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第2章〜不死編〜
第139話「竜王」
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『竜王さまっ!』『なんだその呼び方は。父と呼べ』『どうして助けてくれたの?』『‥‥‥なんとなく』『名がないのは不便だな、よし、貴様は今日からルファだ』『おとうさま、大好き』『ふ、ふふん。そうかそうか』『おとうさま!とうさま!!』『やめろ、離せ!その子だけは!やめろぉ!!』『ゆるさん、人間‥‥‥お前らを私は、私はっ!!!』
「おい、しっかりしろ!」
倒れた我を揺さぶるガルム。気を失っていたのは1秒か、2秒か。数年分の記憶を凝縮したような走馬灯が脳内を駆け巡った。
パディングの言っていた思い出す記憶はこのことか。どうせなら最初に目覚めてから思い出してほしかった。
頭がパンクしそうである。同時に、自分じゃない誰かが中に潜り込まれたような奇妙な感覚もある。
なんだろうな。不愉快でもなければ違和感があるわけでもない。漠然とした意味不明の感情が我の中でうごめいているのだ。
「うーむ‥‥‥」
「お、おぉ無事だったか」
ガルムがホッとしているのを見てから、シオンたちの方を見てみる。
なんだか声が聞こえると思ったらシオンがなんか叫んでるのが見えた。多分我の無事を確かめたいのだろうな。サエラに至ってはこっちに来ようとしてフィンに止められている。
ふむ、普段は聞こえなかったり見えない距離でも感じ取れるようになっている。身体も爆風を受けた割には痛みもない。
記憶が戻ると同時に肉体が変異したのかもしれん。肉体が変化したから記憶も戻ったという逆の流れかもしれないが。
「ガルムよ」
「なんだ?」
「ベタとガマは我が止める」
「はぁ!?バカ言ってんじゃねぇ!今のお前で勝てるわけないだろ!」
ガルムにそんな提案をしても止められることは予想できていた。だが、頭ならベタとガマとでもやりあえる気がするのだ。
何故だかわからんが、身体の動かし方とか、魔法の使い方とか、そういうのが一瞬で頭に入ってきたのだ。同じことを言うが、まるで誰かの記憶が入り込んだようである。
「《マインドショック》」
「!?」
ガルムに向かって手をかざし、魔力を操り方式を構築する。《マインドショック》は精神に魔物の咆哮のような威圧を与え、一時的に身体の動きを止める魔法である。
「すまん」
「おま‥‥‥魔法使えたのか?」
「使い方を思い出したというか」
「なんかお前、いつもと雰囲気が違うぞ」
ガルムから指摘を受けて、我はつま先から自身の身体を見下ろす。
そうかの?そうかもしれん。拳を握って空を見上げる。
「今なら爆発を食らってもアフロにはならん気がする」
「てめーふざけてる場合じゃ」
「そんじゃのっ!」
「あっ!?」
動けないガルムを置いて、我は地面を蹴ってベタとガマの方に飛びかかる。
ただジャンプしたわけではなく、足の裏に火の魔法で軽い爆発を起こし、推進力を高めたのだ。飛躍的に上昇した移動速度はあっという間に我をベタとガマの元に連れて行く。
爪に魔力を流し、紫色に変色させる。かつて勇者と斬り合いをしている時に使っていた肉体強化の応用である。
この爪を振るえば岩どころか鋼鉄すら切断し、全盛期時のエネルギーがあれば山ごと切り刻むこともできる奥義だ。
通常、人間に向けて使う技ではないが、ベタとガマは通常の概念に当てはまる人間ではない。
「いいかげんやめろ。二人とも」
「あア"っ!」
「ヴゥッ」
ベタとガマの興奮状態は極限の域まで達していたらしい。これが竜人としての特性なのか。
