触手とルームシェア

キザキ ケイ

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番外編

本当のすがた

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(注)全身触手モードの深谷が出ます


 _ _ _ _ _


 
 以前、深谷ふかやを裂いたことがある。
 正確には「さけるチーズ」のように、触手が絡まりあってできている腕を一本ずつの触手にほどく作業をやらせてもらった、だ。

 深谷という未確認生物は、全身が筋肉質な触手でできている。
 内臓や血管、肌理は存在するし怪我もすれば日焼けもするが、毛穴と体毛はほとんどなく、髪と眉と睫毛は極々細の触手がそれっぽく擬態しているだけらしい。ひげ剃りは今まで一度もしたことがなく、脛も腕もアンダーもつるっつるだ。
 心臓にあたる器官はうなじの下に存在し、そこを始点に背骨に沿って伸縮自在・太さや性質がさまざま違う触手を展開させる。
 これらは大変力持ちで、一番ベーシックな赤子の腕くらいの太さの触手なら、一本で二十キロくらい持ち上げられる。四、五本出せば成人男性を軽々お姫様抱っこできる計算だ。

 触手には種類がある。今のところ俺が見たことあるものは五つ。
 先述した、赤子の腕くらいの太さのベーシック触手。
 おそらく一番数が多い。主に物を持ったり拾ったり動かしたりするために出てくる。
 形は吸盤のないタコ足、色や質感は黄色人種のそれだ。根本にいくにつれて円柱状になり、生え際はちょっとくすぐったいらしい。どのような原理で出現、伸縮しているのかはじっと観察してもあまりわからなかった。
 次に見る機会が多いのは、先端が開く触手だ。
 勝手に口触手と呼んでいる。
 タコ足の先が十五センチくらいぱっくり開く。中は赤く襞のある粘膜になっていて、触れると少しザラついている。液体や飲料を舐め取ることが可能だが、固形物は食べないらしい。
 これと同じくよく見るのが、細触手。
 ちょうど俺の小指くらいの太さで、より繊細な作業や家具の隙間に落ちた物を取るときなどに出る。あらぬところをほぐす際にも見るが、説明は割愛する。
 たまに現れる極細触手というものもある。
 これは、深谷の体毛を形作っているのとはちょっと違うらしい。曰く体毛触手は引っ込めることはできても任意で動かせないが、この極細触手は自由に動かせるとのこと。感覚的には指だそうだ。
 細いので筋肉もほとんどなく、用途は限られる。特定の穴を埋める行為なんかで出されるが、割愛。
 最後は、滅多に見る機会はない内臓を司る触手。
 これは深谷を「さけるチーズ」した際、体躯を覆う表皮的な触手の奥にあるものだ。
 動かせないこともないらしいが、普段は動かすことはないという。人間で言えば真皮とか内臓にあたる部分だが、見た目は普通の触手で赤くもない。触手の中に臓器が収まっているという、説明されても想像しにくい部位を担当している。

 このように深谷 伊織いおりという俺の同居人、兼恋人は非常に不可解な構造の知的UMAだ。
 彼は普段スポーツ用品製造会社の正社員として働いている。
 容姿は人間にしか見えないし、不意に触手を出してしまわないよう己を律している。
 しかしてその正体は、俺の精気……いわゆる生命エネルギーを好んで摂取する凶悪な生物だ。
 俺のほうがヤツの精気摂取行為にまんざらでもなくなってしまったせいで、対外的に恋人という立場に収まったのだが、どんなに取り繕っても深谷が怪しい人外であることに変わりはない。
 そして俺は今、ヤツの最後の砦を崩そうとしているのだ。

「あの……さっきからなんですか?」

 他人から同居人、セックスフレンドと経由して恋人になった俺達は、まずはじめにベッドを買い替えた。
 今まではお互いの部屋にシングルベッドが一台ずつあって、セフレ的行為も気分によってどちらかの部屋でしていた。
 しかし深谷がこの度、大きくて二人で統一のベッド購入を強く希望した。反対派の俺と議論を重ね、最終的にじゃんけんで俺が負け、常に一緒に寝るハメになってしまっ……普段から恋人らしく過ごすことに相成った。
 より広い深谷の部屋にデカいベッドが設置され、俺のベッドは問答無用で粗大ごみに出された。
 それ以来夜は深谷の部屋で寝ている。
 別にくっつかなくても十分寝られる広さがあるのに、なぜか朝起きると深谷と足を絡め合うように抱き合って眠っている呪いのベッドだ。

