傲慢貴族な転生者が、ハイスペックな敵キャラに籠絡されるなんて!?

飯田 いち太郎

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まだ、目が覚めない

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───あれから、二年が経った。

 あの日、あの洞窟で、俺は眠るように意識を手放した。

 目を覚ました時には、すでに師匠の姿はなく、洞窟は崩壊しかけていた。兄とジークが俺を起こしに来てくれたけれど、どうしても身体を動かせなかった。

 ずっとその場に座り込む俺を、兄が薬草で眠らせて、何とか連れ帰ったのだと、後日話を聞かされた。

 そして、屋敷のベッドで目を覚ましたとき、何かが現実で、何かが夢だったのか、判別がつかないほど錯乱状態だった。

 あの場所の最後の記憶。体にまだ残っている感覚は、僅かな闇の魔力。

 まだあの暗い所で、一人ぼっちでいるのではないかと、何度もあの場所へ戻ろうとした。けれど、現実を受け入れたくない自分がいて、結局は引き返す。

 ルインは、行方不明者として捜索が続けられている。

 今もまだ、見つからない。





───俺は学園を復学して、卒業していた。形式的なものだった。言われた通りに課題をこなし、言われた通りに授業を受け、式に出席しただけ。

 卒業後、父はそんな俺を見て、「暫くのんびりした方がいい」と言いい、郊外の街の外れにある領地に住むことを勧めてくれた。

 かつて、母が病気になった時に療養していた、小さな一軒家だという。

 誰にも干渉もされない土地。

 ちょうどいい場所だった。

───このまま、皆から忘れられてしまうかもしれないな。

 そんな風に思うには、十分すぎる静けさと孤独が、そこにはあった。

 木々に囲まれた小さな土地。雑草が生い茂る庭。屋根の上には、無数のツタが巻きついている。室内は最低限の家具と食料があるだけで、人の気配はない。

 屋敷のメイド達を派遣させて、家の整備や世話をさせると父は強く言っていたが、俺はそれを断った。

 出来れば全部を、自分でやりたい。

 前の世界の時のように。

───それからの生活は簡素で、毎日が同じ日々の繰り返しだった。

 ぼんやりと朝を迎えて、身の回りの事を最低限し、何もせずに昼を過ごす。夕方になったら食事を取って、眠りにつく。

 家族や友人は、とても気にかけてくれたけれども、俺はどうしようもなく、一人になりたかった。

 何をするにも億劫で、少しでも歩けば、息が切れてしまうような気さえして。

 心が動かない日々は、記憶をどんどんと風化させていってしまう。

───たまに、夢を見た。

 それが過去の記憶なのか、ただの妄想なのかは、分からない。

 海岸で、俺の名前を呼ぶルインの声、触れた体温、息。起きてもまだ、残っている。どうしても覚えていたいのに。そう思えば思うと、その声が、思い出せなくなっていた。

 



───今日も、雨だった。

 ぽつぽつと軽やかに葉を叩く音。窓に飛ぶ水滴。静かで、心地よくて、意識がまた眠りへと引き込まれそうになった時。

「・・・ぁ、れ?」

 何気なく目を向けた窓の向こう、視界の端に、何かが倒れていた。

 最初の内は、木片か何かだと思っていた。けれど、よく見るとそれは明らかに人の形をしていた。

 立ち上がり、扉を開けて外へ出る。強くなってきた雨が容赦なく肌を打ち、風も冷たい。けれど、そんなことを気にする余裕はなかった。

───いつから、そこにいたんだろう。

 ぬかるんだ地面に横になっていたのは、一人の大きな男だった。

 頭に白いバンダナを巻き、目元には奇妙な仮面をつけている。仮面といっても、まるで旅芸人が舞台で使うような装飾ではなく、戦場で身分を隠すような、目元までの粗末な作りの物だった。色付きガラスの中から覗く瞳は、固く閉じられている。

 どこの誰だと、そんな疑問が浮かぶよりも先に、身体が動いていた。

 彼は、高熱を出しているようだった。肌がひどく熱く、息も浅い。重い体をどうにか引きずって、そのまま家の中に運び、ベッドへ寝かせた。

 この家に、赤の他人を入れたのは初めてだった。

 男の褐色の肌から、汗が伝う。

 ずぶ濡れの衣類を脱がせると、彼の身体はひどい傷だらけだった。古傷もあれば、比較的新しい切り傷や打撲痕もある。何かから逃げていたのだろうか、それとも、何かと戦っていたのだろうか。

 濡らしたタオルで、汗を拭う。俺は無言で、手をピタッと体へ当て、治癒魔法を使った。

 白い光が、ふわりと男の身体を包んでいく。手のひらを通して伝わってくるのは、荒んだ魔力の流れだった。その力を抑えるように、柔らかく魔法を掛けていく。

「ぅ、う・・・。」

 すると、彼の指先がぴくりと動いた。

 目を覚ましたのかと思い、一瞬驚いたが、彼はまだ眠っていた。

 どこかほっとして、窓の外へ視界を揺らす。

 外は、相変わらず雨が降り続いていた。雷の音が、遠くで一度だけ鳴った。音が、遅れてやってくる。

───どうして、こんな場所に人がいたのだろう。

 この場所に来るには、大きな川を越えなければいけないし、道すらろくに整備されていない。地図に載っているかも怪しいような、隠れ家。

 魔物だって少なくはない。

 ここに来た初めの頃は、大量発生したスライムに手こずっていたりした。

 なんだか、酷く懐かしい。治癒魔法をまた掛け直して、俺は目を閉じた。
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