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33話 失敗魔法
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ノアディアの考えていることはよく分からない。何なんだよ。俺が誰かを好きになったら自尊心でも傷付くのかよ。
────昨日起きた事だ。もう忘れよう、それより今は新しい魔法開発に集中しないとな。
俺は今、魔法の制作に没頭する事で、昨日あったことやモヤモヤした感情を制御しようとしていた。
いきなりだが、この世界には様々な種族が存在する。例えば隣国のデウギウスには、元々竜族と魔族が暮らしていたり、西の方角には獣人族の国やエルフ族の国があったりする。
戦争や疫病等で滅びてしまった種族もいれば、俺達人族と交わり続けることで血が薄くなってしまい、先祖返りでしかその種族の能力を引き継げないという状況になってしまうこともある。
俺が開発しようとしているのは、他種族、それも獣人の能力を発揮出来る魔法である。
俺は最近、魔法の習得に注力し過ぎたせいか、重い荷物を持ったり、スープの入った鍋を持つことでさえも難しくなるという、なんとも弱々しい体になってしまっていた。
なんだかんだ言って、俺は獣人の様に頑丈で強靭な体に憧れを持っていた。
その為、獣人に近い体になれる魔法を会得しようと熟考していたという訳だ。
ボフンッ。
注意が散漫となっていたらどこかから変な音がした。
「失敗した!?」
と思ったが、俺の体には特に何の変化もなかった。思い違いでなければ、音は外からした様な気がする。
急いで廊下に出て確認をするが、特におかしな点はなかった。空耳だったのだろうか。
「おはようございます。ライ。」
「おは・・・よ。」
憎たらしい程の美声が耳に届く。ノアディアだ。恐らく後ろにいる。
昨日の今日で会いたくないと思っていたのに、災難にもノアディアに会ってしまったかと振り向く。
しかし、そこには・・・
・・・獣人がいた。
流れる様に美しい銀色の毛並みを携えた殆ど狼の見た目をした二足歩行の生物・・・狼獣人がそこにいた。
変だな、ノアディアはどこに行ったんだ。
「???」
「どうかしましたか?」
口を開くと、ノアディアの声が流れる。
・・・まさか、まさか。・・・嘘だろ。
廊下にいたノアディアに魔法を掛けちゃったのかよ!?どういう失敗だよ!!
────俺は大至急鏡を見せ、事態を説明し、謝罪した。するとノアディアは少し目をパチクリさせた後、どうせなら猫になりたかったと言ってしょげこんでいた。・・・言いたいことはそれだけなのかよ。責めないのかよ。そんなに猫好きだったか、お前。
色々と突っ込んだ方がいいのか思案していると、ノアディアは魔法を使ってケモ耳と尻尾の生えた半獣人の姿になっていた。
「これで少しは誤魔化せますね。」
「・・・解除すればいいのに。出来るだろ。」
「せっかくですので。」
何がせっかくなんだよ。
ゆらゆらと楽しそうに揺れる尻尾に目がいく。頭を見上げると、ノアディアに付いた耳は前後にピクピクと忙しなく動いていた。
・・・か、可愛い。完全に動物の動きだ。
何故だ、悔しいが可愛い。そして触りたい。いや、動じるな。俺はノアディアと関わらない方が身のためだろ、見た目で騙されちゃいけない。変な気が起きる前にとっとと魔法を解除して部屋に戻ろう。
今は朝5時だから寝直せるな・・・ん?何でこんな早朝に俺の部屋の近くに・・・?
「どうかしましたか?」
「別に!」
ブンブンと勢いよく揺れる尻尾が手に触れる。フワッとした感触が気持ち良く、反射的に優しくキャッチしてしまった。
「・・・。」
ダメだ、こんな尻尾に騙されちゃいけない。手のひらの上で踊らされるな、俺。
尻尾から手を離し、一歩引いて解除魔法を掛けようと試みる。しかし、魔法を出そうと差し伸べた手にフワリと尻尾が絡まってきて決意が揺らぐ。
少しなら・・・触っても・・・。
モミモミと尻尾を優しく解す。柔らかい・・・毛並みがまるで絹の様だ。狼ってもっとゴワゴワした感触だと思っていた。
耳に視線を送ると、破顔したノアディアが屈んできて頭を差し出してくれた。
な、何だよ。そんなに触られるのが嬉しいのかよ。獣人って撫でられるの好きな種族だったか?精神まで獣人にでもなったのか?
