俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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八 嵐と雷

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「ダリオさん――」
 すまない、とはどういうことですか、とテオドールの声は、気のせいでなければ、圧力のようなものがあった。
「僕は子供ではありません」
「……お前、ちゃんとわかってんのか。俺、お前のこと好きなんだぞ」
「僕もですが」
「えっ」
 文字通り、ダリオは静止した。えっ、でしかない。青天の霹靂過ぎる。今こいつ、僕もですが、と言ったか? え? それ理解する情緒あるの? え? いつの間に? 身についたんだ? え? と疑問符が脳内を乱舞する。
「……学習する、と言ったはずです」
 いやだってお前、ちょっと前まで、俺の四肢爆散しても、多少肉食になるけど復元できますとか言ってただろうが! とダリオは思考が追いつかなかった。そんなに前のことではない。一年未満の話だ。
「どんだけ学習スピード早いんだ……あ、そう。そうか……え、じゃあ、お前、俺のこと好きなのか? それわかるのか?」
「わかります。ダリオさん、いい加減にしてください」
 こいつにだけは言われたくない台詞トップ3には入りそうなことを言われた。
 テオドールは身を乗り出し、ダリオの額に手をあてた。至近距離に、その青い目が、ダリオの奥底まで裸にするようにのぞき込む。
「もういいですか」
 何の表情もない。無感動な顔に、目の奥だけが食欲のような衝動を、暗く、深く、片鱗だけ見せていた。巨大な何かのごく一部が、わずかにこちらへ触手の先を垣間見せ、亀裂をぽっかり空けて、馬鹿な獲物を哄笑しながら引きずり込もうとしている。テオドールがとる美しい青年の姿の向こう側に、彼の『見せない』それが、あぎとを開けて飲み込もうとしているのだと感じた。



 寝室にて、諸々を勘案した結果、最初からふりきったプレイになった。テオドールの提案はこうだ。ペニスから前立腺を刺激してみましょうと。本当にわけがわからない。なんで? どうして普通のプレイにしないんだ? なぜ尿道? こいつ人の心がないんか? あ、人じゃなかった。ダリオは心が死んだ。
 テオドールは表情筋が死んだ状態で、当たり前のように説明した。
「ご心配なく。僕の一部を使いますので、ダリオさんの中を傷つけることはありません。この量でしたら、コントロール可能です」
「あー、ちょっと待て。それ尻の穴じゃダメなのか? そっちのがまだしも安心なんだが……尻も覚悟できてないのに、最初から尿道? お前、想像の斜め上過ぎるだろ。なんで……なんでなんだ……」
「ダリオさんに少量ずつ体液を馴染ませ、調整をかけていましたが、今そちらから粘膜接触をかけると、控え目に言って、発情状態で人格が破壊されるかと思いまして」
「わかった。尿道プレイだ」
「ダリオさんなら、そうおっしゃっていただけると思っていました」
 舌を絡めるキスで、少量ずつテオドールの唾液を摂取させられているのは理解していたのだ。たぶん、こいつかなり慎重に調節してたな、くらいは想像がついている。そして今回、もう少し量を増やす気なのだろうとも。テオドールは加減を学んだとも言うし、少しずつ慣らしていきましょうとも提案している。
「ダリオさんに法悦を感じていただくには、使用可能な質量が、心もとないかと懸念していたので、よかったです。この量で最大の効果を得られるのは、やはり尿道の方になるかと思います」
「あーそう。なんか俺が思ってたのと違い過ぎるが、わかった。しかし、効率追求するのもどうなんだ……まあいいが……」
「よろしいのですか?」
「いいけれど、優しくしてくれよ。頼むぞ。本当に頼むぞ」
 二回念押ししてしまうダリオである。あまりにも怖い。大変心配したが、テオドールの言う通り杞憂だった。テオドールはダリオの尿道口を、美しい指先で、くに、と左右に広げると、そのまましばらくじっとしていた。
 何も変化はない。ほっとした瞬間、親指が降りて来て、裏筋を擦り上げる。その時だった。
「っひ!?」
 テオドールが親指を動かすのと連動して、尿道の中を何かが這い降りていく。
「あ、や、なんか、嘘だろ!?」
 ぬぷぬぷと中を擦り上げて行く何かが、遅れて、痛痒いようなもどかしい快感を押し進めていく。痛いというより、気持ちいい。気持ちいいのが、奥へ奥へと這い進んでくる。底まで行ったら、どうなるんだという恐怖と期待が同時に生じて、ダリオは口を抑えた。指の間から、押し殺した悲鳴が漏れる。やがて、柔軟性も備えたそれは、ゆっくりと尿道を降りていって、とん、と奥底に差し込まれた。
「うぁっ、あ!?」
 ぐぷぷっ、とでこぼこ凹凸のある物体が、とん、とん、と優しく奥底を刺激する。ほとんど上下に動かすこともなく、ダリオの気持ちのいいところを押すように揺らしているのだ。
 直接快楽中枢を何度もくるくると愛撫され、ダリオは「っ」と歯を食いしばった。射精したいのに、できない。何かに突っ込んで腰を振りたくりたいような衝動と、尿道の奥底の気持ちいい出入口のようなところを、何かが抜き差しして行く。まるで、直に快楽神経を、電極のようなもので出入りされているようだ。
(なんだこれ、セックス……!? なんで尿道を先に抜かれてんだ!?)