我が眠ってる間にどれだけの戦闘があったかはわからんが、周囲が来た時よりも平地が増え、クレーターや瓦礫の山が積み上がってるのを見ると相当な規模で闘いがあったのは間違いない。
過剰な戦闘と、我が倒されたことによるストレスで暴走したのか。子供の肉体のせいで感情とエネルギーのコントロールが上手くいってないらしい。
この手のバーサーカーを止める手段はたった一つ。気が済むまで暴れさせ、頭を冷やすことだ。
「「ッ!!」」
ベタとガマが武器である長い鎖を、己の手足のように振り回す。巨大なタコの触腕を相手にするような気分だ。神経が通ってるのではないかと思うほど、鎖は我に襲いかかってくる。
「はあっ!」
我の爪と鎖が激突する。ギリギリと火花を散らし、普通当たれば跳ね返る鎖が反発するように我に押し向かってくる。
魔力で強化してるようだ。竜の一撃を耐えるほどの力があるとはな。ふふ、さすが我の‥‥‥
「っ!」
感心してる場合ではなかった。ベタとガマは魔力で鎖を固定していたのか、武器を手放して白兵戦を仕掛けてきた。
左右から別々の場所から飛びかかってきて、それぞれ蹴りと拳を突きつけてくる。
我は翼を広げ、一時的に巨大させて盾にした。それぞれの攻撃が翼の硬質化した皮膜に当たり、ギャリギャリと鈍い音を発せる。
「ヴううっ!」
「ガァっ!」
衝撃で我の身体が痺れているところにベタはガマの手を掴み、ぐるんとその場で一回転する。遠心力を加えたところでガマが二度目の蹴りを繰り出し、我の防御を力づくでねじ伏せようとしてきた。
「ぬぅ!」
流石に耐えきれん。翼がこじ開けられ、地面に向かって叩き落とされる。
さらに今度はガマがベタを振り回し、我と同じ方向に片割れを投擲する。我と違い抵抗してないベタは、我より先に地面に着地した。それは先回りだ。
ベタは手に《ブラット・ボム》と同じ破壊魔法を形成すると、ちょうど降ってきた我に向かって爆発を放った。
即座に魔力で肉体を強化し、爆風に耐えながら吹っ飛ばされる。翼が灰になって燃やされた。
鈍い痛みを感じる。すぐに再生するが、やはり二人の攻撃は一度でも喰らうと致命傷になりかねん。
足の爪を生やし、ガリガリ石畳の地面を削りながらブレーキをかける。目の前を見ると、すでに追撃を与えるために鎖を回収したベタとガマが迫ってきているのが見えた。
「ふむ、昔よりは戦い方が上手いな」
下手したら負ける。そう感じた我は全身の魔力に意識を向ける。
イメージは太陽。血が沸騰するように身体全体に破壊の力が宿る。
肉体がひび割れ、隙間から火を通した木炭のように赤く光り輝いた。
竜の自爆魔法《業火》。グロータルを倒した時に使った必殺技である。
「ウーロさんってば!その技は危ないですよー!!」
下の方でシオンが我に向かって叫んでいる。おっと、この技が危険なことはシオンも知っていたな。
我が不死だからこそ使える能力だが、それでも大きく体力を消耗してしまう。
だが心配するでない。基本的に敵を道連れにするために使う技だが、用途はそれだけではないぞ。
火や水、風に雷。対象にダメージを与える攻撃的な魔法は人間は《破壊魔法》と総称されているらしい。
ならば火がベースとなるこの《業火》も大きな枠組みで捉えれば破壊魔法に分類されるはずだ。
魔法であるなら、ガルムが風をまとうように武器や体にエンチャントができるということ。《業火》も例外ではないだろう。
「はぁあああっ!!」
己を鼓舞するために気合いの叫び声を上げつつ、《業火》を肉体に馴染ませる。身体を常に発熱させ、手足そのものを魔法発動体として意識する。
今の我は側からみれば、固まったばかりの溶岩が動いているように見えているだろう。膨大なエネルギーが消化されるのと同時に、強大な力が湧き上がる。
ふ、ふふ、ははっ!
