ピーナッツバター

はる

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君に触れたかったんだ㉖

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昨日のことを責められるのだろうか。

僕は怖くて足が震えた。

彼らは、僕を見ると少し話をしているようだった。

そして、僕の方にゆっくり歩いてきた。

結城くんだけが。

彼は、僕に近付いてから言った。

「あの…、君が僕にしたこと、怖かったし、やっぱり許せないと思う」

彼は言った。

あぁ、そうだろうな。

僕は最低な事をしたんだ。

わかっていたが、改めて本人から言われるととてつもなく悲しかった。

僕が何も言わずに項垂れていると、彼が続けた。

「でも、忘れることにしたよ」

「え…?」

忘れる…?どういうことだ?

「昨日のことは許せないけど、忘れる」

許せないけど、忘れる。

何を言ってるんだ。本当に、どこまでお人好しなんだ。

教材を集めるのを手伝ってくれた彼を思い出した。

地味で友達もいない僕なんかに向けられた美しい笑顔。

いや、笑顔だけじゃない。

全てが僕にとって美しく輝いていた。

僕が持っていないもの、僕が欲しいものを持っていたから。

だから君をずっと見ていた。

君が持っているものを分けて欲しくて。

君が欲しくて。

君に触れたくて。

僕は気付くと涙を流していた。

「ぅ、ぐすっ、うぅ」

情けない嗚咽が止まらなかった。

彼はそんな僕を見て戸惑いの表情を浮かべ、手を差し伸べようとした。

「空」

後ろから体育教師の声がして、彼はピクッと小さく反応すると、手を引っ込めた。

そうだ、それでいい。

君は優しすぎる。

君を乱暴にした僕にすら優しくしようとする。

彼はそのまま踵を返して体育教師の方へ向かう。

でも2,3歩進んだところでこっちを振り返って言った。

「新しい学校でも頑張ってね」

彼を夕日が照らして、キラキラと輝いているように見えた。

あぁ、やっぱり君は僕にとっての天使だ。

そして、小走りで体育教師の元へ向かい、2人並んでゆっくりと歩き出した。

僕は彼らの後ろ姿を見ていたけど、やがて涙で滲んで見えなくなった。

彼のような人になりたい。

新しい学校、まずは友達をつくってみようかな。

僕は小さく心に決めた。





END
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