俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 十二 キス拒否事件

1 ダリオ君の進路志望編

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 異世界召喚されてから、体感で数か月後にテオドールと再会し、元の世界に帰還。
 その後は、『壺中の天』というマジックアイテムによる悪夢事件。
 この間、ダリオは人型のテオドールとメンテナンスもしていなかった。つまり、頭頂にキスなどはされたが、マウストゥマウスはしていない。
 更に言うと、異世界でテオドールが人型にもどった後は、有耶無耶にセックス終了して、バタバタと帰還撤収に向けて動いていたため、仕切り直しての性的接触は皆無であった。
 要するに、ダリオの体感では、人型テオドールと数ヵ月に渡って口から口へキスしていなかったのである。
 ダリオ本人は、異世界事件で数ヵ月ぶりにテオドールと再会して、彼の怪我でびっくりしたし、スライム状とはいえディープキスをしたので、人型のテオドールとしばらくキスしてないという意識はあまりなかった。
 なので、この問題は、体感数ヵ月を経てしっかりじっくり醸成された上で、ようやく表面化したのである。


 『壺中の天』の悪夢事件翌日だ。ニャインでヘルムートから、報酬手渡しするから暇な時来てよ~と連絡があった。ニコニコ現金払いのヘルムートは、何故か振り込みをしてくれない。直接払いで色をつけとくから! と言われれば、ダリオにも否やはなかった。というわけで、ダリオは直接また、ヘルムートの経営するマジックアイテムショップ・トリックスター、イーストシティ支店に出向いたのだった。
「いや~悪いね~、わざわざ出向いてもらって!」
 カウンター越しに、全然悪びれず、煙管片手のヘルムートに出迎えられる。
「はあ、割増してくれるので、それは構いません」
 勧められた椅子に座りながら、ダリオは表情を変えずに返した。
「お、ダリオ君、文句言ってくるかな~と思ったのに、あんまり怒ってない感じ?」
 何故わざわざ下から覗き込んでニヤニヤ煽ってくるのだろうか。構ってほしいおじさん面倒くさいな、とダリオは思ったが口にしないだけの社交性は備えている。
「他に適任がいなくて、協力しないと世界が滅ぶと言われたら、脱皮事件の件もありますし、まあしょうがないです」
「ダリオ君、あんまりおじさんの言うこと信じちゃ駄目だよ。え、真面目に信じちゃった? 噓でしょ」
「嘘だか本当だか、俺には判断不可能ですし。ヘルムートさんも大概無茶苦茶いいますが、こういう大嘘吐く感じはしないんで本当だと思ったんですけど。別に嘘でもいいです。とりあえずお金ください」
「ええ……おじさんちょっとツッコミが追いつかないよ、ダリオ君」
「はあ」
「はあじゃないでしょ。ええ、もう……おじさんの情緒めちゃくちゃにするの怖~~~~なんなのこの子」
「お金……」
「お金……じゃないでしょ、いや払うけどさァ。支配者は、君とどう会話してんの、おじさん本当にわかんないよ」
「ああ、そういえばテオがヘルムートさんを殺すって言ってたんで、気をつけてください」
 ダリオは思い出したように忠告した。青ざめたのはヘルムートだ。
「本当に怖いッ、えっ、命乞いしといてくれた!?」
「殺される覚悟でやってたんじゃなかったんですね」
 ダリオは意外に思った。
「なんでそんな覚悟あると思うの、あるわけないよ!」
「そうですか。残念です」
「残念ですって何?! どういう気持ち?!」
「そこまで覚悟あるなら何も言うまいと思って……」
「何か言っといてよ! 主に命乞い!」
「一応止めときましたけど、殺意高かったんで、テオを巻き込むタイプの仕事ふるのはしばらく止めてほしいです」
「は~、わかったよ。しばらくって、まだ仕事受ける気はあるんだ」
「それはまあ」
 ダリオは、お金がもらえるなら別にという感じである。ダリオの感覚では売春するよりよほどいい。
 ヘルムートは、逆手に持った煙管を回すと、竹の灰吹きに火皿の残滓を落とした。
「うーん、ダリオ君って、卒業後の進路もう考えてるの?」
「それはまあ」
「参考までに教えてよ」
 なんか急だなあと思ったが、隠すことでもないのでダリオは素直に答えた。
「在学中に東部州のCPA試験受けるつもりです」
「えー公認会計士目指してるの?」
「はい。経済学部に入ったのはそのためなんで。必要な単位が取れますし」
 CPA試験で必要な四科目、FAR(財務会計)、BEC(ビジネス)、REG(諸法規)、AUG(監査・証明)も効率よく学べる。勉強時間の目安は1500時間程度と言われているため、四年間で余裕をもって試験にのぞめるという試算もあった。
「ふーん……理由聞いてもいい?」
「それは、資格試験俺でも金出せる金額ですし、四年制大学が資格要件で、在学中に卒業見込みで受験可能だったからですね。何より、会計系はある程度稼げて、食いっぱぐれなさそうなので」