「はははっ!ハーハッハッ!!」
我は高笑いしながらベタとガマに突っ込む。二人も我が変化したのを感じ取ったのか、迎撃する姿勢を見せる。
が、二人も笑っていた。鎖を鞭の如く振り回し、鎖そのものに爆発属性を付与したのか当たったものが手当たり次第に爆破していく。我も当たってくる鎖を《業火》で弾き飛ばしながらベタとガマとの距離を詰める。
炎が通った爪を振るえば鎖が巻きつき、腕をへし折ってきた。すぐに再生させ無理やり拳を二人に打ち込むと、呆気なく吹っ飛ぶがすぐに復帰してくる。
足元を小さく爆破させて、空中戦を仕掛けてくる。我も翼を広げて応戦した。
我は久しぶりに、戦いの中にある高揚感を感じていた。
「おい、しっかりしろ!」
倒れた我を揺さぶるガルム。気を失っていたのは1秒か、2秒か。数年分の記憶を凝縮したような走馬灯が脳内を駆け巡った。
パディングの言っていた思い出す記憶はこのことか。どうせなら最初に目覚めてから思い出してほしかった。
頭がパンクしそうである。同時に、自分じゃない誰かが中に潜り込まれたような奇妙な感覚もある。
なんだろうな。不愉快でもなければ違和感があるわけでもない。漠然とした意味不明の感情が我の中でうごめいているのだ。
「うーむ‥‥‥」
「お、おぉ無事だったか」
ガルムがホッとしているのを見てから、シオンたちの方を見てみる。
なんだか声が聞こえると思ったらシオンがなんか叫んでるのが見えた。多分我の無事を確かめたいのだろうな。サエラに至ってはこっちに来ようとしてフィンに止められている。
ふむ、普段は聞こえなかったり見えない距離でも感じ取れるようになっている。身体も爆風を受けた割には痛みもない。
記憶が戻ると同時に肉体が変異したのかもしれん。肉体が変化したから記憶も戻ったという逆の流れかもしれないが。
「ガルムよ」
「なんだ?」
「ベタとガマは我が止める」
「はぁ!?バカ言ってんじゃねぇ!今のお前で勝てるわけないだろ!」
ガルムにそんな提案をしても止められることは予想できていた。だが、頭ならベタとガマとでもやりあえる気がするのだ。
何故だかわからんが、身体の動かし方とか、魔法の使い方とか、そういうのが一瞬で頭に入ってきたのだ。同じことを言うが、まるで誰かの記憶が入り込んだようである。
「《マインドショック》」
「!?」
ガルムに向かって手をかざし、魔力を操り方式を構築する。《マインドショック》は精神に魔物の咆哮のような威圧を与え、一時的に身体の動きを止める魔法である。
「すまん」
「おま‥‥‥魔法使えたのか?」
「使い方を思い出したというか」
「なんかお前、いつもと雰囲気が違うぞ」
ガルムから指摘を受けて、我はつま先から自身の身体を見下ろす。
そうかの?そうかもしれん。拳を握って空を見上げる。
「今なら爆発を食らってもアフロにはならん気がする」
「てめーふざけてる場合じゃ」
「そんじゃのっ!」
「あっ!?」
動けないガルムを置いて、我は地面を蹴ってベタとガマの方に飛びかかる。
ただジャンプしたわけではなく、足の裏に火の魔法で軽い爆発を起こし、推進力を高めたのだ。飛躍的に上昇した移動速度はあっという間に我をベタとガマの元に連れて行く。
爪に魔力を流し、紫色に変色させる。かつて勇者と斬り合いをしている時に使っていた肉体強化の応用である。
この爪を振るえば岩どころか鋼鉄すら切断し、全盛期時のエネルギーがあれば山ごと切り刻むこともできる奥義だ。
通常、人間に向けて使う技ではないが、ベタとガマは通常の概念に当てはまる人間ではない。
「いいかげんやめろ。二人とも」
「あア"っ!」
「ヴゥッ」
ベタとガマの興奮状態は極限の域まで達していたらしい。これが竜人としての特性なのか。
我が眠ってる間にどれだけの戦闘があったかはわからんが、周囲が来た時よりも平地が増え、クレーターや瓦礫の山が積み上がってるのを見ると相当な規模で闘いがあったのは間違いない。
過剰な戦闘と、我が倒されたことによるストレスで暴走したのか。子供の肉体のせいで感情とエネルギーのコントロールが上手くいってないらしい。
この手のバーサーカーを止める手段はたった一つ。気が済むまで暴れさせ、頭を冷やすことだ。
「「ッ!!」」
ベタとガマが武器である長い鎖を、己の手足のように振り回す。巨大なタコの触腕を相手にするような気分だ。神経が通ってるのではないかと思うほど、鎖は我に襲いかかってくる。
「はあっ!」
我の爪と鎖が激突する。ギリギリと火花を散らし、普通当たれば跳ね返る鎖が反発するように我に押し向かってくる。
魔力で強化してるようだ。竜の一撃を耐えるほどの力があるとはな。ふふ、さすが我の‥‥‥
「っ!」
感心してる場合ではなかった。ベタとガマは魔力で鎖を固定していたのか、武器を手放して白兵戦を仕掛けてきた。
左右から別々の場所から飛びかかってきて、それぞれ蹴りと拳を突きつけてくる。
我は翼を広げ、一時的に巨大させて盾にした。それぞれの攻撃が翼の硬質化した皮膜に当たり、ギャリギャリと鈍い音を発せる。
「ヴううっ!」
「ガァっ!」
衝撃で我の身体が痺れているところにベタはガマの手を掴み、ぐるんとその場で一回転する。遠心力を加えたところでガマが二度目の蹴りを繰り出し、我の防御を力づくでねじ伏せようとしてきた。
「ぬぅ!」
流石に耐えきれん。翼がこじ開けられ、地面に向かって叩き落とされる。
さらに今度はガマがベタを振り回し、我と同じ方向に片割れを投擲する。我と違い抵抗してないベタは、我より先に地面に着地した。それは先回りだ。
ベタは手に《ブラット・ボム》と同じ破壊魔法を形成すると、ちょうど降ってきた我に向かって爆発を放った。
即座に魔力で肉体を強化し、爆風に耐えながら吹っ飛ばされる。翼が灰になって燃やされた。
鈍い痛みを感じる。すぐに再生するが、やはり二人の攻撃は一度でも喰らうと致命傷になりかねん。
足の爪を生やし、ガリガリ石畳の地面を削りながらブレーキをかける。目の前を見ると、すでに追撃を与えるために鎖を回収したベタとガマが迫ってきているのが見えた。
「ふむ、昔よりは戦い方が上手いな」
下手したら負ける。そう感じた我は全身の魔力に意識を向ける。
イメージは太陽。血が沸騰するように身体全体に破壊の力が宿る。
肉体がひび割れ、隙間から火を通した木炭のように赤く光り輝いた。
竜の自爆魔法《業火》。グロータルを倒した時に使った必殺技である。
「ウーロさんってば!その技は危ないですよー!!」
下の方でシオンが我に向かって叫んでいる。おっと、この技が危険なことはシオンも知っていたな。
我が不死だからこそ使える能力だが、それでも大きく体力を消耗してしまう。
だが心配するでない。基本的に敵を道連れにするために使う技だが、用途はそれだけではないぞ。
火や水、風に雷。対象にダメージを与える攻撃的な魔法は人間は《破壊魔法》と総称されているらしい。
ならば火がベースとなるこの《業火》も大きな枠組みで捉えれば破壊魔法に分類されるはずだ。
魔法であるなら、ガルムが風をまとうように武器や体にエンチャントができるということ。《業火》も例外ではないだろう。
「はぁあああっ!!」
己を鼓舞するために気合いの叫び声を上げつつ、《業火》を肉体に馴染ませる。身体を常に発熱させ、手足そのものを魔法発動体として意識する。
今の我は側からみれば、固まったばかりの溶岩が動いているように見えているだろう。膨大なエネルギーが消化されるのと同時に、強大な力が湧き上がる。
ふ、ふふ、ははっ!
「はははっ!ハーハッハッ!!」
我は高笑いしながらベタとガマに突っ込む。二人も我が変化したのを感じ取ったのか、迎撃する姿勢を見せる。
が、二人も笑っていた。鎖を鞭の如く振り回し、鎖そのものに爆発属性を付与したのか当たったものが手当たり次第に爆破していく。我も当たってくる鎖を《業火》で弾き飛ばしながらベタとガマとの距離を詰める。
炎が通った爪を振るえば鎖が巻きつき、腕をへし折ってきた。すぐに再生させ無理やり拳を二人に打ち込むと、呆気なく吹っ飛ぶがすぐに復帰してくる。
足元を小さく爆破させて、空中戦を仕掛けてくる。我も翼を広げて応戦した。
我は久しぶりに、戦いの中にある高揚感を感じていた。
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