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本編
16.大変身する
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あの地すべりの木の下で、ぼうっとしていたわけじゃない。
毎日の時間の中で、実はぼくは、いろいろと考えていたんだ。
どうして、ラグナが来るのを毎日、こんなところで待っているんだろうとか。
ラグナが来たらどんなことを話そう、とか。
次はいつまでいてくれるのかな、とか。
ラグナ、ラグナ、ラグナ。
ぼくの頭の中はラグナで埋めつくされている。
普段は考えごとをあまりしないぼくでも、さすがにわかる。
ぼくはラグナが好きなんだ。
しかもそれは……ぼくのお気に入りの、苔の広場と同じくらいの好き、だ。
これはすごいことだ。
山のみんなはもちろん好きで、毎日あいさつするし、会えないとしょんぼりしてしまうけれど、それだけ。
明日にはまた会えるかなぁと、すぐ気分を変えることができる。
でもラグナがいなくなってしまったあとは、ずっとずっとしょんぼりが続いて、なんとなく元気が出ない。
これは、かつて「苔の広場」で若いオオカミさんが遊び回って、苔がたくさんはがれてしまった事件のときと同じくらいの、大しょんぼりなのだ。
あのときもぼくはとっても落ちこんだ。
しょぼしょぼしたまま毎日広場に通って、掘られた土を埋めたり、苔をもとのところに戻したり、ひっくり返った倒木をもとのところに転がしたりして、おしまいにお水をいっぱいまいた。
そうして今の、ふかふかできれいな苔の広場が復活したんだ。
あのときはうれしかったなぁ。
いたずらオオカミさんも手伝ってくれて、ごめんなさいもしてくれて。
あのときのオオカミさんが、今ではツガイに子どもまでいて、立派なオオカミさんたちの王様になったのだから、先のことなんてわからないのも当然なのかもしれない。
そんなことだから、ラグナがいる日の朝は夢みたいにうれしい。
「ふふふ……」
眠っているラグナが目の前にいて、思わず風の音の笑い声をこぼしてしまった。
ふかふかの布にくるまって、すうすう寝息を立てている。
起きているときのラグナはオオカミさんに似ている。
軽やかな体の動きに、鋭いまなざし。強くてかしこい。
話してみるとおもしろくて、気さくで、楽しい。
好奇心が強くてなんにでも「ふしぎ」を感じるのも、オオカミさんと同じだ。
でもきっと彼らは「似てる」って言われたくないだろうから、ぼくはだまって笑うだけなのだ。
「ふふふ……あれ」
ラグナを起こさないよう、そっと起き上がろとして、なにかが変だった。
見ると、洞窟の地面にぼくの腕が落ちている。
肩でくっついていたはずの、ぼくのかたっぽの腕が、くっついていない。
「わぁ」
「どうしたアメトリン」
ごそごそしていたらラグナが起きちゃった。
もげた腕を抱えて、洞窟を出ようとしているところもばっちり見られちゃった。
「あの、これ、」
「どうした! 誰にやられた!?」
ラグナはそりゃあもう大あわてで、ぼくの腕と肩を見て、顔を真っ青にした。
とりあえず、誰かになにかされたのではなくて、朝起きたら腕がとれていたのだと説明すると、「それはそれで心配だ」と言いながらも、顔色は少し落ち着いた。
「痛みはないのか? 出血は?」
「痛くないよ。ぼく、血とか出ないし」
「……そうか」
ラグナはなんとも言えない顔をして、とれた腕とつなぎ目の肩を触ったりしていたけれど、どうやっても腕はくっつきそうにない。
「予定通り、泉に行こう。水龍に相談したい」
ラグナは今日の予定を立てていた。
山のことをなんでも知っているナマズさんに、いろいろと聞くことがあるという。
最初は「問い詰める」って言ってたけど、途中から「聞く」に変わった。
とれた腕を抱えて、ラグナが泉へ向かうのについていく。
前より足早で、行き先がしっかりわかってるみたいだ。
その途中で、ぼくのもう片方の腕もとれた。
「あっ、またとれちゃった」
