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第五夜 性少年の嫉妬
第37話
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『明日は定時退社できるから』
「うん……待ってるね」
いつもたいてい俺が先に優斗さんのマンション行って適当に過ごしてる。
だから明日の土曜日もいつもと同じように――しなきゃだよな。
『じゃあ、明日』
「おやすみ」
『おやすみ、捺くん』
切れた電話。
ベッドの上で寝転がってた俺はそのままケータイをベッドに置いて天井を見る。
明日――か。
一週間ぶりに会う優斗さん。
今週はずっと電話とメールだけだった。
俺、明日"ちゃんと"普通にできんのかな。
考えても考えてもわかんねー。
身体横にして、丸まる。
俺は――なにを考えればいーんだろ。
前までとは違うモヤモヤに頭の中が埋め尽くされてる。
それを追い払うように目を閉じた。
そしていつの間にか寝てしまってあっという間に来てしまった土曜日。
小雨がぱらつくどんよりした昼下がりに、リビングでごろごろテレビ見てたらスマホが鳴りだした。
誰だろうって画面見る。
「……え」
表示されてる名前見て、少しの間固まった。
何回かコール音が鳴って慌てて出る。
「もしもし……?」
『あ。捺くん? いま、大丈夫?』
聞こえてきたのは実優ちゃんの声。
「うん。どうしたの?」
『あのね、捺くん今日ゆーにーちゃんのところ行くんだよね?』
「ん。夕方くらいに行こうかなって思ってるけど」
『そうなんだ。私もう少ししたら行くんだけど、一緒に行かない?』
「……え?」
『この前、風邪でお世話になっちゃったから捺くんとゆーにーちゃんへお礼に夕食作ろうと思って。あ、もちろん作ったら帰るよ』
「……」
とっさに返事が出来なかったのは――いいのかな、って迷ったから。
優斗さんの過去を聞いてから実優ちゃんに対する嫉妬は……消えた。
逆に罪悪感さえ覚えちまうっていうか……。
『捺くん? どうかした?』
「……あ。ううん、なんでもない」
『そう? それでどうする? やっぱり後で行く?』
「――……一緒、行く」
正直夕方になっても一人でマンションに行く気になれるか、わからなかった。
ついこの間までヤキモチ妬いてたくせに現金かもしれない。
でも一緒に行くってなったら少しは気が楽になるっていうか……。
って、俺ほんとヘタレだな。
『よかった。待ち合わせは……』
そのあと実優ちゃんと一時間後に会う約束して電話を切った。
のろのろと出かける準備をしてるうちに雨は止んだみたいだった。
「出かけてくる」
リビングにいるお袋に声かけて、玄関あけて空を見た。
傘いるかなあ。
また降りそうな曇り空。
……いらないか。
「捺!」
後ろで物音がしたと思ったらお袋がリビングから出てきてた。
「あんた今日は泊まり?」
「……多分」
「明日は何時くらいに帰ってくるの」
「わかんねーよ」
いつもは聞いてこないのに、今日は珍しい。
「夕食の準備があるでしょ!」
「わかんねーって」
「じゃあわかったら連絡しなさい。いらないなら外食するから…」
「……わかった」
なんで俺が食わないなら外食になんだよ。
普通逆だろ。
我が親ながら意味わかんねー。
お袋は、
「よそ様のお宅で迷惑かけないでよ」
っていうとリビングに戻って行った。
……なんだったんだ。
お袋や姉貴と喋ると疲れるんだよなあ、と玄関から曇り空の外に出ていく。
優斗さんのお姉さんはきっと面白くて綺麗な人だったんだろうな。
ふと自然に考えて、あ、って立ち止まる。
俺はいままで御不幸ってものにまだあったこともなくて、別れなんて卒業式だとかそんなのくらいで――人生経験もねーし……。
