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従兄弟
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午前中は入学式とホームルームに費やされ、学校の規則や授業カリキュラムの説明が延々と続いた。新学期ではお馴染みのパターンで、生徒をイライラさせたり、不安をかき立てたり、ウンザリさせた。学校の歴史を担任のメリ・コランが話し始めた時などはヴァンは退屈すぎて頭がおかしくなりそうだった。ただ、メリ・コランは好きになれそうだとヴァンは思った。歳は二十代前半ぐらいで雰囲気がどことなくハナに似ていた。童顔でおっとりした話し方。生真面目そうだが、堅苦しそうではない。ハナが成長したらこんな感じになるのだろうかと、ヴァンは妄想をかきたてた。
一旦妄想が始まると止まらないもので、ヴァンは紆余曲折を経てハナと結婚するところまで一気に突き進んだ。そして子供を産み、育てあげ、二人で苦難を乗り越えて、やがて歳を重ね、ハナに看取られながら心穏やかにヴァンは天に召されていった……完。
妄想の世界から帰ってくると、なんと自己紹介のの順番がヴァンに回って来ていた。順番が来ても動こうとしないヴァンにクラス中の視線が注がれていた。
結局ヴァンはテンパったまま自己紹介をし、その後も恥ずかしさでうつむいたまま、クラスメイトの顔と名前を一人も覚える事ができないままホームルームは終わってしまった。
教室から担任のメリ・コランが出ていくと、教室は命を吹き込まれたように活気づいた。
落ち込みながらも帰り自宅をするヴァンのもとにハナが近づいて来た。
「もう、さっきのは何なの?」
そう言うハナは笑いをこらえきれないという感じで、くふふ、と変な息が漏れていた。
「なかなか良い自己紹介だったでしょ? みんなの印象に残ったはずさ」
「確かに印象的だったわ。そういう意味では良い自己紹介だったかもね
「自己紹介なんて印象に残ればそれで良いんだよ」
「いじめっ子の印象にも残っちゃったかもね?」
ハナがイタズラっぽく言う。ヴァンは保育園のに通っていた時からいじめっ子に目をつけられるタチだった。いじめられるたびにアランに助けられれていた。強いアラン、弱いヴァン。そういうふうにハナにまだ思われているかと思うとヴァンは悔しくてたまらない気持ちになった。
「上等だよ。返り討ちにしてやるよ」
「アランがクラスにいてくれたら良かったのにね? そしたらいつでも助けてもらえるのに」
「あんなヤツあてになんかしないよ」
ヴァンはだんだんとイライラした気分になっていた。
「ウソばっかり。ホントは心細いんでしょ?」
「しつこいよ! アランがいて欲しいと思っているのはハナの方でしょ!」
つい、声を荒げてしまった。ハナは驚いた表情をしていて、ヴァンはその顔を見たくなくて顔を背けた。沈黙が気まずく辛かった。
「そうかもね。アランがいて欲しかったのは私の方ね。ごめんなさい。ヴァン」
ハナがつぶやくように言う。ヴァンは激しく後悔していた。ハナにこんなことを言わせるなんて。自分の言ったことを取り消したかった。
「ハナが謝ることない。悪いのは僕だ。ごめん」
アランがいてくれたら良かったとヴァンは本気で思った。そしたら会話なんかせずにすんだはずだ。きっと三人でバランスがいいのだ。一人いないだけで変な空気感になってしまう。
「やっぱりアランがいた方が良かったかもね」
ヴァンは何とか笑顔をつくってそう言った。
「そうね」
ハナもまた笑顔を作ってそう言った。気まずさは残りつつも何とか話題を変える事ができそうだった。そしてハナが空気を読んで話題を変えた。
「それで、さっきは何を考えていたの?」
おそらく自己紹介の時だろうとヴァンは思った。君のことを考えていたとはとても言えない。普段なら冗談っぽく言えたかもしれないが、今は無理だ。
「実は明日、聖母の森に一人で行く予定があって、これから準備するものを考えていたんだよ」
嘘ではない。実際妄想が始まる前は考えていた。
