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03.善視点(3)
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それから二日後に美容室へ連行された。
髪を無精していたおかげで多少ヘアアレンジ的なことができる長さがあって、ワックスの使い方など教えてもらった。
カラーはまだちょっと早いと思ってやめておいた。
リュウと美容師さんには強く勧められたので、次行ったらもうなんらかの色に染められてしまうと思う。
そのままリュウの選んだ服屋に行って、何回も着替えて、何着か買わされた。
すごく高価なお店ではなかったのでバイト代で払えたけど、おれの意見はガン無視されて、ただひたすらリュウとショップの店員さんが頷いたものだけがショッパーに入れられた。
それから、ドラッグストアにも寄った。
今どきは男もスキンケアをする時代らしい。朝晩顔を洗った後に塗るようにと、ボトルに入った水を買わされた。
「水じゃない。化粧水」
「水って入ってるなら水じゃん……」
「は?」
たった一文字の威圧で黙らされた。
いわく、男もモテを意識するなら肌のきれいさは絶対事項らしい。
「相手が男で、薄暗いバーでも、結局は同じ。性格は今更変えられないんだから、ちょーっとでも見栄え良くしたほうがいいでしょ」
「そ、そうだよな……」
「体も見せることになるんだからこれも塗って」
「うん……」
ボトルが一種類追加された。
リュウは骨格からしてイケメンだけど、イケメンを維持するのにこんな苦労をしているなんて思わなかった。
それに普段からきちんと考えて自分を整えているのだと知った。
格好とか喋り方で、だらしなく思われることもあるリュウだけど、本当は真面目でいいやつなのは、おれもよく知ってる。
「善、聞いてた~?」
「聞いてなかった。リュウはイケメンだなぁって見てた」
「も~誰のためにやってると思ってんだよ」
「ごめんて」
リュウがおれのいろんなことを気にかけてくれるのは、おれがシンさんと付き合うまでなんだろうか。
そんな疑問がふと過ったけど、形になる前に消えてしまった。
リュウによるおれ改造計画を受けて、しばらく経ち。
おれはキャンパス内でリュウを探し回り、カフェテリアでその姿を見つけた。
「リュウ!」
「んあ、どしたの善。このあと講義あったっけ?」
「ないからリュウを探してた。時間ある?」
「いっこ講義あるけど……待つ?」
「待つ」
おれの鬼気迫る様子に気圧されつつ、リュウは講義棟へ向かった。
リュウがいなくなり、あらかた客も捌けたカフェテリアで提出レポートの資料を読んでいたら、リュウが戻ってきた。
「おまたせ~。そんでどしたの。肌に合わないスキンケアでもあった?」
「違う、けど、なんか変なんだよ。ていうか変だよな?」
「え? なにが?」
「変なんだよ! なんかすごい見られてて……」
自宅と大学、あとはバイト先の倉庫を往復するだけの日々で、人の目を気にする機会はそう多くない。
それなのに視線を感じるようになった。
ほんとにたまにだけど、じろじろ見られてて、服装やカバンがおかしいのかと思って変えてみたけど、なお見られる。
リュウに教わった髪型がやっぱりまずいんじゃないか。
もしくは顔や肌が変なんじゃないか。
でも鏡を見てもなにが問題かわからなくて、こんなぼんやりした疑問を気兼ねなくぶつけられる友人が他に思いつかなかった。
「変、ねぇ」
リュウは通行人たちと似たような目でじろじろとおれを眺めて、言った。
「善、おまえはかっこよくなった」
「……はい?」
「かっこいいから見られてたんだよ~。終わり。帰ろ」
「待て待て待て、ちょっと待って」
リュウを無理やり椅子へ戻して、切実に解説を乞う。
「かっこよくなったってまじ? 自分じゃ全然わかんないんだけど」
「そーかなぁ、けっこう変わってる気がするけど。髪も肌も、俺が言ったとおりにやってんしょ?」
「うん」
「結果が出始めたってことだよ~。善って元々姿勢よくて、靴に気使ってるし、顔立ちもまぁまぁで素材はいいんだから、磨けば光ってトーゼン」
リュウが頬をもちもちと揉んでくる。
顔立ちが「まぁまぁ」ってなんだよ、これだからイケメンは……。
でも最近、少し肌がしっとりしてきて、ニキビができなくなった。
ひげ剃りのとき肌荒れが気になってうまく剃れないことがなくなって、でもおれの実感ってその程度だ。
「じゃあ……成功率、上がったかな?」
「ん、まぁ、そうかも?」
「よしっ」
思わずガッツポーズを取ってしまったが、喜ぶのはまだ早い。
もう一度あの店に言って、シンさんに声をかけて、それからだ。
そもそも告白とか、そういう雰囲気にすらならないかもしれない。好みじゃないとかなんとか、そういう可能性もあるし。
ぬかよろこびするな、冷静に、冷静……。
「おれって、かっこいい?」
「さっきも言ったけど。自信持っていーよ、今の善はかっこいい」
「へへ……あんがと。おまえがダチでほんとよかった」
顔を上げようとしたら、大きな手が頭に乗った。
そのままわしわしと髪型を乱される。
「なまいき~。善のくせに」
「わっなんだよ、せっかく整えてるのに崩すなって!」
「ま~俺からしてみれば、善はかっこいいってよりカワイイ系だけどね~」
「さっきと言ってること違うぞ!」
リュウのお墨付きももらって、おれはさっそくバーに行って、おそるおそるシンさんに接触した。
シンさんは、一回会っただけのおれを覚えてくれてた。
連絡先を交換して、バーで二回会って、三回目が半個室居酒屋で。