 先程俺が風呂から上がって部屋に入ったら、深谷がすでにベッドに入っていた。
 覗き込んでみると珍しく寝ている。珍しくというのは、週末なのに精気摂取行為をせずにという意味だ。
 平日にもたまにやってしまうが、週末は必ずと言っていいほど本番行為を含めたセックスをしているので、拍子抜け……じゃなくて、安堵したのだ。
 ヤツと行為になだれ込むと、俺は快楽に我を失って身悶え、情けない声で喘いでしまう。セックスしないで済むなら肉体的負担もなくて楽だし、これ以上のことはない。
 だからそれとは全然関係なく、ただ俺が気になって、深谷の頬を形成している触手の継ぎ目を探していただけだ。ヤツを起こす気はまったく、これっぽっちもなかったので起こしてしまって申し訳ない気持ちはある。

「ちょっと、あらたさん」

 深谷の頬を撫で回していた手を取られる。
 やはり触手と言えど、意識のないときに触られるのは不快なものだろうか。
 こいつが寝ている俺にちょっかいを出していることを考えるとお互い様な気はするが。

「なんなんですか。もしかして剥がれるところ探してます?」
「お、よくわかったな」
「わかりますよそりゃ……でもなんでですか?」

 なんでと言われても。気になるだけだ。
 深谷が俺の家にルームシェア相手としてやってきた日、俺は襲われ、ヤツは俺のアナルで脱童貞した。
 その際ヤツはあまりの快感のためか、気を抜いたらしい。顔がぱらりとほどけ、触手になったのだ。
 深谷の正体が触手だということはそれまでで嫌というほど理解していたのだが、まさか体だけでなく頭まで触手で形成されているとは思わず、俺は間近で見たホラー映像に良い歳の男にはあるまじきマジ泣きをかましてしまった。
 その後は深谷に慰められて絆され、精気を奪られてしまったわけだが……それはもういい。
 それより問題なのは、深谷の今の人間フォルムはあくまでも気を張っている状態であり、顔を含めた全身が本来の触手形態に戻ってこそ、彼が最高にリラックスできるのではないかという点だ。
 深谷はリラックスしていればしているほど触手が出る。それは本人からも聞いたし、普段の様子から見てもわかる。
 曲がりなりにも恋人であるから、俺としては深谷により開放的になってもらいたいという健気な思いが無きにしもあらず。

「嘘でしょ。絶対面白がってるでしょ」
「バレたか」
「バレバレですよ。まったく……触手に慣れたと思ったら、今度は好奇心で顔を剥こうとするなんて。子供ですかあなたは」
「失礼な。おまえより年上だぞ」

 横臥していた深谷が身を起こし、対面で見つめ合う。
 深谷は俺の目を見ているが、俺は深谷の顔面の表皮を見ていた。普段は当然継ぎ目などないが、眠っている時や、意識して触手の接合を緩めた時には指でめくれるほどの隙間が生じる。
 腕や腹と同様、その隙間に手をかければ顔も幾束の触手に分かれるはずなのだ。

「はぁ……わかりましたよ。何がしたいのか今もってわかりませんが、新さんの気が済むのなら」

 その言葉と同時に、深谷の頬の下部、顎の辺りに切り込みのようなものが現れた。
 一見して古傷かなにかに見える、しかし明らかに異質なくぼみ。
 躊躇は一瞬だった。向こうの気が変わる前に、本当の深谷の顔を見てみたい。

「新さんの方から仕掛けたんですからね。……気持ち悪いって、言わないで」
「バカ。言うわけないだろ」

 続く言葉は飲み込んで、指を掛ける。人差し指がすんなりと埋まり、ずぶずぶと埋まっていく。
 抵抗らしい抵抗がほとんどないまま、深谷の顔はいくつかの触手に分かれながらパラリと分裂してしまった。シュルレアリスム絵画を彷彿とさせる、人体を冒涜するかのような非現実的な光景だった。

