第二王子ですが、潘神のお嫁さんになります!

フルーツ仙人

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 王都を見て回った際に、潘神がパニックを起こしてもいいよう人員配置はしておいたが、特にこれといって特筆すべきことがあったわけではなかった。
 大柄な潘神は、少しばかり行き会う人に驚かれたようだが、そのくらいである。
「潘神様、お小遣いもありますからね~。何か欲しいものがあれば買って帰りましょう」
 オスカーは安請け合いした。神殿の祭事費からしっかり出ているもので、潘神の功績を思えば、少々羽目を外したところで文句も出るまい。
 更に、オスカーは魔塔在籍の特許関係で、個人的に財産を得ている。何かあればそこから出すしな、と金に糸目はつけないつもりだった。しかし、潘神が金の出どころを気にするようだったので、そのあたりはご心配なく! とウィンクする。燃えるような赤毛に、緑眼の派手なカラーの取り合わせで、片目をつぶって、爽やかに笑いかけたのだ。オスカー王子は、素面でこういうことができる男である。
「別に血税で豪遊というわけではないです。お布施もあなたが使わないで誰が使うんです?」
 潘神は太い眉を寄せて無言となるが、一応納得したらしい。
「せわをしてくれる者たちに、土産を……」
 なるほど、自分のために使わないんだな? とオスカーは思ったが、流石に口をつぐんだ。何はなくとも肯定だ。潘神に肩口が当たりそうなほど近寄ると、顔を覗き込んだ。
「いいですね、何か目星はありますか」
「私は……現代の人々が好むようなものにうとい。選ぶのを手伝ってほしい」
 目をそらされた。しかし素直に要請してくるあたり、他人の助力を請うことに、抵抗はないらしい。
「でしたら、消えものが一番ですね。流行のスイーツでも買って帰りましょう! ああ、あの辺りの店は、王都のグルメランキング土産部門でも高評価です」
 オスカーは愛想よく潘神を案内した。ボリンブルック王家は、見事な赤毛で知られており、王都の人々も普通に第二王子殿下だと挨拶してくる。潘神はその距離感に困惑したようだ。
「ああ、私はそれなりに顔が売れておりますので。昔に比べると、民との距離も近いものとなりましたし」
 ここまで近いのは、王家でもオスカーだけである。疑問符を浮かべながら、潘神は「そうか……」と納得したらしい。エリザベスがいれば、いたいけな潘神を嘘で惑わすな! と一喝したかもしれない。
 二人で店をのぞくと、潘神は真剣に土産を見て、オスカーにこれは、あるいはあれはどうなのだろうかと尋ねてくる。結局人気の甘味を人数分包んでもらい、神殿に届けてもらうことになった。
 潘神はみるからに、ほっとしたようだ。彼なりに、現代に慣れようとして、努力しているらしい。
 まだ、オスカーにこころを開いているわけではないようだが、おいおいである。急がば回れ。こういう時こそ、余裕を持ちたいものだ。