「えー、つまり、どうしてもなりたいってわけじゃない感じ?」
「まあそうですね。現実的にどうかって話です。俺の場合、働きながら学習しないといけないんで、医療系とか、在学中から実技多めのやつとか難しいですから」
「はーなるほどね。うーん、じゃあさあ。よかったら、うちに就職するのも候補入れといてよ~」
 「は?」と素で固まるダリオをよそに、ヘルムートは燃えさしの火皿に葉を追加しながら、軽い口調で説明した。
「イーストシティ支店以外にも、うちって世界中にブランチあるしさ、裏方も含めたら、呪物関連のスペシャリストな職業もけっこうあるんだよ。研修体系はないけど、俺が直接教えてあげるしさ。初任給はCPA並に出せるし、給与体系も取り扱い呪物が増えれば、めっちゃ収入増えるよ」
「……? はあ? え?」
 ダリオは混乱した。スカウトされている? なんで? と理解が追いつかない。
「もし独り立ちすることになっても、呪物関連って全然潰し効くからさ~」
「はあ、ええと、ありがとうございます?」
「なんで疑問形なの。俺真面目に言ってるのに~」
 ヘルムートは唇を突き出した。
「なんで誘われてるのかよくわからなくて」
「ダリオ君、育毛剤作りとか上手で覚えもいいし、何よりけっこう頑丈じゃん。『壺中の天』も全然精神汚染なかったし」
「精神汚染するものなんですか……」
「あ、やべ。支配者に言いつけないでね」
 失言したとばかり口元を抑えたヘルムートに、ダリオの目が冷たくなった。
「はあ。なんでもいいですけど、いや、よくないんですけど、取り扱いのマジックアイテムに説明書き、きちっとしてくださいよ」
「今回のは、取り扱い説明分かってる人にはクリアできないやつだったんだって~」
 そういえばそんなことを言っていた。だが、『異次元の門』になる支配者呼び出しアイテムの指輪も、何も知らないカーター氏に売りつけていたし、どうも企業倫理に欠けていそうで信用ならない。
「とにかくさ~、ダリオ君にもメリット大だから考えといてよ。もし『長生き』するつもりなら、色々こっちの方面精通しといた方がいいでしょ」
「長生き、の件はテオと話し合わないとなとは思ってるんですが、まだ何も手をつけてなくて」 
「そういえば、ダリオ君って、支配者にメンテナンスしてもらってるんだよね? 寿命方面はどうなってんの?」
「……特になんも手は入れてないみたいですね。今やってるメンテナンスは、俺の拡張するとかは言ってましたけど、テオが多少力入れても死なないよう、頑丈にするためのものみたいなんで」
「寿命伸ばす話は、なんにもされてないの?」
「ないです」
 ヘルムートは煙管を置くと、腕を組むよう、袖口に手を入れた。
「ふーん……そりゃあ、明確に支配者の方が話避けてる感じだな。拒否られたら嫌だから、中々話し出せないのかもねー」
「テオがどう思ってるのかは本人聞いてみないとわからないですけど、話を出すのは避けてるなとは思います。あと、まあたぶん……実際のところ、俺の寿命伸ばしたいんじゃないかなとは……」
「そりゃそうでしょ、支配者はダリオ君よりずっと長生きするしさー」
「支配者ってやっぱり長生きなんですか? はっきり言われてないですけれど、かなり寿命長そうなのかなというのは話の文脈でなんとなく」
 百年かけて脱皮云々の話もヘルムートが以前口にしていたし、テオドール自身が同化して花の寿命を延ばす事例を説明していたことがある。
「俺も正確にはわかんないけど、千年そこらじゃないような長寿だと思うよ。だからダリオ君に持ちかけられないのかもね~」
「……話を持ち出すタイミングうかがっているというより、あえて意図して出さないでいる感じだと思います」
「へえ?」
「拒否されるのが嫌なせいか、そこも分からないですけど、俺の嫌なことしないようにの方が大きいんじゃないかなと思って。俺も自分自身が寿命伸ばすってどうなのか、わからなくて。そういうあやふやな状態で持ち出す話じゃないなと思って、まだ何も聞けてないです」
「なるほどねー。まあでも多分、ダリオ君最終的に長生きすることになりそうな気がするけどね。それだったらうちに就職しとくのイイと思うよ~。長生きして自立するのって、人間社会の職業じゃ、どうやってもどっかで帳尻合わなくなるしさあ」
「はあ、まあそうですね。ただ、ヘルムートさんのところで就職って、どういう業界なのか全然わからないんで、イメージわかないです」
「育毛剤作ったり、闇のゲームしたりだよ」
「なるほど」
 腑に落ちたダリオだった。
「闇のゲームはともかく、まー大体ダリオ君が俺に迷惑かけられたやつな感じだね」
「迷惑かけてる自覚はあったんですね」
「さすがにあるよ」
 さすがにあると言われたことの方が驚きのダリオだった。 
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