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本編
14.派遣破壊神の日常
しおりを挟む俺は今、ソファの端に追い詰められている。
限界まで端の方に寄った俺の頭の両側に創造神の腕が置かれていて、乗り上げられた創造神の体が重くて身動きが取れない。
「……ん、ん……」
そっと触れるだけのキスが繰り返され、いつの間にか深く口腔を貪られている。呼吸を奪われて息が上がる。
俺は「仕事をしないやつは嫌い」と言っただけなのに、いつしか奴の脳内では「仕事をこなせば俺を好きにできる」という都合のいい発言に改変されてしまったらしい。
何度も訂正したが、こいつの耳は特別製で都合の悪いことはカケラも脳に伝わらないように出来ている。
唇を好き放題されてぼんやりしていると、唐突に思い出したことがあった。
「そういえば……」
「なに、カイくん。考え事なんて余裕だね」
ちゅうちゅう吸われすぎてここ数日腫れぼったい唇を守ろうと顔を逸らすと、今度は頰や耳、首筋を吸われるので何が正しいのか俺には判断できなくなりつつある。
「お前、こうやってキスするようになった頃、俺のこと好きだって言ってたよな……」
「あ、それ今思い出すんだ」
創造神は俺の皮膚を嬲るのをやめて、身を起こした。
できの悪い子供を見守る親のような苦笑に、なんとなく身の置き所がない気持ちに襲われる。
そう、確かにこいつは「好きだからキスする」と言っていた。
俺にとっては数日前の首噛み切られ事件が青天の霹靂のように思われたが、実は全然そんなことはなかったのだ。
偏に俺が、創造神の言葉の意味を理解しようともせずに、向けられる好意を受け取ることすら最初から拒んでいただけだった。
ただ言い訳させてもらうなら、破壊神は他者に好意を抱かれるということがそもそも想定されていない存在だ。
悪意と害意には敏感に反応できても、好意は、もはや存在自体忘れている節がある。
これは俺だけじゃなくて破壊神全般が多かれ少なかれ持っている傾向だ。
俺が特別鈍感と言われてしまえばそれまでだが。
「も~カイくんまた眉間にシワ寄せて。癖になっちゃうよ?」
「寄せてない」
「俺はね、これからは全部言葉にすることにしたよ。そうしないとカイくんには全然伝わらないみたいだから」
「わ……悪かったな、鈍感で」
「ふふ。鈍感なとこも好きだよ、カイくん」
前髪をかき上げられて、額に口付けられる。こいつのこういうキザな仕草にもすっかり慣らされてしまった。
指を噛み合わせるように繋がれている手が視界に入る。
まるで拘束されているようだと思うのは、俺が色事に疎いせいなんだろうか。
こいつの行動にいちいち反応することすら億劫で、俺は諦めて目を閉じた。ここ数日疲れが溜まっている自覚がある。
実際あの日から、創造神は以前とは比べものにならないほど精力的に仕事をこなすようになった。
書類仕事は相変わらず好きではないようだが、実務の方だけでもこいつが本気を出せば俺の出る幕はほとんどない。せいぜい小さな創造物に手を入れ、地上の様子を逐一観察して環境を微調整するくらいだ。
最上級創造神というのは、力だけが有り余っている馬鹿に与えられる称号ではない。
すべての力を管理下に置き、世界のすべてを意のままに操れる存在に相応しい唯一の呼称だ。
だからこいつが本気で世界を管理し始めたら、俺の存在は不必要になる───。
ただ、地上に於ける創造の力の制御は完璧でも、創造神本体への影響は抑えられないようで、そこにはまだ俺の介入する余地はあった。
睡眠時の創造物の数が増え、質が上がって簡単に壊せないものも出るようになってきたので、俺のポケットにはいくつかのガラス玉が詰め込まれている。
時間があるときにちまちま削っているが、現状追いついていない。
爪や髪が伸びる頻度も上がって、先ほども創造神のふわふわ薄茶の髪を撫でながら切り揃えてやっていたのだが、なにが奴の琴線に触れたのか襲いかかられ今に至る。
「お前はまったく、堪え性ってもんがないのか」
「今最大限に我慢してるよ?」
「えっ」
これだけ好き放題していて、我慢しているというのか。どこが?
