BLINDFOLD

雲乃みい

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第五夜 性少年の嫉妬

第30話

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「先輩がそんなだから、ああ、いままでと違って本当に好きなひとが出来たんだなって思ったんです。それで失恋しちゃったな、って。でもいままで溜めてきて言えなかったけど、最後に告白だけはしておきたくって」
「……そっか」
「はいっ! あたりまえだけどフラれてわかってても寂しいけど、でも嬉しいです」
「なにが?」
「大好きな先輩に大好きなひとができて」
 ぽかん、とするくらい満面の笑顔で言われて――ありえないくらい顔が熱くなるのを感じた。
 いや、大好きだけど。
 つーか、なんかマジで佐伯さんってめちゃくちゃイイ子だな。
「あ、ありがと」
 なんかよくわかんねーけど、お礼言ってみた。
「きゃああ! 先輩、照れてます?! 照れてるんですか!!!?」
 最初の緊張MAXさはどーしたってくらいにテンションが上がり出した佐伯さんは「きゃーきゃー!」ってやっぱりでかい声で叫びながらケーキを食っていた。
 佐伯さんが落ちつくのを俺もタルトを食いながら待つ。
「でもいーなぁ。羨ましいです、先輩にこーんなに愛されてる彼女さん」
 あ、愛!?
 むせそうになって慌ててジュースを飲む。
 まるで自分のことみたいに嬉しそうな笑顔を浮かべてる佐伯さんは興味津津な感じで俺を見つめる。
「あの……図々しいですけど……どんな彼女さんなのか訊いてもいいですか?」
「へ? あ、あー……すっげぇ大人だよ」
「やっぱ年上なんですね!」
「うん。そんですっごいカッ……綺麗」
 カッコイイって言いかけて慌てて言いかえる。
 やっべぇ……さすがに男だなんていえねーもんな。
「うわー美男美女なんですね! 見てみたい!」
「……まぁ……ね。それでめちゃくちゃ優しい」
 って、なんかノロケてんなー、俺。
 でも実際優斗さんって俺から見て完璧だもんなぁ。
 エリートだし、包容力あるし、まじでカッコイイし。
「ほんといいですねっ。先輩すっごく幸せそうですっ。彼女さんも先輩と付き合えて幸せですね!」
 キラキラーって感じに目を輝かせて佐伯さんはしきりに「いいなぁ」って言ってる。
「……だったらいいんだけどな」
 優斗さんも俺と付き合ってて楽しいって思ってくれてるといい……な。
 って、ぼそっと呟いてた。
 生クリームの部分だけを頬張っていた佐伯さんが不思議そうにまぶたをぱちぱちさせた。
「幸せですよー! だって先輩と付き合えてるんですよ!?」
「あー……でも俺ってガキだしさ」
「歳の差あるならしょうがないんじゃないですか?」
 首を傾げる佐伯さんから視線を逸らしてグラスを意味なく見る。
「まぁそうなんだけど。――なんかガキすぎて、イヤになんだよね」
 自分が。
 そう言って、俺なに言ってんだって我に返って口をつぐんだ。
 食べる手を止めた佐伯さんはますます不思議そうに傾げていた首をもっと傾げる。
「それはえーっと……大人と子供の考え方……、えっと価値観? だっけ、それの違いっていうのですか?」
「あー……そういうんじゃなくって」
 俺がもっと大人だったら。
 松原が気にしないように優斗さんと実優ちゃんの関係を見守れるくらいになれるのかな、ってたまに思う。
「なんかさ」
「はい」
 佐伯さんは真剣に俺の話に耳を傾けていて、なんだろ、佐伯さんが真っ直ぐだから……俺のバカな話もちゃんと聞いてくれそうな気がして喋ってた。
「わかってるから……わかってあげたいのに、わかってやれねーのが……なんか最近しんどくってさ」
「……」
 俺の言葉に佐伯さんはポカンとした。
 そりゃ意味わかんねーよな。
 口を半開きにしてる佐伯さんがおかしくて苦笑してたら、考え込むように口を閉じて佐伯さんは視線を落とした。
「んー……と」
「ごめん、意味わかんねーよな。気にしないで」
 つい言ったけど、詳しい事情話すつもりもねーし。
 話せるはずもねーし。
 あと二口分くらいのタルトをいっぺんに口に入れてもぐもぐ食った。
「んー……と……えっと、あのですね?」
「うん?」
「それって彼女さん知ってます? 先輩が悩んでるの」
 ……言えるわけねーじゃん。
 半笑いで首を振る。
 佐伯さんはフォークをテーブルに置くと俺に向き直った。
「じゃあ言ったほうがいいと思います」
「……なんで」
「いろーんなことって自分で解決できることとできないことがあるって思うんですよね。
とくに人の気持ちなんてどう考えて悩んだってわかるはずないし。だから先輩がどう悩んで、いまどういう気持ちなのか話したほうがいいと思います」
「……」
 言う?
 実優ちゃんにヤキモチ妬いてるーって?
「……無理」
 やっぱ半笑いしか浮かばない。
「先輩がわかってあげたいけど、でもわかってあげられない。っていうの……黙ってて、そのままでこれから先、"わかってあげられるようになる"んですか?」
「……」
 意外に痛いところついてくんな、佐伯さん。
 きっとなんにも言わないって思ってたから、なんて返せばいいのかわかんねーで黙った。
「先輩さっきガキだからって言ってたけど、どうしようもなく悩んじゃうのって、べつに大人になってからもあると思うんです」
「……」
「わかってあげられない。でも頑張ってわかってあげてるふりしてってキツイんですよね。先輩とは事情が違うかもしれないけど、結構そういうのっていっぱいあるじゃないですか」
 佐伯さんは顎に手を当てて、うーん、と唸りながらもう片方の手で指折り数えだす。
「たとえば、明日はテストだけどテスト勉強しなきゃなのにする気がおきないーとか。いま食べたら太っちゃうから、食べちゃだめだけど食べちゃうーとか」
「……似ては…いるかもしれねーけど、ちょっと違うかな」
 そういう簡単なことじゃねーし。
「うん。違います。そんな簡単なことじゃないと思います」
「……」
「だから、言ったほうがいいんじゃないかなって。さっき私が言ったのって結局自分が気をつければいいだけどことだし。でも先輩は好きな人のことで悩んでるんですよね? わかってあげたいのにわかってあげれなくってつらいっていうのって、いつか変わるのかな?」
「……もうちょっと大人になったら、俺だってもうちょっとは」
「そうかな。私、一緒じゃないかなって思います、いまのままだったら」
「……」
 なんで、と言いかけてやめた。
 自分から話を振ったのに、どんどんテンション落ちて、態度が悪くなりそうだった。
「我慢ばっかりしてたらいつか破裂しちゃうだけだと思うし。それに"わかってあげたいけどわかってあげれない"っていうのを、彼女さんが"わかってくれたら"また違うんじゃないかなーって思うんですよね」
 ヤキモチ妬いてるって言って?
 でもわかってるって言って?
 答えなんて決まってる。
 実優ちゃんは"姪"だから。
 だから、心配する必要なんてない、とか、そんなんだ。
「……無理」
「なんでですか?」
「言ったって、変わらない」
「なんで?」
「変わらないから」
 あの二人の関係はどうやったって変わらねー。
 だって、血のつながりがあるんだから。
「そうかな」
「そうだよ」
 不思議そうにする佐伯さんに――ちょっと、イラッとした。


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