 ぬぷっ、くぷっ、といじられるたまらない快感で、ダリオは真逆の欲望に引き裂かれた。すり潰すように噛みしめる歯の隙間から、ふー、ふーっ、と荒い呼吸だけがしている。ペニスを突っ込みたい。射精したい。狭い場所であますところなく擦り立てたい。その衝動を塗り潰していくように、甘い感覚がどんどん性器のつけ根の奥に降り積もって行く。しばらくダリオはこらえていたが、もう駄目だ。我慢できない。前立腺を刺激する棒状の先っぽに、ダリオは次第と膝を開いて、自分でもぎょっとするような甘ったるい鼻声を上げていた。
 身をくねらせ、がくがくと腰が震える。尿道に入ったものは、テオドールの疑似体液か何かなのか、凄まじい快感で、もう心身がとっくにめちゃくちゃだ。おまけに、ダリオは一度も後ろを使ったことがないのに、そっちでの快楽を知っている。テオドールは決してダリオを傷つけない。安心して、気持ちいいのに、物足りないようなたまらなさを覚えた。テオドールの体液怖すぎるだろ、と半分泣きが入っている。物足りないもなにも、使ったことがない。だが、もう本当に我慢できなくて、ここに何も入っていないのが信じられない。終わりだ。本当にもう終わりだ。テオドールは指を入れてくれない。ダリオは後ろ手に、自分で臀部に指を這わせた。後孔に辿り着く。
 つぷ、と指先を入れる。仕方なく自分の指で、空洞の寂しさを埋めていく。違う。気持ち悪い。これじゃないと思うのだが、こっちが寂しくて辛い。埋めて欲しい。今は自分の指でそうするしかない。とにかく、何か質量で満たされればいいと咥え込む。
「ん……ダリオさん、ご自分でいじって、かわいらしいですね」
 テオドールが顔を寄せてきて、ぞくりとするような美声で、ダリオの耳元に小さく囁いた。
 その瞬間。
 ぎゅうっ、と奥が収縮して、
「あ。あ。あ。あ。あ~~~~~~~~~ッ」
 何度も何度も繰り返しさみしい空洞を喰い締めるように、ダリオは長い絶頂に追い上げられた。咥えていた指はいつの間にか外れている。
 ちゅぽん、と尿道から抜かれて、前の快楽が突き抜けた。引き抜かれる感覚を後追いするように、疑似射精の快感を味わい、実際にびゅくびゅくと力のない白濁が昇って来る。
「あ、ぅあ、んンっ」
 腰がどうしようもなく八の字を描くように動いて、テオドールの背中にしがみついた。必死で自らを係留するようにテオドールへと腰を擦り付ける。未知のゾーンへ落下していく恐ろしさから、目の前のテオドールに抱きついてやり過ごそうとした。溺れそうで、空気を求めるように口が開閉する。なんかもう色々酷い。とりあえず、キスしたかった。なのに、体がコントロールを離れて動かず、届かない。うまくできない。テオドールが察して、ゆっくりと唇を重ねてきた。
「ん、んぅ」
 夢中で舌を差し出す。死ぬほど甘ったれた鼻にかかる声が出た。テオドールにキスされていると、暴風の中でもみくちゃにされて見失っていた航路が定まる。
「あ、ん、ふ、てお、んぅ、ん、んんっ」
 舌を絡め合っていると、もうどうでもよくなってきた。あやすようにダリオの舌を掬い取り、絡めて愛撫していたテオドールは、次第に角度を変えながら、緩慢に表情を削ぎ落としていく。曲がりなりにも人間のふりをしようとしていたのを止めて、口づけに集中しているようだった。
 先を競うように絡めていた舌先がほどけ、「あ……」とダリオが口寂しく思った時だ。
 は、と低く産毛のそそけ立つような、とてつもなく色っぽい息が落とされた。たちまちダリオの腰がぞくぞくとして、理解が遅れて及ぶ。テオドールだ。今の色めいた溜息は、テオドールが発したものだった。ダリオはもう頭のヒューズが飛ぶ音を聞いた。こんなの欲情してしまう。テオドールの吐息や、声、体温、匂い、触れるところ全てに官能の受容体が生じて、全部開いていく。ダリオの性器はよだれを垂らしてガチガチに勃起した。それだけではない、その付け根の奥が確実に疼いて、満たされない飢餓に、腰が勝手に揺れてしまう。
