俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 二十四 テオドールのお願い

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「ダリオさん、どこに行かれるのですか」
 カバンを肩にかけたダリオが玄関を出ようとすると、いつの間にかテオドールが背後にいた。びっくりするが、ダリオはなんとか普通に応える。
「ちょっと買い出し……」
「……僕も行きます」
 無表情にテオドールは言う。最近、テオドールは不安分離症のような状態だ。
 ダリオの姿が見えなくなると、不安になるらしく、離れたがらない。
 というのも、ダリオが一般的な成人男性であれば即死していたらしい事故に遭い、失明記憶喪失のダブルコンボをやらかしたことが発端である。
 自ら事故にあいに行ったような経緯のため、ダリオも何も言えない。
「かまわねーけど、ミネラルウォーターと紅茶のパックだけだぞ。近くのスーパーだし」
「お供いたします」
 テオドールはぶれない。お供いるような身分じゃねーんだが、とダリオは思ったものの、まあいいかと連れ立って買い物に行った。しかし、ここで問題が発生した。いつもはテオドールを連れてこないので、人間離れした美貌のハイブランドスーツの青年は、ご近所の人々にショックを与えてしまったのだ。はぅっ、と胸を抑えて、老若男女問わず半失神者続出である。
 ダリオは、早急にどうにかしないとやばいなと思わされた。
 これはまだテオドール本人が尋ねてきて同行するパターンだが、問答無用に足止めのケースもある。
 というのも、時々、玄関前に黒い蛇の影のようなものがいくつも出現し、格子状に封鎖して、物理的に出られなくなるのだ。ダリオが「……」と途方に暮れて立ち尽くしていると、テオドールが現れて丁重に謝り、粛々と解除していく。
 わざとではないらしい。
 いつもというわけではなく、なにやらダリオの姿が見当たらず、急に不安が高まると、「出る」ようだ。
 なので、お邪魔しないのでついて行ってもよろしいですか、と言われるとダリオも断れないでいた。
 だが、しばらく頭ぽわぽわに受け入れていたものの、テオドールの精神状態への懸念が勝ってきたこの頃である。
 一時は、テオドールの精神が悪化して、本人も洋館の封鎖を解けない状態になってしまったが、それよりはマシになったとはいえ、根本的に解決している気がしない。
 安心感が足りねぇのかな……とダリオは思った。エヴァにも言われたように、緊急時にテオドールを呼び出す訓練も始めている。しかし、他にも精神安定のために何かやった方がよさそうだ。
 考えていると、ドアの隙間からテオドールが無言でじっとのぞいていたりもする。
 普通に怖い。
 家の中なら安心してくれるかと思ったが、とにかく視界の中に入れておきたいらしく、できれば離れたくないようだ。
 反応に困るのは、ダリオが水饅頭のテオも可愛いと言い聞かせたあたりから、いつの間にかそこにいるシリーズのバリエーションが増えたことだ。
 例えば、キッチンで湯を沸かしていた時のことだろう。ふと視線を感じて上を向くと、棚の瓶の後ろから、水饅頭形態のテオドールが、短い手足で伏せをし、じーっと真剣な目つきでダリオを見ていた。目がつぶらで、ちっちゃな口をぎゅっと閉じているものだから、どうにも本人の真剣さと比してシュールである。あとシンプルに可愛い。
 何やってんだ……とダリオも無言になり、沸騰したケトルの「ピィー!」という甲高い音でとりあえず思考中断された。
 ダリオは黙って手招きし、テオドールも、ぴょん、と飛び出してきて、ダリオの胸に張り付くなど、なんというか、困った行動が増えている。いや、俺は嬉しいんだけど、テオはどうなんだ……と心配になる不安分離症状態なのだ。
 元々テオドールは、ダリオと時間感覚や価値観がかなり異なる。
 あまりダリオの感覚で急がせず、安心させてやれるようにダリオが気をつけたほうがいいのかもしれない。
 ダリオがもしこのような状態を発症したら、メンタルクリニックに通うが、テオドールはそうもいかない。投薬されたところで、効くわけもないのである。
 とりあえず、安心できる環境づくりと、テオドールの気持ちを聞くようにしよう。
 そう決めたのだが、結果としてダリオは体を張る羽目になった。