「もしかして今って話せない、か?」

 首から下が原型を保った深谷のようなものは、現在まるっきりイソギンチャク人間だ。
 浅慮なことに、俺は分解した深谷と対話する方法を失ったことに今気づいた。深谷の唇は上顎と下顎で分裂してしまったのだ。舌と声帯だけあっても日本語を発話するのは難しい。
 どうしようかと唸っていたら、ウネウネと揺らめく触手の中から二本が進み出てきて頭を垂れた。そこには見覚えのある……よりも小さめで黒っぽい目が二つ、俺をじっと見上げている。
 その後ろから、細い触手が俺に向かって伸ばされた。極細触手の細さだ。
 一度俺の頬に着地した極細触手は、なんと俺の耳穴に素早く入り込んできた。

「わっ! ───あ、おぉ!?」
『聞こえますか?』
「聞こえる、聞こえる!」

 なんとその極細触手から、深谷の声がするではないか。
 俺は興奮しながら耳を手で押さえ、何度も頷く。頭を振る度に耳の中で触手が擦れるカサコソ音がしたが、そのうち触手が位置取りを変えたためか気にならなくなった。

『ここまで分解しちゃうと口では話せないので、これで』
「わかった。いやそれにしてもやっぱチートだなおまえ。こいつ直接脳内に、ってやつかと思ったよ」
『そういうのもできるらしいです。この触指をさらに細く拡散させて、神経に直接繋ぐっていう』
「ヒッ……け、結構です」
『そうですか。今は骨伝導みたいな仕組みでしゃべってるので、このままにしときますね』

 深谷は平然としている。俺はとりあえず脳を直接犯される危機が去ったことでホッと胸を撫で下ろした。
 やはり触手生物というのは本来恐ろしいものなのだろう。
 そこまで考えて、深谷のことを全然恐ろしいと思っていない自分に若干不本意なものを感じつつ、本題に入る。

「どうだ、やっぱその姿の方が開放感あるか?」
『うーん……まぁ、無いと言えば嘘になりますけど。でもさすがに人間離れしすぎてて、見て楽しいものじゃないでしょう?』
「んなことねーよ。確かに最初見たときは泣いちまうくらい怖かったし、今も人間と同じとは思えないけど……でもおまえって普段から規格外生物だからさぁ」
『いいんですよ、無理しないで。新さんに無理してほしいわけじゃないんです』

 おや?
 いつもはウザいくらいぐいぐい来る押しの男深谷が、妙にネガティブ思考だ。頭を構成していた触手も心なしかしんなりと俯いている。
 人間の顔がないというのは、俺だけでなく本人にとってもセンシティブな状態なのかもしれない。引っ越し当日に初手で正体バラしてきたこの男がそんなに繊細な心の持ち主だと思ってなかった、という本音はさておき。
 俺は深谷の肩を掴み、伏せられがちの目に顔を近づけた。

「この状態でセックスするぞ」
『……は?』
「いやこのままっていうのは違うな。首のとこ以外はバラバラにできるんだろ? 一番ほぐれてる状態でヤろう」

 顔はなくてもポカンとしていることがわかる深谷を置いてきぼりにして、俺はさっさと寝間着を脱ぎ始めた。
 元々今日はそのつもりだったから、何もせずに寝るのが物足りないという思いはあるが、それより今はションボリしている恋人をどうにか励ましてやりたいという気持ちが強い。
 しかし深谷には俺の想いが届いていないようで、しっかり着込んだパジャマの第一ボタンすら外さない。仕方がないから俺がやってやろうと伸ばした手が掴まれる。

