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38話 悪役令嬢の異変②
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「ティル、大丈夫か。この場で何があった?教えてくれ。」
第一王子がティルミア様へ近寄り、血のついた場所を確認する。ティルミア様はよろめきながら大量の汗を流し、頭を抱え込む。彼女の精神と肉体に何らかの異常が起きていることは一目瞭然だった。
「お黙り!私は・・・。命令を・・・する、な。」
「ティル・・・っ。」
第一王子が悲痛な面持ちで彼女の愛称を呼ぶが、彼女はブツブツと何かを呟き始め、意識がはっきりしていない様子だった。今、彼女と意思疎通を図るのは困難だろう。
彼女に刺された男の手当てをしなければと膝元を確認すると、第一王子様に気を取られている内に血塗れの男はどこかへと消えてしまっていた。
「男が・・・いない?」
俺の服とティルミア様の服は、男の流した血で染まっているというのに、肝心な人物が消えてしまっていた。
「男?何のことだ?」
「さっきまでここで倒れていたのを見ていただろ?」
「いや、お前達三人しかこの部屋にいなかったと思うが?それよりライ、怪我は無いのか!?」
「これは返り血だから・・・大丈夫だ。」
不審な人物が現れ、ティルミア様の様子がおかしくなり、彼女はその人物を短剣で刺したのだと俺は震える声で簡単に状況を説明した。ルイヴィン様は血の気の引いた顔をしながらも、黙って事の顛末を聞いてくれた。
話をしている間、ティルミア様は頭を抑えながら唸り声を上げてニタニタと笑っていた。
「ライ、こちらに避難を。」
ようやく体調が改善したのか、ノアディアは半身を起こして腕を広げる。しかし、立ち上がれる程には回復してはいないのだろう。傍に寄って回復魔法を掛ける。外傷を負っている訳ではないので意味はないが、何もしないよりはマシだろう。
「彼女は意識を乗っ取られているみたいですね・・・憑依魔法でも掛けられたと言った所でしょうか。それも不完全で長期的な。」
長期的・・・前からその魔法に心も体も侵食されていたという事か。
そういえばティルミア様、暗い顔をよくしたり、いつもはヒロインと一緒にいるのに一人で行動することが多かったりしたっけ・・・些細なことでも疑問に思って行動を起こしていれば、もっと早く対処できていたんじゃないかと後悔が押し寄せる。
考え込んでいると、ノアディアが咳き込み始めたので背中をさする。
「おい、もう少し横になっていた方が・・・。」
「このまま放置しておけば、彼女の体は魔法の負荷に耐えきれず崩壊していくでしょう・・・つまり、死に至ります。」
「嘘だろ・・・。」
死ぬだとか安易に言わないで欲しい。心臓に悪い。
それに初めて聞いたぞ、そんな強力な呪いみたいな魔法。それを使える相手って・・・一体。
「巫山戯た事を抜かすな!!第一そんな魔法あってたまるか!」
ノアディアに詰め寄りながら第一王子が叫ぶ。
「ありますよ。大昔に作られた魔法ですが。文献も幾つか残っています。」
文献・・・こんな酷い魔法を書き記した書物なんて、高確率で禁書に指定されていることだろう。それを扱えると言うのなら、禁書を読める様な位の高い人物が犯人なのだろうか・・・。
「ですが、今の段階ならば魔法の解除は容易です。」
「ハハハ!解除したければするがいい!」
上機嫌そうに笑い、ティルミア様は手に持った短剣を自らの喉に突き刺そうとする。
「ノアディア殿ッ!!」
第一王子がティルミア様の動きを止める為、強く抱き締める。
俺は何かあった時に直ぐ対処出来るよう、二人の近くに移動する。
「そのまま、抑えていて下さいね。」
魔法が、発動された。
────ティルミア様の、魔法が。
「ッハハハハ!!残念だったな、魔法陣はもう発動している。」
俺の足元に精巧な魔法陣が浮かび上がっていた。
魔法陣の外へ逃げようと足を動かそうとするが、体の自由が全く利かない。まるで金縛りにでもあったかの様な感覚に襲われる。
「なっ!?」
「ライ!!」
「より完全に・・・捕らえるつもりだったが、まぁいいだろう。・・・ノアディア、お前の大切な番を取り返したくば、共に来るといい。」
「言われずとも行きますよ。」
発せられた言葉に違和感を覚える。
捕らえる・・・。
共に・・・。
これの目的は、俺じゃない。
最悪の結末・・・ノアディアの死が脳裏をよぎる。こんな見え透いた罠に飛び込んでしまえば、結末はあの未来と同じになるのではないだろうか。それだけは・・・それだけは、何があっても嫌だ。
「やめろ!こっちに来たら、一生恨むぞ!」
必死にノアディアに伝える。こちらへ向かう足が一瞬ピタリと止まった。
「・・・っ!?」
「うあっ!?」
刹那、視界が白い光に呑まれてしまう。
「ハハハ、これからどこに行くか分かったのか?同じ血の者よりも賢いな。・・・・・・うぅっ。」
「ハァ・・・ゴホッ、ゴホッ。やめ、て。・・・用無しだ、小娘・・・や、だ。」