だから……なんか……優斗さんのお姉さんとかのことってどれくらい踏み込んでいいのかわからない。
俺が言う言葉で知らないうちに優斗さんを傷つけたらどうしようって……。
ため息が出かけてそれを飲み込む。
こんな調子じゃ駄目だって首を振ってあんまり難しいことは考えないようにしようって頭空っぽになるように集中しながら駅に向かった。
***
「急にごめんね、捺くん」
「いや、大丈夫だよ」
待ち合わせは優斗さんのマンション近くのコンビニ。
実優ちゃんは結構大量な食材の入ったビニール袋をいくつか持ってた。
……そういや別に待ち合わせじゃなくてもお互い現地集合でもよかったんだよな、っていまさら思う。
でもまぁ……俺ひとりだったら鍵開けるのさえ時間かかりそうだけど。
「持つよ」
「ありがとう」
半分荷物持って上げて、ちょうど雨のあがった道のりを歩いてく。
「松原は?」
「先生は用事あるらしくて出掛けてるよ」
「そっか」
二人でこうして喋るのがすっげぇ久しぶりな気がする。
あっという間の距離だからすぐにマンションについて、実優ちゃんがオートロックの鍵を開けていた。
前まではそんな当たり前のように優斗さんの家の鍵を開ける実優ちゃんを見たらモヤっとしてた。
いまは――……そういうモヤモヤよりも、実優ちゃんにとってはここが"実家"なんだなって素直に思って、そして切ない。
こういうの同情になるんだろうか。
実優ちゃんが両親を亡くしてるって俺は知ってたのに、わかってたのに、その重さを忘れてて。
よく考えれば同い年の実優ちゃんがいつも明るいのってすげぇことなんだよな。
「捺くん?」
気づけば足が止まってて不思議そうに実優ちゃんが振り向いてて、「なんでもない」って慌てて首を振った。
普通にしなきゃだよな。
そう考えてもどうしても玄関では一瞬また足が止まった。
ただいま、っていう実優ちゃんの声を聞きながら鍵閉めて俺も部屋に上がる。
荷物をキッチンカウンターに置いて、中身を取り出しはじめる実優ちゃんを見ながら、そっと部屋の中を見渡した。
一週間ぶりの部屋はいつも通り綺麗に整理されてて、そして優斗さんの匂いがする。
ぎゅっと胸が苦しくなって、早く優斗さんに会いたいなって思った。
でも……会って、俺は……。
「これお土産。といってもただのお菓子だけど。よかったら食べてて。私、料理するから捺くん好きに過ごしててね」
また思考がループにはまりそうになってた。
実優ちゃんの声にハッとして流しで手を洗ってる実優ちゃんの傍に行く。
「……俺もなんか手伝うよ」
手を拭きながら実優ちゃんがきょとんと俺を見る。
「えー……と、どうしようかな」
どうしたんだろ。
少し悩んでた実優ちゃんは「ごめんね。じゃあ下ごしらえの準備手伝ってもらおうかな」って野菜を洗ってほしいと頼んできた。
ほとんど家では手伝いとかしたことなかったけど、優斗さんと一緒に過ごすようになってからは夕食の準備は手伝うし、たまに俺も簡単なものは作るようになった。
一個一個野菜を水洗いしながら、ひき肉やパン粉を用意してる実優ちゃんを横目に見る。
「なに作るの?」
「えーっとね、メインは煮込みチーズ入りハンバーグだよ」
「チーズ入り? 俺それすっげぇ好きなんだ」
小さいころから好きだったメニュー。
思わず言ったら実優ちゃんがクスクス笑ってる。
「美味しいよね。私も大好きだよ、チーズ入り」
「俺あの切ったときにどろーって出てくるのが好き」
「どろーじゃなくってトロ~っのほうが美味しそうだよ?」
「あ、そうだね」
なんかすっげぇ久しぶりに自然と話してる気がする。
屈託のない笑顔を向けてくる実優ちゃんに俺も自然と笑ってた。
でもまぁ手伝いするといっても実優ちゃんは手際がよくて俺はサラダ用の野菜を切るくらいしかできなかった。
