中堅地味破壊神は世界を平和にしたいだけ

キザキ ケイ

文字の大きさ
14 / 44
本編

14.派遣破壊神の日常

しおりを挟む

 俺は今、ソファの端に追い詰められている。
 限界まで端の方に寄った俺の頭の両側に創造神の腕が置かれていて、乗り上げられた創造神の体が重くて身動きが取れない。

「……ん、ん……」

 そっと触れるだけのキスが繰り返され、いつの間にか深く口腔を貪られている。呼吸を奪われて息が上がる。
 俺は「仕事をしないやつは嫌い」と言っただけなのに、いつしか奴の脳内では「仕事をこなせば俺を好きにできる」という都合のいい発言に改変されてしまったらしい。
 何度も訂正したが、こいつの耳は特別製で都合の悪いことはカケラも脳に伝わらないように出来ている。
 唇を好き放題されてぼんやりしていると、唐突に思い出したことがあった。

「そういえば……」
「なに、カイくん。考え事なんて余裕だね」

 ちゅうちゅう吸われすぎてここ数日腫れぼったい唇を守ろうと顔を逸らすと、今度は頰や耳、首筋を吸われるので何が正しいのか俺には判断できなくなりつつある。

「お前、こうやってキスするようになった頃、俺のこと好きだって言ってたよな……」
「あ、それ今思い出すんだ」

 創造神は俺の皮膚を嬲るのをやめて、身を起こした。
 できの悪い子供を見守る親のような苦笑に、なんとなく身の置き所がない気持ちに襲われる。

 そう、確かにこいつは「好きだからキスする」と言っていた。
 俺にとっては数日前の首噛み切られ事件が青天の霹靂のように思われたが、実は全然そんなことはなかったのだ。
 偏に俺が、創造神の言葉の意味を理解しようともせずに、向けられる好意を受け取ることすら最初から拒んでいただけだった。

 ただ言い訳させてもらうなら、破壊神は他者に好意を抱かれるということがそもそも想定されていない存在だ。
 悪意と害意には敏感に反応できても、好意は、もはや存在自体忘れている節がある。
 これは俺だけじゃなくて破壊神全般が多かれ少なかれ持っている傾向だ。
 俺が特別鈍感と言われてしまえばそれまでだが。

「も~カイくんまた眉間にシワ寄せて。癖になっちゃうよ?」
「寄せてない」
「俺はね、これからは全部言葉にすることにしたよ。そうしないとカイくんには全然伝わらないみたいだから」
「わ……悪かったな、鈍感で」
「ふふ。鈍感なとこも好きだよ、カイくん」

 前髪をかき上げられて、額に口付けられる。こいつのこういうキザな仕草にもすっかり慣らされてしまった。
 指を噛み合わせるように繋がれている手が視界に入る。
 まるで拘束されているようだと思うのは、俺が色事に疎いせいなんだろうか。
 こいつの行動にいちいち反応することすら億劫で、俺は諦めて目を閉じた。ここ数日疲れが溜まっている自覚がある。

 実際あの日から、創造神は以前とは比べものにならないほど精力的に仕事をこなすようになった。
 書類仕事は相変わらず好きではないようだが、実務の方だけでもこいつが本気を出せば俺の出る幕はほとんどない。せいぜい小さな創造物に手を入れ、地上の様子を逐一観察して環境を微調整するくらいだ。
 最上級創造神というのは、力だけが有り余っている馬鹿に与えられる称号ではない。
 すべての力を管理下に置き、世界のすべてを意のままに操れる存在に相応しい唯一の呼称だ。
 だからこいつが本気で世界を管理し始めたら、俺の存在は不必要になる───。

 ただ、地上に於ける創造の力の制御は完璧でも、創造神本体への影響は抑えられないようで、そこにはまだ俺の介入する余地はあった。
 睡眠時の創造物の数が増え、質が上がって簡単に壊せないものも出るようになってきたので、俺のポケットにはいくつかのガラス玉が詰め込まれている。
 時間があるときにちまちま削っているが、現状追いついていない。
 爪や髪が伸びる頻度も上がって、先ほども創造神のふわふわ薄茶の髪を撫でながら切り揃えてやっていたのだが、なにが奴の琴線に触れたのか襲いかかられ今に至る。

「お前はまったく、堪え性ってもんがないのか」
「今最大限に我慢してるよ?」
「えっ」

 これだけ好き放題していて、我慢しているというのか。どこが?

