BLINDFOLD

雲乃みい

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第六夜 それは、まるで

第12話

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週末はゆっくり過ごし、週明け捺くんはクロくんたちと旅行に向かった。
俺が出勤するくらいにもう出ていっていた。
ワンボックスカーに6人乗って行くらしい。
うきうきと出掛けていった捺くん。
楽しんでおいでと笑顔で送り出した。
クロくんが一緒というのにどうしても心が狭い俺はひっかかってしまうけれど、彼の恋人も一緒なんだからなにかあるとも思えない。
せっかくの夏休みなんだからインターンシップやバイト、勉強だけでなくたくさん遊んだほうがいいし。
楽しい旅行になればいいと、本当にそう思っていた。






『優斗さん、めちゃくちゃいいところだよ! 今日はテニスして、温泉あったから温泉入ってー』
一泊目の夜に電話をくれた捺くんはすごくテンションがあがっていた。
弾んだ声を聞くと俺も嬉しくなる。
『それで夕食はバーベキューだったんだ。めちゃうまかったよ! 今度さみんなで来ようよ』
実優や晄人、それに智紀や、和くんたち。
もし都合がつくならみんなで、と提案され、本当に行くことができたらすごく楽しそうで俺も頷いた。
「今度みんな誘ってみようか?」
『うん! 俺計画立てる!!』
友人と旅行中なのにわざわざ電話をくれる捺くんに心が穏やかになるのを感じながら少し話をして電話を切った。
『また明日かけるね』と、捺くんは言って――。
俺は旅行中だから気を使わなくていいよと返したけれど捺くんは電話をすると言って――……。
実際、翌日電話はあった。
夜の12時近く、お風呂から上がったあと携帯を見ると入っている間に捺くんからの着信が残っていた。
冷蔵庫からビールを取り出し、プルタブを引く。
飲みながらソファーへ向かい座ると捺くんに電話をかけた。
テレビではニュース番組があっていて、俺はそれを見るともなしに眺めながらコール音を聞きビールを飲んでいた。
だから――気が緩んでいた。
電話が繋がる小さな音がした。
そして、
『もしもし』
と、言った声は捺くんじゃなく……クロくんだった。
一瞬にして胸の内が冷えていく。
なんで彼が出るんだろう。
「……クロくん?」
『はい。こんばんわ』
正直挨拶をする気にもなれなかったけれど、そうもいかずに挨拶を返す。
「捺くんはいるかな、代わって欲しいんだけど」
だけど長々と会話をするつもりはなかった。
ビールをテーブルに置き、ため息が出そうになるのをこらえ濡れたままの髪をかきあげる。
『捺、ですか?』
なんでわざわざ問い返すんだろう?
俺が電話をかけたのは捺くんの携帯なのだからその本人に代わってくれというのは当然のことだ。
「そう、近くにいないのかな?」
また前のようにトイレに行っているとかなのだろうか。
何故いちいち代わりに出るんだろう。
大人げなく苛立ちを感じながらクロくんの返事を待つ。
『いえ、いますけよ。ちょっと待ってください。――おい、捺』
ほんの少しだけクロくんの声が離れて聞こえた。
なにか声をかけているようだけれどはっきりとは聞きとれず、衣擦れのような音が微かに響いた。
『すいません、爆睡してて無理みたいです』
「……寝ているの?」
『はい。こいつ結構酒飲んじゃって酔い潰れたんです』
「……そう」
『大変だったんですよ、俺一人で部屋まで運ぶの』
「……」
ありがとうと言うべきなんだろうか。
他の友達はどうしているんだろうか。
ふたりきり?
いま彼が捺くんと同じ部屋にいて、多分ベッドにいるだろうことに胸に靄がかかる。
気持ちを落ち着かせるようにビールを一飲みしてソファにもたれかかった。
『それにしても捺って、やっぱり顔がいいから寝顔も綺麗なんですね』
笑いを含んだ声に、どうしようもなく苛立ちが募るのを抑えられなかった。
別に彼がなにをしたというわけじゃない。
だけれどクロくんの含みのある言葉や雰囲気は複雑な気分にさせる。
「……悪いんだけど明日、俺から電話があったこと伝えておいてくれないかな」
俺から着信があったことは携帯を見ればわかることだけど不在着信になっていないならわざわざ着信履歴を見るかわからない。
クロくんが出なければなにも問題はなかったのに。
『ああ、はい。わかりました』
これ以上彼と喋る気はない。だから、切るだけだ。
だけど――。
「……あのクロくん、ひとついいかな」
『はい?』
「前から思っていたんだけど、あまり勝手に人の電話に出るのはよくないんじゃないかな」
もう同じようなことがあってほしくなくてできるだけ柔らかに忠告した。
『ああ……。そうですね。俺別にそんな非常識なことしませんよ』
「……」
じゃあこの電話はなんだ、と言いたくなる。
『でも優斗さんは捺の恋人だから。出てあげないといけないかな、と思ったんです』
わかるようでわからない答え。
俺が捺くんの恋人だから、だから?
なぜクロくんが出てあげないといけないのか――。
「気づかいは嬉しいけど、大丈夫だよ。不在着信になっていれば捺くんはかけ直すだろうし」
感情的にならずにと平静を装い、気を紛らわせるようにテレビに視線を走らせる。
内容はまったく聞かずただ映像を眺めるだけだけれど。
『まぁそうですけど。……なんか、俺』
ふ、とクロくんがおかしそうに笑った。
大きくはないけれど確かに笑うのが携帯越しに伝わってきた。
『もしかして警戒されてます?』
――映像を見るのさえわずらわしくて、テレビのスイッチをオフにした。
テレビの音がなくなり静かになった部屋の中。
いつもなら俺の隣には捺くんがいる。
なのに、いま捺くんはクロくんのそばにいる。
嫉妬と呼ぶには簡単だけれど、さまざまな感情が暗く渦巻く。
「……警戒? 俺が、君に?」
なんの警戒をするというんだと、少しだけ自分の声が冷えたのはわかっていた。
『捺になにか言われました? 違うならいいんですけど、なんとなくそう思っただけですよ』
「……」
手持無沙汰で視線をテーブルに走らせる。
ビールの傍らに置いてある煙草に手を伸ばした。