『本気ですか? ていうかなんで突然……』
「突然じゃない。ずっと考えてたことだ」

 俺はいつだって深谷から奉仕を受ける側だ。
 それは俺の腕が二本しかなくて、一方のこいつは腕が何十本とあるから、相手を気持ちよくさせようとしたら格差があるのは仕方ない。だからといって俺が怠慢なだけでもない。
 例えば俺が深谷の性感帯を探ったり触ろうとしたりしても「俺はいいですから」とやんわり断られてしまう。
 ボトム側のご奉仕として一般的なフェラチオにしたって、挿入直前までヤツの性器は露出しないのだ。いざ挿入となる頃には俺は前後不覚になっていて触るどころの話じゃない。
 そうなると俺ばかり受け取っていて、同じ行為を二人きりでやっているというのに役割が釣り合わないのだ。

『……いや新さん、根本的なところ忘れてませんか? 俺はあなたの生命エネルギーをもらってるんですよ?』
「だってゲイカップルなら唾液とか精液飲むのも別に変じゃないっていうし。それなら結局俺がマグロなことに変わりはないだろ」
『待って何情報ですかそれ。他のゲイカップルの性事情なんて誰から聞いたんですか。いつどこで。浮気ですか』
「浮気じゃねーって! ネット情報だよ。そもそも俺だって男なんだから、パートナーにはもっと気持ちよくなってほしいもんなんだよ!」

 触手から生えている黒い目がぱちくりと瞬いて大きく見開かれる。
 こういうときの仕草は人型のときと変わらない。なにか変なことを言ったかと思ったが、骨伝導で「パートナー……」と呟きが聞こえてきたので、ただ俺の発言を喜び噛み締めているだけだとわかった。

「だが現実問題、おまえは全身触手だからあんまり性感帯とかないみたいだし、あのグロチンは俺が手や口でフェラするにしてもデカすぎるし……満足してもらえるかわかんないだろ? それに引き換え、触手を開放してするセックスなら満足度高いかもしれない……と思ってさ」
『あ、新さん……俺のこと、そこまで考えて……』
「あとは単純にタコっぽいイソギンチャクとセックスするってどんなもんなんかなっていう好奇心」
『台無しですね!』

 自分でも知らなかったが、俺は性的なことに対する好奇心が人一倍強いらしい。
 思えばカノジョとの性生活に不満はなかったのにアナニーしたり、触手男から迫られても結局断らなかったりと、以前から片鱗はあった。
 そもそも深谷とする行為はほとんどが非日常で常識の範囲外にあるのだから、今更恋人の見た目が半分人外から全部人外に変わったところでどうということもない。

『いやぁ……普通の人ならそこは思いとどまる一線だと思いますけど』
「なんだよ。じゃあおまえはやりたくないのか? 触手の本能を抑え込んで、人型を無理矢理保ったままセックスするだけで本当に満足なのか!?」
『この人のバイタリティはどこからくるんだろ』

 いつもは押せ押せな深谷が今日ばかりは押され気味だ。人間様の好奇心なめるなよ。

「それにおまえ好きだろ? 俺のバイタリティ生命力溢れるところってさ」

 未だ形を保ったままの深谷の手にキスを落として、甘噛みしてみる。
 ここまで誘っても断られるならダメかな、と思っていたが、耳穴の触手からわざとらしく声に出した溜め息が聞こえてきた。

『はいはい、わかりましたよ。その代わり嫌になっても俺の気が済むまで付き合ってもらいますからね』
「上等だ、受けて立つ!」
『ケンカじゃなくてセックスするんですよね俺たち?』

 前開きのパジャマシャツを素早く脱ぎ捨てた深谷の体は、ウネウネと蠢く触手に戻り始めている。
 俺はにんまり笑って触手の密集地に身を投げだした。



 そんな会話をしたのが数時間前。
 今俺はぶっちゃけ、後悔している。

「あー……あ……」
『新さんもっと腰上げて。気が済むまで付き合ってくれる約束でしょ』
「ふ、ぅあ……も、むりぃ……」

 卑猥な音を立てて後孔から抜け出た生殖器は、自らの出したものでぬらぬら光って全く衰える気配がない。
 極太触手チンコをハメっぱなしにされた俺のアナルはもはや閉じ方を忘れ、何度もナカで出された白濁をこぽこぽと溢し続けている。触手に嬲られ続けた俺の陰茎はもはや勃つことなく、出すものもなくなって開店休業状態だ。

