25 / 39
25話 帰省
しおりを挟む
アダムとの婚約が決まり、私は結婚の報告がてら1度実家に帰省することにした。本当は1人で帰省しようかと思っていたが、アダムは僕もちゃんとご両親に直接会って挨拶をすると言っている。
でも、私の実家に帰って戻ってくるには最低でも4日、通常なら6日はかかる。業務内容は違うが同じ職場ということもあり、2人も欠員が出れば店に迷惑を掛けると思った。そのため、私はメアリーさんに相談したところ、即座に答えを返された。
「実家に帰省するんでしょう? 店のことなんて気にしなくて良いから、6日でも10日でも休んでちょうだい。それにアダムが仮に残ったとして、その理由がシェリーのお願いだとしても、アダムが結婚の挨拶に行かなかったら私はアダムのことを許さないから、そのことはちゃんと頭に入れておいてね。それに新入りの子もいるから大丈夫よ!」
笑顔でそう言われたため、私はアダムと一緒に実家に帰省することが確定した。仕事が気がかりだったため1人で帰省しようと考えていたけれど、正直お父さんお母さんにはアダムを会わせたかった。そのため、私はアダムを会わせた2人の顔を想像しながら、手紙を書くことにした。
手紙の内容自体は淡白なもので、書いた内容は結婚挨拶に行くこととその予定の日とアダムの名前についてだけだ。いろいろと書くくらいなら、直接会って話そうと思い合えて他のことは書かなかった。
そして、ウキウキ気分で郵便局に手紙を出した約6日後に、実家から返信が来た。そこにはこう綴られていた。
絶対に、絶対にその日は空けておく。
待ってる、気を付けて帰って来なさい。
そして、私は予定通り現在アダムと実家のある村に帰ってきた。アダムはレイヴェールじゃないからと、手袋は付けているものの珍しいことに仮面をのけている。
こんなに長時間、仮面をのけているアダムと外を歩くなんてめったにない。とても新鮮で、なんだか不思議な気分になってくる。私は嬉しくなり、ルンルンと上機嫌でアダムと手を繋いで歩いていた。
すると、前方から子どもが走ってきた。歳の頃で言うと、5歳か6歳くらいだろうか。そう思っていると、子どもは私たちの前で立ち止まり、アダムに向かって口を動かした。
「うわっ、お兄さん変な顔~。あはははっ、何でそんな変な顔なの? おかしいよ? あはっあはははっ」
子ども相手に何をと思われるかもしれない。子どもだから語彙力が少ないのだろう。慣れないものを見て、つい衝動で何かを言ってしまうことも分かる。
だけど、私はこの子どもの発言と何より楽しそうに笑いながらこんなことを言うということに、本気で腸が煮えくり返りそうな気分になった。
アダムは勇気を出して仮面を外していると分かっているからこそ、なおさら悲しさと怒りが込み上げてくる。そうこうしているうちに、子どもを追いかけるように親が走ってきた。
大きな声で笑いながら子どもは発言していたから、親も自分の子どもの言動が分かっていた。そのはずだった。
「あはは、こらこら~」
親の口はそう動いた。ニコニコと笑いながら、子どもに怒っているようで怒っていない。そして、親は私たちに向きなおると、満面の笑みで話しかけてきた。
「すいませーん、子どもの言うことなんで気にしないでくださいね~。素直で良い子な分、思ったこと何でも言っちゃうんですよ~。まあ、そういう年頃ってこともありますけどね~」
何様のつもりかと思った。
――子どものことなんでって……こっちが言う台詞であって、あなたが言う台詞じゃないでしょ?
思ったことを何でも言うって分かってるなら、その分せめてパフォーマンスでも親が申し訳ないふりをしたら良いものを開き直り?
そんな考えが頭の中でいっぱいになる。先ほどの発言は親にとっては謝罪かもしれないが、普通謝罪とは言えないだろう。
あまりにも目の前の人物の発言が理解不能で、私の方が常識はずれな気さえしてくる。ついこの親の態度にカっとなって、一言言ってしまいそうになった。だが、アダムは繋いだ手をギュッと握り私を止めた。
アダムの方を見ると、アダムは首をゆるゆると横に振った後、大丈夫だからと言って笑顔で私に笑いかけてくれた。そのため、私は何も言うこと無くその場を立ち去り実家へと足を進めた。
――アダム大丈夫かな……?