あ、あとハンバーグの成型。
「……意外と難しいな」
チーズを中に入れて包むっていうのがなかなかできなくて手こずる。
「大丈夫、上手だよ」
実優ちゃんに励ましてもらいながらなんとかつくって、そのあとは実優ちゃんが調理するのを眺めてた。
いい匂いがしはじめて、腹減ったなーなんて見てたら実優ちゃんが俺の方を見て目が合って意味なくへらって笑う。
「ね、捺くん」
ソースの味見をしながら実優ちゃんが呼びかけてきて。
「ん?」
「ゆーにーちゃんとなにかあった?」
って、普通に訊かれて――、一瞬意味がわかんねーで、すぐにそのあと「え」って固まった。
「……なんで?」
さすがに先週のことを優斗さんが実優ちゃんに言うはずはない……。
戸惑いながら半笑いで返した。
実優ちゃんは顔を上げて苦笑する。
「だって捺くん今週ずーっとぼーっとしてるし、元気ないし、ため息ばっかりだし。ゆーにーちゃんも元気ないから、ケンカでもしたのかなーって思ったの」
……優斗さん、元気ないんだ。
俺と電話で喋るときは普通だったけど。
でも……そうだよな。
俺はきっといつも通りに出来てないし、気にしないわけねーよな。
優斗さんが元気ないのは――俺のせいだよな。
「捺くん?」
「あ、うん」
黙ったままでいた俺にやっぱり苦笑しながら、
「眉間にしわよってるよ」
って眉間に指をあててほぐす動作をしてみせる実優ちゃん。
「ごめん」
「謝る必要なんてないよ。ゆーにーちゃんと捺くんがケンカなんてありえないかなって思ったけど気になって」
「……ケンカなんかしてないよ」
安心させるように笑いかける。
俺と優斗さんは確かにいままでケンカとかしたことない。
今回だってケンカなんかじゃない。
「そう? ならいいんだけど。ほら先週」
先週、っていう言葉にドクンって心臓が跳ねた。
バカみてーにびくつくヘタレな俺。
先週ってなんだろ、って実優ちゃんが続きをいう少しの間に緊張しちまう。
「私、ここに泊ったから」
苦笑っていうか、困ったような笑顔を浮かべた実優ちゃんが首を傾げた。
「そのせいでなにかあってたらどうしようかなって心配だったんだ」
「……」
――……一瞬のうちに頭の中がざわつく。
「……え? なんで」
「うん? ん、私が捺くんの立場だったら気になるかなぁって思って」
「……」
「前、ゆーにーちゃんと……その少し付き合ってたこともあったから。だから、いくら今はただの家族っていってもこの部屋に泊るのはイヤじゃないかなって」
「……」
「私、結構熱出やすい体質でね。だから別にひとりでも大丈夫って言いはしたんだけど。でもゆーにーちゃんって心配症だから」
言いにくそうに、やっぱり困ったように眉尻を下げて笑う実優ちゃん。
「……別に……気にしてなんかないよ。だって、実優ちゃんは優斗さんの家族だし」
先週も確か同じようなこと優斗さんに言ったような気がする。
あのときはそんなこと言っても本当は"気にしてた"。
だけどいまは"気にしてた"ことが申し訳なく思っちまう。
「そうだね。でもなかなかそう割り切るのって難しいよね」
「……俺は」
別に……って、言いかけたけど実際ヤキモチやきまくってたから声はしぼんでしまった。
「ゆーにーちゃんって過保護に見えるかもしれないけど……、ちょっと原因があるからなんだ」
原因――それって、この前優斗さんが話してくれたこと、だよな。
もしそれを実優ちゃんがもし今から話そうとしてるなら、止めなきゃいけない。
だって言うこと自体しんどいはずだ。
思い出すのだって本当は辛いはずだから、俺のせいで古い傷跡を開くようなことはしたくなかった。
「……大丈夫だよ、実優ちゃん。俺まじでわかってるから」
「え?」
「その……優斗さんに……いろいろ聞いたし」