 テオドールの青い宝石のような双眸を至近距離に覗き込むと、静かな湖面に、紫の炎が妖しく燃え盛っていた。テオドールも興奮している。ダリオは胸がぎゅっとわしづかみされる心地がした。テオドールがダリオに欲を持っている証だ。相変わらずの無感動な顔つきも、酷くかわいらしく思えて、たまらなくなった。いい子いい子してやりたい。彼の頭に五指を差し込んで這わせ、掻き混ぜるように撫でまわしてしまう。全然表情もないのに、かわいい。かわいい。かわいい。かわいくて仕方ない。
「ダリオさん」
 テオドールがふっと全ての表情を取り繕う努力を放棄した。恐ろしいほど端正な顔がダリオに寄せられ、再び唇を重ねた。互いの口腔を夢中でまさぐりながら快感を分け合う。ふわふわとした酩酊感の中、最後にテオドールが絡めたダリオの舌先を、じゅ、と甘く吸い上げる。甘い疼痛に遅れて、背骨に震えるほどの凄まじい快感が走り抜けた。テオドールは手加減を誤ったのかもしれない。バチバチと火花の幻覚が散り、ダリオはしばらく目の前が真っ白になる。だが、全く嫌な感覚ではなかった。ただただ、そこには一方的ではない、ふたりで分かち合う喜びがあった。
 やがて、ふう、ふう、とダリオは呼吸を荒げ、涙に濡れたまつげを震わせる。体中が、テオドールに向かって開いていた。すっかり蕩かされて、この美しい青年を何の隔たりもなく見上げる。そのまま、もう一度彼の首に両手を回し、とろとろになったはちみつ漬けの目で、「てお」とおねだりした。
「てお、もっと」
 普段のダリオを知る者が聞いたら、驚いて二度見するだろう甘えた声だ。『花』のかわいらしいお願いに、『支配者』が逆らえるはずもない。本来、このような蜜月関係など、到底望むべくもなかったというのに、テオドールは『花』から好意全開に、香しい匂いで、声で、態度で、全身で、もっと、と誘われているのだ。
 この世のものとも思えぬ妖艶さ極まる青年は、しばし無言となり、一瞬その形が崩れるかに思えた。まるで、内圧の衝動に、形を保てなくなったかのように、揺らいで闇へとほどけた瞬間が確かにあったのだ。それはわずかな時間だったため、行為に夢中となった両者は触れることもなかった。
 後にダリオが思うところ、この時点で、すでに始まっていたのである。
 そう、『脱皮』だった。


 結局、最後まではしなかった。
「体を洗いましょう」
 そう言って、テオドールはダリオをバスルームに連れて行った。浴槽はちょうどいい温度で湯が張られ、湯気でバスルーム全体が温められている。テオドールも入るというので動揺したが、本人は楽しそうに見えた。
 バスタブの中、テオドールの足の間にダリオはくったり腰かけて、背中を預けている。ダリオの腹にテオドールは手を回し、少しずつ慣らしていきましょう、ともう一度告げた。
「はやく、ダリオさんの中にマーキングしたいですね」
 真顔で言う。お前それどういう感情なの? とやっぱり聞きたい気もしたが、テオドールは相変わらず声に起伏というものがない。
「はやく――マーキングしたい」
 もう一度溜息のようにささやき、後ろから腕が回ると、つ、と腹を長い指先で撫でられる。しかもその声はどこか蜜の滴るように低くかすれ、色っぽく、艶めいて聞こえた。なぞられたところと、テオドールの珍しく熱っぽい吐息に、ダリオは「は?」と危うく色気のない声が出そうになった。
 好きとは言われたが、なんというかこう、羞恥心などではなくて、本当か? という微妙な感覚が抜けない。テオドールの言う好きは、人間の好意と同じなのか? マーキングしたいとは何なんだ。繁殖して~ってことか? まだそんな感じじゃねーって言ってたし、真面目にどういう感情? 種族特有の支配欲かなんかか? とダリオはよくわからない。いや特に、ひねりはないのかもしれないが……ひねりがないということは、まあ、つまり、ダリオと同じだ。