そう思い隣を歩くアダムを見ると、少し顔色が悪くなっているように感じる。そのため、私はアダムに話しかけた。
「アダム……本当に大丈夫?」
大丈夫と言って誤魔化されるかもしれにない。そう思っていたが、意外なことにアダムは素直に気持ちを吐露してくれた。
「僕の見た目のこと君のお父さんとお母さん知らないだろう? だから、ちょっと心配になってきたんだ……」
――そうよね、私の気配りが足りなかったわ。
そう思い、私は握る手にギュッと力を入れアダムに告げた。
「他の人がなんて言っても、私はアダムの全部が大好きだから! それに、こんな私を育てた人たちよ? 絶対に大丈夫だから安心して! 会ったら絶対に私の言った通りだったって思うはずよ!」
この言葉に少し安心してくれたのだろう。アダムは少しホッとしたような顔になった。
「そうか、そう……だよね! ありがとうシェリー。勇気が出たよ」
「大丈夫よ、本っ当に心配いらないから! 安心して会ってね」
そして、このことは私が断言した通りだった。
「アダム君! うちの娘を好きになってくれて、結婚までしてくれて、ありがとうっ……ううっ……」
「あなたほんとにいい人ね! さっ! これも食べてっ、まだまだいっぱいあるわよ~。張り切って作り過ぎちゃった!」
お父さんは号泣しているし、お母さんはアダムに食べきれない量のご飯を食べさせようとしている。話しを聞くと、お父さんとお母さんは会う前からアダムになぜか好感を持っていたらしいが、実際会って比べものにならないくらい好感度が急上昇したという。
2人ともアダムのことをすごく気に入って、結婚にも大賛成だった。それにアダムは危惧していたが、傷のことなんてまったく気にしていなかった。何なら目に入っているのか疑うレベルだ。
アダムの実父母さんと弟が亡くなり、メアリーさんという育ての親がいるという話をすると、2人とも号泣していた。メアリーさんとジェイスさんにお世話になっている話をすると、父も母も本当に恵まれた環境が見つかって良かったと喜んでくれた。
そんな話をしていると、父がぽつりと呟いた。
「シェリーに何かあったらと思ってここに居させようとしたけど、もっと早くにレイヴェールに行かせてあげたら良かった……」
父はそう言うが、あくまで結果論で早く遅くという問題ではないような気がする。だから私は父に伝えた。
「お父さん、それは結果論よ。私はお父さんたちの助けがあったから今まで生きてこれたの。私、今が人生で一番幸せよ。これはお父さんたちが私を生かしてくれたから。ありがとう……お父さん、お母さん」
そう言うと、お父さんもお母さんも涙を流し、アダムも目を潤ませていた。私はというと完全に号泣だ。私の涙腺が緩い理由は、間違いなく親譲りだとこの瞬間思った。
こうして挨拶が終わり、私たちは帰ることになった。すると、見送りの際2人が私たちに声をかけてきた。
「良かったわね。幸せになるんだぞ!」
「結婚式をするならどこでも駆け付けるし、全部あなたたちの好きなようにしてね!」
そう言って見送ってくれたかと思うと、お父さんがアダムに声をかけた。
「君なら、いや違うな……君だからシェリーを託すことができる。アダム君、シェリーをよろしく頼むよ」
そう言われ、アダムは真っ直ぐな瞳で言葉を返した。
「はい、お義父さん。シェリーのことは命に代えてでも守り抜きます」
顔から火が出るかと思った。お父さんはこのアダムの発言を聞いて、思った以上の答えが返ってきたため、自分で言ったくせに少し動揺している。
お母さんもアダムの発言を聞いて、あらやだーなんて言ってニコニコ、いやにやにやと言った方が正しいだろう。とにかく、楽しそうに笑っていた。一方アダムは真剣そのものだった。
こうして私たちは楽しい気分のまま別れ、無事結婚の挨拶は終わった。