「聞いた?」
「……家族のこと」
調理の手を止めて実優ちゃんが驚いたように俺を見る。
「うん……待ってるね」
いつもたいてい俺が先に優斗さんのマンション行って適当に過ごしてる。
だから明日の土曜日もいつもと同じように――しなきゃだよな。
『じゃあ、明日』
「おやすみ」
『おやすみ、捺くん』
切れた電話。
ベッドの上で寝転がってた俺はそのままケータイをベッドに置いて天井を見る。
明日――か。
一週間ぶりに会う優斗さん。
今週はずっと電話とメールだけだった。
俺、明日"ちゃんと"普通にできんのかな。
考えても考えてもわかんねー。
身体横にして、丸まる。
俺は――なにを考えればいーんだろ。
前までとは違うモヤモヤに頭の中が埋め尽くされてる。
それを追い払うように目を閉じた。
そしていつの間にか寝てしまってあっという間に来てしまった土曜日。
小雨がぱらつくどんよりした昼下がりに、リビングでごろごろテレビ見てたらスマホが鳴りだした。
誰だろうって画面見る。
「……え」
表示されてる名前見て、少しの間固まった。
何回かコール音が鳴って慌てて出る。
「もしもし……?」
『あ。捺くん? いま、大丈夫?』
聞こえてきたのは実優ちゃんの声。
「うん。どうしたの?」
『あのね、捺くん今日ゆーにーちゃんのところ行くんだよね?』
「ん。夕方くらいに行こうかなって思ってるけど」
『そうなんだ。私もう少ししたら行くんだけど、一緒に行かない?』
「……え?」
『この前、風邪でお世話になっちゃったから捺くんとゆーにーちゃんへお礼に夕食作ろうと思って。あ、もちろん作ったら帰るよ』
「……」
とっさに返事が出来なかったのは――いいのかな、って迷ったから。
優斗さんの過去を聞いてから実優ちゃんに対する嫉妬は……消えた。
逆に罪悪感さえ覚えちまうっていうか……。
『捺くん? どうかした?』
「……あ。ううん、なんでもない」
『そう? それでどうする? やっぱり後で行く?』
「――……一緒、行く」
正直夕方になっても一人でマンションに行く気になれるか、わからなかった。
ついこの間までヤキモチ妬いてたくせに現金かもしれない。
でも一緒に行くってなったら少しは気が楽になるっていうか……。
って、俺ほんとヘタレだな。
『よかった。待ち合わせは……』
そのあと実優ちゃんと一時間後に会う約束して電話を切った。
のろのろと出かける準備をしてるうちに雨は止んだみたいだった。
「出かけてくる」
リビングにいるお袋に声かけて、玄関あけて空を見た。
傘いるかなあ。
また降りそうな曇り空。
……いらないか。
「捺!」
後ろで物音がしたと思ったらお袋がリビングから出てきてた。
「あんた今日は泊まり?」
「……多分」
「明日は何時くらいに帰ってくるの」
「わかんねーよ」
いつもは聞いてこないのに、今日は珍しい。
「夕食の準備があるでしょ!」
「わかんねーって」
「じゃあわかったら連絡しなさい。いらないなら外食するから…」
「……わかった」
なんで俺が食わないなら外食になんだよ。
普通逆だろ。
我が親ながら意味わかんねー。
お袋は、
「よそ様のお宅で迷惑かけないでよ」
っていうとリビングに戻って行った。
……なんだったんだ。
お袋や姉貴と喋ると疲れるんだよなあ、と玄関から曇り空の外に出ていく。
優斗さんのお姉さんはきっと面白くて綺麗な人だったんだろうな。
ふと自然に考えて、あ、って立ち止まる。
俺はいままで御不幸ってものにまだあったこともなくて、別れなんて卒業式だとかそんなのくらいで――人生経験もねーし……。
だから……なんか……優斗さんのお姉さんとかのことってどれくらい踏み込んでいいのかわからない。
俺が言う言葉で知らないうちに優斗さんを傷つけたらどうしようって……。