「アメトリンっ……!」
ラグナが泣きそうな顔になってる。
落ちた二本の腕を抱えて、今にも涙を流しそうなラグナを、ぼくがやってもらったようになでなでしてあげたいのに、腕がないからできない。
腕がないと不便だなぁと思いながら、二本の腕はラグナが背負って行くことになった。
人間にとってぼくの体は、一部であっても重すぎるから、ラグナもかなりつらそうで、汗をびっしりかいていた。
なにもしてあげられない。
ぼくは悲しくなった。
泉にはナマズさんがもういて、ほとりに頭をのせていた。
ラグナはナマズさんに「俺が一人で行ったときは気配消してたくせに」とかいろいろと言いかけていたけれど、それどころじゃないとぼくの腕を見せた。
「うわぁ、アメトリン! 腕、うで、どうしたっ」
「落ち着いて、ナマズさん」
ラグナもぼくも妙に落ち着いているので、しばらくしたらナマズさんも落ち着いた。
物知りのナマズさんといえど、ぼくの腕がとれた理由はわからないらしい。
「生き物の体というものはしっかりくっついていて、そうかんたんに取れたりしないのだ。自切するものはいるが……」
「じせつ?」
「自ら体の一部を切り落とすことだ。小さな生き物が、大きな生き物に狙われたとき、逃げるためにするものが多いが……アメトリンはこの地で敵うもののない上位生物だ。自切は考えられん」
ナマズさんの言葉に、ラグナが「いや、そうとも言い切れない」と口をはさむ。
「逃げるための自切ではなく、アメトリンの意志、もしくは無意識が自切を促したとしたら? なんらかの理由で腕を不要とした、もしくは、不要だと思い込んだ……」
「なるほど。アメトリンや、腕をいらないと考えたことはあるか?」
よく考えてみたけれど、なくなったらとても不便な腕を「いらない」と思う生き物なんているのだろうか。
当然ぼく自身思い当たらなくて、首をふる。
「それなら……腕をなくす前、どんなことを考えていた?」
腕が取れちゃう前……眠る前に考えていたこと。
「ラグナといっしょにいられたらいいなぁって、思ってた」
そうだ、あのときぼくはいろいろなことを思い浮かべていた。
これから毎日、ラグナといっしょに横になって眠れたらいいのに、とか。
いっしょに山をさんぽして、きれいな景色をいっぱい見せて。
そうしていつか、ラグナが気に入っているところにぼくも行って、教えてもらえたらいいのに、とか。
ラグナの目線で、ラグナの横で。
「あ」
いきなり立っていられなくなって、がくりと体が落ちた。
とうとう足が取れてしまった。
「アメトリン、こちらへ。水の中なら、水が体を支えてくれる」
ラグナがぼくを転がすように泉の中へ入れてくれた。
あぁ、ラグナのきれいな目が涙で満ちている。いまにもしずくがこぼれてしまいそう。
「ごめんね」
「謝るな! ほんとうに、終わってしまいそうだから……」
涙をぬぐうこともできないぼくは、ついに手足をぜんぶなくしてしまった。
「どうしよう。さんぽに行けないし、おうちにも帰れないよ」
「そんなこと言ってる場合か! どうにものんきすぎて、むしろ怖いぞアメトリン」
「えー」
自分でもふしぎだけれど、手足がとれることが怖くはない。痛くもないし。
「なんか、なるようになる、ってかんじ」
「……」
「……」
ラグナとナマズさんがそろって深く大きく息を吐き出した。
なんだかバカにされてる気がするぞ。
もっと言おうとして、とうとうぼくの頭が取れた。
結晶の斜面をずるりとすべって、泉に落ちていくのを見ていたら、体の支えも効かなくなって、ずるずる水に落ちていく。
「アメトリンっ!」
「しっかりしろ、気を確かに持て!」
ラグナの泣きそうな声、ナマズさんのあわてる声。
おかしいな、ナマズさんの声は水の中でもよく聞こえるはずなのに、遠くでよく聞こえない。
頭がなくなってしまったから、耳もなくなってしまったのかも。
「なるようになる」に身をまかせて、ぼくはゆっくりと落ちていって……底についた、と思ったら、なんだか体が軽くなった、気がした。
