ライバル視していた隣国の魔術師に、いつの間にか番認定されていた

飯田 いち太郎

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5話 城下町での遭遇①

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休日、いつもは学校の寮に引き篭って魔法の勉強やら開発やらをしているのだが、俺は珍しく外出をしている。

目的は、ノアディアへの借りを返す為である。

実技テストで迷惑を掛けてしまったことや、ポプリのお礼をしなくては、気が休まらなかった為、俺は今日、城下町に行くことを決意した。

せっかくなので、今世の母にねだって作って貰った前世のパーカーに似た白の上着と黒色のズボンに身を包み、出かけることにした。

久しぶりの外出であるので、周囲を警戒しながら目的の場所へと向かう。

途中、怪しめのフードを被ったローブマントの男が一瞬視界に見えた気がしたが、何事も無くお店に着いた。

可愛らしい外見をした店の為、入るのに勇気が必要であったが、意を決して扉を開いた。

「あら、いらっしゃいませ。どんな商品をお探しですか?」

「こんにちは。えっと・・・。色々見てみようかなと思いまして。」

笑顔の素敵な恰幅かっぷくのいい女性に質問をされたが、日本人のさがのせいか、俺の性格の問題のせいか・・・上手くコミュニケーションを取れなかった。

本当は探している物があったのだが・・・少し後悔しながら、店内をゆっくりと見回していると、何故か奥の方に瓶底メガネ少女がいた。

まずい、見つかったら面倒事になりそうだと思い、商品棚に身を隠す。

「わー、これ可愛い!フリフリピンク!」

「そうですわね、わたくしもそれにしようかしら?」

「でも、第一王子ってもっと控えめなのが好きみたいだよ、ほら、こっちの方がもっといい!」

「あら・・・でも、それって・・・。」

「ティルミアちゃんの瞳の色だよ!この色好きなんだってさ!めっちゃ怖い顔で言ってきたよ。もうホント・・・アハハ、ハ。」

「も、もう!からかわないで下さいまし!」

瓶底メガネ少女と会話をしているのは、この国一の美女であり、第一王子ルイヴィン・ラティスの婚約者であるティルミア・ルージュだ。
いかにも完璧な令嬢であることが伺える口調に、金髪碧眼の縦ロール・・・最早乙女ゲームの関係者じゃなければ何なんだとでも言いたいような風貌をしていた。

同胞、瓶底メガネ少女・・・何で仲良しになってるんだ・・・。いや、俺には関係あるまい。仲良きことは美しきかな。

「あああ!ライ君!可愛いお店に何しに来たのっ!?」

そっと傍を離れようとしたが、足音で俺に気が付いた様だ。
何なんだ、瓶底メガネ少女!?お前は前世、犬か何かだったのか!?野生の勘鋭いな!?

「別に、関係ないだろ。」

動揺している事を隠そうとしたせいか、随分素っ気ない返事をしてしまった。

「そう言わず、あ!もしかしてノアディア様・・・じゃなくてサディーヌさんへのプレゼントかな!?」

「い、いや!?違うし!?別にいつものお礼に何かあげたいなとかじゃないし!?」

いつもこの少女は図星をついてくるな。誤魔化そうとしたが、かなり苦しい言い訳となってしまった。

「そっかそっか。じゃあこのハンカチとかどう?刺繍とか魔法付与とかするともっと喜ぶかも!あ、でも刺繍とかできなさそうだよね・・・ゴメン。」

そう言って黒色の男性向けのハンカチを差し出してきた。かなり良い材質を直ぐに選び抜いたことや、ハンカチが俺の目当ての物であると見抜いたこの少女は、商人の生まれ代わりか何かなのだろうか。
だが、全然こっちの話は聞いていない上に、勝手に不器用だと解釈されている。解せぬ。

「いや!刺繍くらいできるし。お弁当だって自分で作れるし、それ位簡単にできるし!?」

「あら!お料理が得意ですのね、素晴らしいですわ!もしよろしければ、わたくし達とこれからお屋敷でお菓子作りや刺繍をしていきませんこと?」

瓶底メガネ少女では無く、急にお嬢様が喋り出してきた。キラキラとした眼差しでこちらを見詰めてくるので、断り辛く、つい頷いてしまった。くっ、これも日本人のさがか・・・。

「決まりですわね!それではこれから一緒にわたくしの御屋敷へ向かいましょう。」

楽しげにそう言い放ち、会計をサッサと済ませ、急かされながら俺も直ぐに会計をする。
目当ての物は手に入ったのだが、お店のすぐ側に停めてあった馬車へ連行されそうになった。

「いや!あの、ちょっと待って!」

せめて抵抗はしておこうと、言い訳を考えるが、いい案が浮かばず、変なポーズで停止している俺と、怪訝けげんな顔で見詰める二人の少女という構図ができあがってしまった。
もう早く帰りたい・・・。

何か言ったところで、結局上手いこと言いくるめられてしまうのだろうなと、抵抗を諦めかけたが・・・。

「ライはこれから私との用事がありますので、別の機会にして頂けますか?」

と、肩を掴み助け舟を出してきたのは、ノアディアだった。いや、なんでここにいるんだよ!?コイツと用事なんてないし!?文句を言おうと口を開きかけたが

「あああああああ!!はぁい!!わっかりましたぁ!」

瓶底メガネ少女が元気良く叫んできたせいか、文句を言う様な流れでは無くなってしまった。

「あら、わたくし、ご迷惑をお掛けしてしまったのかしら・・・。」

そう悲しそうにお嬢様は呟くが、何やらあることないことを瓶底メガネ少女が彼女の耳元で囁くと、「あらぁ!まぁまぁ!」と頬を染め、急に元気を取り戻し始めた。

何言ったんだよ同胞・・・絶対誤解してるぞ、この純粋お嬢様。

「お二人にそんな関係があったなんて・・・わたくし、応援しておりますわ!愛に障害は付き物でしてよ!お菓子作りや刺繍に関しては、またの機会にお誘い致しますわ!」

「お気遣いありがとうございます。それと、今度休日にライと遊ぶ際には、私を通してから約束をして下さいね。」

「あらまぁ!分かりましたわ!さあ、わたくし達は邪魔者ですので、早く馬車に乗りますわよ。それではご機嫌よう。」

「うううぅ、もっと一緒にい観察したかったけど仕方ないか。また、また学園で会おうね。応援してるよ・・・それじゃ!」

「えっ、ちょっと!二人とも!?」

大いなる誤解を解く前に、嵐の様な人達が去り、ノアディアと二人きりになってしまった。
応援って何なんだよ、俺は一体皆からどう思われているんだよ!?こんな事態になる位なら、クラスメイトともっと関わりを持つべきであったと反省しても、後の祭りであった。
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