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15話 自責
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言うべきか言わない道を選ぶかという究極の2択に、精神が完全に追い詰められる。
すると、私が普通でない状態になっていることに気付いたようで、メアリーさんは私の答えを聞く前に、もう一度口を動かした。
「それは……今すぐには言えないこと?」
私は涙を拭いながら、必死にうんうんと頷いた。声を出して答えたくても、喉がギュッと締め付けられたかのように声を出すことができない。
そんな私を見て、メアリーさんは正面から向かい合うように両肩に手を添え、語りかけてきた。
「あなたに、今すぐには言えない何らかの事情があることは分かった。それなら、なおさらあなたを辞めさせることは出来ない。あなたはもう私たちの大切な仲間なのよ」
――え……。
「あなたのことについては、あの子にも説明しておくわ。でも、できる限り改善はしてちょうだい。それと、事情は今すぐに言えなくても良い。もし、話せる日が来たら、あなたのタイミングでいいから話してちょうだい」
――そんな……。
私に対してそんな優しい言葉掛けたらダメじゃないですか……。
何で?
どうして?
予想外の優しさに戸惑わざるを得なかった。こんなことは初めてで、ただただ困惑してしまう。
しかしそんなことを知らないメアリーさんは、話し終わると私の手を取りギュッと包み込むように握った。
誰かのこんな温もりを感じたのは久しぶりだった。だからだろう。張り詰めていた糸がプツっと切れたように、私の目からまたとめどなく涙が溢れだした。
すると、メアリーさんは口を動かすことなく、そんな私を、ただそっと抱き締めてくれた。
なんでこんな酷いことをしているのに、そんな私のことを抱きしめてくれるんだろうか。
騙していると言っても過言ではなのに、本当に本当に……申し訳ない。
こうして、私は抱き締められ泣きながら、ごめんなさいとただひたすら謝り続けた。
◇ ◇ ◇
次の日は休みだった。
メアリーさんが休みにしてくれたという訳ではなく、定休日だったのだ。
ただ、メアリーさんも何かあればと思い、あえて話しをする日を定休日の前日にしてくれたのだと思う。
しかも、私は定休日だが裏方の仕事をしている仮面の男性は仕事があり、代わりにその次の日が仮面の男性の休みになっている。
つまり、仮面の男性とは2日間会わない状況ができる。メアリーさんはそのことも考慮して、この日に話をしてきたような気がする。
いつもは隣にいるというだけで安心できる。しかし、今日みたいなときに関しては、隣家がメアリーさんたちというのが、非常に気まずい。
昨日は店からどうやって帰ったのかもあまり覚えてない。少なくとも、死んだ顔で亡霊のように歩いていただろう。
でも1つだけ覚えていることがある。メアリーさんとの話しが終わり、荷物を取りに行ったときに【ありがとう】と書かれたカードがいつものように置かれていたのだ。
彼はクッキーを持って帰ってくれていないかもしれないと思い、毎回クッキーを置いている場所を確認することが癖になっていた。
そして、クッキーを置いていた場所には受け取った証拠とでもいうように、ある時からありがとうと書いたカードをが置かれるようになっていた。彼が置いてくれているのだろう。
彼は恐らく、メアリーさんとジェイスさんが置いているとは思っていないと思う。普通、育ての親ならいちいちこんなところにクッキーを置かないはずだ。
だから、彼は私が置いていることに、相当鈍くなければ気が付いているはずなのだ。