でも、私の実家に帰って戻ってくるには最低でも4日、通常なら6日はかかる。業務内容は違うが同じ職場ということもあり、2人も欠員が出れば店に迷惑を掛けると思った。そのため、私はメアリーさんに相談したところ、即座に答えを返された。
「実家に帰省するんでしょう? 店のことなんて気にしなくて良いから、6日でも10日でも休んでちょうだい。それにアダムが仮に残ったとして、その理由がシェリーのお願いだとしても、アダムが結婚の挨拶に行かなかったら私はアダムのことを許さないから、そのことはちゃんと頭に入れておいてね。それに新入りの子もいるから大丈夫よ!」
笑顔でそう言われたため、私はアダムと一緒に実家に帰省することが確定した。仕事が気がかりだったため1人で帰省しようと考えていたけれど、正直お父さんお母さんにはアダムを会わせたかった。そのため、私はアダムを会わせた2人の顔を想像しながら、手紙を書くことにした。
手紙の内容自体は淡白なもので、書いた内容は結婚挨拶に行くこととその予定の日とアダムの名前についてだけだ。いろいろと書くくらいなら、直接会って話そうと思い合えて他のことは書かなかった。
そして、ウキウキ気分で郵便局に手紙を出した約6日後に、実家から返信が来た。そこにはこう綴られていた。
絶対に、絶対にその日は空けておく。
待ってる、気を付けて帰って来なさい。
そして、私は予定通り現在アダムと実家のある村に帰ってきた。アダムはレイヴェールじゃないからと、手袋は付けているものの珍しいことに仮面をのけている。
こんなに長時間、仮面をのけているアダムと外を歩くなんてめったにない。とても新鮮で、なんだか不思議な気分になってくる。私は嬉しくなり、ルンルンと上機嫌でアダムと手を繋いで歩いていた。
すると、前方から子どもが走ってきた。歳の頃で言うと、5歳か6歳くらいだろうか。そう思っていると、子どもは私たちの前で立ち止まり、アダムに向かって口を動かした。
「うわっ、お兄さん変な顔~。あはははっ、何でそんな変な顔なの? おかしいよ? あはっあはははっ」
子ども相手に何をと思われるかもしれない。子どもだから語彙力が少ないのだろう。慣れないものを見て、つい衝動で何かを言ってしまうことも分かる。
だけど、私はこの子どもの発言と何より楽しそうに笑いながらこんなことを言うということに、本気で腸が煮えくり返りそうな気分になった。
アダムは勇気を出して仮面を外していると分かっているからこそ、なおさら悲しさと怒りが込み上げてくる。そうこうしているうちに、子どもを追いかけるように親が走ってきた。
大きな声で笑いながら子どもは発言していたから、親も自分の子どもの言動が分かっていた。そのはずだった。
「あはは、こらこら~」
親の口はそう動いた。ニコニコと笑いながら、子どもに怒っているようで怒っていない。そして、親は私たちに向きなおると、満面の笑みで話しかけてきた。
「すいませーん、子どもの言うことなんで気にしないでくださいね~。素直で良い子な分、思ったこと何でも言っちゃうんですよ~。まあ、そういう年頃ってこともありますけどね~」
何様のつもりかと思った。
――子どものことなんでって……こっちが言う台詞であって、あなたが言う台詞じゃないでしょ?
思ったことを何でも言うって分かってるなら、その分せめてパフォーマンスでも親が申し訳ないふりをしたら良いものを開き直り?
そんな考えが頭の中でいっぱいになる。先ほどの発言は親にとっては謝罪かもしれないが、普通謝罪とは言えないだろう。
あまりにも目の前の人物の発言が理解不能で、私の方が常識はずれな気さえしてくる。ついこの親の態度にカっとなって、一言言ってしまいそうになった。だが、アダムは繋いだ手をギュッと握り私を止めた。
アダムの方を見ると、アダムは首をゆるゆると横に振った後、大丈夫だからと言って笑顔で私に笑いかけてくれた。そのため、私は何も言うこと無くその場を立ち去り実家へと足を進めた。
――アダム大丈夫かな……?