 そう考えると、色々と自分が度し難かった。
 欲の薄そうなテオドールから、彼の情欲や所有欲めいたものを向けられているのかもしれないと思うと、ダリオは腹の奥が、きゅう、と喰い締め、甘い痺れのようなものを感じた。どうにでもしてくれという心情になってくる。情欲も所有欲も、他人から向けられたら不快なだけだが、テオドールが今のところダリオを支配しようとしないから、かえって被虐的なそれを安全な快楽に変換してしまう。あー、知りたくなかった、自分の性癖、とダリオは湯の中で遠い目になった。
「ダリオさん、気持ちよくなってしまいましたか?」
 テオドールが浴槽の中で指を絡めてきた。一見煽ってるようだが、普通に真面目な疑義である。ただの問診だ。
「自己申告したくないが、これ以上されると、湯が汚れる」
「問題ありませんが」
「衛生的に問題がある」
「僕はダリオさんを頭から足のつま先まで食べてしまってもかまわないくらいです」
「お前らが言うと、比喩じゃねーから怖いんで止めろ」
 振り仰いで、文句をつける。というか、多分比喩ではなく、テオドールの奥行きともいえる正体に、その衝動が強くあるのをダリオはなんとなく察して、湯の中にいるにもかかわらず、ぶるっと震えた。怪異から、『食欲』を覚えられるのは、ダリオにとって珍しいことではなかったので、記憶が連動して蘇ったためである。
「すみません」
 背後のテオドールが狐のように目を細めて嫌な感じの笑いを浮かべたので、ダリオは一応釘を刺した。
「お前がいるし、俺別に、他の怪異からとって食われるようなことはもう牽制してくれてるんだろ?」
「……」
 沈黙してかすかに笑みを浮かべているのが怖い。食欲を覚えられるのは、もうテオドール一体で十分だ。これ以上はキャパオーバーというものだろう。そして、テオドールが親切心で牽制したというよりも、多分怪異の『マーキング』に近い、より食欲に衝動を根差したそれで初期から今まで『払った』のだろうとも。
「前も言ったが、何かを完全排除する前には相談してくれ……」
「善処いたします」
 こいつ、真顔より笑ってる時の方がこえーんだが、とダリオは疲労感を覚えた。同時に、テオドールは一度口にしたことは違えたこともないし、そこは下手な人間より信用ができる。ずるずるとテオドールに頭や背中をもたれかかりながら、安心して力を抜く。
 テオドールは「失礼」と断って、そっと背後からダリオの腹部に手を回して抱き寄せバランスを取ると、耳の下と項に次々と唇が触れるか触れないかのエアリーキスを落とした。息は感じるが、多分ぎりぎり触れていない。ダリオがいいと言わないとしないし、こういうところは徹底していた。与える体液の緻密な調節管理を、テオドールはかなり慎重にやっているようだ。
「はやく……いえ、ゆっくりと、慣らしていきましょう。僕の精を注いだら、きっと今のダリオさんではおかしくなってしまいます」
 精、という言葉にダリオは思わず沈黙した。
「え、お前、俺とセックスする気あるのか?」
「ありますが?」
「あ、そう……」
 またダリオは黙った。咀嚼できない。これも羞恥心というより、え、マジか? という驚きが先立つ。こいつ、セックスする気はあるのか? つまりそういうことだ。想像しづらいが、この先にセックスがある。今そういう会話と合意だったよな? 自問する。先ほどの会話を点検してみたが、どう考えても他に解釈しようがない。
(そうか~~~~~~~)