いつも嫌だと思う態度を取っている自覚がある。だからこそお詫びとして置いていたが、彼はそんな気持ちで置いていることは知らない。
でも、送り主はいつも自分を無視する人と気付いているはず……。それなのに、彼は律儀なことにありがとうと伝えてくれる。
絶対に良い人なんだと思う。仮面を付けて顔も見えないし、声も分からないけど分かる。
お詫びとしてクッキーを置き始めしばらくしてから気付いたが、いつも自分のことを避ける人間がある日突然置きだしたクッキーなんて普通は怖いだろう。
私だったら、何かとんでもないものを材料に入れて作っているクッキーかと勘繰ってしまう。これは私が疑い深い人間だからかもしれない。
だけど、彼の反応はただ【ありがとう】それだけだった。だからこそ、そんなリアクションをする彼は、基本的には人を信じたい性格なのだろうと思う。
何で仮面を付けているのかは未だに分からないが、彼の心はとても清く感じる。
私なんかに毎回毎回ありがとうというカードを置いてくれる彼の健気さを思い出すと、昨日メアリーさんに言われた言葉が蘇る。
そしてそれと同時に、私がいかに人として終わっているのかという事実が、胸に突き刺さった。
昨日帰って来てから、完全に自己嫌悪のループに陥ってしまっている。
考えすぎて、晩御飯なんて喉を通らない。何なら、食べること自体が許されないような気さえしてくる。
当然夜もろくに眠れない。食事と同様に、呑気に眠ること自体が罪のようにさえ思えてくる。
眠いという生体反応よりも、自分がしてしまったことの罪悪感と、今後どうしようという悩みで、完全に思考回路が迷宮入りしてしまった。
当然そんな私が一睡もできるはずなく、眠りつく前に日が昇り今日になってしまった。
朝食も当然喉を通るはずがない。コップ一杯の水を飲んでみたが、まったく気分はすっきりしない。
今日は休みだが、明日はまた仕事だ。行かない訳にはいかないが、明日からの仕事はどうしたものかと気が気でない。
仮面の男性はもちろんだが、メアリーさんとジェイスさんともどんな顔をして会ったら良いのかが分からないのだ……。
考えても考えても、そう簡単に答えが出てくるはずもなかった。こうして家の中で1人ずっと籠り切っていると、ろくでもない考えしか浮かんでこない。
――あの場所に行ったら少しは変わるかしら……?
いつもの丘がフッと頭を過ぎった。今のままでは仕事なんて出来たものではない。少しでも明日のために、何とか気持ちを立て直さないと。
そう思うと、ますます丘に行かなければならないような気がしてきた。
そして、ご近所さんが昼食を済ませて一段落した後に出払う時間を狙い、誰にもバレないようにそっと家を出て丘を目指した。
すると、私が普通でない状態になっていることに気付いたようで、メアリーさんは私の答えを聞く前に、もう一度口を動かした。
「それは……今すぐには言えないこと?」
私は涙を拭いながら、必死にうんうんと頷いた。声を出して答えたくても、喉がギュッと締め付けられたかのように声を出すことができない。
そんな私を見て、メアリーさんは正面から向かい合うように両肩に手を添え、語りかけてきた。
「あなたに、今すぐには言えない何らかの事情があることは分かった。それなら、なおさらあなたを辞めさせることは出来ない。あなたはもう私たちの大切な仲間なのよ」
――え……。
「あなたのことについては、あの子にも説明しておくわ。でも、できる限り改善はしてちょうだい。それと、事情は今すぐに言えなくても良い。もし、話せる日が来たら、あなたのタイミングでいいから話してちょうだい」
――そんな……。
私に対してそんな優しい言葉掛けたらダメじゃないですか……。
何で?
どうして?
