BLINDFOLD

雲乃みい

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第三夜 性少年の受難

37.差し入れは

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 近くにあったコンビニで30分ほど時間をつぶした。
 漫画読んで、それからちょっと腹も空いてきてたからパンとかいろいろ選ぶ。
 智紀さんに差し入れするならなにかなーって思うけど思いつかない。
 コーヒーはあったし……。
 パン食うかな?
 甘いものって好きだっけ?
 あ、さきいか?
 って、昼間っから食わねーか。
 そんなことをぐだぐだ悩みながらバカでかいエクレアがあったからそれを買ってみた。
 コンビニ袋下げてオフィスに戻る。
 仕事進んでるかなぁ。
 ぼんやり考えながら中に入ったらちょうど智紀さんがフロアに出てきてた。
「コンビニ?」
 俺が下げてる袋を見て智紀さんが笑う。
「うん。ちょっと気分転換に。仕事は……」
 エクレア渡そうかなって思ったけど智紀さんの手には書類があって、まだ終わってないっぽい。
「もうすぐ終わるよ。俺の部屋で待ってれば?」
「じゃあ、コーヒーついでくる」
「了解」
 そう言って智紀さんはプライベートルームに戻っていった。
 俺は休憩室に行って二人分のコーヒーを作る。
 コーヒーとコンビニで買ったものを持って智紀さんのところへ行く。
 大したものじゃないなんていってたいわゆる社長室は結構広かった。
 デスクと応接セット。でも校長室みたいなドラマで見かけるようなゴテゴテしたかんじじゃなくってやっぱオシャレっぽいの。
 智紀さんはパソコンうちながら電話をしていて、視線だけ俺に向けるとソファに座るように促した。
 テーブルにコーヒー置いて、だんだんマジで腹が減ってきてたからパンを食って。
 時計見たら3時を少しすぎていた。
「……」
 勝手にため息が出る。
「どうしたの」
 そして智紀さんの声がかかって、視線を向けると智紀さんはデスクに頬杖ついて俺を見てた。
「ため息ついて」
「べ、別に……」
 なんでもない、って首を振る。
 でもそれに智紀さんは見透かしたように小さく笑う。
 きっと俺のため息の理由がなにかわかってるんだろう。
「もう、仕事終わったの?」
 誤魔化すように訊き返す。
「終わったよ。ちょっと疲れたな」
 言いながら大きく伸びをする智紀さんにコーヒーと買ってきたエクレアを持っていった。
「これ、差し入れ。甘いもの大丈夫だっけ?」
「ありがと。甘いものは大好きだよ」
 デスクの上に置くと、智紀さんはコーヒーを飲んで、そしてエクレアを見てから俺を見た。
「捺くん、エクレア食べさせて」
 相変わらず爽やかな笑顔。
 なのに相変わらず変なことを言いだす智紀さん。
「えー」
「えーって、なに? 今朝だってあーんって食べさせてくれたのに?」
「……しょうがないなぁ」
 智紀さんってほんとに変わってるよなぁってちょっと失礼なことを思ってみたりする。
 だってさ、男の俺に食べさせてもらって嬉しいのかな?
 仕方なくエクレアを袋から出してたら、
「ここ、座って食べさせて」
って智紀さんが言った。
 ポンポンとたたいた場所は――智紀さんの膝の上。
「……はぁ!?」
 さすがにそりゃないだろ!
 でも智紀さんは笑顔を崩さずに首を傾げて俺を見つめる。
「だめ?」
「だめもなにも。ないない」
「なんで」
「なんでって」
「じゃー、俺がじゃんけんで勝ったら乗って」
「いや、意味わかんねーし」
「疲れると人恋しくなるんだよね」
「いやいや、ほんと意味わかんないって!」
「とりあえず、はいじゃんけーん。あ、ださなかったら負けだよ? じゃんけーん」