ため息が出かけてそれを飲み込む。
こんな調子じゃ駄目だって首を振ってあんまり難しいことは考えないようにしようって頭空っぽになるように集中しながら駅に向かった。
***
「急にごめんね、捺くん」
「いや、大丈夫だよ」
待ち合わせは優斗さんのマンション近くのコンビニ。
実優ちゃんは結構大量な食材の入ったビニール袋をいくつか持ってた。
……そういや別に待ち合わせじゃなくてもお互い現地集合でもよかったんだよな、っていまさら思う。
でもまぁ……俺ひとりだったら鍵開けるのさえ時間かかりそうだけど。
「持つよ」
「ありがとう」
半分荷物持って上げて、ちょうど雨のあがった道のりを歩いてく。
「松原は?」
「先生は用事あるらしくて出掛けてるよ」
「そっか」
二人でこうして喋るのがすっげぇ久しぶりな気がする。
あっという間の距離だからすぐにマンションについて、実優ちゃんがオートロックの鍵を開けていた。
前まではそんな当たり前のように優斗さんの家の鍵を開ける実優ちゃんを見たらモヤっとしてた。
いまは――……そういうモヤモヤよりも、実優ちゃんにとってはここが"実家"なんだなって素直に思って、そして切ない。
こういうの同情になるんだろうか。
実優ちゃんが両親を亡くしてるって俺は知ってたのに、わかってたのに、その重さを忘れてて。
よく考えれば同い年の実優ちゃんがいつも明るいのってすげぇことなんだよな。
「捺くん?」
気づけば足が止まってて不思議そうに実優ちゃんが振り向いてて、「なんでもない」って慌てて首を振った。
普通にしなきゃだよな。
そう考えてもどうしても玄関では一瞬また足が止まった。
ただいま、っていう実優ちゃんの声を聞きながら鍵閉めて俺も部屋に上がる。
荷物をキッチンカウンターに置いて、中身を取り出しはじめる実優ちゃんを見ながら、そっと部屋の中を見渡した。
一週間ぶりの部屋はいつも通り綺麗に整理されてて、そして優斗さんの匂いがする。
ぎゅっと胸が苦しくなって、早く優斗さんに会いたいなって思った。
でも……会って、俺は……。
「これお土産。といってもただのお菓子だけど。よかったら食べてて。私、料理するから捺くん好きに過ごしててね」
また思考がループにはまりそうになってた。
実優ちゃんの声にハッとして流しで手を洗ってる実優ちゃんの傍に行く。
「……俺もなんか手伝うよ」
手を拭きながら実優ちゃんがきょとんと俺を見る。
「えー……と、どうしようかな」
どうしたんだろ。
少し悩んでた実優ちゃんは「ごめんね。じゃあ下ごしらえの準備手伝ってもらおうかな」って野菜を洗ってほしいと頼んできた。
ほとんど家では手伝いとかしたことなかったけど、優斗さんと一緒に過ごすようになってからは夕食の準備は手伝うし、たまに俺も簡単なものは作るようになった。
一個一個野菜を水洗いしながら、ひき肉やパン粉を用意してる実優ちゃんを横目に見る。
「なに作るの?」
「えーっとね、メインは煮込みチーズ入りハンバーグだよ」
「チーズ入り? 俺それすっげぇ好きなんだ」
小さいころから好きだったメニュー。
思わず言ったら実優ちゃんがクスクス笑ってる。
「美味しいよね。私も大好きだよ、チーズ入り」
「俺あの切ったときにどろーって出てくるのが好き」
「どろーじゃなくってトロ~っのほうが美味しそうだよ?」
「あ、そうだね」
なんかすっげぇ久しぶりに自然と話してる気がする。
屈託のない笑顔を向けてくる実優ちゃんに俺も自然と笑ってた。
でもまぁ手伝いするといっても実優ちゃんは手際がよくて俺はサラダ用の野菜を切るくらいしかできなかった。
あ、あとハンバーグの成型。
「……意外と難しいな」
チーズを中に入れて包むっていうのがなかなかできなくて手こずる。
「大丈夫、上手だよ」
