春の明日になりたい

はる

文字の大きさ
上 下
22 / 44

keep only one love

しおりを挟む
騒がしい時間はあっという間に過ぎ、閉店時間となった。

クレハとハルは後片付けを追え、カウンターに並んで座り、一息ついた。

「ハル、お疲れ様。色々ありがとう。」とクレハが改めて礼を言うと、「バイト代、期待してるよ。」とハルが言った。

深夜3時の店内は、まるで嵐の後の静けさだった。

「あんなに混むとは思わなくてさ。本当にバイト代をお支払いしたい気持ちだよ。ごめんな、いっぱい質問責めにされて。」

「あぁ…クレハが遮ってくれて助かった。」

「ハル、コミュ障だもんね?」

「ちげーって。」

そう言われてクレハは笑い、ハルもつられて少し笑った。

「でもさ…楽しかったよ。」

ハルが小さく呟いた。

「…本当に?」

クレハはハルの顔を覗き込むようにして聞いた。

「うん。あーいう騒がしいの僕初めてだからさ。」

ハルはそう言うと、クレハの方を見て、また少し笑った。

その可愛くて少し切なげな表情にクレハは目を奪われた。

「…クレハ…?」

「あ、あぁ…ごめんごめん。なんかさ、ハルは不思議な子だね。」

「え、そうか?」

「うん、可愛い顔して口調強めで、でも気遣いが出来て優しい。クールそうに見えて照れ屋。笑うとめちゃくちゃ可愛い。おっと、可愛いはNGだったっけ?とにかく色んな表情があってさ。不思議な魅力のある子だなぁって。」

そう言ってクレハはタバコに火をつけて、ハルの顔を見る。

すると、ハルはぽかんとした表情でクレハの顔を見ていた。

「ハル?あ、ごめん。タバコダメだった?」

「あ、いや違う。その…そんな風に言われたの初めてだったから驚いて…。」

そう言ったハルは、半分照れたような、もう半分はどこか嬉しそうな、そんな表情を浮かべていた。

そんなハルにクレハはまた目を奪われる。

そして、少しの沈黙が流れた。

「それ、なんてやつ?」

ハルはおもむろに問いかけた。

「ん?それって?」

紅葉が聞き返す。

「それ。吸ってるタバコ。」

「あぁ。koolだよ。」

「くーる?」

「そう。kool。keep only one loveの略なんだってさ。一途にあなたを愛します。だからクールの頭文字cじゃなくてkなんだ。」

「へー。なんか似合わねーな。」

「本当、うるさい口だな。」

そう言うやいなや、クレハはハルの唇を奪う。

突然の事にハルは目を丸くするが、ただ何も言わずに受け入れた。

タバコの香りのする甘いキス。

今までした誰よりも優しいキスだった。

唇が触れ合ったのはほんの一瞬だけど永遠のようにも感じた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

家出少年💚ハル

BL / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:9

男はエルフが常識?男女比1:1000の世界で100歳エルフが未来を選ぶ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:366

あまり貞操観念ないけど別に良いよね?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,002pt お気に入り:2

服を脱いで妹に食べられにいく兄

恋愛 / 完結 24h.ポイント:823pt お気に入り:19

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,526pt お気に入り:155

婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,837pt お気に入り:9,134

醜く美しいものたちはただの女の傍でこそ憩う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:948

処理中です...