虹虹の音色

朝日 翔龍

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第3章 MIRA CREATE!

第7話 命声

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 結成してから1ヶ月。中等部には文化祭までじゃないけれど、文化週間というものがあって、その週間は文化部が放課後に講堂を使って大勢の前で何か披露しなければならない。
 そこで何を披露するかということで僕達はフォルテゾンの練習スタジオを使って軽くお茶をしながら話していた。

「はーい! この6人でライブしたいでーす!」
「できるわけないでしょ、他校の連中と」
「うん。先生に怒られると、思う」
「そうだな。まあ演奏は俺達いなくてもできるだろうし、そっちでやれば良いだろ?」
「しかも俺っちの学校、その週はテストだし」
「参加してる余裕ないんだが」

 とのことで、話し合いの結論は羽丘の3人だけで演奏することになった。
 まあ当たり前だし、見え透いてた結果だったけれど。

「この話し合いを提案したのは武尊だけど、この結論で良いの?」
「うん。でも、大勢の前で、この6人で演奏、したいなって」
「それだったらここでやれば良いだろ? な? あとよ、そのライブ俺達も行って良いか⁉︎」
「え、どうだろ……関係者なら、良かったはず……?」
「まあそれはそれとしてだな。うちの親父が経営してるから料金どうなるか分かんないって前にも話しただろうが」
「ケン! お金じゃなくて演奏したいんだっての!」

 言い争いが始まりそうになり、僕はまた俯いて耳をシャットアウトしようとした。

「あ~、あのさ! お金とか、そういう話はやめにしよ! 音楽が好きなままライブやれば良いし、ね!」
「まあ、だな」
「優姫にしては良いこと言うじゃん」
「へっへーん。これでも部長だかんね!」
「部長……俺さ、プリンスマルシェのリーダーやってたんだ。どっちが上か、勝負しねぇか?」
「え。部長とリーダーって別物でしょ?」
「『ズコーッ!』」

 優姫のあまりに酷い認識の違いに、彼女以外の全員は椅子から転げ落ちた。

「え、え~っ⁉︎ 今私、変なこと言った⁉︎」
「思い切り言ったよ、自覚ないとかマジ?」
「逆に聞くけどよ、お前にとって部長ってなんだ?」
「え、音楽好きでいつもニコニコしてる人!」
「うわっ、これマジの目だ」

 初めてかもしれない。和矢くんがドン引きしてるとこ見るの。

「だから和矢はリーダー、私が部長ね!」
「あ、あぁ……そうするわ」
「リーダー……えと、よろしくお願いします、リーダー!」

 僕はリーダーとなった和矢くんに向かって、深々と頭を下げた。

「……ッハハ! なんで頭下げんだよ。それじゃあ練習再開するか~っ!」

 床から立ち上がると、リーダーはノビをしながら台に置いておいた自分のベースを手に取った。

「うん。新曲もあともう少しで完成だし!」
「でも、リーダー……本当に僕の歌詞で良いの?」
「ん、あぁ。まあ、あれで良いだろ?」
「リーダーがいいなら、僕も良いよ!」

 僕の詩を歌にしてくれたリーダーに、僕は温かい感情を覚えて微笑んだ。

「ちょ、そんな顔私にも見せてくれないじゃん!」
「まあ良いだろ。ほら、早く準備しろ」

 賢足郎のその声で、他の3人も準備を始める。左からリーダー、勇夢、僕、僕の後ろに賢足郎、僕の右に生維、その右に優姫という順に並んだ。
 これが、僕達の定位置ともなっている。

「そうだ! せっかくこうやってバンド組んだわけだし、この練習風景を映像に残しとこうか!」
「残してどうするの?」
「SNSで宣伝、でライブの客寄せ!」
「良いじゃんそれ! 私やりたい!」
「俺っちもカッズーの言う通り!」
「別に客が来るなら良いんじゃねぇか?」
「私はあまりやりたくないけど……武尊、お前は?」
「え? べ、別にどっちでも、良い……かな」
「じゃあ多数決で決定だな!」

 リーダーは自分の提案が通ったことに張り切り、鞄からスマホを取り出して僕達がちゃんと映るようにスマホ台を固定させていた。

「カメラ……これでよし。オッケー!」
「じゃあ、やるよ。『命声めいせい』」

 僕の合図とともに、賢足郎がスティックで4拍リズムを刻んだ。序奏はなく、いきなり歌い出す曲。リズムが刻まれる間に僕は息を整え、そして歌い出した。

「路地裏に舞い込んだ枯葉 誰かの声と共に落ちた 僕はそれを抱えて 交差点へ抜け出した
 聞こえる声はいつもいつも 誰かを見下していて 見えそうな自分を 隠し続けている

 将来なんて分からないけど 1秒先だって見えない世界で 僕達は苦しみ傷ついて生きてる だから

 命を燃やして僕は叫びたい 生きてきた僕が感じた全てを 踏まれ潰されないように キラリキラリ光る空を見上げて 僕は見つけたいんだ 自由に羽ばたける翼を その日まで 離さないから



 三日月を眺めていたら 1つの星が夜空そらを駆けた きっと願いを乗せて そのまま落ちるだろう
 過ぎてく瞬間ときは今もどこか 僕らを見守っている 無口なままでも 風で背中を押す

 僕にもこれは分からないけど 泣きたいときには泣けないくせに 笑いたいときに笑えてしまうんだ だから

 いつも手遅れで壊れてしまう だからこそ僕は探してしまう 一生ものの宝物を ギラリギラリ熱い太陽信じて 僕は手にしたいんだ 始まりを繰り返す翼を その日まで そばにいるから



 日陰に消えた夢を集めて この手でガラクタを輝かせる 何を言われても絶対譲れない だから

 命を燃やして僕は叫びたい 生きてきた僕が感じた全てを 踏まれ潰されないように キラリキラリ光る空を見上げて 僕は見つけたいんだ 自由に羽ばたける翼を その日まで 離さないから

 命を宿す心から叫びたい 枯れ果てた夢に集った光を 僕は言葉に変えていく ユラリユラリ揺れる木々が生む風を 僕は信じてるから 自由に羽ばたける翼を 作り出す 離さないから ずっと ずっと そばにいるから」

 やっぱり気持ちが良い。6人と一緒に、路地裏から抜け出して強い風が吹く交差点の中を駆け抜けているみたいだ。
 言葉にできない思いを、また風がこの背中を押して、音に乗せてくれる。自然の風じゃない、みんなの音色が生み出す風だ。僕の不器用な言葉を、受け止めてくれている。あぁ、この場所ならきっと、未来がある。終わっても終わらない、始まりを繰り返す場所。一生ものの宝物は、ここにあった。
 
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