予想外の優しさに戸惑わざるを得なかった。こんなことは初めてで、ただただ困惑してしまう。
しかしそんなことを知らないメアリーさんは、話し終わると私の手を取りギュッと包み込むように握った。
誰かのこんな温もりを感じたのは久しぶりだった。だからだろう。張り詰めていた糸がプツっと切れたように、私の目からまたとめどなく涙が溢れだした。
すると、メアリーさんは口を動かすことなく、そんな私を、ただそっと抱き締めてくれた。
なんでこんな酷いことをしているのに、そんな私のことを抱きしめてくれるんだろうか。
騙していると言っても過言ではなのに、本当に本当に……申し訳ない。
こうして、私は抱き締められ泣きながら、ごめんなさいとただひたすら謝り続けた。
◇ ◇ ◇
次の日は休みだった。
メアリーさんが休みにしてくれたという訳ではなく、定休日だったのだ。
ただ、メアリーさんも何かあればと思い、あえて話しをする日を定休日の前日にしてくれたのだと思う。
しかも、私は定休日だが裏方の仕事をしている仮面の男性は仕事があり、代わりにその次の日が仮面の男性の休みになっている。
つまり、仮面の男性とは2日間会わない状況ができる。メアリーさんはそのことも考慮して、この日に話をしてきたような気がする。
いつもは隣にいるというだけで安心できる。しかし、今日みたいなときに関しては、隣家がメアリーさんたちというのが、非常に気まずい。
昨日は店からどうやって帰ったのかもあまり覚えてない。少なくとも、死んだ顔で亡霊のように歩いていただろう。
でも1つだけ覚えていることがある。メアリーさんとの話しが終わり、荷物を取りに行ったときに【ありがとう】と書かれたカードがいつものように置かれていたのだ。
彼はクッキーを持って帰ってくれていないかもしれないと思い、毎回クッキーを置いている場所を確認することが癖になっていた。
そして、クッキーを置いていた場所には受け取った証拠とでもいうように、ある時からありがとうと書いたカードをが置かれるようになっていた。彼が置いてくれているのだろう。
彼は恐らく、メアリーさんとジェイスさんが置いているとは思っていないと思う。普通、育ての親ならいちいちこんなところにクッキーを置かないはずだ。
だから、彼は私が置いていることに、相当鈍くなければ気が付いているはずなのだ。
いつも嫌だと思う態度を取っている自覚がある。だからこそお詫びとして置いていたが、彼はそんな気持ちで置いていることは知らない。
でも、送り主はいつも自分を無視する人と気付いているはず……。それなのに、彼は律儀なことにありがとうと伝えてくれる。
絶対に良い人なんだと思う。仮面を付けて顔も見えないし、声も分からないけど分かる。
お詫びとしてクッキーを置き始めしばらくしてから気付いたが、いつも自分のことを避ける人間がある日突然置きだしたクッキーなんて普通は怖いだろう。
私だったら、何かとんでもないものを材料に入れて作っているクッキーかと勘繰ってしまう。これは私が疑い深い人間だからかもしれない。
だけど、彼の反応はただ【ありがとう】それだけだった。だからこそ、そんなリアクションをする彼は、基本的には人を信じたい性格なのだろうと思う。
何で仮面を付けているのかは未だに分からないが、彼の心はとても清く感じる。
私なんかに毎回毎回ありがとうというカードを置いてくれる彼の健気さを思い出すと、昨日メアリーさんに言われた言葉が蘇る。
そしてそれと同時に、私がいかに人として終わっているのかという事実が、胸に突き刺さった。
昨日帰って来てから、完全に自己嫌悪のループに陥ってしまっている。
考えすぎて、晩御飯なんて喉を通らない。何なら、食べること自体が許されないような気さえしてくる。
当然夜もろくに眠れない。食事と同様に、呑気に眠ること自体が罪のようにさえ思えてくる。
眠いという生体反応よりも、自分がしてしまったことの罪悪感と、今後どうしようという悩みで、完全に思考回路が迷宮入りしてしまった。
当然そんな私が一睡もできるはずなく、眠りつく前に日が昇り今日になってしまった。
朝食も当然喉を通るはずがない。コップ一杯の水を飲んでみたが、まったく気分はすっきりしない。
今日は休みだが、明日はまた仕事だ。行かない訳にはいかないが、明日からの仕事はどうしたものかと気が気でない。
仮面の男性はもちろんだが、メアリーさんとジェイスさんともどんな顔をして会ったら良いのかが分からないのだ……。
考えても考えても、そう簡単に答えが出てくるはずもなかった。こうして家の中で1人ずっと籠り切っていると、ろくでもない考えしか浮かんでこない。
――あの場所に行ったら少しは変わるかしら……?
いつもの丘がフッと頭を過ぎった。今のままでは仕事なんて出来たものではない。少しでも明日のために、何とか気持ちを立て直さないと。
そう思うと、ますます丘に行かなければならないような気がしてきた。
そして、ご近所さんが昼食を済ませて一段落した後に出払う時間を狙い、誰にもバレないようにそっと家を出て丘を目指した。
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