ポケットに隠した約束

Mari

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第三章

想いと仕事の狭間

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「ねぇねぇ、あんたたち何かあったの?」
休み明け、出勤すると莉奈がすぐさま聞いてくる。

「何って…?」
思わずとぼけてみた。

「瑞希と隼人、鍋パーティーで買い出しから戻ってきて明らかに様子変だもん!」
「何も…ないよ」

莉奈は鋭い。
絶対勘づかれるだろうとは思っていた。
でも…さすがにこれは言えないな…

あの日、隼人は〝待つ〟と言った。
好きになってくれるまで待つと。
だけど気持ちだけは知っててほしいんだと…。

なんだよー…
余計に頭混乱しちゃうじゃん…バカ隼人。


「じゃ、隼人に聞いた方が早いか」
「…えっ?」

思わぬ言葉にあたふたしていると、莉奈がニヤーっと顔を緩める。
「冗談よ、なんとなく察しはついてるけど」
私はため息混じりに笑った。



その時、電話を取ったスタッフから呼ばれる。
「相澤さん、木田様からお電話です」
ドクンと心臓が音を立てた。

毎回毎回、雪乃の名前を聞く度にイヤな音を一際大きく鳴らす心臓。
これは…まじで心臓に悪い…。


「はい、相澤です」
『もしもし、木田です』
「どうされました?」
『あの、クリスマスにフェアがあると聞いて…』
「あ、そうなんです…。参加されますか?」
『はい、是非』
「参加人数は…二名で宜しいですか?」
『はい』
「かしこまりました、二名様で承ります。ご連絡ありがとうございます」



電話を切ると、莉奈が声を掛けてきた。
「フェア、参加するって電話?」
「うん」
「…そっか」


クリスマス…
三年前のこの日に晃平はニューヨークへと旅立った。
イブが仕事だった私たちは、本当ならこの日に会う約束をしていたのに…。
転勤の話が急遽決まり、秋に話していたそんなクリスマスの楽しい話題もなくなってしまった。


「ねぇ、瑞希…」
「うん?」
「…もう何も言わないつもりだったけど、やっぱり自分の素直な気持ちくらい晃平くんに伝えるべきなんじゃないかな?」

私も本当はそうしたい。
だけど、二人の結婚式の担当者がそれをやって新婦に知られてしまえば大問題だ。

「ううん、私は大丈夫。きっと時間が解決してくれるよ」
「…瑞希」
「ありがとね、莉奈」


私はパソコンに向き直り、フェアの参加者に送る案内状リストに、〝佐野晃平・木田雪乃〟と追加入力する。

本当は、私の心は既にいっぱいいっぱいだった。
二人の名前が並んでいるだけで、こんなにも胸がギューっと苦しいのだから。




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