「キスだけじゃ足りないよ。この白い肌に痕を残したいし……」
「───っ!」
「たくさん触りたい。ここも、この奥も」

 創造神の手が俺の表皮を服の上から滑らせて、胸元に触れる。もう片方の手が腹部を辿りながら脚の付け根へ、腰を撫でながら尻たぶの狭間に長い指が潜り込んでくる。
 反射のように腰が跳ねて、次の瞬間には俺の両脚が目の前の不埒な男を渾身の力で蹴り飛ばしていた。

「いった……カイくんの蹴り、効いたよ……」
「うわっごめ───いやいや今のは俺は悪くねぇ! 謝らないぞ! なんてとこ触んだ!」

 テーブルとソファの間に墜落した創造神から身を守るように体を丸める。
 こういうスキンシップを続けている以上、もはやなにを言っても言わなくても俺が追い詰められるだけのような気がしてくる。
 友達とは、距離感とは一体……。

「急に触っちゃったから驚いたよね、ごめんね。今度はちゃんと言ってから触るね」
「言わなくていいし触るな!」
「ゆっくり進もうね」
「進むかーっ!」

 余裕のある笑みを浮かべる創造神の顔面にクッションを投げつけて、俺は自室に引っ込んだ。
 信じられないようなところを触られたのに、不快感も嫌悪感もない───自分の体に対する戸惑いが隠せそうになかった。



 これまで、朝起きたときに目の前に創造神がいることは何回かあった。
 しかし今は、寝る前に創造神が俺のベッドに侵入してくる。

「もうちょっとつめて。あと枕ちょうだい」
「図々しいやつだな……」

 少しスペースを空けてやると、温かい体がいそいそとベッドに入り込んできた。
 シャワーを浴びて就寝用のジャージに着替えて、明日の仕事を確認して、部屋の電灯を消してベッドに潜り込む。
 就寝前の一連の動作のうちのどこかで、似たような寝間着姿の創造神が俺の部屋にノックもなく入ってくる。
 俺が書類を捲っているときは、先にベッドに横になって俺の作業が終わるのを待つ。
 部屋の灯が既に消えているときは、そっと布団を捲って俺の横に滑り込んでくる。

 当然最初のうちは抵抗したが、俺の寝室にカギがついていない以上こいつの侵入を完全に防ぐことはできない。
 相手も当然そのことを心得ているのでタチが悪い。
 結局俺が譲歩して、不埒なことはしないと約束させて好きにさせていた。
 いっそ契約書でも作らせるかと思うくらい、俺はこの大事な睡眠の時間を邪魔されたくなかったが、イヤミなことにベッドの中でなにか仕掛けられることだけはなかった。
 そういうところだけは外さないから強く拒絶することができずにいる。

「おやすみ、カイくん」
「……ん」

 向かい合って眠るなんて絶対にお断りなので、創造神はいつも俺の背中側からおやすみの挨拶をする。
 つむじにひとつキスを落とされて、むず痒さに体を掻きむしりたくなるのもいつものことだ。
 他人が一緒のベッドで寝られるか、と思っていたのに、こいつが来る前も後も眠れない夜はなかった。
 俺の体は睡眠欲に正直すぎる。

 明らかに絆されている。マズい方向に、マズい速度で。
 このままだと絶対に良くないと思っているのに、俺はこいつに敵わないからと自分に言い訳して、与えられるあたたかいものを拒めずにいるのは紛れもない自分だった。

 破壊神と創造神が一緒に住んでいること自体レアケースなのに、その相手に口説かれている場合はどうしたらいいのか、誰に相談することもできない。
 もし俺がこのまま、創造神を遠ざけることもなく、なし崩しになってしまったら……世界にどんな影響があるか。
 背筋を駆け上った寒気を無理やり抑え込んで、俺は布団を被った。
 背中に感じるぬくもりを無視するのは、とても難しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

誓いを君に

たがわリウ
BL
平凡なサラリーマンとして過ごしていた主人公は、ある日の帰り途中、異世界に転移する。 森で目覚めた自分を運んでくれたのは、美しい王子だった。そして衝撃的なことを告げられる。 この国では、王位継承を放棄した王子のもとに結ばれるべき相手が現れる。その相手が自分であると。 突然のことに戸惑いながらも不器用な王子の優しさに触れ、少しずつお互いのことを知り、婚約するハッピーエンド。 恋人になってからは王子に溺愛され、幸せな日々を送ります。 大人向けシーンは18話からです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

処理中です...