いきなり苦しくなって、手足をばたつかせる。
水面が近づいて、水の上に出ると、苦しさがだいぶよくなった。
「けほっ、はぁ、はぁ……っ」
なんだか変だ。
苦しさをどうにかしようとすると、口の奥が引きつったようになって、空気がひゅうひゅうと出たり入ったりする。
わけがわからなくて、苦しいところに触ろうとしたら、手があった。
「あれ?」
でも、それはぼくの「手」じゃない。
まるでラグナの腕みたいなものが肩からのびていて、先の方にいくにつれて水の中に溶けている。
いや、水に透けているだけで、先っぽもあるみたいだ。
水から出してみると、ぼくの意志で動くぼくのものじゃない腕は、ますますラグナのものに似ていたけれど、明らかにちがうところがあった。
半分は人間、半分は結晶。
まるでラグナの腕が、半分ぼくの腕になっているような、そんな形と色をしている。
「あ、アメトリン……なのか?」
振り向くと、ナマズさんとラグナが目と口を大きくぽかんと開けていた。
その顔がおもしろくて笑うと、声が口から出る。
口の奥がふるえて、なんだか変だ。
水鏡で自分を見てみようと思ったけれど、体が水にふわふわ揺れて見えない。
自由に動かせるらしい手や足を使って、泉の岸辺に泳いでいって、体を持ち上げて岸に上がり、水面をのぞき込む。
「わぁ、なんだこれ」
ぼくは、ぼくじゃなくなっていた。
見た目は人間に似てる。
ほとんど毛が生えていない、つるりとした顔。
頭の上にだけ、長い毛が生えている。
ラグナとくらべるとずいぶん長くて、下の方はぬれて体にへばりついている。
首から下もほとんど毛がはえていなくて、つるつるの肌が足まで続いている。
足を水から出してみると、途中に曲がるところがあって、そこから下は石だった。
形は前の足と全然ちがって、ラグナやサルさんのものに似ているけど、石のところは結晶そのものだ。
先の方が黄色くて、曲がるところの近くは紫色。
よく見ると腕も同じような感じ。
それから、体のいろんなところから生えるみたいに、平たい結晶がくっついている。引っ張っても取れない。
どうなってるんだろう、ぼくってば。
毎日の時間の中で、実はぼくは、いろいろと考えていたんだ。
どうして、ラグナが来るのを毎日、こんなところで待っているんだろうとか。
ラグナが来たらどんなことを話そう、とか。
次はいつまでいてくれるのかな、とか。
ラグナ、ラグナ、ラグナ。
ぼくの頭の中はラグナで埋めつくされている。
普段は考えごとをあまりしないぼくでも、さすがにわかる。
ぼくはラグナが好きなんだ。
しかもそれは……ぼくのお気に入りの、苔の広場と同じくらいの好き、だ。
これはすごいことだ。
山のみんなはもちろん好きで、毎日あいさつするし、会えないとしょんぼりしてしまうけれど、それだけ。
明日にはまた会えるかなぁと、すぐ気分を変えることができる。
でもラグナがいなくなってしまったあとは、ずっとずっとしょんぼりが続いて、なんとなく元気が出ない。
これは、かつて「苔の広場」で若いオオカミさんが遊び回って、苔がたくさんはがれてしまった事件のときと同じくらいの、大しょんぼりなのだ。
あのときもぼくはとっても落ちこんだ。
しょぼしょぼしたまま毎日広場に通って、掘られた土を埋めたり、苔をもとのところに戻したり、ひっくり返った倒木をもとのところに転がしたりして、おしまいにお水をいっぱいまいた。
そうして今の、ふかふかできれいな苔の広場が復活したんだ。
あのときはうれしかったなぁ。
いたずらオオカミさんも手伝ってくれて、ごめんなさいもしてくれて。
あのときのオオカミさんが、今ではツガイに子どもまでいて、立派なオオカミさんたちの王様になったのだから、先のことなんてわからないのも当然なのかもしれない。
そんなことだから、ラグナがいる日の朝は夢みたいにうれしい。
「ふふふ……」
眠っているラグナが目の前にいて、思わず風の音の笑い声をこぼしてしまった。
ふかふかの布にくるまって、すうすう寝息を立てている。
起きているときのラグナはオオカミさんに似ている。
