ピーナッツバター

（日常小話）空くんバイトなう

Side　ひよしさん

今日は仕事が早く終わった。

空、今日はバイトで遅くなるって言ってたな。

空はケーキ屋でバイトをしてるけど、そういや空のバイト姿を見た事なかった。

ふと、そう思い、次に俺は思わずニヤリとしてしまった。

突撃してみるか！

あいつ、どんな顔するかな。

…と言うことで俺は空の働くケーキ屋へやってきていた。

なんか随分コジャレた店だな。

ログハウス風の店構えで、女性が好きそうな可愛い外装が施されていた。

俺はそっと中を覗き込む。

うお、結構客入ってんじゃん。

空はどこだ…おっ、いた。

うまそうなケーキが並んだショーケースの上で、メモを取りながら客の注文を取っている。

つーか、制服可愛いなオイ。

真っ白なシャツにチェック柄の蝶ネクタイって。

そんな制服を着た空の可愛さはもはや犯罪級だった。

「んだよ、もっと早く来りゃよかったな」

俺は小さく呟く。

何でそう思ったかって？

もちろん、空のバイト服姿が超絶かわいいってのはある。

でもそれ以上に良かったのは、普段見れない空の姿を見られた事。

真剣な表情でオーダーをとって、笑顔でケーキを手渡す。

空の奴、一生懸命働いてんじゃん。

からかいに行くつもりが、俺は感動してしまって、窓ガラス越しに空の姿を凝視していた。

すると、中から出てきた若い女性2人にチラ見されてしまった。

やべ、完全に怪しまれた。

まぁそりゃそーだよな。

俺みたいな体育会系バリバリの男がケーキ屋を外から覗きこんでるんだから。つーかこれ生徒に見つかったらやべーな。

そんな事を考えていると、その女性2人組の話し声が耳に入った。

「可愛かったね！さっきの男の子」

「ここのケーキ屋さん、ケーキが美味しいのと店員の男の子が可愛いって評判だもんね！」




なぁぁぁにぃぃぃぃ！！！





俺はもう一度店内を覗き込む。

男の子って一人しかいねーよな。

おい空！俺の知らないところで評判になってんじゃねーよっ！

俺は居ても立ってもいられず、店内に入った。

「いらっしゃいませ～」

空が満面の笑顔でハキハキと言うが、俺と目が合った瞬間固まっていた。

「お前、そんな満面の笑顔、俺の前では見せた事ねーよなぁ？」

俺はショーケース越しに空の前に立って言った。

「ひ、ひよしさん！なんで居るの！？」

空が死ぬほどびっくりしたような顔で言った。

「仕事早く終わったからさ。バイトしてる姿でも見ようかなと思ってな」

俺はニヤニヤしながら言った。

「もう！来るなら連絡してよ！」

空は周りに聞こえないように小声で不満を訴える。

「それじゃつまんねーだろ？空、顔真っ赤だぜ？」

俺はニヤニヤが止まらない。

「うぅ…、バカ。意地悪。」

空はますます顔を赤らめる。

「空、お前可愛いって評判みたいだぜ。さっきすれ違った子達が噂してた」

「えー、絶対嘘でしょ」

空は唇を尖らせながら言った。

「ったく、やっぱ無自覚かよ」

「ひよしさん、ケーキ買ってく？」

「お前…ちゃっかりしてんな」

「お仕事ですから」

空が俺に向かってニコッと笑う。

俺以外の奴にもこんな可愛らしい笑顔振りまいてんのかと思うとなんとも言えない気持ちになってしまう。

「んじゃ買ってくか。空、何が食べたい？」

そう聞くと、空が意外そう顔をした。

「買ってくれるの？」

「あたりめーだろ。帰ったら一緒に食べようぜ」

俺が何気なくそう言うと、空は満面の笑みを浮かべて言った。

「僕、レアチーズケーキがいい！」

「はいよ」

レアチーズケーキを2つオーダーし、空がケーキを取り出す。

なんかすげー変な感じだ。

会計をしながら空が小声で言った。

「ひよしさん、僕もうすぐバイト終わりだから一緒に帰ろ？」

「あぁ、そうだな！」

ところで、さっきから若い女性客達の視線をチクチクと感じる。

空、お前マジで人気者だな。

俺はなんかちょっと鼻が高いぜ。

「じゃあ外で待ってるぜ」

俺は小声で空に言う。

「うん、終わったらすぐ行く」

空も小声で返した。

なんか思いがけず空の普段見れない姿を見れたな。

頑張ってんだな、あいつ。

来週もまた突撃してやろうかな。




END