴァン。あんな超人に勝てっこないぜ?」
「そんなのわからないだろ? いつか一本くらいとってみせるよ」
アランは呆れているようだったが、ヴァンは本気だった。
「お前ってほんと諦めること知らないよな」
「いいじゃんか別に。それより何でアランここにいるのさ? もしかして同じクラス?」
アランはますます呆れ顔になった。
「お前、クラス表で自分の名前しか見なかったろ? 同じクラスに知ってるヤツがいるかとか気になったりしないわけ? 俺は別のクラスだよ」
ヴァンは落胆した。知り合いは少しでも多い方が良かった。
「もういいよ。アラン、早く教室に行かないと友達できなくて孤立しちゃうよ?」
「お前みたいにか?」
ヴァンは怒った顔をつくってアランを追いやった。
「まったく!」
アランがいなくなるとヴァンはまた一人になり心細くなった。もう少しいてもらった方が良かったかもしれないとすぐに後悔した。
「ふふっ。相変わらずね」
背後から声をかけられたが、振り返らずとも誰かわかった。ハナ・クエスだ。ヴァンと同じ小学校出身で、長年の片思いの相手だった。実のところ、ヴァンはクラス表で自分の名前以外にハナの名前を確認していた。同じクラスになっていた事が嬉しすぎて、他の人を確認せずに急いで教室に来てしまっていたのだ。
自分のだけじゃない。ハナの名前も見たんだよと、心の中でアランに反論した。
「おはよう、ハナ。同じクラスだね」
ヴァンは振り返ってハナの方を見たが、相手の目はまともに見れずに挨拶をする。
「おはよう、ヴァン。アランとは別になっちゃったね。寂しくない?」
「あんなヤツいない方がいよ」
というかハナさえいれば他のヤツなんてどうでもいいよ、と心の中でヴァンは付け加えた。さっきは知り合いが多い方が良いと考えていたのに、ハナが実際に目の前に現れたことにより一瞬で心変わりしていた。
そしてここでやっとヴァンは恋する相手をじっくりと見た。身長はヴァンより少しだけ小さく髪と目は桃色だ。なかなか珍しい色でヴァンが興味を持つようになったきっかけでもあった。
うっとりと見惚れていると、
「気づいちゃった?」
「うん?」
ハナは何やら恥ずかしそうに、頬を薄く染めながら髪に触れた。
「中学生になった記念に少し切ってみたんだ」
ヴァンは髪型の変化に気づいていなかったが、
「すごく綺麗だ。とても似合っているよ」
と、言ってみる。
ハナはもう完全に頬を赤くして、それじゃまた後でねと言って自分の席に行ってしまった。
女が髪型を変えたらとりあえず全力で褒めろ。たとえそれが、ゴリラのメスが三つ編みのおさげを携えたような状態であっても。偉大なる祖父の教えだった。ありがとうじいちゃん、とヴァンは心の中で祖父に感謝した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる