16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽

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第3章 フィガロは広場に行く1 ニコラス・コレーリャ

幕間のことば

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◆◆◆

 ミーロはうなずいてあるきだしました。ファゼーロもだまってついて行きました。わたくしどもはじつにいっぱいに青じろいあかりをつけて向うの方はまるで不思議な縞物(しまもの)のように幾条(いくすじ)にも縞になった野原をだまってどんどんあるきました。その野原のはずれのまっ黒な地平線の上では、そらがだんだんにぶい鋼(はがね)のいろに変っていくつかの小さな星もうかんできましたしそこらの空気もいよいよ甘(あま)くなりました。そのうち何だかわたくしどもの影が前の方へ落ちているようなのでうしろを振(ふ)りむいて見ますと、おお、はるかなモリーオの市のぼぉっとにごった灯照(ほて)りのなかから十六日の青い月が奇体(きたい)に平べったくなって半分のぞいているのです。わたくしどもは思わず声をあげました。ファゼーロはそっちに挨拶(あいさつ)するように両手をあげてはねあがりました。
 にわかにぼんやり青白い野原の向うで何かセロかバスのようなふるいがしずかに起りました。「そら、ね、そら。」ファゼーロがわたくしの手を叩(たた)きました。わたくしもまっすぐに立って耳をすましました。音はしずかにしずかに呟(つぶ)やくようにふるえています。けれどもいったいどっちの方か、わたくしは呆(あき)れてつっ立ってしまいました。もう南でも西でも北でもわたくしどもの来た方でもそう思って聞くと地面の中でも高くなったり低くなったりたのしそうにたのしそうにその音が鳴っているのです。
 それはまた一つや二つではないようでした。消えたりもつれたり一所になったり何とも云われないのです。
「まるで昔(むかし)からのはなしの通りだねえ。わたしはもうわからなくなってしまった。」
「番号はここらもやっぱり二千三百ぐらいだよ。」ファゼーロが月が出て一そう明るくなったつめくさの灯(ひ)を調べて云いました。

◆◆◆

引用 「ポラーノの広場」<表題も「ポラーノの広場」>宮沢賢治(新潮文庫)

※漢字の送り仮名や読点・句読点の使いかた、ふりがなの振りかたなどが現在の基準と異なりますが、そのまま引用します。なお、「セロかバスのようなふるい」の「ふるい」という漢字についてのみひらがなにしました。ご了承ください。
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