軽やかな体の動きに、鋭いまなざし。強くてかしこい。
話してみるとおもしろくて、気さくで、楽しい。
好奇心が強くてなんにでも「ふしぎ」を感じるのも、オオカミさんと同じだ。
でもきっと彼らは「似てる」って言われたくないだろうから、ぼくはだまって笑うだけなのだ。
「ふふふ……あれ」
ラグナを起こさないよう、そっと起き上がろとして、なにかが変だった。
見ると、洞窟の地面にぼくの腕が落ちている。
肩でくっついていたはずの、ぼくのかたっぽの腕が、くっついていない。
「わぁ」
「どうしたアメトリン」
ごそごそしていたらラグナが起きちゃった。
もげた腕を抱えて、洞窟を出ようとしているところもばっちり見られちゃった。
「あの、これ、」
「どうした! 誰にやられた!?」
ラグナはそりゃあもう大あわてで、ぼくの腕と肩を見て、顔を真っ青にした。
とりあえず、誰かになにかされたのではなくて、朝起きたら腕がとれていたのだと説明すると、「それはそれで心配だ」と言いながらも、顔色は少し落ち着いた。
「痛みはないのか? 出血は?」
「痛くないよ。ぼく、血とか出ないし」
「……そうか」
ラグナはなんとも言えない顔をして、とれた腕とつなぎ目の肩を触ったりしていたけれど、どうやっても腕はくっつきそうにない。
「予定通り、泉に行こう。水龍に相談したい」
ラグナは今日の予定を立てていた。
山のことをなんでも知っているナマズさんに、いろいろと聞くことがあるという。
最初は「問い詰める」って言ってたけど、途中から「聞く」に変わった。
とれた腕を抱えて、ラグナが泉へ向かうのについていく。
前より足早で、行き先がしっかりわかってるみたいだ。
その途中で、ぼくのもう片方の腕もとれた。
「あっ、またとれちゃった」
「アメトリンっ……!」
ラグナが泣きそうな顔になってる。
落ちた二本の腕を抱えて、今にも涙を流しそうなラグナを、ぼくがやってもらったようになでなでしてあげたいのに、腕がないからできない。
腕がないと不便だなぁと思いながら、二本の腕はラグナが背負って行くことになった。
人間にとってぼくの体は、一部であっても重すぎるから、ラグナもかなりつらそうで、汗をびっしりかいていた。
なにもしてあげられない。
ぼくは悲しくなった。
泉にはナマズさんがもういて、ほとりに頭をのせていた。
ラグナはナマズさんに「俺が一人で行ったときは気配消してたくせに」とかいろいろと言いかけていたけれど、それどころじゃないとぼくの腕を見せた。
「うわぁ、アメトリン! 腕、うで、どうしたっ」
「落ち着いて、ナマズさん」
ラグナもぼくも妙に落ち着いているので、しばらくしたらナマズさんも落ち着いた。
物知りのナマズさんといえど、ぼくの腕がとれた理由はわからないらしい。
「生き物の体というものはしっかりくっついていて、そうかんたんに取れたりしないのだ。自切するものはいるが……」
「じせつ?」
「自ら体の一部を切り落とすことだ。小さな生き物が、大きな生き物に狙われたとき、逃げるためにするものが多いが……アメトリンはこの地で敵うもののない上位生物だ。自切は考えられん」
ナマズさんの言葉に、ラグナが「いや、そうとも言い切れない」と口をはさむ。
「逃げるための自切ではなく、アメトリンの意志、もしくは無意識が自切を促したとしたら? なんらかの理由で腕を不要とした、もしくは、不要だと思い込んだ……」
「なるほど。アメトリンや、腕をいらないと考えたことはあるか?」
よく考えてみたけれど、なくなったらとても不便な腕を「いらない」と思う生き物なんているのだろうか。
当然ぼく自身思い当たらなくて、首をふる。
「それなら……腕をなくす前、どんなことを考えていた?」
腕が取れちゃう前……眠る前に考えていたこと。
「ラグナといっしょにいられたらいいなぁって、思ってた」
そうだ、あのときぼくはいろいろなことを思い浮かべていた。
これから毎日、ラグナといっしょに横になって眠れたらいいのに、とか。