「は……ぁぅ……はっ」
 はぁ、はぁ、と寝台の上で、ダリオの発達した柔らかな大胸筋が仰向けに上下した。
 バックハグしたまま、テオドールが宥めるように、ちゅ、ちゅ、と何度もキスしてくる。
 何故かこういうことになった。
 否やはないのだが、まだ挿入されたままで、ダリオは両目に涙の膜が張っている。
 テオドールの怒張を咥え込んだまま、内腿の筋がぴくぴくと震えていた。
 ぬるんっ、と抜けかけたそれを、テオドールはもう一度押し込んできて、ダリオは慌てた。
「テオ、まだすんのか……!?」
 ダリオの臀部をつかみながら、テオドールは首を傾げ、少しその愁眉を寄せた。
「したいです……」
 駄目ですか? とその切れ長の目が悲しそうに見えて、ダリオは白旗を上げた。
「駄目じゃねーけど、ゆ、ゆっくり……」
「……分かりました」
 テオドールは分かったらしいが、あ、これ駄目なやつ、話通じてないやつ、とダリオは思った。 
「ゆっくりします。なので、僕の一部を使います」
 一部ってなんだ、と言うか言わないかの内に、黒い鎌首をもたげた蛇の影のようなものが幾本も出てきて、ダリオの足を開かせ、体を支えた。そうじゃない、そっちじゃない、とダリオは口をぱくぱくさせたが、背面座位に臀部をつかんだまま開帳させられ、下から咥え込まされ、「ぁあっ」と声が出た。
 もうわけが分からない。
「あぅっ、え?! あぁっ」
 突き上げられると、気持ちいいのがペニスのさきっぽまでビリビリ甘く駆け抜けて、ダリオは疑問符を飛ばしまくるしかできなくなる。
 いつも快感はあるが、この姿勢は駄目だ。深い。それに……
「? ?!」
 気持ちいい。甘苦しい快楽がぐるぐる駆け巡ってゾクゾクし、悦点を押し潰されながら擦られ、とうとう耐えられなくなる。突き上げられるのと同時に、内壁がビクビクと怒張を喰い締めるようにした。快感の塊はそのまま尿道管を駆け上り、鈴口から透明な液体がぴゅくぴゅくと噴き出す。もはや、ダリオは呆然とする。
「……ぁ」
 もう本当に俺どうなのという気持ちにもなった。潮、また噴いたのかよ……となり、「……」と無言になってしまう。
 内腿がひくひくして、上手く動かせない。ダリオは胸まで真っ赤だ。
 そのまま、どさっ、と寝台にふたりして倒れ込んで、快感と衝撃の余韻にぷるぷるしていると、テオドールが「ダリオさん」と顔を寄せて来た。キスしてもいいようなので、ダリオは、ハァ、ハァ、ハァ、と上がる息をどうにか整え、テオドールに腕と脚を巻き付ける。
 ちゅっ、と唇にキスすると、「ガバッ」という勢いで伸し掛かられ、また押し倒された。
 エっ゙?! とダリオは三回戦の勢いに驚く。
「ダリオさん……」
 テオドールは完全にまだしたいモードだった。悩ましげな憂い顔で、百人いたら、百人発情して抱いてくれと言いかねない凄まじい色気である。性欲が人間のようにはないくせに、どうなっているんだ。
 ダリオは顔を引きつらせながら、腹を括った。
「い、いいぞ……」
 ぐいっ、とダリオの筋肉が発達した両足の太ももが上に押し上げられる。
 テオドールは無感動に見えるのに、頬をわずかに紅潮させ、少し眉を下げる様は媚態のごとく艶めいて、見るものをドキリとさせる。彫像のような無表情にも関わらず、どこか熱を帯びてぞっとするほど色っぽい顔をしているのだ。漆のように黒い髪の毛が額にかかり、色白さと闇色の対比は、冒涜的なまでだった。目元に影を作る長いまつ毛の下、青さを深める目が、うっとりとダリオを見つめている。
 膝が肩につくほど押し上げ、伸しかかられて、奥底まで挿入されると、槌を打つように律動が始まった。ギシギシとベッドを揺らしながら、テオドールがダリオの名を連呼する。
 ズブズブと差し込まれて、ダリオは制止するよりも、「あっ、ああっ」と嬌声がついて出てしまう。性欲をぶつけられているのとは全く違うのは分かった。ダリオさん、ダリオさん、と存在を確かめ、縫い留めるようなセックスだ。
 ダリオは焦りや驚きもあったが、好きな男にされているわけで、青年が前後不覚になるほど夢中になって必死に求めてくるのだから、愚かしいことに、中がきゅうきゅうと舐めしゃぶって、よだれを垂らすように喜んで迎え入れてしまう。