そう思い隣を歩くアダムを見ると、少し顔色が悪くなっているように感じる。そのため、私はアダムに話しかけた。
「アダム……本当に大丈夫?」
大丈夫と言って誤魔化されるかもしれにない。そう思っていたが、意外なことにアダムは素直に気持ちを吐露してくれた。
「僕の見た目のこと君のお父さんとお母さん知らないだろう? だから、ちょっと心配になってきたんだ……」
――そうよね、私の気配りが足りなかったわ。
そう思い、私は握る手にギュッと力を入れアダムに告げた。
「他の人がなんて言っても、私はアダムの全部が大好きだから! それに、こんな私を育てた人たちよ? 絶対に大丈夫だから安心して! 会ったら絶対に私の言った通りだったって思うはずよ!」
この言葉に少し安心してくれたのだろう。アダムは少しホッとしたような顔になった。
「そうか、そう……だよね! ありがとうシェリー。勇気が出たよ」
「大丈夫よ、本っ当に心配いらないから! 安心して会ってね」
そして、このことは私が断言した通りだった。
「アダム君! うちの娘を好きになってくれて、結婚までしてくれて、ありがとうっ……ううっ……」
「あなたほんとにいい人ね! さっ! これも食べてっ、まだまだいっぱいあるわよ~。張り切って作り過ぎちゃった!」
お父さんは号泣しているし、お母さんはアダムに食べきれない量のご飯を食べさせようとしている。話しを聞くと、お父さんとお母さんは会う前からアダムになぜか好感を持っていたらしいが、実際会って比べものにならないくらい好感度が急上昇したという。
2人ともアダムのことをすごく気に入って、結婚にも大賛成だった。それにアダムは危惧していたが、傷のことなんてまったく気にしていなかった。何なら目に入っているのか疑うレベルだ。
アダムの実父母さんと弟が亡くなり、メアリーさんという育ての親がいるという話をすると、2人とも号泣していた。メアリーさんとジェイスさんにお世話になっている話をすると、父も母も本当に恵まれた環境が見つかって良かったと喜んでくれた。
そんな話をしていると、父がぽつりと呟いた。
「シェリーに何かあったらと思ってここに居させようとしたけど、もっと早くにレイヴェールに行かせてあげたら良かった……」
父はそう言うが、あくまで結果論で早く遅くという問題ではないような気がする。だから私は父に伝えた。
「お父さん、それは結果論よ。私はお父さんたちの助けがあったから今まで生きてこれたの。私、今が人生で一番幸せよ。これはお父さんたちが私を生かしてくれたから。ありがとう……お父さん、お母さん」
そう言うと、お父さんもお母さんも涙を流し、アダムも目を潤ませていた。私はというと完全に号泣だ。私の涙腺が緩い理由は、間違いなく親譲りだとこの瞬間思った。
こうして挨拶が終わり、私たちは帰ることになった。すると、見送りの際2人が私たちに声をかけてきた。
「良かったわね。幸せになるんだぞ!」
「結婚式をするならどこでも駆け付けるし、全部あなたたちの好きなようにしてね!」
そう言って見送ってくれたかと思うと、お父さんがアダムに声をかけた。
「君なら、いや違うな……君だからシェリーを託すことができる。アダム君、シェリーをよろしく頼むよ」
そう言われ、アダムは真っ直ぐな瞳で言葉を返した。
「はい、お義父さん。シェリーのことは命に代えてでも守り抜きます」
顔から火が出るかと思った。お父さんはこのアダムの発言を聞いて、思った以上の答えが返ってきたため、自分で言ったくせに少し動揺している。
お母さんもアダムの発言を聞いて、あらやだーなんて言ってニコニコ、いやにやにやと言った方が正しいだろう。とにかく、楽しそうに笑っていた。一方アダムは真剣そのものだった。
こうして私たちは楽しい気分のまま別れ、無事結婚の挨拶は終わった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
522
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる