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従兄弟
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「アラン……!?」
驚いたヴァンとハナはワタワタしてしまった。
「それで? 危ないって何が?」
アランは興味津々という顔をしている。実にところ昨夜からヴァンはアランを誘うかどうか迷っていた。一緒に行った方が心強いし、危険度も大幅に下がるだろう。アランは強い。ヴァンと同じく鬼と人の混血児であったが、アランは優等種である。合理的に考えるならば、一緒に行くべきなのにヴァンは誘いたくはなかった。それはちっぽけなプライドだとわかっていた。わかっていたが意地を張りたかった。ハナの前でアランに助けを求めることはどうしてもできない。弱いヴァンはもうイヤだった。
「聞いてよアラン! ヴァンってば聖母の森に一人で行くつもりなのよ。危険よね? 止めてよ!」
ハナはアランに真剣に懇願する。へー、とアランはヴァンを見やる。
「いいね! 面白そうじゃん」
ハナが驚きと戸惑いの顔になったが、アランは構わずに続けた。
「テンション上がるじゃんか! 心配するなハナ。俺も着いていくから大丈夫だ!」
楽しそうにアランはそう言うとハナの頭をクシャクシャと乱暴に撫でた。やめてよと言うハナは少しもイヤそうじゃなく、むしろ嬉しそうだ。ヴァンはもう随分と前から気づいていた。ハナがアランに恋していることに。
「おっ? ハナ髪切ってんじゃん」
アランが気づいて言う。気づいてもらえたことでハナの表情はさらに明るくなる。
「うん。中学生になったしね」
「ませてんなー」
「うるさい」
アランは上機嫌で、ハナも楽しそうだ。ヴァンはこれまでハナが幸せであれば、自分も幸せなのだと思っていた。しかし、そうでもないらしい。ヴァンは胸に痛みを感じていた。この場から今すぐ離れたかったが、そうしてしまえばさらに自分が惨めになりそうだったので、何とかこらえた。
「盛り上がってるとこ悪いんだけど、僕はやっぱり一人で行くよ」
声が震えなかったことにヴァンは安堵した。
「そうか分かった」
とアランがあっさりと言う。そして続ける。
「なら、ハナ、二人で行くか?」
「えー!? だめだよ! 危ないよ」
「俺が守るから大丈夫さ」
ハナはさすがに戸惑っていたが、いいよと了承してしまった。ヴァンはガンガンと頭が痛み出していた。
「分かったよ。しょうがない、三人で行こう」
しょうがない。予定とだいぶ変わってしまったが、ハナが行くというならアランは絶対に必要だった。
「悪いけどヴァン、やっぱり二人で行くよ」
アランが先程のヴァンの口調を真似て言う。ヴァンは自分の中で何かが爆発しそうになるのを感じた。
その時、カランと乾いた音を立てて鉛筆が机の下に落ちた。一瞬の沈黙の後ハナが拾おうとしたが、ヴァンが制止し鉛筆を拾うために身をかがめた。鉛筆を見つけてすぐに掴んだが、すぐに身を起こす事ができなかった。床にパタパタと涙が落ちていた。ハナに涙を見られていないことだけを願った。ヴァンは情けなさと悔しさで体中が熱くなった。
もういっそ全部終わりにしてみようかと思う。ハナへの想いも、アランとの友情も。アランを殴りとばしてしまえば楽になれるような気がした。その後反撃されてやられちゃうだろうけど、それでもいい。ハナにもドン引きされてそれで全部終わりだ。
わずかな時間で覚悟を決めると急速に体の力が抜けていくのを感じた。力が入らないという感じではなく、体がリラックスしていっている。頭痛も引いて頭が冴えてくるのを感じた。
そして身を起こした。ハナが心配そうな顔をしていたが、もはや気にならなかった。先程と違い今は心身ともに戦える状態になっていた。こういう時、自分が鬼の血を引いているのだとイヤでも感じてしまう。鬼は戦うために生まれてきた種族だと云われてきた。戦うことが何より好きなのだと。その為に鬼は他種族から敬遠され嫌われてきた。好戦的な気分の頭の端でハナに嫌われたくないという気持ちが暴れていたが、もうヴァンを支配することはできなかった。
「分かった、勝手にしろ。二人で行けばいい。特に用もないくせにあんなとこに行くなんてバカじゃないのか?」
うつむいたまま、アランの顔を見ずに言った。顔を見てしまえば間違いなく拳がでてしまうだろう。
「ヴァンっ!」