いきなり「ヤりたいんだろ」とか言われて押し倒されて……頭突きして逃げた。
これがおれの、情けない恋の顛末だ。
髪を無精していたおかげで多少ヘアアレンジ的なことができる長さがあって、ワックスの使い方など教えてもらった。
カラーはまだちょっと早いと思ってやめておいた。
リュウと美容師さんには強く勧められたので、次行ったらもうなんらかの色に染められてしまうと思う。
そのままリュウの選んだ服屋に行って、何回も着替えて、何着か買わされた。
すごく高価なお店ではなかったのでバイト代で払えたけど、おれの意見はガン無視されて、ただひたすらリュウとショップの店員さんが頷いたものだけがショッパーに入れられた。
それから、ドラッグストアにも寄った。
今どきは男もスキンケアをする時代らしい。朝晩顔を洗った後に塗るようにと、ボトルに入った水を買わされた。
「水じゃない。化粧水」
「水って入ってるなら水じゃん……」
「は?」
たった一文字の威圧で黙らされた。
いわく、男もモテを意識するなら肌のきれいさは絶対事項らしい。
「相手が男で、薄暗いバーでも、結局は同じ。性格は今更変えられないんだから、ちょーっとでも見栄え良くしたほうがいいでしょ」
「そ、そうだよな……」
「体も見せることになるんだからこれも塗って」
「うん……」
ボトルが一種類追加された。
リュウは骨格からしてイケメンだけど、イケメンを維持するのにこんな苦労をしているなんて思わなかった。
それに普段からきちんと考えて自分を整えているのだと知った。
格好とか喋り方で、だらしなく思われることもあるリュウだけど、本当は真面目でいいやつなのは、おれもよく知ってる。
「善、聞いてた~?」
「聞いてなかった。リュウはイケメンだなぁって見てた」
「も~誰のためにやってると思ってんだよ」
「ごめんて」
リュウがおれのいろんなことを気にかけてくれるのは、おれがシンさんと付き合うまでなんだろうか。
そんな疑問がふと過ったけど、形になる前に消えてしまった。
リュウによるおれ改造計画を受けて、しばらく経ち。
おれはキャンパス内でリュウを探し回り、カフェテリアでその姿を見つけた。
「リュウ!」
「んあ、どしたの善。このあと講義あったっけ?」
「ないからリュウを探してた。時間ある?」
「いっこ講義あるけど……待つ?」
「待つ」
おれの鬼気迫る様子に気圧されつつ、リュウは講義棟へ向かった。
リュウがいなくなり、あらかた客も捌けたカフェテリアで提出レポートの資料を読んでいたら、リュウが戻ってきた。
「おまたせ~。そんでどしたの。肌に合わないスキンケアでもあった?」
「違う、けど、なんか変なんだよ。ていうか変だよな?」
「え? なにが?」
「変なんだよ! なんかすごい見られてて……」
自宅と大学、あとはバイト先の倉庫を往復するだけの日々で、人の目を気にする機会はそう多くない。
それなのに視線を感じるようになった。
ほんとにたまにだけど、じろじろ見られてて、服装やカバンがおかしいのかと思って変えてみたけど、なお見られる。
リュウに教わった髪型がやっぱりまずいんじゃないか。
もしくは顔や肌が変なんじゃないか。
でも鏡を見てもなにが問題かわからなくて、こんなぼんやりした疑問を気兼ねなくぶつけられる友人が他に思いつかなかった。
「変、ねぇ」
リュウは通行人たちと似たような目でじろじろとおれを眺めて、言った。
「善、おまえはかっこよくなった」
「……はい?」
「かっこいいから見られてたんだよ~。終わり。帰ろ」
「待て待て待て、ちょっと待って」
リュウを無理やり椅子へ戻して、切実に解説を乞う。
「かっこよくなったってまじ? 自分じゃ全然わかんないんだけど」
「そーかなぁ、けっこう変わってる気がするけど。髪も肌も、俺が言ったとおりにやってんしょ?」
「うん」
「結果が出始めたってことだよ~。善って元々姿勢よくて、靴に気使ってるし、顔立ちもまぁまぁで素材はいいんだから、磨けば光ってトーゼン」
リュウが頬をもちもちと揉んでくる。
顔立ちが「まぁまぁ」ってなんだよ、これだからイケメンは……。
でも最近、少し肌がしっとりしてきて、ニキビができなくなった。
ひげ剃りのとき肌荒れが気になってうまく剃れないことがなくなって、でもおれの実感ってその程度だ。
「じゃあ……成功率、上がったかな?」
「ん、まぁ、そうかも?」
「よしっ」
思わずガッツポーズを取ってしまったが、喜ぶのはまだ早い。
もう一度あの店に言って、シンさんに声をかけて、それからだ。
そもそも告白とか、そういう雰囲気にすらならないかもしれない。好みじゃないとかなんとか、そういう可能性もあるし。
ぬかよろこびするな、冷静に、冷静……。
「おれって、かっこいい?」
「さっきも言ったけど。自信持っていーよ、今の善はかっこいい」
「へへ……あんがと。おまえがダチでほんとよかった」
顔を上げようとしたら、大きな手が頭に乗った。
そのままわしわしと髪型を乱される。
「なまいき~。善のくせに」
「わっなんだよ、せっかく整えてるのに崩すなって!」
「ま~俺からしてみれば、善はかっこいいってよりカワイイ系だけどね~」
「さっきと言ってること違うぞ!」
リュウのお墨付きももらって、おれはさっそくバーに行って、おそるおそるシンさんに接触した。
シンさんは、一回会っただけのおれを覚えてくれてた。
連絡先を交換して、バーで二回会って、三回目が半個室居酒屋で。
いきなり「ヤりたいんだろ」とか言われて押し倒されて……頭突きして逃げた。
これがおれの、情けない恋の顛末だ。
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