構って欲しそうに動いている耳に目が離せない。これは・・・。触る以外の選択肢が無い気がする・・・。
普通、動物が耳を触られると不快に感じるはずなのだが・・・特に嫌がる反応は無いようなので、了承と捉えた俺は耳をそっと撫でることにした。
フニフニでハンペンみたいな耳をいじくる。なんか美味しそうだな。
やられっぱなしのノアディアは、表情を緩めて満足そうにしている・・・少しは嫌がれよ。
余裕そうな表情が癪に障ったので、イタズラでもしてやろうと耳をカプ。と口に含める。
────すると屈んだ状態から姿勢を元に戻し、俺を担ぎあげ、子供みたいに抱っこされてしまった。
「おい!は、離せよ!何だよ急に!」
「求愛されましたので。」
「いやしてないけど!?」
いい歳した男を抱っこするなよ!!5歳くらいの小さな子供みたいな扱いをされるなんて思ってもみなかったぞ。これじゃお姫様抱っこの方がまだマシだ。
「獣人族は意中の相手の耳や尻尾に触れることが求愛行動なのですよ。」
「ホントか!?知らなかった!」
獣人族について勉強不足だった点は認めよう・・・だが子供抱っこは認めんぞ。
知らなかったと伝えたら、ノアディアは残念そうに眉を下げ俺を降ろしてくれた。
直ぐに降ろしてくれたのでホッと胸を撫で下ろす。あの抱き方、顔がほぼゼロ距離に近寄るから目のやり場に困るんだよ。心臓に悪い。
「でも耳や尻尾は急所だって事は知ってるからな。危ないし解除しとくぞ。」
「・・・はい。」
あからさまに落胆されたが、そのまま授業でも受けられたらたまったもんじゃない。さっさと魔法を解いて部屋に帰る。
────何だ、俺。普通に話せるじゃないか。
夏休みの一件から、ノアディアを避ける毎日が続くのだろうと苦い思いでいたが、友達として、さっきの様に話せていけるのなら・・・そうしたい。
本当、都合がいいな、俺。
だからって、このまま関係を絶つなんて・・・できやしないことを、自分が一番理解していた。
────昨日起きた事だ。もう忘れよう、それより今は新しい魔法開発に集中しないとな。
俺は今、魔法の制作に没頭する事で、昨日あったことやモヤモヤした感情を制御しようとしていた。
いきなりだが、この世界には様々な種族が存在する。例えば隣国のデウギウスには、元々竜族と魔族が暮らしていたり、西の方角には獣人族の国やエルフ族の国があったりする。
戦争や疫病等で滅びてしまった種族もいれば、俺達人族と交わり続けることで血が薄くなってしまい、先祖返りでしかその種族の能力を引き継げないという状況になってしまうこともある。
俺が開発しようとしているのは、他種族、それも獣人の能力を発揮出来る魔法である。
俺は最近、魔法の習得に注力し過ぎたせいか、重い荷物を持ったり、スープの入った鍋を持つことでさえも難しくなるという、なんとも弱々しい体になってしまっていた。
なんだかんだ言って、俺は獣人の様に頑丈で強靭な体に憧れを持っていた。
その為、獣人に近い体になれる魔法を会得しようと熟考していたという訳だ。
ボフンッ。
注意が散漫となっていたらどこかから変な音がした。
「失敗した!?」
と思ったが、俺の体には特に何の変化もなかった。思い違いでなければ、音は外からした様な気がする。
急いで廊下に出て確認をするが、特におかしな点はなかった。空耳だったのだろうか。
「おはようございます。ライ。」
「おは・・・よ。」
憎たらしい程の美声が耳に届く。ノアディアだ。恐らく後ろにいる。
昨日の今日で会いたくないと思っていたのに、災難にもノアディアに会ってしまったかと振り向く。
しかし、そこには・・・
・・・獣人がいた。
流れる様に美しい銀色の毛並みを携えた殆ど狼の見た目をした二足歩行の生物・・・狼獣人がそこにいた。
変だな、ノアディアはどこに行ったんだ。
「???」
「どうかしましたか?」
口を開くと、ノアディアの声が流れる。
・・・まさか、まさか。・・・嘘だろ。
廊下にいたノアディアに魔法を掛けちゃったのかよ!?どういう失敗だよ!!