いっしょに山をさんぽして、きれいな景色をいっぱい見せて。
そうしていつか、ラグナが気に入っているところにぼくも行って、教えてもらえたらいいのに、とか。
ラグナの目線で、ラグナの横で。
「あ」
いきなり立っていられなくなって、がくりと体が落ちた。
とうとう足が取れてしまった。
「アメトリン、こちらへ。水の中なら、水が体を支えてくれる」
ラグナがぼくを転がすように泉の中へ入れてくれた。
あぁ、ラグナのきれいな目が涙で満ちている。いまにもしずくがこぼれてしまいそう。
「ごめんね」
「謝るな! ほんとうに、終わってしまいそうだから……」
涙をぬぐうこともできないぼくは、ついに手足をぜんぶなくしてしまった。
「どうしよう。さんぽに行けないし、おうちにも帰れないよ」
「そんなこと言ってる場合か! どうにものんきすぎて、むしろ怖いぞアメトリン」
「えー」
自分でもふしぎだけれど、手足がとれることが怖くはない。痛くもないし。
「なんか、なるようになる、ってかんじ」
「……」
「……」
ラグナとナマズさんがそろって深く大きく息を吐き出した。
なんだかバカにされてる気がするぞ。
もっと言おうとして、とうとうぼくの頭が取れた。
結晶の斜面をずるりとすべって、泉に落ちていくのを見ていたら、体の支えも効かなくなって、ずるずる水に落ちていく。
「アメトリンっ!」
「しっかりしろ、気を確かに持て!」
ラグナの泣きそうな声、ナマズさんのあわてる声。
おかしいな、ナマズさんの声は水の中でもよく聞こえるはずなのに、遠くでよく聞こえない。
頭がなくなってしまったから、耳もなくなってしまったのかも。
「なるようになる」に身をまかせて、ぼくはゆっくりと落ちていって……底についた、と思ったら、なんだか体が軽くなった、気がした。
いきなり苦しくなって、手足をばたつかせる。
水面が近づいて、水の上に出ると、苦しさがだいぶよくなった。
「けほっ、はぁ、はぁ……っ」
なんだか変だ。
苦しさをどうにかしようとすると、口の奥が引きつったようになって、空気がひゅうひゅうと出たり入ったりする。
わけがわからなくて、苦しいところに触ろうとしたら、手があった。
「あれ?」
でも、それはぼくの「手」じゃない。
まるでラグナの腕みたいなものが肩からのびていて、先の方にいくにつれて水の中に溶けている。
いや、水に透けているだけで、先っぽもあるみたいだ。
水から出してみると、ぼくの意志で動くぼくのものじゃない腕は、ますますラグナのものに似ていたけれど、明らかにちがうところがあった。
半分は人間、半分は結晶。
まるでラグナの腕が、半分ぼくの腕になっているような、そんな形と色をしている。
「あ、アメトリン……なのか?」
振り向くと、ナマズさんとラグナが目と口を大きくぽかんと開けていた。
その顔がおもしろくて笑うと、声が口から出る。
口の奥がふるえて、なんだか変だ。
水鏡で自分を見てみようと思ったけれど、体が水にふわふわ揺れて見えない。
自由に動かせるらしい手や足を使って、泉の岸辺に泳いでいって、体を持ち上げて岸に上がり、水面をのぞき込む。
「わぁ、なんだこれ」
ぼくは、ぼくじゃなくなっていた。
見た目は人間に似てる。
ほとんど毛が生えていない、つるりとした顔。
頭の上にだけ、長い毛が生えている。
ラグナとくらべるとずいぶん長くて、下の方はぬれて体にへばりついている。
首から下もほとんど毛がはえていなくて、つるつるの肌が足まで続いている。
足を水から出してみると、途中に曲がるところがあって、そこから下は石だった。
形は前の足と全然ちがって、ラグナやサルさんのものに似ているけど、石のところは結晶そのものだ。
先の方が黄色くて、曲がるところの近くは紫色。
よく見ると腕も同じような感じ。
それから、体のいろんなところから生えるみたいに、平たい結晶がくっついている。引っ張っても取れない。
どうなってるんだろう、ぼくってば。
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