ハナが小さく叫ぶ。だがもう遅い。次にアランが口を開いた時が戦いのゴングだ。
驚いたヴァンとハナはワタワタしてしまった。
「それで? 危ないって何が?」
アランは興味津々という顔をしている。実にところ昨夜からヴァンはアランを誘うかどうか迷っていた。一緒に行った方が心強いし、危険度も大幅に下がるだろう。アランは強い。ヴァンと同じく鬼と人の混血児であったが、アランは優等種である。合理的に考えるならば、一緒に行くべきなのにヴァンは誘いたくはなかった。それはちっぽけなプライドだとわかっていた。わかっていたが意地を張りたかった。ハナの前でアランに助けを求めることはどうしてもできない。弱いヴァンはもうイヤだった。
「聞いてよアラン! ヴァンってば聖母の森に一人で行くつもりなのよ。危険よね? 止めてよ!」
ハナはアランに真剣に懇願する。へー、とアランはヴァンを見やる。
「いいね! 面白そうじゃん」
ハナが驚きと戸惑いの顔になったが、アランは構わずに続けた。
「テンション上がるじゃんか! 心配するなハナ。俺も着いていくから大丈夫だ!」
楽しそうにアランはそう言うとハナの頭をクシャクシャと乱暴に撫でた。やめてよと言うハナは少しもイヤそうじゃなく、むしろ嬉しそうだ。ヴァンはもう随分と前から気づいていた。ハナがアランに恋していることに。
「おっ? ハナ髪切ってんじゃん」
アランが気づいて言う。気づいてもらえたことでハナの表情はさらに明るくなる。
「うん。中学生になったしね」
「ませてんなー」
「うるさい」
アランは上機嫌で、ハナも楽しそうだ。ヴァンはこれまでハナが幸せであれば、自分も幸せなのだと思っていた。しかし、そうでもないらしい。ヴァンは胸に痛みを感じていた。この場から今すぐ離れたかったが、そうしてしまえばさらに自分が惨めになりそうだったので、何とかこらえた。
「盛り上がってるとこ悪いんだけど、僕はやっぱり一人で行くよ」
声が震えなかったことにヴァンは安堵した。
「そうか分かった」
とアランがあっさりと言う。そして続ける。
「なら、ハナ、二人で行くか?」
「えー!? だめだよ! 危ないよ」
「俺が守るから大丈夫さ」
ハナはさすがに戸惑っていたが、いいよと了承してしまった。ヴァンはガンガンと頭が痛み出していた。
「分かったよ。しょうがない、三人で行こう」
しょうがない。予定とだいぶ変わってしまったが、ハナが行くというならアランは絶対に必要だった。
「悪いけどヴァン、やっぱり二人で行くよ」
アランが先程のヴァンの口調を真似て言う。ヴァンは自分の中で何かが爆発しそうになるのを感じた。
その時、カランと乾いた音を立てて鉛筆が机の下に落ちた。一瞬の沈黙の後ハナが拾おうとしたが、ヴァンが制止し鉛筆を拾うために身をかがめた。鉛筆を見つけてすぐに掴んだが、すぐに身を起こす事ができなかった。床にパタパタと涙が落ちていた。ハナに涙を見られていないことだけを願った。ヴァンは情けなさと悔しさで体中が熱くなった。
もういっそ全部終わりにしてみようかと思う。ハナへの想いも、アランとの友情も。アランを殴りとばしてしまえば楽になれるような気がした。その後反撃されてやられちゃうだろうけど、それでもいい。ハナにもドン引きされてそれで全部終わりだ。
わずかな時間で覚悟を決めると急速に体の力が抜けていくのを感じた。力が入らないという感じではなく、体がリラックスしていっている。頭痛も引いて頭が冴えてくるのを感じた。
そして身を起こした。ハナが心配そうな顔をしていたが、もはや気にならなかった。先程と違い今は心身ともに戦える状態になっていた。こういう時、自分が鬼の血を引いているのだとイヤでも感じてしまう。鬼は戦うために生まれてきた種族だと云われてきた。戦うことが何より好きなのだと。その為に鬼は他種族から敬遠され嫌われてきた。好戦的な気分の頭の端でハナに嫌われたくないという気持ちが暴れていたが、もうヴァンを支配することはできなかった。
「分かった、勝手にしろ。二人で行けばいい。特に用もないくせにあんなとこに行くなんてバカじゃないのか?」
うつむいたまま、アランの顔を見ずに言った。顔を見てしまえば間違いなく拳がでてしまうだろう。
「ヴァンっ!」
ハナが小さく叫ぶ。だがもう遅い。次にアランが口を開いた時が戦いのゴングだ。
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