 正直、ないのかもとも思っていた。トップとボトムは、ダリオは正直どっちでもいい。テオドールの話を聞いていると、こいつらの同種族同士の繁殖方法は、精神交歓のようなものというから、雌雄同体スラグセックスみたいな感じかもなと思ったので、多分同じ伝達器官を備えていないダリオだと一方的に侵入される形になりそうな気がする。  
 その上で、あるのか……と片手で顔面を覆いたくなった。
 じわじわとこみ上げてきたのは、戸惑いよりも喜びだった。テオドールが、ダリオとそうする未来を見ているというのは、ダリオにとって単純に嬉しいことだったのだ。
 なにしろ、経験的に、怪異相手にはこちらの常識はほとんど通じない。綱渡りのような緊張感は人間相手の比ではなく、話が通じているようで、全然通じてなかったということはよくあったのだ。その結果、何度泣きながら逃げたかわからない。捕まったら、目や耳や心臓を取られるようなデッドオアデッド鬼ごっこだ。振り回されるのはたいていダリオの方だという認識でないと、守れる命も守れない。だから期待しないように、言われた言葉を取り違えないように予防線を張っていた。それは他人との距離感で必要な一線でもあるが、自己開示をかたくなに拒む蝶番として、長年ダリオの人間関係を妨げ続けて来た呪いでもあった。
 だから、少しの安堵ついでに、意趣返ししようと悪戯心が沸き上がったのかもしれない。
 テオドールは、しきりと「僕の『花』」とダリオを表現する。「俺の『支配者』」と呼ぶのは、いささかダリオの考えに則さない。じゃあ、どう呼ぶんだ、と少し考えて。
 ちゃぷ、と湯が跳ねる。
 ダリオは身をよじり、テオドールに自分から、ちゅ、とバードキスをした。わずかに目を見開いた彼に、意地悪そうに笑い、
「はやく、俺もお前にたっぷり精を注がれたいよ。俺の『支配者』さん」
 とからかう口調で、軽い敬称により違和感をやわらげた。
 しかし、テオドールが真顔に輪をかけ、無の状態に固まったのを見て、滑った……と内心冷や汗が出る。次の瞬間だ。
 ずどむっ‼
 と物凄い音がした。硬直したのはダリオだ。遅れて、ぱらぱらぱらぱら……とタイルの残骸が落ちて来る。バスルームの壁に巨大な穴が開いていた。
「お、おい……な、何だ……」
 慌てるダリオの肩を、がし、とテオドールがつかむ。そのまま、別の部屋に転移した。壁に穴の開いていないベッドの上である。先ほどまで湯に漬かっていたのに、どういうわけか、髪も体も乾いていた。申し訳程度に、大きなシャツ一枚を羽織っているのは、テオドールの配慮か何かなのか、ダリオは目を白黒させる。
「な、なに、本当に何なん……んんっ」
「ダリオさん、すみません、もう少しだけ、させてください」
「あ、ああ……いいが……」
 さっきのは何だったのかと追求する前に、余裕のない感じで、テオドールがうつぶせにさせたダリオのシャツをするするとたくし上げた。ダリオは何をされるのかと枕を抱えたまま後ろを見やるが、
「ダリオさん、僕の方に足を少し開いて、そのまま腰を上げられますか」
「うん……」
 ゆるやかな膝立ちに、臀部を向けている。つぷつぷ、と指が入って来て、ダリオが覚えた気持ちのいいところを掻き回した。尿道処女を失ったおかげか、今度は指が解禁になったらしい。さすが、尿道の処女を失っただけあるなとダリオは思ったあたり、すでに混乱していたのかもしれない。
「あっ、ん、んっ」
 すぐに二本目が入って来る。
「ダリオさん」
 耐え難いように、また呼ばれた。
「ダリオさん」
 くにゅくにゅと動く指が、二本の指が出入りし、膨らんだしこりを掻いて、押したり、離したり、また押して、
「ダリオさん!」
 ぎゅううううっ、と押し込まれた。頭が真っ白になる。やがてぐったり弛緩したダリオを抱きしめ、青年は満足の溜息を吐いたのだった。
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