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ケンカ
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帰宅するとカエデが言った通りアランがいた。玄関前に置かれた木製のベンチに、深く腰掛けている姿はどう見ても不機嫌だった。
「よう」
「やぁ」
ヴァンは、怒気をはらんだ鋭い眼光に怯まないように注意して平然を装った。
アランが立ち上がり、ヴァンの前に立ち塞がる。身長が同程度のため、自然と視線がぶつかる。
「なんで学校サボったんだ?」
「調子が悪かったんだよ」
「ウソだな」
「ウソじゃない」
「調子が悪いってのに外出か? 病院に行ってたわけじゃないだろう?」
「それは……」
「言いにくいなら、当ててやろうか? お前、また聖母の森へ行ってたんだろ?」
「ち、違う」
とっさについたウソがアランを激怒させた。アランの拳がヴァンの顔面を直撃する。ヴァンは勢いで庭へ倒れ込んだ。口内を切ったせいで口の端から血が垂れていた。
「ハナは探索能力を持っている。昼頃、お前は間違いなく森にいた」
昼休み、アランはヴァンとハナの教室に向かった。
「ヴァンはまだ来てないのか?」
「う、うん」
昨日の事があって、ハナは気まずい様子だった。アランは人に見られたくなかったのでハナを教室から連れ出すことにした。
「ハナ、話がある。ちょっといいか?」
「うん」
先を歩くアランの背中を見ながら、ハナは上気していた。
昨日の告白は結果からいうと失敗だった。断られてしまった。しかし、昨日の今日でアランから呼び出されたのだ。もしかしたら一晩で考えが変わったのかもしれない。どうしようもなく愛おしいアランの彼女になれるかもしれないと、期待せずにはいられなかった。
アランはハナを屋上に連れ出した。数人の生徒はいたが、話を聞かれない程度の距離をとれば問題ないだろうとアランは判断した。ハナはなぜかモジモジしていたが、それは無視して単刀直入に要件を告げた。
「ヴァンは今どこにいる?」
「……え? 知らないよ?」
「知らないのはわかっている。だから例のコンパスでヴァンの居場所を探して欲しい」
ハナの表情が抜け落ちる。
「……なんだ。……私はてっきり貴方の気持ちが変わったのかと思った」
「俺の気持ち? もしかして昨日のことか? それなら一応はっきりさせとくが、俺の気持ちが変わることはない」
「……そう」
ハナの大きな瞳からは涙がこぼれていた。ひどく落胆していた。
「なぁ、頼むよ」
「貴方は私を……、ただの道具みたいに使いたいのね。でも、いいよ。ヴァンを探してあげる。だけど、条件として私と付き合って」
ハナはアランを睨むように見る。涙に濡れた目で、挑むように、試すように。
「ハナ……、俺は……」
答えなどわかっていた。
「冗談よ……。アランなんか大っ嫌い」
ハナはコンパスを具現化するとヴァンの位置を教えてやった。それはまさに聖母の森の方向だった。アランが懸念していたことが当たってしまった。
「これで最期にして。じゃないと、私本当に……」
強い意志のこもった目。
「貴方の事嫌いになるわ」
アランはいつかこんな日が来るだろうと思っていた。ハナから拒絶されるようになると。
「貴方がそんな顔をしないで」
「え?」
「悲しそうな顔。まるで私が悪いみたい。だけどおあいにくさま。悪いのは貴方よ」
「……ああ。俺が悪い」
「……じゃあね」
アランは立ち去るハナを無性に引き留めたかったが、全てはもう決してしまっていた。今更戻ることはできない。
「ハナ、……俺はお前がヴァンを好きになることを望んでいたよ」
ハナは一瞬立ち止まったが、そのまま振り返ることもなく去っていった。
アランは友達を一人失ってしまったと感じた。いや正直にいうと大切な人をだ。ヴァンと同じように、アランも幼い頃からハナに恋をしていた。
