DARK SEDIMENT

雲乃みい

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side Y -BLACK NIGHT-1

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俺には兄貴がいる。
俺より7歳上の兄貴。
誰も寄せ付けない冷たい美貌を持つ、完璧な兄貴。


***


「ユウ、スマホ、鳴ってんぞ」
夜の11時。酒の匂いに溢れた繁華街の一角にある【Bar Genesis】でグラスを傾けていたらカウンターに置いていたスマートフォンが振動していた。
誰からか、見るまでもない。
一週間ほどまえからしきりと同じヤツからかかってきているから。
「うぜぇ」
吐き捨てるように呟けば、隣に座っていた顔なじみのヒロが喉を鳴らしながら俺の肩へと腕をのせてきた。
「なに、例のオンナ?」
「ああ」
例の――アバズレ。
俺がそう言うと、まわりは爆笑する。
Bar Genesisはシックな造りをした一見物静かな店だ。カウンターも店内もすべて木目の暖かい雰囲気で統一されてる。
だがいま店内にいるのは真逆な雰囲気を醸し出す若いやつらだけだ。
バカ騒ぎはしてはいないが、間違ってサラリーマンでも入ってくればすぐに引き返すだろうくらいにはガラの悪いやつらが集まっている。
俺の隣にいるヒロも髪にピンクのメッシュをいれ、今は笑っているが平素は鋭い目つきをしているやつだ。
「――もしもし」
ずっと鳴っている着信にうんざりしつつスマートフォンを手に取る。
液晶画面には予想通りに名前がでていた。
冷たい視線をまわりに投げれば一気に静まりかえる。
そしてようやく受話ボタンを押せば、すぐに金切り声が聴こえてきた。
『もしもし、ユウくん? なんで電話出てくれなかったの? 私ずっとかけてたのに。ねぇ、私』
音量を上げてまわりに聞こえるようにスマートフォンを少し耳から離す。
まわりの奴らにとってはいい余興だろう。
女の声に笑いがこみあげてくるがそれを堪え、ちょうど短くなってきていた煙草を灰皿にもみ消した。。
「あのさあ、ミワコさん」
『なに、ユウくん?』
なれなれしい、気持ち悪い、バカな女の声。
「あのね、俺――」
これからの反応を予想して堪え切れず傍らにいるヒロに視線を向ける。
楽しげに口角を上げてみせるヒロに、同じように唇を歪ませてバカな女に告げる。
「アンタみたいな、アバズレ、大っきらいなんだよね」
この女が初めて聞くだろう、低い冷たい声を添えて、言い捨てた。
途端にまわりはまた爆笑を始め、そして受話機の向こうの女は一瞬黙った後キレ出す。
「ウルセぇんだよ。一回でも抱いてやっただけありがたく思え。いいか、二度と俺の携帯にかけてくんな。あと――二度と」
自然と声がもう一段、低くなる。
「兄貴に近づくんじゃねぇ」
兄貴と不釣り合いな、馬鹿な女。上品そうな面の皮を被ったただの雌豚。
クソくさい香水の匂いと、ガバガバで締まりの悪い穴を思い出すと反吐が出る。
「ああ? 言葉そのまんまだよ。いいか、俺たち兄弟の前にキタねぇ面二度と見せんじゃねえぞ」
兄貴より1歳下の女はうるさく騒ぎたてる。やっぱり、この女は馬鹿だ。
よくもまぁ兄貴に近づけたなって呆れる。いや兄貴の趣味も悪い、悪過ぎだろ。
兄貴はきっと――……なんだろうけど。
「ミワコさん」
馬鹿な女のわめき声を鎮めるように一転して"いつのものように"優しい声を出してやると、黙った。
そのまま、続ける。
馬鹿にも、よくわかるように。
「いい、ミワコさん、一回しか言わないから良く聞いてね? アンタは22歳、俺は16歳。あんたが俺にしたことは性犯罪なんだよ」
俺の肩に乗せた腕に、さらに顎を乗せたヒロが俺の背にぴったりと身体を寄せて腹筋を震わせている。
「ねぇ、あの時写メ撮ったの覚えてる? アンタと俺が全裸で撮ったヤツ。あー、そういやムービーも撮ったよね? ミワコさん、ノリノリだったもんね?」
22の女が16のガキ誘って、クソくだらない甘言に腰振りたくったその代償。
低く笑えば、女は黙った。
「それバラまいたらどなるのかなー。俺無理やりされちゃったっていっちゃおうかなー。実際、誘われちゃったしねー? それにさぁ俺、結構外面いいからさぁ、みんな俺のことを信用しちゃうかも」
"天使"のようだと言われ、優等生として生活してる真面目ちゃんな"俺"に淫行したアバズレ女としてサツに渡すことだってできる。
ごめんねぇ、と嘲れば、沈黙ののちすがるように女が泣きだした。
「泣かないで、ミワコさん。うぜぇから。ね、難しいことじゃないだろ? 二度と俺たち兄弟に近づかなきゃなんもしないって。心配しないでいいよ。うん、そうそう。そうだよ、ミワコさん。俺たちのことを忘れりゃいーんだよ、ね? アンタみたいなアバズレならすぐ他に男出来るよ。な? いつものように清純派の面してればそのうち玉の腰ものれるって。だからね――消えろ、よ? もし兄貴に近づいたらそんときは――エロい画像ばらまいて――……俺のダチにマワさせるよ?」
冗談なんか一ミリもない、本気。
何なら今この場にいるやつらにこのバカ女のところに乗りこませてもいい。
そんな俺の気持ちは声に現れてたのだろう。
受話器越しに引き攣るような悲鳴が短く聞こえてきたと同時に電話を切った。
カウンターにスマートフォンを置いて茶番が終わったことがわかると、
「非道過ぎるぞ!」
ヒロがたしなめるような言葉を吐いてくる。
だけどそれは爆笑しながらで、ヒロは俺の首に両手を回し目を覗き込んできた。
「やっぱ、サイコーだわ、ユウ」
喉を鳴らしながらヒロは噛みつくように俺の口を塞ぐ。
入り込んでくる舌に唾液を渡させるように舌を絡めていった。
気分は――上々。
馬鹿な女がまた一人、兄貴の前から消えた。




***

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