「キスだけじゃ足りないよ。この白い肌に痕を残したいし……」
「───っ!」
「たくさん触りたい。ここも、この奥も」
創造神の手が俺の表皮を服の上から滑らせて、胸元に触れる。もう片方の手が腹部を辿りながら脚の付け根へ、腰を撫でながら尻たぶの狭間に長い指が潜り込んでくる。
反射のように腰が跳ねて、次の瞬間には俺の両脚が目の前の不埒な男を渾身の力で蹴り飛ばしていた。
「いった……カイくんの蹴り、効いたよ……」
「うわっごめ───いやいや今のは俺は悪くねぇ! 謝らないぞ! なんてとこ触んだ!」
テーブルとソファの間に墜落した創造神から身を守るように体を丸める。
こういうスキンシップを続けている以上、もはやなにを言っても言わなくても俺が追い詰められるだけのような気がしてくる。
友達とは、距離感とは一体……。
「急に触っちゃったから驚いたよね、ごめんね。今度はちゃんと言ってから触るね」
「言わなくていいし触るな!」
「ゆっくり進もうね」
「進むかーっ!」
余裕のある笑みを浮かべる創造神の顔面にクッションを投げつけて、俺は自室に引っ込んだ。
信じられないようなところを触られたのに、不快感も嫌悪感もない───自分の体に対する戸惑いが隠せそうになかった。
これまで、朝起きたときに目の前に創造神がいることは何回かあった。
しかし今は、寝る前に創造神が俺のベッドに侵入してくる。
「もうちょっとつめて。あと枕ちょうだい」
「図々しいやつだな……」
少しスペースを空けてやると、温かい体がいそいそとベッドに入り込んできた。
シャワーを浴びて就寝用のジャージに着替えて、明日の仕事を確認して、部屋の電灯を消してベッドに潜り込む。
就寝前の一連の動作のうちのどこかで、似たような寝間着姿の創造神が俺の部屋にノックもなく入ってくる。
俺が書類を捲っているときは、先にベッドに横になって俺の作業が終わるのを待つ。
部屋の灯が既に消えているときは、そっと布団を捲って俺の横に滑り込んでくる。
当然最初のうちは抵抗したが、俺の寝室にカギがついていない以上こいつの侵入を完全に防ぐことはできない。
相手も当然そのことを心得ているのでタチが悪い。
結局俺が譲歩して、不埒なことはしないと約束させて好きにさせていた。
いっそ契約書でも作らせるかと思うくらい、俺はこの大事な睡眠の時間を邪魔されたくなかったが、イヤミなことにベッドの中でなにか仕掛けられることだけはなかった。
そういうところだけは外さないから強く拒絶することができずにいる。
「おやすみ、カイくん」
「……ん」
向かい合って眠るなんて絶対にお断りなので、創造神はいつも俺の背中側からおやすみの挨拶をする。
つむじにひとつキスを落とされて、むず痒さに体を掻きむしりたくなるのもいつものことだ。
他人が一緒のベッドで寝られるか、と思っていたのに、こいつが来る前も後も眠れない夜はなかった。
俺の体は睡眠欲に正直すぎる。
明らかに絆されている。マズい方向に、マズい速度で。
このままだと絶対に良くないと思っているのに、俺はこいつに敵わないからと自分に言い訳して、与えられるあたたかいものを拒めずにいるのは紛れもない自分だった。
破壊神と創造神が一緒に住んでいること自体レアケースなのに、その相手に口説かれている場合はどうしたらいいのか、誰に相談することもできない。
もし俺がこのまま、創造神を遠ざけることもなく、なし崩しになってしまったら……世界にどんな影響があるか。
背筋を駆け上った寒気を無理やり抑え込んで、俺は布団を被った。
背中に感じるぬくもりを無視するのは、とても難しかった。
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