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「ぺトリコール」

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ショッピングモールで楽しんだ俺達は、夕方頃には帰路についた。

最寄り駅から2人で歩いている時、突然の雨に降られた。

「やば、めっちゃ降ってきた!ゲリラ豪雨ってやつ!?」

俺たちは慌てて木陰に隠れるが、激しい雨を防ぎきれない。

「まいったね。雨降るなんて思っていなかったから、傘持って来なかったし。」

「同じく…。」

「どうする?通り雨だと思うし、収まるまで少しここで待つ?」

「うーん、ここにいても地味に濡れるし、ここからたーくんちまで近いから、ガンダした方が良い気がする。ついでに服貸してくれると助かるなぁって‥。でもたーくんが走るの嫌だったらここで待っててもいいし、俺はどっちでも!」

そう答えると、たーくんがいきなり俺の手を握った。

俺が少し驚いていると、たーくんは俺の方を見ずに、「行こう。」と言って木陰から飛び出した。

「わ、‥はは!すげー雨!」

たーくんに手を引かれ、雨の中を疾走する。

どしゃ降りの雨で全身びちょびちょ。

たーくんが強めに握ってくれた手の平からぬくもりを感じたから、全然寒くなかった。

「レイちゃん、大丈夫?」

走りながら、たーくんが聞いた。

自分もびしょ濡れのくせに、こんな時まで俺の心配をしてくれる。

ぬくもりを感じたのは手の平だけじゃない。

「平気だよ!むしろなんか楽しい!」

「俺も楽しい…かも。」

たーくんが一瞬、俺の方を振り返って言った。

びしょ濡れの顔をくしゃっと歪ませて笑顔を作る。

その笑顔を見て、なんだかドキッとして、思わずたーくんの手をぎゅっと強く握った。

全力疾走の上、なんとか俺達はたーくんの家にたどり着き、

玄関先の屋根の下で、びしょびしょのまま息を整えた。

「はぁはぁ…っ、たーくん、大丈夫?」

「はぁ…はぁ…、なんとか…。文化系の人種には、全力疾走は堪えるよ。」

そんな話をしていると、少しずつ雨が小雨になってきた事に気付いた。

「え、嘘。なんか雨止んできてね?」

「本当だ…。」

「なんだよー。止むまで待てばよかった。」

思わず、2人で顔を見合わせて笑った。

そのうちに雨は完全に上がってしまった。

「…ペトリコール。」

たーくんが突然、呪文を唱えた。

「え、何?何が起きるの?」

「はは、違うよ。雨に濡れた地面や植物が発する匂いの事をそう言うんだよ。」

そう言われて意識してみると、雨上がり特有の匂いが鼻を突き抜けるのを感じた。

それは、どこか懐かしさを感じる匂い。

雨が夏の空の匂いを連れてきたようだった。

「俺、この匂い、好きなんだ。」

そう言ったたーくんの横顔をふと見上げた。

雨に濡れた彼の横顔はなんだかいつもよりも大人びたように見えて、本日一番のドクンって胸の音がした。
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