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第七章
背中を押してくれる仲間
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柚希の結婚式が終わり、私はすっかり片付いた会場を見渡した。
「あっという間だったな…」
感慨深いものが込み上げてくる。
色んな想いを胸に、コツ…コツ…と、ゆっくり会場の奥へと向かった。
「うぉっ、ビックリした…まだ居たのか」
会場の隅の音響卓の向こうから隼人が顔を出す。
「隼人もまだ居たんだ?」
「おぅ、そのまま機材メンテまでやっちまおうと思ってな」
「そっか。今日は妹の結婚式の音響ありがとね」
隼人は音響の電源をパチッと落とすと、ブースから出てきた。
「お前が結婚する時も俺がやってやるよ、音響」
「え…?」
隼人は鼻で少し笑うようにして言う。
「お前が一緒に居て幸せだと思える相手、どうせ俺じゃねえだろ?」
「…隼人…」
待つと言ってくれた隼人に私は何も返せてなかった。
申し訳なさが心の中を覆う。
「なんつー顔してんの?」
そう言って隼人は片眉を下げて笑った。
「私、隼人の気持ち嬉しかったよ」
「それはどうもっ」
「ありがとね、隼人」
「…お前があのズル賢いメス猿に負けるのもムカつくしな」
……ズル賢いメス猿?
…おいおい、それって…
「…雪乃さんのこと?」
「おおっ!よく分かったな」
「酷いわ、あんた相当口悪いわ…」
「…誰のことか分かったお前も結構酷いぞ」
「…うぅっ…」
仰る通りで…
でも、良かった。
いつもの隼人だ…
すると、背後に視線を感じる…
じとーっと、会場の入り口から莉奈が覗いているのが見えて思わず声を上げた。
「うわぁ!…びび、びっくりした…」
「お前、こえーよ」
私と隼人がビクッと肩を揺らすと、莉奈が待ってましたと言わんばかりに言う。
「酷いよー二人とも、私を除け者にしてぇ!なんか、楽しそうな話してるしー!」
私の側まで来ると、莉奈は私の手を取った。
「瑞希、ズル賢いメス猿になんかに負けるな?」
「いや、そこおかしいから…」
…ん?
ふと見ると、莉奈から私の手にお祝儀袋が一つ手渡される。
「これ…」
「さっきね、晃平くんがこれだけ渡しに来たの。柚希ちゃんにって」
「晃平が…」
「柚希ちゃん既に会場出た後だったから、瑞希に預けておくね」
「……」
晃平からすれば、柚希はただの元カノの妹だ。
本来なら渡す義理もない。
なのに、わざわざ会場に来て置いていってくれたんだ…
「ねぇ、瑞希」
「うん…」
「晃平くんにとって、柚希ちゃんはまだ〝大切な人の妹〟なんじゃないかな」
「…莉奈…」
「じゃなきゃ、こんなことしないよ?」
お祝儀袋の裏には、メッセージカードが挟まれてあった。
〝柚希ちゃん、結婚おめでとう。お幸せに〟
短いメッセージだけれど、晃平らしいぬくもりが感じ取れる。
「…晃平」
「支配人になる話を断った時みたいにさ、大事なのは瑞希が今どうしたいかじゃないの?」
「…」
「言葉にして伝えなきゃ、何も変わらないことだってあるんだよ?」
この日私は、何人にこうやって背中を押されただろう。
自然と一歩踏み出す勇気が、私の中で小さく音を立てて沸き起こったような気がした。
もう、泣くだけで諦めるのはイヤ…
私は隼人と莉奈の顔をもう一度交互に見る。
私の心の声を見透かしたかのような二人の笑顔に、私も笑顔で頷いた。
「あっという間だったな…」
感慨深いものが込み上げてくる。
色んな想いを胸に、コツ…コツ…と、ゆっくり会場の奥へと向かった。
「うぉっ、ビックリした…まだ居たのか」
会場の隅の音響卓の向こうから隼人が顔を出す。
「隼人もまだ居たんだ?」
「おぅ、そのまま機材メンテまでやっちまおうと思ってな」
「そっか。今日は妹の結婚式の音響ありがとね」
隼人は音響の電源をパチッと落とすと、ブースから出てきた。
「お前が結婚する時も俺がやってやるよ、音響」
「え…?」
隼人は鼻で少し笑うようにして言う。
「お前が一緒に居て幸せだと思える相手、どうせ俺じゃねえだろ?」
「…隼人…」
待つと言ってくれた隼人に私は何も返せてなかった。
申し訳なさが心の中を覆う。
「なんつー顔してんの?」
そう言って隼人は片眉を下げて笑った。
「私、隼人の気持ち嬉しかったよ」
「それはどうもっ」
「ありがとね、隼人」
「…お前があのズル賢いメス猿に負けるのもムカつくしな」
……ズル賢いメス猿?
…おいおい、それって…
「…雪乃さんのこと?」
「おおっ!よく分かったな」
「酷いわ、あんた相当口悪いわ…」
「…誰のことか分かったお前も結構酷いぞ」
「…うぅっ…」
仰る通りで…
でも、良かった。
いつもの隼人だ…
すると、背後に視線を感じる…
じとーっと、会場の入り口から莉奈が覗いているのが見えて思わず声を上げた。
「うわぁ!…びび、びっくりした…」
「お前、こえーよ」
私と隼人がビクッと肩を揺らすと、莉奈が待ってましたと言わんばかりに言う。
「酷いよー二人とも、私を除け者にしてぇ!なんか、楽しそうな話してるしー!」
私の側まで来ると、莉奈は私の手を取った。
「瑞希、ズル賢いメス猿になんかに負けるな?」
「いや、そこおかしいから…」
…ん?
ふと見ると、莉奈から私の手にお祝儀袋が一つ手渡される。
「これ…」
「さっきね、晃平くんがこれだけ渡しに来たの。柚希ちゃんにって」
「晃平が…」
「柚希ちゃん既に会場出た後だったから、瑞希に預けておくね」
「……」
晃平からすれば、柚希はただの元カノの妹だ。
本来なら渡す義理もない。
なのに、わざわざ会場に来て置いていってくれたんだ…
「ねぇ、瑞希」
「うん…」
「晃平くんにとって、柚希ちゃんはまだ〝大切な人の妹〟なんじゃないかな」
「…莉奈…」
「じゃなきゃ、こんなことしないよ?」
お祝儀袋の裏には、メッセージカードが挟まれてあった。
〝柚希ちゃん、結婚おめでとう。お幸せに〟
短いメッセージだけれど、晃平らしいぬくもりが感じ取れる。
「…晃平」
「支配人になる話を断った時みたいにさ、大事なのは瑞希が今どうしたいかじゃないの?」
「…」
「言葉にして伝えなきゃ、何も変わらないことだってあるんだよ?」
この日私は、何人にこうやって背中を押されただろう。
自然と一歩踏み出す勇気が、私の中で小さく音を立てて沸き起こったような気がした。
もう、泣くだけで諦めるのはイヤ…
私は隼人と莉奈の顔をもう一度交互に見る。
私の心の声を見透かしたかのような二人の笑顔に、私も笑顔で頷いた。
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