 ポンって俺の話しを聞かずにいきなりじゃんけんしだす智紀さん。
 出さなかったら負け、って言われたから焦ってパー出して。
 そして智紀さんはチョキだった。
「……」
「……はい、ここおいで」
 少しゆったりめに座りなおした智紀さんが膝の上をまた叩いて促してくる。
「……いや、それはちょっと」
「じゃんけん負けたのに?」
「……俺するって言ってないし!」
「じゃんけんした時点で同意だよ」
 あっさり智紀さんは言ってのける。
 ていうか口で言って智紀さんに勝てる気がしない。
「……でも。だって重いし」
「平気平気」
「いやでも意味不明だろ。男同士でとか……」
「平気平気」
「でも……」
「仕事で疲れて、癒しが欲しいんだよね。俺を慰めると思ってさ。お願い、捺くん」
 俺で癒しになるのか?って疑問でしかない。
 ていうか、絶対無理。
 恥ずかしいし!
「じゃんけんで負けたのに……」
 どうしても俺がしぶってると智紀さんは恨めしそうにため息つく。
 あげくには泣き真似までして俺のことを見上げる。
「だって……」
 男同士だろ!?
 女の子に膝の上乗ってもらってあーんとかならわかる。
 わかるけど!
「と……智紀さん」
「捺くんケチ」
「……だー! もう!」
 いい大人なくせに!
 なんでそんなに拗ねるんだよ、ってくらいに智紀さんはわざとらしくまたため息ついて顔を背ける。
「わ、わかったよ!」
 もうヤケクソだって、しょうがなく俺は恐る恐る智紀さんの膝の上にのった。
 ――あとで後悔することになるって知らずに。
「……重くない?」
「ぜんぜん」
 膝の上に乗るなんて変な感じ。
 智紀さんをすぐそばで見下ろすなんて不思議な感じだ。
 つーか、膝の上ってちょっとバランス悪くて、緊張するっていうか。
 やっぱすっげー恥ずかしいんだけど!
「はい、あーん」
「……」
 そんな俺の恥ずかしさなんてまったく気にしないで智紀さんは口を開ける。
 俺はちょっとだけ口尖らせてエクレアを食べさせてあげた。
「……おいしい?」
「美味しいよ」
 にこにこしてる智紀さんにホッとしながら、膝の上から降りようとしたけど、腰に手を回された。
「……降りたいんだけど」
「エクレアまだ残ってるしね。はい、もう一口」
 あーん、ってまた口を開ける智紀さんにまた食べさせてやって、なんかつい笑ってしまう。
 一回りも歳違うし、ついさっきまではすっげぇバリバリ仕事してたのに、いまはちょっと変で。
 でも憎めない。
「捺くんも、食べてみる?」
 そう言って智紀さんが俺の手からエクレアを取って口元に持ってきた。
 食べかけのエクレア。
 でも別に気にすることもないし、普通に食う。
「甘い……」
 カスタードとチョコクリームの入ったエクレアは結構甘かった。
 はい、ってさらに口に押し込まれて頬張る。
 もぐもぐ必死で口を動かす俺を智紀さんは目を細めて見つめてて。
「俺さ、仕事やり遂げたときとか疲れたときって、むらむらするんだよね」
「……」
 意味不明なことをまた言いだした。
「むらむら……?」
 エクレア食いながらもごもご喋ると、智紀さんは笑顔で頷く。
「そ。それに禁欲の日々だったから、もういろいろ限界っぽい」
「……はぁ」
「今日は急な仕事入ったからまた別の日にでもって思ってたんだけど……、時間ないし」
 智紀さんの手は俺の腰に回ったまま。
 何の話か意味分からずに戸惑う俺に智紀さんは喋り続ける。
「でもまぁ……エクレア食べたらもっと甘いもの食べたくなった」
「もっと?」
 そんなに甘いもの好きなんだ、ってぼーっと考える俺に、智紀さんが笑いかける。
「……」
 なんだろう。
 なんか、その笑顔が――……。
