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従兄弟
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新学期の教室は独特の緊張感に包まれていた。気の弱い動物なら死んでしまうかもしれない。教室にいる新入生たちは顔見知りを見つけてはなんとか自分達の居場所を確保していた。ヴァンは入り口のドアが開かれるたびに救世主が現れないかと期待して見ていた。
アップシート市の小学校は東西南北の区域と中央の区にそれぞれ一校ずつあるのに対し、中学校は中央区に一つしかなかった。クラスは十二もあり、人の多さに戸惑う者も少なくなかった。
ヴァンが落ち着かずソワソワしていると、またドアが開かれ一人の少年が教室に入って来た。少年は誰かを探しているようで、しばらく教室を見渡していたがヴァンを見つけると真っ直ぐに向かって来た。
「そんな不安そうな顔するなよ。ヴァン」
ヴァンの目の前まで来た灰色がかった髪の少年が声をかける。
「してないよ。アラン」
「してるさ。俺は従兄弟だぞ? お見通しだ」
自信ありげな従兄弟に反論したかったが、やっと顔見知りが現れてホッとしたヴァンは、まぁいいやと言って認めることにした。
「ところで、まだじいちゃんと組み手やってんのか?」
「まぁね、今日も負けたけど」
「もうやめとけよ、ヴァン。あんな超人に勝てっこないぜ?」
「そんなのわからないだろ? いつか一本くらいとってみせるよ」
アランは呆れているようだったが、ヴァンは本気だった。
「お前ってほんと諦めること知らないよな」
「いいじゃんか別に。それより何でアランここにいるのさ? もしかして同じクラス?」
アランはますます呆れ顔になった。
「お前、クラス表で自分の名前しか見なかったろ? 同じクラスに知ってるヤツがいるかとか気になったりしないわけ? 俺は別のクラスだよ」
ヴァンは落胆した。知り合いは少しでも多い方が良かった。
「もういいよ。アラン、早く教室に行かないと友達できなくて孤立しちゃうよ?」
「お前みたいにか?」
ヴァンは怒った顔をつくってアランを追いやった。
「まったく!」
アランがいなくなるとヴァンはまた一人になり心細くなった。もう少しいてもらった方が良かったかもしれないとすぐに後悔した。
「ふふっ。相変わらずね」
背後から声をかけられたが、振り返らずとも誰かわかった。ハナ・クエスだ。ヴァンと同じ小学校出身で、長年の片思いの相手だった。実のところ、ヴァンはクラス表で自分の名前以外にハナの名前を確認していた。同じクラスになっていた事が嬉しすぎて、他の人を確認せずに急いで教室に来てしまっていたのだ。
自分のだけじゃない。ハナの名前も見たんだよと、心の中でアランに反論した。
「おはよう、ハナ。同じクラスだね」
ヴァンは振り返ってハナの方を見たが、相手の目はまともに見れずに挨拶をする。
「おはよう、ヴァン。アランとは別になっちゃったね。寂しくない?」
「あんなヤツいない方がいよ」
というかハナさえいれば他のヤツなんてどうでもいいよ、と心の中でヴァンは付け加えた。さっきは知り合いが多い方が良いと考えていたのに、ハナが実際に目の前に現れたことにより一瞬で心変わりしていた。
そしてここでやっとヴァンは恋する相手をじっくりと見た。身長はヴァンより少しだけ小さく髪と目は桃色だ。なかなか珍しい色でヴァンが興味を持つようになったきっかけでもあった。
うっとりと見惚れていると、
「気づいちゃった?」
「うん?」
ハナは何やら恥ずかしそうに、頬を薄く染めながら髪に触れた。
「中学生になった記念に少し切ってみたんだ」
ヴァンは髪型の変化に気づいていなかったが、
「すごく綺麗だ。とても似合っているよ」
と、言ってみる。
ハナはもう完全に頬を赤くして、それじゃまた後でねと言って自分の席に行ってしまった。