『ほら、ナカで出したものこぼさないで。ちゃんと飲み込まないと明日つらいですよ』
「やっ、ぁ、あー……」
『またイっちゃった?』

 さっき抜かれたばかりの触手性器を再び押し込まれる。もはやイったときの声すらほとんど押し出されてこないのに、体は律儀に反応してしまう。
 俺の息子はしょんぼりしてる反面、乳首はビンビンに元気だ。
 赤く濡れて主張している粒をぴんと弾かれるだけで、腰ががくがく揺れてナカをぎゅうっと締め付ける。
 出すものがない空っぽの陰嚢を揉み込むように愛撫されてまた視界が白く染まる。
 口のように開く触手が鎖骨のあたりにちゅうっと吸い付くその刺激さえ、ダイレクトに体内に伝わってしまう。
 こんなのはもう地獄だ。快楽漬けにして殺すためにやっていると言われても納得してしまいそうだ。

『さっきの勇ましい新さんはどこ行っちゃったんだか。さ、もっと頑張って。俺はまだ二回しかイってないですから』

 とんでもない鬼畜発言をかましている深谷は今、人間の原型をまるで留めていない。
 もし誰かが今の俺たちの姿を見たら、人がイソギンチャクの化け物に襲われているとしか認識できないだろう。触手としての本来の姿となった深谷は全く意思疎通も説得も通じない生物にしか見えない。
 イソギンチャクの怪物といえば聞こえがいい方だ。
 実際は色白のタタリ神といったところで、ウネウネと絶えず蠢いている触手たちが余計に恐ろしく、危険生物感を増している。
 黒目がちの二つの瞳以外、人型の面影を感じる部位はない。俺の声は聞こえているからどこかに鼓膜はあるのだろうが、耳殻は見当たらない。骨伝導で直接言葉を伝えてくるから口もないし、傍目には俺が一人で喋ってるようにしか映らない。
 もっともこんな場面を誰かに見られたら、なんて想像したくもないが。
 人外生命体としか言いようがない触手によって、俺は何度も絶頂しては精気を吸われている。抵抗すらしていない。

(エロマンガで言えばすでに快楽堕ちエンドを迎えてるよな……)

 凶悪な生殖器にナカを抉られながら、俺は妙に冷静に状況を捉えている。
 突き上げられるたびに情けない喘ぎ声が漏れるが、抗わない。深谷が満足するまで俺の体を使ってくれればそれでいい。

「あっあっ……ふか、や」

 触手の塊に向かって腕を伸ばすと、何本かこちらへ伸びてきた。そのうちの一本に指を絡めて口づける。
 横たわる俺の体に乗っかっているように見えるタタリ神深谷は、その実一切重さをかけてきていない。抑圧された人型を捨てて自由にしていいと言ったのに、決して配慮を忘れない恋人が愛おしくて堪らない。
 ちゅうちゅうと吸い付いていた触手に軽く歯を立てると、甘い粘液がじわりと滲み出てきた。それを舐め啜りながら、ふと思いつく。

「……いおり」

 その途端、俺の腹ごとナカのものがびくっと大きく震えた。
 すでにたぷたぷに感じるほど中出しされている腸内に、さらに大量の触手精液が放たれる。射精する生殖器のうねりで再び軽くイった俺を、触手の瞳がじっと見つめてきた。
 いやこれは、睨まれているのか。

『ちょっと新さん。それ反則です』
「は、はは……なまえよばれただけで出しちゃった?」
『そうですよ。今まで名前なんて呼んだことなかったじゃないですか……覚えてないと思ってたのに』
「こいびとの名前、わすれるわけないだろ……」

 イソギンチャクを束ねるような感覚で腕を回し抱きつく。
 触手の射精は長い。断続的に何度も出すので、そのたびにナカが蠢き快感が発生するが、今は深谷を出し抜いてやったという達成感が強くてつらくはない。

「伊織」
『……っ、ちょっと、新さん』
「伊織、かわいい俺の伊織」
『ちょ、もうやめ……っ』

 肌色の触手にぽつんと生えている黒い目がぎゅっと瞼を閉じて、再び開くと同時に大粒の涙がぽろりと零れた。

「えっ!?」
『だからやめてって言ったのに……』
「ごめん! な、泣くほど嫌だったのか!?」

 俺は慌てて上半身を起こし……たかったが、のしかかっている巨体と尻に突き刺さっている触手のためにろくに身動きできなかった。仕方ないので腕だけ伸ばして、ぼたぼたと流れ続けている涙を必死に拭う。