「聖母の森に!? どうして? おじいさんは一緒じゃないの? 危ないよ!」
ハナはもともと大きな目をさらに大きくして、驚きと心配の感情をさらけ出してヴァンに問い詰めた。一気に質問されて返答に困りつつも、ヴァンはハナが心配してくれている事が素直に嬉しかった。
「何か面白そうな話が聞こえたんだけど?」
アランがいつの間にかそこにいた。
一旦妄想が始まると止まらないもので、ヴァンは紆余曲折を経てハナと結婚するところまで一気に突き進んだ。そして子供を産み、育てあげ、二人で苦難を乗り越えて、やがて歳を重ね、ハナに看取られながら心穏やかにヴァンは天に召されていった……完。
妄想の世界から帰ってくると、なんと自己紹介のの順番がヴァンに回って来ていた。順番が来ても動こうとしないヴァンにクラス中の視線が注がれていた。
結局ヴァンはテンパったまま自己紹介をし、その後も恥ずかしさでうつむいたまま、クラスメイトの顔と名前を一人も覚える事ができないままホームルームは終わってしまった。
教室から担任のメリ・コランが出ていくと、教室は命を吹き込まれたように活気づいた。
落ち込みながらも帰り自宅をするヴァンのもとにハナが近づいて来た。
「もう、さっきのは何なの?」
そう言うハナは笑いをこらえきれないという感じで、くふふ、と変な息が漏れていた。
「なかなか良い自己紹介だったでしょ? みんなの印象に残ったはずさ」
「確かに印象的だったわ。そういう意味では良い自己紹介だったかもね
「自己紹介なんて印象に残ればそれで良いんだよ」
「いじめっ子の印象にも残っちゃったかもね?」
ハナがイタズラっぽく言う。ヴァンは保育園のに通っていた時からいじめっ子に目をつけられるタチだった。いじめられるたびにアランに助けられれていた。強いアラン、弱いヴァン。そういうふうにハナにまだ思われているかと思うとヴァンは悔しくてたまらない気持ちになった。
「上等だよ。返り討ちにしてやるよ」
「アランがクラスにいてくれたら良かったのにね? そしたらいつでも助けてもらえるのに」
「あんなヤツあてになんかしないよ」
ヴァンはだんだんとイライラした気分になっていた。
「ウソばっかり。ホントは心細いんでしょ?」
「しつこいよ! アランがいて欲しいと思っているのはハナの方でしょ!」
つい、声を荒げてしまった。ハナは驚いた表情をしていて、ヴァンはその顔を見たくなくて顔を背けた。沈黙が気まずく辛かった。
「そうかもね。アランがいて欲しかったのは私の方ね。ごめんなさい。ヴァン」
ハナがつぶやくように言う。ヴァンは激しく後悔していた。ハナにこんなことを言わせるなんて。自分の言ったことを取り消したかった。
「ハナが謝ることない。悪いのは僕だ。ごめん」
アランがいてくれたら良かったとヴァンは本気で思った。そしたら会話なんかせずにすんだはずだ。きっと三人でバランスがいいのだ。一人いないだけで変な空気感になってしまう。
「やっぱりアランがいた方が良かったかもね」
ヴァンは何とか笑顔をつくってそう言った。
「そうね」
ハナもまた笑顔を作ってそう言った。気まずさは残りつつも何とか話題を変える事ができそうだった。そしてハナが空気を読んで話題を変えた。
「それで、さっきは何を考えていたの?」
おそらく自己紹介の時だろうとヴァンは思った。君のことを考えていたとはとても言えない。普段なら冗談っぽく言えたかもしれないが、今は無理だ。
「実は明日、聖母の森に一人で行く予定があって、これから準備するものを考えていたんだよ」
嘘ではない。実際妄想が始まる前は考えていた。
「聖母の森に!? どうして? おじいさんは一緒じゃないの? 危ないよ!」
ハナはもともと大きな目をさらに大きくして、驚きと心配の感情をさらけ出してヴァンに問い詰めた。一気に質問されて返答に困りつつも、ヴァンはハナが心配してくれている事が素直に嬉しかった。
「何か面白そうな話が聞こえたんだけど?」
アランがいつの間にかそこにいた。
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