40 / 51
後悔
1
しおりを挟む
目を覚ましたヴァンはベッドから出ることなく、昨日の事を思い返していた。ハナはどのような気持ちで、どのような言葉をアランに伝えたのだろうか。アランが羨ましかった。ハナがアランにだけ向ける表情や気持ちを一度でいいから、勘違いでも、いっときの気の迷いでもいいから自分に向けて欲しかった。アランはハナの気持ちをどう受け止めただろうか。いつかはこういう事になるだろうとわかってはいたが、それはまだ先の事だと思っていた。
ヴァンは、はだけていた掛け布団を掴み頭までかぶった。寝具の中で丸くなりきつく目をつむった。祖父と朝の組手をする気も学校へ行く気にもなれなかった。
どれほど時間がたったか、一度だけ部屋のドアをノックされたがヴァンは返事をしなかった。祖父の気配が遠ざかるのがドア越しに伝わる。
結局ヴァンは学校へは行かなかった。昼前に自室から出ると祖父の姿はなかった。軽く食事をとってからヴァンは森へと向かった。自室にこもっていると気が滅入りそうだし、ハナとアランのいる学校へは今は行きたくないので、グルナイユのご主人を探そうと思ったのだ。森へと入るのも三回目ともなれば、柵を越えても緊張しなくなっていた。装備も軽装で、さほど大きくないザックとヒップバック、そしてサバイバルナイフを腰に装着していただけだった。警戒心もそこそこに森の中をかなりの速度で進んでいった。一度ロアー兄弟の小屋に寄った。休憩のためではなく、父親の写真を見たかったのである。
小屋を出ると森の奥へと進んでいった。ろくに位置確認もしなかった。自暴自棄になっていたのかもしれない。気づくと藪の中へと踏み込んでいた。木の根が足にいちいち引っかかり、後にも先にも進みにくい。胸の高さまである枝葉もヴァンを動きづらくさせていた。
ヴァンは次第にイライラしてきた。腰のナイフを鞘から抜き出し無造作振るうと枝葉は簡単に落ちた。ナイフを怒りのままに振り回し必要以上の枝葉を落としながらもヴァンは何とか藪から抜け出した。息が荒くなり、抑えようのない感情が心の中に渦巻いていた。
「クソっ!」
叫びとともに握りしめていたナイフを狙いもつけずに投げつけた。投擲用でないナイフは不規則な回転をしながら飛んでいき、十五メートル程の所で樹木に弾かれて落下した。
怒りとナイフを放出したヴァンは次第に情けない気分になっていた。肩を落としてうつむく。しばらくその姿勢で気持ちが落ち着くのを待った。
「あー……情けない」
ため息をついた後、なんとなしに空を見上げると、どこまでも深い蒼が広がっていた。吸い込まれそうな程澄んでいて、実際ヴァンの心のモヤモヤした気持ちも少し溶けていったようだった。
ヴァンは、はだけていた掛け布団を掴み頭までかぶった。寝具の中で丸くなりきつく目をつむった。祖父と朝の組手をする気も学校へ行く気にもなれなかった。
どれほど時間がたったか、一度だけ部屋のドアをノックされたがヴァンは返事をしなかった。祖父の気配が遠ざかるのがドア越しに伝わる。
結局ヴァンは学校へは行かなかった。昼前に自室から出ると祖父の姿はなかった。軽く食事をとってからヴァンは森へと向かった。自室にこもっていると気が滅入りそうだし、ハナとアランのいる学校へは今は行きたくないので、グルナイユのご主人を探そうと思ったのだ。森へと入るのも三回目ともなれば、柵を越えても緊張しなくなっていた。装備も軽装で、さほど大きくないザックとヒップバック、そしてサバイバルナイフを腰に装着していただけだった。警戒心もそこそこに森の中をかなりの速度で進んでいった。一度ロアー兄弟の小屋に寄った。休憩のためではなく、父親の写真を見たかったのである。
小屋を出ると森の奥へと進んでいった。ろくに位置確認もしなかった。自暴自棄になっていたのかもしれない。気づくと藪の中へと踏み込んでいた。木の根が足にいちいち引っかかり、後にも先にも進みにくい。胸の高さまである枝葉もヴァンを動きづらくさせていた。
ヴァンは次第にイライラしてきた。腰のナイフを鞘から抜き出し無造作振るうと枝葉は簡単に落ちた。ナイフを怒りのままに振り回し必要以上の枝葉を落としながらもヴァンは何とか藪から抜け出した。息が荒くなり、抑えようのない感情が心の中に渦巻いていた。
「クソっ!」
叫びとともに握りしめていたナイフを狙いもつけずに投げつけた。投擲用でないナイフは不規則な回転をしながら飛んでいき、十五メートル程の所で樹木に弾かれて落下した。
怒りとナイフを放出したヴァンは次第に情けない気分になっていた。肩を落としてうつむく。しばらくその姿勢で気持ちが落ち着くのを待った。
「あー……情けない」
ため息をついた後、なんとなしに空を見上げると、どこまでも深い蒼が広がっていた。吸い込まれそうな程澄んでいて、実際ヴァンの心のモヤモヤした気持ちも少し溶けていったようだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる