ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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本編

11.自覚

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「アメトリンは、人間なのか?」

 水龍は首を振った。

「わからん。あんなものを見たのは初めてだ。まるで結晶に閉じ込められたような……いや、閉じこもっているかのようであった」
「若い男に見えた。少年と言えるような。心当たりは?」
「それもわからん。人間が入り込んでくること自体はあまりめずらしくないからな。ましてや脅威の少ない子どもなら、われらに知られる前に去るか、命を落とすことが多い」
「命を……落とす」

 自身を守るように丸まって結晶に包まれていた少年の姿を思い出す。
 ゴーレムという魔物には「核」がある。
 核さえ無事であれば、体はいくらでも再生できるため、砂地に棲むサンドゴーレムや寒冷地のアイスゴーレムなどはほぼ無尽蔵に再生され、討伐は困難を極める。
 常識で考えれば、クリスタルゴーレムにも核はあるはずだ。
 核はもっとも重要な部位ゆえ、多くの場合隠されている。
 これまでもアメトリンの核がどこにあるのか、さりげなく探してはいたが、見つけられていなかった。
 もしかすると────。
 突拍子もない考えではあるが、水龍に推測を話した。
 やや興奮して早口になってしまったが、水龍は神妙な顔でラグナの仮説を聞いた。

「アメトリンの核が、あの人間……その可能性はあるであろうな」
「やはりそう思うか」
「いや正直、われら同じ魔に属するものと呼ばれはするが、種が違えばあまり詳しいことはわからぬのだ。その点で言えば人間のほうが、われらの生態に詳しいかもしれぬ」
「ふむ……」

 人間に会ったことはないのに、人間の考え方に近かったアメトリン。
 その理由が、人間の肉体を核にしているからなのか、もしくは元人間だからなのか……どちらにせよ、腑に落ちる点はあった。
 ラグナが惹かれた「アメトリンの性質」は、「アメトリンの性格」であったかもしれない、ということだ。

「少し不安だったんだ。世にもめずらしいクリスタルゴーレムという生き物が、みなあのように魅力的なのだとしたら、俺はアメトリンに興味があるんじゃなく、クリスタルゴーレムに魅力を感じているだけなのかと」
「クリスタルゴーレム自体は知能が高いとはいえ、魔大陸で生き残っているからにはそれなりに狡知であるはずだ。あの純真無垢な様子がクリスタルゴーレム生来の性格とは考えにくいな」
「やはり水龍もアメトリンの性格に疑問があったんだな。だが、元が人間となれば話は変わってくる」
「核である人間の性質が、アメトリンとして発露している……ということか」
「あぁ。つまり俺が好きなのはクリスタルゴーレムではなくアメトリンだ」

 泉の岸に乗り上げてラグナと話していた水龍は、ずるりと滑って泉に落ちた。
 ばちゃんとしぶきが上がってラグナが濡れる。

「何するんだ水龍」
「きさまこそ突然何を言うか! アメトリンを、す、好いているというのか?」
「あぁ」
「相手はゴーレムだぞ!」
「でも中身は人間かもしれないんだ。さすがに俺も純粋な魔物のことをこんなに好きになると思わなかったから、中身が同族とわかって安心した」
「まだ何もわかっとらんわ! だいたい中身が人間だとしても、見た目があんなに違うというのに、惚れた腫れただのあるものか」
「あるんだなぁこれが。俺自身も信じがたかったけどさ」

 思えば、アメトリンはかわいい。
 ずんぐりした体に、のんびりとした動作。
 顔はないのに表情豊かだし、結晶の亀裂から漏れ出る声は甘くかすれて、耳に残る。
 仲間たちにも好かれていて望も厚い。

「よし、俄然やる気が出てきたぞ」
「おいっなんのやる気だ! わしらのアメトリンに手を出すなぞ許さんぞ!」
「おまえたちのアメトリン、か。俺のアメトリンに変えてみせよう」
「うわーっやめろやめろ! やはり危険な人間だったではないか! イヌコロ、アホカラス、こいつを追い出せ~!」

 わぁわぁ騒いだが、水中では無敵の強さを誇る水龍も陸に上がれないため人間とは相性が悪い。
 うれしそうな足取りでアメトリンの住処へ向かうラグナを止めることはできなかった。
 ラグナがアメトリンの住処に戻ると、幾分元気そうなアメトリンに出迎えられる。

「こうしてると水が出るのが早いんじゃないかって、オオカミさんが」

 口に当たる亀裂が下になるように横たわっているアメトリンは、凶悪なクリスタルゴーレムにはとても見えない。
 それどころか、恋を自覚したラグナには、美しい体を存分にさらす想い人がしどけなく横臥しているように見えてしまった。
 なんとなくじろじろ見てはいけない気がして、微妙に視線を外しながら近づく。

「調子はどうだ?」
「さっきよりいいよ。すきまから水が出てきてちょっとおもしろい」
「そうか」

 ぽた、ぽた、と地面に垂れる水を確認し、ラグナはアメトリンとフェンリルに一度人里へ帰ることを告げた。

「アメトリンたちと協力できるとなれば、取れる手段が変わってくる。ギルドと相談しようと思う」
「そうなんだ……」

 アメトリンの声はくっきりと寂しそうだ。
 フェンリルがちらりと非難がましい目を向けてくるが無視した。
 代わりにアメトリンの頭近くに跪く。

「すぐに戻れるようにする。待っていてくれるか?」
「うん。また来てね」

 寂しさを隠さないアメトリンと離れるのはとてもつらかったが、ラグナにはやるべきことがある。
 思いを振り切るように背を向け、手早く荷物をまとめて山を降りた。
 水の中で見た、結晶に封じられた少年の姿を思い出す。
 手足を折りたたみ、目を閉じていたあの少年こそがアメトリンならば、あのまぶたが開くところを見たい。
 隙間風ではなく、喉を震わせて放つ本当の声を聞きたい。
 なにより、触れたい。

 魔物と戦い、魔物を学んで来たからこそ、魔物贔屓である自覚はある。
 だがこれまで、こんな感情を魔物に抱いたことはなかった。
 もしかしたら人間相手にも、ここまで揺り動かされたことはないかもしれない。
 かつて人間に似た魔物にも遭遇したことがあったが、なんとも思わなかった。あったのはただ、研究資料に向けるような興味だけ。
 アメトリンは違う。
 まるで、酒場でたわむれに話した相手と気が合い「もっと話したい」と感じたときのような高揚感。
 だが、酒の席のごとく一時の出会いでは終わらせたくない。
 もっと聞きたいし、ラグナのことも知ってほしい。
 同じものを眺めて、どう感じているのか知りたい。
 つまりこれはきっと、恋なのだ。

「まずは、クリスタルゴーレムの生態。人間そのものを核にすることがあるのかどうか。それから『彼』の正体、だな……」

 クリスタルゴーレム・アメトリンはある日突然現れたという。
 初めてこの山で魔物たちが見つけたときには、もうあの大きさだったというのなら、とても目立つはず。
 ほかの場所から移動してきた可能性は薄い。
 この山付近で発生したと考えるのが自然だ。
 それなら、核となっている少年もこの付近に住んでいたかもしれない。

「死者でないのなら、できることはある」

 すぐに戻ると言ったが、なかなか戻ってこられないかもしれない。
 悲しがるであろうアメトリンを思うと胸が痛んだが、ラグナは歩みを止めなかった。
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