 こころに余裕を持とうとつい先程まで考えていたオスカーは、ん? と顔を上げ、珍しく真剣な顔で耳をすませる。楽しげな音楽が街角から聞こえてきたのだ。
「流行りの曲ですね。中央広場で楽団が時々演奏してくれるんですよ。せっかくです、近くに見物に参りましょう」
 潘神は少し困惑気味に眉を寄せたが、拒否することはなく、中央広場までふたりは連れ立った。すでに大衆がそこには集まっている。
「潘神様、王都では、音楽が聞こえてきたら、ダンスをするのが常識です」
 そんな常識はない。貴様、堂々と嘘を吐くな、と脳内のエリザベスが半ギレで恫喝してくるが、お帰りいただいた。常識ではないものの、王都っ子なら、ダンスは大好きで間違いない。
「……いや、私はダンスはあまり……」
「無理にとは言いませんが、よろしければお付き合いいただけると嬉しいです」
 オスカーは胸に手を当て、言葉を重ねた。
「上手に踊る必要はないですよ。楽しく踊れたらいいんです。お手伝いしますから」
 潘神は断りたそうに見えた。あまりに嫌がるようなら、無理強いするつもりはない。だが、神殿に引きこもって、答えのない孤独の空虚に蝕まれ続けるより、手を引っ張って、踊りの輪の中に入る方が、少しは頭がスッキリするのではないかと思った。すると、オスカーの意図を見透かしたのか、潘神は「うまくは、踊れない」と再度告げる。その意味は、やってもいい、だ。オスカーは口角を上げた。
「大丈夫、リードします」
「お手柔らかに頼む」
「お任せください、やさしくしますよ」
 オスカーは恭しく、手袋をはめた右手で潘神の大きな手を取り、手の甲に音だけキスすると、彼を音楽の渦の中へ引き込んだ。
「!」
「さあ、せっかくなら楽しまなくては!」
「あ、ああ」
「楽しければいいんです。型はありません。リラックスです。あなたを、私にゆだねて」
 わからなければ、ハンサムな私を見て。
 再度、オスカーはウィンクをした。こういうことを全く恥じないのが、ボリンブルック家の第二王子なのである。
 オスカーは「ね、」と囁き、潘神の左手を右手で、ぐ、と握りこんだ。そのまま、ぐん、と前方に思い切り引き寄せる。
「っ」
 手を握りこんだまま、ふたりは天高くにお互いの腕を上げ。オスカーが自分より大きい潘神の肩をつかむと、
「こうします。しっかり支えてくださいね」
 ポールに見立てて、その長い左足を潘神の太腿に引っかけた。ふたりの腰が、まるで挿入しているかのように密着する。オスカーの逆の足が、潘神の足の間に入り、くん、と折り曲げられた。
 オスカーは柔軟性を駆使して仰け反り、楽しそうに口を開けて笑っている。あー、最高! 潘神は驚いたように目を見開き、わずかに苦笑した。
 そう。
 せっかくなら、あなたこそ、どうかこの世界を楽しまなくては!
「潘神様、みんな踊ってます!」
「ああ……そうだな」
 かつ! とオスカーの洒落た長靴の踵が、中央広場の石畳を打ち鳴らす。履き心地といい、素晴らしい職人の手業だ。靴一足をとっても、伝統と技術が連綿と人によって受け継がれ、今に集大成したもので、王家はこれらの守護者でもある。その周囲を、次々に王都の人々が、手に手を取って踊り始めた。
「王都の民は、皆楽しそうでしょう」
 潘神は、オスカーに手を握られたまま、不意に周囲を見回した。なにか、思いもかけぬものを見たように、戸惑いがその目に浮かんでいる。
「あなたが、この光景を守ってくれた。王家に連なるものとして、先祖のオリヴァーに代わり、子孫のオスカーがあなたに最大の敬意と感謝を。本当にありがとう」
 潘神が凍りつき、それから、ぐっ、と引っ張られたのはオスカーの方である。
 知らず、腰が密着して、今度こそオスカーは仰け反った。
 潘神の深い真水の底のような真っ黒の目が、オスカーの緑眼を覗き込んでいる。山羊のような水平に伸びた四角い瞳孔の目が、無感情にただオスカーを凝視しているのだ。
「なんだ、私があまりにハンサムなので、あなたの目を釘づけにしてしまったかな」
 に、と笑ったオスカーは、そう言って、音楽の切れ目で、パートナーを変えようと手を放しかけた。
「私以外の誰と踊る気なんだよ」
 潘神の口調が、少しばかり幼いものとなる。しかし目はガン開きになっており、オスカーの背を冷や汗が流れた。
「ええと、踊らないですが」
 あとからめちゃくちゃ怖かったが?! とオスカーは汗で濡れた前髪をかきあげ、なんだったんだ、としばらく動揺する羽目になった。
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