春の明日になりたい

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"羅夢"

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「人は誰も孤島では無い。」

薄暗く狭い雰囲気のあるバー「マスカルポーネ」

そのカウンターで、長身長髪の男がグラスを磨きながらおもむろに言った。

「誰の言葉?」

唐突に言葉を投げかけられた少年は、カウンター越しに聞き返した。

「イギリスの詩人です。名前は失念してしまいましたが。」

「ふーん。何で今急に?」

「ハルがいつも1人でいるからですよ。」

ハルと呼ばれた少年は、手元のグラスを眺めた。

「別に群れる必要なんてないだろ?それに僕は島じゃない。」

「まさに取り付く島もない、というやつですね。」

「それうまくねーよ?ブラウンさん。」

ブラウンと呼ばれた男はやれやれと言った顔をして言った。

「相変わらず大人びていますね。」

「そう思うなら酒くれよ。」

ハルの手元のグラスにはオレンジジュースが注がれていた。

「未成年に酒は出せませんよ。」

「法外な仕事してるくせに変なとこきっちりしやがって…」

ハルはつまらなそうに呟いた。

「仕事と言えば、ひとつ案件があります。頼まれてもらえますか?」

「頼まれて欲しいから呼んだんだろ。」

ハルの鋭い一言にブラウンは敵わないなといった顔をする。

「"グランギニョール"を知っていますか?」

「過激派集団だろ。裏の世界じゃ有名だ。」

「彼らの動きがここ数日活発になっています。直近で麻薬密売の取引が行われるであろう場所と日時の情報をスマホに送りました。"対処"頂けますか?」

「りょーかい。」

ハルは軽く返事をするとオレンジジュースを飲み干し、静かに扉に向かった。

「頼みますね。組織のナンバー3、"羅夢"」

ブラウンは、店を出る彼の背中にそっと声を掛けた。
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