最後に耳に届いたのは、ティルミア様の苦しそうな声だった。
第一王子がティルミア様へ近寄り、血のついた場所を確認する。ティルミア様はよろめきながら大量の汗を流し、頭を抱え込む。彼女の精神と肉体に何らかの異常が起きていることは一目瞭然だった。
「お黙り!私は・・・。命令を・・・する、な。」
「ティル・・・っ。」
第一王子が悲痛な面持ちで彼女の愛称を呼ぶが、彼女はブツブツと何かを呟き始め、意識がはっきりしていない様子だった。今、彼女と意思疎通を図るのは困難だろう。
彼女に刺された男の手当てをしなければと膝元を確認すると、第一王子様に気を取られている内に血塗れの男はどこかへと消えてしまっていた。
「男が・・・いない?」
俺の服とティルミア様の服は、男の流した血で染まっているというのに、肝心な人物が消えてしまっていた。
「男?何のことだ?」
「さっきまでここで倒れていたのを見ていただろ?」
「いや、お前達三人しかこの部屋にいなかったと思うが?それよりライ、怪我は無いのか!?」
「これは返り血だから・・・大丈夫だ。」
不審な人物が現れ、ティルミア様の様子がおかしくなり、彼女はその人物を短剣で刺したのだと俺は震える声で簡単に状況を説明した。ルイヴィン様は血の気の引いた顔をしながらも、黙って事の顛末を聞いてくれた。
話をしている間、ティルミア様は頭を抑えながら唸り声を上げてニタニタと笑っていた。
「ライ、こちらに避難を。」
ようやく体調が改善したのか、ノアディアは半身を起こして腕を広げる。しかし、立ち上がれる程には回復してはいないのだろう。傍に寄って回復魔法を掛ける。外傷を負っている訳ではないので意味はないが、何もしないよりはマシだろう。
「彼女は意識を乗っ取られているみたいですね・・・憑依魔法でも掛けられたと言った所でしょうか。それも不完全で長期的な。」
長期的・・・前からその魔法に心も体も侵食されていたという事か。
そういえばティルミア様、暗い顔をよくしたり、いつもはヒロインと一緒にいるのに一人で行動することが多かったりしたっけ・・・些細なことでも疑問に思って行動を起こしていれば、もっと早く対処できていたんじゃないかと後悔が押し寄せる。
考え込んでいると、ノアディアが咳き込み始めたので背中をさする。
「おい、もう少し横になっていた方が・・・。」
「このまま放置しておけば、彼女の体は魔法の負荷に耐えきれず崩壊していくでしょう・・・つまり、死に至ります。」
「嘘だろ・・・。」
死ぬだとか安易に言わないで欲しい。心臓に悪い。
それに初めて聞いたぞ、そんな強力な呪いみたいな魔法。それを使える相手って・・・一体。
「巫山戯た事を抜かすな!!第一そんな魔法あってたまるか!」
ノアディアに詰め寄りながら第一王子が叫ぶ。
「ありますよ。大昔に作られた魔法ですが。文献も幾つか残っています。」
文献・・・こんな酷い魔法を書き記した書物なんて、高確率で禁書に指定されていることだろう。それを扱えると言うのなら、禁書を読める様な位の高い人物が犯人なのだろうか・・・。
「ですが、今の段階ならば魔法の解除は容易です。」
「ハハハ!解除したければするがいい!」
上機嫌そうに笑い、ティルミア様は手に持った短剣を自らの喉に突き刺そうとする。
「ノアディア殿ッ!!」
第一王子がティルミア様の動きを止める為、強く抱き締める。
俺は何かあった時に直ぐ対処出来るよう、二人の近くに移動する。
「そのまま、抑えていて下さいね。」
魔法が、発動された。
────ティルミア様の、魔法が。
「ッハハハハ!!残念だったな、魔法陣はもう発動している。」
俺の足元に精巧な魔法陣が浮かび上がっていた。
魔法陣の外へ逃げようと足を動かそうとするが、体の自由が全く利かない。まるで金縛りにでもあったかの様な感覚に襲われる。
「なっ!?」
「ライ!!」
「より完全に・・・捕らえるつもりだったが、まぁいいだろう。・・・ノアディア、お前の大切な番を取り返したくば、共に来るといい。」
「言われずとも行きますよ。」
発せられた言葉に違和感を覚える。
捕らえる・・・。
共に・・・。
これの目的は、俺じゃない。
最悪の結末・・・ノアディアの死が脳裏をよぎる。こんな見え透いた罠に飛び込んでしまえば、結末はあの未来と同じになるのではないだろうか。それだけは・・・それだけは、何があっても嫌だ。
「やめろ!こっちに来たら、一生恨むぞ!」
必死にノアディアに伝える。こちらへ向かう足が一瞬ピタリと止まった。
「・・・っ!?」
「うあっ!?」
刹那、視界が白い光に呑まれてしまう。
「ハハハ、これからどこに行くか分かったのか?同じ血の者よりも賢いな。・・・・・・うぅっ。」
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最後に耳に届いたのは、ティルミア様の苦しそうな声だった。
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