女が髪型を変えたらとりあえず全力で褒めろ。たとえそれが、ゴリラのメスが三つ編みのおさげを携えたような状態であっても。偉大なる祖父の教えだった。ありがとうじいちゃん、とヴァンは心の中で祖父に感謝した。
アップシート市の小学校は東西南北の区域と中央の区にそれぞれ一校ずつあるのに対し、中学校は中央区に一つしかなかった。クラスは十二もあり、人の多さに戸惑う者も少なくなかった。
ヴァンが落ち着かずソワソワしていると、またドアが開かれ一人の少年が教室に入って来た。少年は誰かを探しているようで、しばらく教室を見渡していたがヴァンを見つけると真っ直ぐに向かって来た。
「そんな不安そうな顔するなよ。ヴァン」
ヴァンの目の前まで来た灰色がかった髪の少年が声をかける。
「してないよ。アラン」
「してるさ。俺は従兄弟だぞ? お見通しだ」
自信ありげな従兄弟に反論したかったが、やっと顔見知りが現れてホッとしたヴァンは、まぁいいやと言って認めることにした。
「ところで、まだじいちゃんと組み手やってんのか?」
「まぁね、今日も負けたけど」
「もうやめとけよ、ヴァン。あんな超人に勝てっこないぜ?」
「そんなのわからないだろ? いつか一本くらいとってみせるよ」
アランは呆れているようだったが、ヴァンは本気だった。
「お前ってほんと諦めること知らないよな」
「いいじゃんか別に。それより何でアランここにいるのさ? もしかして同じクラス?」
アランはますます呆れ顔になった。
「お前、クラス表で自分の名前しか見なかったろ? 同じクラスに知ってるヤツがいるかとか気になったりしないわけ? 俺は別のクラスだよ」
ヴァンは落胆した。知り合いは少しでも多い方が良かった。
「もういいよ。アラン、早く教室に行かないと友達できなくて孤立しちゃうよ?」
「お前みたいにか?」
ヴァンは怒った顔をつくってアランを追いやった。
「まったく!」
アランがいなくなるとヴァンはまた一人になり心細くなった。もう少しいてもらった方が良かったかもしれないとすぐに後悔した。
「ふふっ。相変わらずね」
背後から声をかけられたが、振り返らずとも誰かわかった。ハナ・クエスだ。ヴァンと同じ小学校出身で、長年の片思いの相手だった。実のところ、ヴァンはクラス表で自分の名前以外にハナの名前を確認していた。同じクラスになっていた事が嬉しすぎて、他の人を確認せずに急いで教室に来てしまっていたのだ。
自分のだけじゃない。ハナの名前も見たんだよと、心の中でアランに反論した。
「おはよう、ハナ。同じクラスだね」
ヴァンは振り返ってハナの方を見たが、相手の目はまともに見れずに挨拶をする。
「おはよう、ヴァン。アランとは別になっちゃったね。寂しくない?」
「あんなヤツいない方がいよ」
というかハナさえいれば他のヤツなんてどうでもいいよ、と心の中でヴァンは付け加えた。さっきは知り合いが多い方が良いと考えていたのに、ハナが実際に目の前に現れたことにより一瞬で心変わりしていた。
そしてここでやっとヴァンは恋する相手をじっくりと見た。身長はヴァンより少しだけ小さく髪と目は桃色だ。なかなか珍しい色でヴァンが興味を持つようになったきっかけでもあった。
うっとりと見惚れていると、
「気づいちゃった?」
「うん?」
ハナは何やら恥ずかしそうに、頬を薄く染めながら髪に触れた。
「中学生になった記念に少し切ってみたんだ」
ヴァンは髪型の変化に気づいていなかったが、
「すごく綺麗だ。とても似合っているよ」
と、言ってみる。
ハナはもう完全に頬を赤くして、それじゃまた後でねと言って自分の席に行ってしまった。
女が髪型を変えたらとりあえず全力で褒めろ。たとえそれが、ゴリラのメスが三つ編みのおさげを携えたような状態であっても。偉大なる祖父の教えだった。ありがとうじいちゃん、とヴァンは心の中で祖父に感謝した。
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