「なにも言われてないけど。俺がクロくんのことでなにか捺くんから聞かなきゃいけないことがあるのかな?」
一本取り出し口に咥える。
なぜ彼とこうして話し続けてしまっているだろう。
火をつけながら、それでももう一言といつになくクロくんに対し身構え攻撃的になっているのも自覚している。
クロくんの忍び笑いが響いてきて、やり過ごすように深く煙草を吸いこんだ。
『いえ、別に。ただ今日はちょっと声が冷たいような気がしたから俺とのこと捺が話したのかと思っただけなんですけど、なんにも話してないんだ。――まぁいいんですけどね』
「……」
言葉に含みがあるのは気のせいではない。
意図的にとしか思えない言い回し。
なにが言いたいんだ、と言いそうになる。
相手は一回り年下なのに、年甲斐もなく感情的になってしまいそうだ。
「……悪いけれどもう切っていいかな? 持ち帰りの仕事があってね」
無駄な会話をしてる暇はない――と、言外に告げる。
『お仕事大変なんですね。無理しないでください?』
ありがとうと返しはしたけれど感情なんてこもってもいない。
「……それじゃあ、捺くんに伝言お願いするね」
『はい。おやすみなさい』
「……」
最後はなにも返さず、切った。
いつも以上に疲労感を覚え深いため息が口からこぼれおちた。
うんざりする。
それはクロくんに対してのようで、自分に対して。
クロくんが俺を煽るようなことを言っていることに間違いはないにしろ、なぜそれに乗ってしまうんだろう。
彼と捺くんがどうにかなるなんてこと思ってもいないのに。
疑う余地なんてないくらい、信じてる。
けれど信じてはいても―――……。
「……起こしてもらえばよかったな」
無理にでも捺くんを起こしてもらって、声を聞けばよかった。
そうしたらこんな後味の悪さなんて感じなかったのに。
無性に捺くんの声が聞きたくて。
だけど出ないとわかっているのに電話はできなく、ただ紫煙だけをくゆらせた。



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