「テオ、っ……あっ!……ああっ!!」
 一際深く奥をぐりぐりと擦られて、ダリオは通電するような凄まじい絶頂感にぎゅうぎゅうと中を痙攣させた。
 愛液はだらしない程出て、青年の生殖器を包み込み、その先端に吸い付き、ぱくぱくと愛撫している。
 肉体的な快楽もそうだが、年下の沈着冷静な青年に、彼の怒張した逸物で串刺しにされ、愛されているというのが、ダリオを精神的な官能と絶え間ない絶頂感に追い上げた。
 テオの、俺に入ってる……とダリオはパニックになるくらい驚きで気持ちよくなってしまう。テオドールのものがダリオの中に入っている。凄い。手足の指の先まで多幸感に痺れるようだった。
「テオ」
 ダリオは青年の首に両腕を回した。
「好きだ……」
 ちゅぅ、と口づける。
「大好きだ……」
 ぐぐっ、と更に青年のペニスが膨張して、尋常ならぬ目つきは、完全に人間の常軌を逸していた。瞳孔が完全に開いている。手加減してほしいと思ったが、ダリオはもうへらへらと笑っていた。だって仕方ないだろう。なにもかもおかしい。笑える。 
 このまま食われたっていい。テオドールにならダリオはもうどうされたって、何をされたって構わない。
 何でもあげる。お前に、俺の持ってるもの全部あげるよ。
 大好きだ、テオ。
 伝わったのか、テオドールはかえって自分を恥じるように、ダリオの上に伏せて、初めて彼の目から透明な雫を伝わせていた。
 すっかりその柳のような眉を下げ、ダリオをぼやけた目で見つめている。
「ダリオさん……いなくならないでください……」
 青く美しい目は、涙の膜でどんどん滲んでいくようだった。
 ダリオは息が詰まる。テオドールがようやく吐いたそれに、ダリオこそ太い眉を下げて、青年の柔らかな黒髪をくしゃりと片手で差し込み、撫でてみた。
「ごめんな、怖かったよな……」
 こうして、よしよしと人外の青年を慰めるのは確か2回目である。あまりにも愛しくて、可哀想で、申し訳なかった。
 本来「死」と無縁のテオドールを怖がらせるのは、ダリオしかいないのかもしれない。テオドールからすると、ダリオはあまりにも簡単に死んでしまう。以前、支配者は種族的に、その花と同化を望むような欲望があると聞いたことがあった。それを考えると、ダリオの感覚に寄せて、程よい距離感を保って維持しようとしてくれていたテオドールの努力や理性は、想像以上のものなのかもしれない。水饅頭になって、じーっと影からのぞいていたのも、テオドールにすれば、距離を保つための努力だったのだろう。
 人間の感覚と、支配者のそれは違う。いつもテオドールが努力して寄せてきてくれている。
 ダリオが驚くようなことも、テオドールからすればかなりの譲歩の末のことだろう。
 人間なら共依存レベルの常にベッタリも、同化して永遠にお世話されるよりよほど健全だよなぁとダリオは思った。
 退屈じゃないかとダリオが気にしていても、テオドールはそうではないと言っていた。彼はダリオとくっついている方が自然なのかもしれない。
 使い魔になりたいというのも、常に一緒にいられると思ってのことなら、ダリオはもう少しテオドールの気持ちを確認したほうが良さそうだと思った。
 ちゅ、チュッ、とテオドールの口の端や頬、首筋にキスしながら、ダリオはテオドールの希望や不安を聞き出すことにしたのだった。


 その後、ふたりは一緒にお昼寝して、贅沢な1日を過ごし、テオドールは何種類かの形態で、ダリオの使い魔をすることで合意した。テオドールの喜びように、早くこうしてりゃ良かったなぁ、とダリオは自分の倫理と支配者の感覚の違いに再度苦笑したが、なかなか難しいものだ。お互いに、今後もすれ違うことはあろうが、擦り合わせていくしかねーなと思う。それがきっと、困ることもあるだろうが、幸せな作業になるとも、ダリオは思うのである。


 


 
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