「時間はないけど……そのまま向こうに送りだすのもなんだし、俺も昨日の夜は相当我慢したし、ちょっとくらい食べてもいいかなぁって思うんだよね」
「……あの……」
 俺の腰に回っている手が、ゆっくり摩るように少し動いてる。
「だから、食べていい?」
「……あの」
 なんか――おかしい。
 俺に向けられた笑みが深くなる。
 俺を見る目が、なんか……。
 どくどくと、心臓が変な音を立ててる。
 笑顔だけど、いつもと違う。
 なにがって訊かれたら、困る。
 でも……直感が、つーか……いままでの経験が、俺と智紀さんを取り巻く空気が変わったって知らせてくる。
「あ、あの、俺、降りる」
 膝の上からとりあえず退けようと思って智紀さんの肩を押した。
 だけど、ぐっと腰に回った智紀さんの手に力がこもって、バランスが崩れる。
 降りようとしたけど落ちそうになるとつい焦って智紀さんにしがみついてしまってた。
「うわ! ご、ごめん!」
 慌てて離れようとしたけど、腰にあった手が背中に回されて離れられない。
 見下ろせば、すぐ間近にある智紀さんの顔。
 爽やかさなんて欠片もない――艶と色欲に染まった目が俺を見つめてる。
「なーつ」
 びくん、て勝手に身体が震えた。
「あ、あ、あの」
 訳もわからずに焦る。
 やばい、やばい、って心臓が激しく動いてる。
 ぐいっと俺の右腕を智紀さんが引っ張って、キスしそうなくらいまで顔が近づいた。
「ね、捺」
 少し低くなった声はやけに甘くて。
「――続き、しようか?」
 ふ、と智紀さんは口角を上げた。
「つ、続き?」
 声が情けないくらい裏返る。
 なんの続きかわかんねーのに、ヤバイヤバイ、って頭ん中でぐるぐるその言葉が回ってる。
「そ、続き」
 楽しそうに智紀さんは目を細めて俺の口に指で触れてくる。
「昨日のこと覚えてない?」
 唇をなぞる指にパニックになりながら首を振った。
 覚えてない。
 覚えてない――はずだ。
「俺とキスしたのも?」
「――……は」
 キス。
 って、キス!?
 いや、ないだろ!
 覚えてねーもん!!!
 知らない!
 だって、俺が昨日見た夢は………。
 不意に、ひどく卑猥な映像が頭ん中に浮かんできて息を飲んだ。
 イヤ、違う。
 絶対夢、夢だよ!
「捺にキスしようかって言ったら頷いて、それでキスして」
 智紀さんが"捺"って俺の名前を呼び捨てにするたびに身体がぞわぞわとする。
 吐息がかかるくらいに傍にある智紀さんの顔から、逃げれない。
「いーっぱいキスしてたら、捺が足らないって言いだして」
 色気、ダダ漏れだろ!ってくらいに、妖しい眼差しが俺を捕らえてる。
「……し、知らない」
「俺はお預けって言ったんだけど、捺がどうしてもってダダこねて」
 知らない。
 覚えてない。
 なのに、俺の腰に回った手と、俺の唇をなぞる指に、身体がどうしてか熱を帯び出してる。
 苦しいくらいに心臓が動きを速めてて、それを耐えるように唾を呑みこんだら、やけにうるさくごくんって喉がなってしまった。
「あーんまりにもイきたいって捺が甘えてくるから」
「……甘えたりなんて」
『……や……、シたい……っ』
 そして今度は甘ったるい自分の声が頭ん中で反響する。
「し、知らな……」
「あそこを硬くさせて、イきたいってねだる捺が可哀想だから、一回だけ」
 こうやって、って智紀さんは俺の唇に置いていた手を移動させると俺の手を取った。
 情けなくびくつく俺の身体。
「イかせてあげようかな、って思って。――こーんな風に」
 俺の手がゆっくりと智紀さんの口元に持っていかれる。
 目は合ったまま。
 俺を見つめたまま智紀さんは、
「咥えてあげた」
 笑って言って、俺の指を口に含んだ。


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