実優ちゃんに励ましてもらいながらなんとかつくって、そのあとは実優ちゃんが調理するのを眺めてた。
いい匂いがしはじめて、腹減ったなーなんて見てたら実優ちゃんが俺の方を見て目が合って意味なくへらって笑う。
「ね、捺くん」
ソースの味見をしながら実優ちゃんが呼びかけてきて。
「ん?」
「ゆーにーちゃんとなにかあった?」
って、普通に訊かれて――、一瞬意味がわかんねーで、すぐにそのあと「え」って固まった。
「……なんで?」
さすがに先週のことを優斗さんが実優ちゃんに言うはずはない……。
戸惑いながら半笑いで返した。
実優ちゃんは顔を上げて苦笑する。
「だって捺くん今週ずーっとぼーっとしてるし、元気ないし、ため息ばっかりだし。ゆーにーちゃんも元気ないから、ケンカでもしたのかなーって思ったの」
……優斗さん、元気ないんだ。
俺と電話で喋るときは普通だったけど。
でも……そうだよな。
俺はきっといつも通りに出来てないし、気にしないわけねーよな。
優斗さんが元気ないのは――俺のせいだよな。
「捺くん?」
「あ、うん」
黙ったままでいた俺にやっぱり苦笑しながら、
「眉間にしわよってるよ」
って眉間に指をあててほぐす動作をしてみせる実優ちゃん。
「ごめん」
「謝る必要なんてないよ。ゆーにーちゃんと捺くんがケンカなんてありえないかなって思ったけど気になって」
「……ケンカなんかしてないよ」
安心させるように笑いかける。
俺と優斗さんは確かにいままでケンカとかしたことない。
今回だってケンカなんかじゃない。
「そう? ならいいんだけど。ほら先週」
先週、っていう言葉にドクンって心臓が跳ねた。
バカみてーにびくつくヘタレな俺。
先週ってなんだろ、って実優ちゃんが続きをいう少しの間に緊張しちまう。
「私、ここに泊ったから」
苦笑っていうか、困ったような笑顔を浮かべた実優ちゃんが首を傾げた。
「そのせいでなにかあってたらどうしようかなって心配だったんだ」
「……」
――……一瞬のうちに頭の中がざわつく。
「……え? なんで」
「うん? ん、私が捺くんの立場だったら気になるかなぁって思って」
「……」
「前、ゆーにーちゃんと……その少し付き合ってたこともあったから。だから、いくら今はただの家族っていってもこの部屋に泊るのはイヤじゃないかなって」
「……」
「私、結構熱出やすい体質でね。だから別にひとりでも大丈夫って言いはしたんだけど。でもゆーにーちゃんって心配症だから」
言いにくそうに、やっぱり困ったように眉尻を下げて笑う実優ちゃん。
「……別に……気にしてなんかないよ。だって、実優ちゃんは優斗さんの家族だし」
先週も確か同じようなこと優斗さんに言ったような気がする。
あのときはそんなこと言っても本当は"気にしてた"。
だけどいまは"気にしてた"ことが申し訳なく思っちまう。
「そうだね。でもなかなかそう割り切るのって難しいよね」
「……俺は」
別に……って、言いかけたけど実際ヤキモチやきまくってたから声はしぼんでしまった。
「ゆーにーちゃんって過保護に見えるかもしれないけど……、ちょっと原因があるからなんだ」
原因――それって、この前優斗さんが話してくれたこと、だよな。
もしそれを実優ちゃんがもし今から話そうとしてるなら、止めなきゃいけない。
だって言うこと自体しんどいはずだ。
思い出すのだって本当は辛いはずだから、俺のせいで古い傷跡を開くようなことはしたくなかった。
「……大丈夫だよ、実優ちゃん。俺まじでわかってるから」
「え?」
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「聞いた?」
「……家族のこと」
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