アランの目から零れ落ちるものがあった。そして、それはどうにも止めることができなかった。結局アランは午後の授業を欠席した。
「よう」
「やぁ」
ヴァンは、怒気をはらんだ鋭い眼光に怯まないように注意して平然を装った。
アランが立ち上がり、ヴァンの前に立ち塞がる。身長が同程度のため、自然と視線がぶつかる。
「なんで学校サボったんだ?」
「調子が悪かったんだよ」
「ウソだな」
「ウソじゃない」
「調子が悪いってのに外出か? 病院に行ってたわけじゃないだろう?」
「それは……」
「言いにくいなら、当ててやろうか? お前、また聖母の森へ行ってたんだろ?」
「ち、違う」
とっさについたウソがアランを激怒させた。アランの拳がヴァンの顔面を直撃する。ヴァンは勢いで庭へ倒れ込んだ。口内を切ったせいで口の端から血が垂れていた。
「ハナは探索能力を持っている。昼頃、お前は間違いなく森にいた」
昼休み、アランはヴァンとハナの教室に向かった。
「ヴァンはまだ来てないのか?」
「う、うん」
昨日の事があって、ハナは気まずい様子だった。アランは人に見られたくなかったのでハナを教室から連れ出すことにした。
「ハナ、話がある。ちょっといいか?」
「うん」
先を歩くアランの背中を見ながら、ハナは上気していた。
昨日の告白は結果からいうと失敗だった。断られてしまった。しかし、昨日の今日でアランから呼び出されたのだ。もしかしたら一晩で考えが変わったのかもしれない。どうしようもなく愛おしいアランの彼女になれるかもしれないと、期待せずにはいられなかった。
アランはハナを屋上に連れ出した。数人の生徒はいたが、話を聞かれない程度の距離をとれば問題ないだろうとアランは判断した。ハナはなぜかモジモジしていたが、それは無視して単刀直入に要件を告げた。
「ヴァンは今どこにいる?」
「……え? 知らないよ?」
「知らないのはわかっている。だから例のコンパスでヴァンの居場所を探して欲しい」
ハナの表情が抜け落ちる。
「……なんだ。……私はてっきり貴方の気持ちが変わったのかと思った」
「俺の気持ち? もしかして昨日のことか? それなら一応はっきりさせとくが、俺の気持ちが変わることはない」
「……そう」
ハナの大きな瞳からは涙がこぼれていた。ひどく落胆していた。
「なぁ、頼むよ」
「貴方は私を……、ただの道具みたいに使いたいのね。でも、いいよ。ヴァンを探してあげる。だけど、条件として私と付き合って」
ハナはアランを睨むように見る。涙に濡れた目で、挑むように、試すように。
「ハナ……、俺は……」
答えなどわかっていた。
「冗談よ……。アランなんか大っ嫌い」
ハナはコンパスを具現化するとヴァンの位置を教えてやった。それはまさに聖母の森の方向だった。アランが懸念していたことが当たってしまった。
「これで最期にして。じゃないと、私本当に……」
強い意志のこもった目。
「貴方の事嫌いになるわ」
アランはいつかこんな日が来るだろうと思っていた。ハナから拒絶されるようになると。
「貴方がそんな顔をしないで」
「え?」
「悲しそうな顔。まるで私が悪いみたい。だけどおあいにくさま。悪いのは貴方よ」
「……ああ。俺が悪い」
「……じゃあね」
アランは立ち去るハナを無性に引き留めたかったが、全てはもう決してしまっていた。今更戻ることはできない。
「ハナ、……俺はお前がヴァンを好きになることを望んでいたよ」
ハナは一瞬立ち止まったが、そのまま振り返ることもなく去っていった。
アランは友達を一人失ってしまったと感じた。いや正直にいうと大切な人をだ。ヴァンと同じように、アランも幼い頃からハナに恋をしていた。
アランの目から零れ落ちるものがあった。そして、それはどうにも止めることができなかった。結局アランは午後の授業を欠席した。
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