────俺は大至急鏡を見せ、事態を説明し、謝罪した。するとノアディアは少し目をパチクリさせた後、どうせなら猫になりたかったと言ってしょげこんでいた。・・・言いたいことはそれだけなのかよ。責めないのかよ。そんなに猫好きだったか、お前。
色々と突っ込んだ方がいいのか思案していると、ノアディアは魔法を使ってケモ耳と尻尾の生えた半獣人の姿になっていた。
「これで少しは誤魔化せますね。」
「・・・解除すればいいのに。出来るだろ。」
「せっかくですので。」
何がせっかくなんだよ。
ゆらゆらと楽しそうに揺れる尻尾に目がいく。頭を見上げると、ノアディアに付いた耳は前後にピクピクと忙しなく動いていた。
・・・か、可愛い。完全に動物の動きだ。
何故だ、悔しいが可愛い。そして触りたい。いや、動じるな。俺はノアディアと関わらない方が身のためだろ、見た目で騙されちゃいけない。変な気が起きる前にとっとと魔法を解除して部屋に戻ろう。
今は朝5時だから寝直せるな・・・ん?何でこんな早朝に俺の部屋の近くに・・・?
「どうかしましたか?」
「別に!」
ブンブンと勢いよく揺れる尻尾が手に触れる。フワッとした感触が気持ち良く、反射的に優しくキャッチしてしまった。
「・・・。」
ダメだ、こんな尻尾に騙されちゃいけない。手のひらの上で踊らされるな、俺。
尻尾から手を離し、一歩引いて解除魔法を掛けようと試みる。しかし、魔法を出そうと差し伸べた手にフワリと尻尾が絡まってきて決意が揺らぐ。
少しなら・・・触っても・・・。
モミモミと尻尾を優しく解す。柔らかい・・・毛並みがまるで絹の様だ。狼ってもっとゴワゴワした感触だと思っていた。
耳に視線を送ると、破顔したノアディアが屈んできて頭を差し出してくれた。
な、何だよ。そんなに触られるのが嬉しいのかよ。獣人って撫でられるの好きな種族だったか?精神まで獣人にでもなったのか?
構って欲しそうに動いている耳に目が離せない。これは・・・。触る以外の選択肢が無い気がする・・・。
普通、動物が耳を触られると不快に感じるはずなのだが・・・特に嫌がる反応は無いようなので、了承と捉えた俺は耳をそっと撫でることにした。
フニフニでハンペンみたいな耳をいじくる。なんか美味しそうだな。
やられっぱなしのノアディアは、表情を緩めて満足そうにしている・・・少しは嫌がれよ。
余裕そうな表情が癪に障ったので、イタズラでもしてやろうと耳をカプ。と口に含める。
────すると屈んだ状態から姿勢を元に戻し、俺を担ぎあげ、子供みたいに抱っこされてしまった。
「おい!は、離せよ!何だよ急に!」
「求愛されましたので。」
「いやしてないけど!?」
いい歳した男を抱っこするなよ!!5歳くらいの小さな子供みたいな扱いをされるなんて思ってもみなかったぞ。これじゃお姫様抱っこの方がまだマシだ。
「獣人族は意中の相手の耳や尻尾に触れることが求愛行動なのですよ。」
「ホントか!?知らなかった!」
獣人族について勉強不足だった点は認めよう・・・だが子供抱っこは認めんぞ。
知らなかったと伝えたら、ノアディアは残念そうに眉を下げ俺を降ろしてくれた。
直ぐに降ろしてくれたのでホッと胸を撫で下ろす。あの抱き方、顔がほぼゼロ距離に近寄るから目のやり場に困るんだよ。心臓に悪い。
「でも耳や尻尾は急所だって事は知ってるからな。危ないし解除しとくぞ。」
「・・・はい。」
あからさまに落胆されたが、そのまま授業でも受けられたらたまったもんじゃない。さっさと魔法を解いて部屋に帰る。
────何だ、俺。普通に話せるじゃないか。
夏休みの一件から、ノアディアを避ける毎日が続くのだろうと苦い思いでいたが、友達として、さっきの様に話せていけるのなら・・・そうしたい。
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