『嫌だったんじゃなくて……この姿だと、五感が鋭くなるというか。些細なことも強く感覚に現れてしまうみたいで』
「えぇと、それは、つまり?」
『嬉し泣きですね』

 淡々と耳に響く声と内容のギャップが激しくて笑ってしまった。
 やはり俺の仮説は正しかった。無理をして気を張って保っている人間の姿より、今の触手の姿の方が深谷は自然なんだ。動作も五感も感情も、ずっと自由にしていられる。
 それこそ、俺が名前を呼んだだけで嬉し泣きしてしまうくらい、本来の彼は感情豊かないきものなのだろう。

「そっかー、伊織くんは俺に名前呼ばれると嬉しいんだー?」
『そのふざけた口調やめてください』
「じゃあもしかして、今もいつもより気持ちいいのか?」

 常日頃から俺の体を好き放題しておいて気持ちよくないと言わせる気はないが、この姿の感覚が鋭敏ということは、普段よりもっと快感を強く得られているのではないか。
 俺から見ればヤってることはいつもと同じ(か、それよりねちっこい)くらいだが。

『はい。新さんのカラダはいつだって最高ですが、今は特に気持ちいいです。こんなに感覚に違いがあるなんて、自分でも驚きました』

 ようやく涙が止まった深谷が、深く感じ入ったような声で答えた。
 やっぱりか。普段は長時間挿入しっぱなしのくせに一回か二回くらいしか吐精しない遅漏のこいつが、同じくらいの経過時間ですでに三回出していることを考えると違いは明らかだ。
 中出しされる回数で満足度を測るのはどうかと思うが、男にとっては何よりもわかりやすい指標である。

「そうかそうか。俺が体張った甲斐があったなぁ。じゃあそろそろ満足したか?」
『いえ、全然』
「え?」

 どちらかといえば遠慮気味に絡みついていた触手が、隙間を無くすように執拗に巻き付いてくる。
 ナカに挿入ったままの生殖器がぐっと質量を増した気がして、俺は反射的に後ずさろうとして、できなかった。

『本来の姿に戻ったせいか、普段抑えてきた反動なのか……今、全身に力が漲ってるんです。今なら一日中ハメっぱなしで新さんを満足させられると思います』
「そんなこと望んでませんけど?」
『まぁまぁ。せっかく今こうして楽しめてるんだし、チャレンジしてみましょう。新さんがかねてからご希望だった苗床産卵プレイも今ならできるかもしれないし』
「ご希望したんじゃなくて嫌がったんだよそれは!」
『やっぱり真上から種付けプレスされながら「おらっ孕め!」とか言葉責めされたいですか?』
「絶対やだーっ!」

 淫猥な水音をぐちゅぐちゅと鳴らしながら生殖器を抽挿され、俺は泣いた。
 嬉しくない方の意味で、羞恥も矜持もかなぐり捨てて泣きながらやめてくれと懇願した。
 でも考えてみれば、鬼畜人外の深谷がベッドの中で俺のお願いを聞いてくれたことなんてほどんどないわけで。

『ほら見て、新さんのここ、俺の太さでぽっかり開いて閉じなくなっちゃった』
「ゃ、やだぁ……おれのおしり、こわれちゃう……」
『大丈夫、人間ってそんな簡単に壊れませんから。あ、いきなり抜いたら寂しいですよね。また埋めてあげますから』
「もうや、ぁあ、だめ……あ、あーっ……」

 結局涙が枯れるまで、俺は泣かされる羽目になった。
 その後話し合いの結果、触手形態での精気供給は三ヶ月に一回未満、かつ俺の体調が良い時のみと決まった。深谷は極めて不服だと異議申し立てしていたが、最終的にはじゃんけんで俺が勝って承諾させた。
 本当に一日中ハメられっぱなしだったかどうかは……割愛する。
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