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最終章
あの日のやり直し
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クリスマス、ブライダルフェア当日の朝。
雪乃は、晃平のマンションまで来ていた。
この先、一緒に住むんだと思っていた晃平のマンションは、すぐ目の前にあるのに遠く感じる。
涙が溢れそうになったが、雪乃は頬を一度軽く叩いて気合いを入れた。
ピンポーン…
インターホンに雪乃の姿が映っているのを確認した晃平は、玄関のドアを開ける。
「ごめんね…家まで来たりして…」
「いや…」
「少しだけ、付き合ってほしいところがあるの」
本当なら、今日はブライダルフェアに参加する予定だった。
急遽不参加にすることも出来なかったんだろうと思い、晃平は頷く。
出掛ける準備を済ませ、マンションを出ると、雪乃は黙って歩き出した。
ブライダルフェアの会場とは反対方向に歩く雪乃に、晃平は話し掛ける。
「雪乃、どこに向かってるの?」
すると雪乃は、「いいから着いてきて」と笑った。
港の公園に到着すると、おもむろに雪乃はベンチに腰を下ろす。
その場所は、晃平と瑞希が付き合っていたと知った日に晃平が〝あの時の話はもういいから〟と、微笑んでくれた場所だった。
晃平は戸惑いながらも、雪乃の隣に腰を下ろす。
「あの日、晃平は言ったよね…。〝あの時の話はもういい〟って」
ゆっくりと静かに語り始めた雪乃の言葉に、晃平は耳を傾けた。
「…あぁ」
「だけどそれは、相澤さんのことを無理に忘れようとしてる証拠だったってことに、私は気付けなかった」
「…」
雪乃は思う。
自分の怪我のせいで、自分の言った〝結婚して〟の一言で、晃平は瑞希のことを無理にでも忘れようとしてくれた。
正直な気持ちじゃなくても、晃平は晃平なりにちゃんと自分と向き合おうとしてくれていたんだと、雪乃は気付く。
今度は自分がちゃんと向き合う番だと。
晃平を想って、晃平のために出来ることを…。
「晃平、今度こそ何も考えずに正直な気持ちで答えてほしい」
「…え?」
雪乃は一度深呼吸をすると、晃平に向き直った。
「好きです。私と結婚して下さい」
目を見開いた晃平は、雪乃の目を見つめる。
雪乃の目は、真剣だった。
〝今度こそ何も考えずに正直な気持ちで〟
雪乃の言葉に晃平はハッとする。
そして…
「ごめん、他に幸せにしたい人がいる」
そう答えた。
雪乃は、涙を目にいっぱい溜めながら、晃平に笑顔を向ける。
「…うん、知ってる…」
これは、あの日のやり直し。
晃平はそう気付く。
最初からこうしていれば、必要以上に雪乃や瑞希を傷付けることはなかったのだ。
「雪乃…、ごめんな。ありがとう」
雪乃は立ち上がると、
「晃平、幸せになって。じゃなきゃ、絶対許さない」
そう言って背を向けて歩き始める。
「雪乃もな!」
晃平は、雪乃に精一杯の言葉を投げた。
一度振り向いた雪乃は、
「晃平!三年前の今日をちゃんとやり直しなよ!
バイバイ!晃平!」
涙で頬を濡らしながら、笑顔で手を振る。
愛が一欠片もなかったわけじゃない。
それでも、本当の気持ちを隠し、向き合わずに後悔だけが残るような日々を過ごしてしまった。
結果、誰も幸せに出来ないのなら意味がないと、晃平は改めて思う。
コートに入れたままの小箱に触れ、晃平は微笑んだ。
「もう遅いかもしれねえけど…」
そう呟くと、雪乃と反対の方向に歩き出す。
〝三年前の今日をちゃんとやり直しなよ〟
その言葉に背中を押され、顔を上げた。
雪乃は、晃平のマンションまで来ていた。
この先、一緒に住むんだと思っていた晃平のマンションは、すぐ目の前にあるのに遠く感じる。
涙が溢れそうになったが、雪乃は頬を一度軽く叩いて気合いを入れた。
ピンポーン…
インターホンに雪乃の姿が映っているのを確認した晃平は、玄関のドアを開ける。
「ごめんね…家まで来たりして…」
「いや…」
「少しだけ、付き合ってほしいところがあるの」
本当なら、今日はブライダルフェアに参加する予定だった。
急遽不参加にすることも出来なかったんだろうと思い、晃平は頷く。
出掛ける準備を済ませ、マンションを出ると、雪乃は黙って歩き出した。
ブライダルフェアの会場とは反対方向に歩く雪乃に、晃平は話し掛ける。
「雪乃、どこに向かってるの?」
すると雪乃は、「いいから着いてきて」と笑った。
港の公園に到着すると、おもむろに雪乃はベンチに腰を下ろす。
その場所は、晃平と瑞希が付き合っていたと知った日に晃平が〝あの時の話はもういいから〟と、微笑んでくれた場所だった。
晃平は戸惑いながらも、雪乃の隣に腰を下ろす。
「あの日、晃平は言ったよね…。〝あの時の話はもういい〟って」
ゆっくりと静かに語り始めた雪乃の言葉に、晃平は耳を傾けた。
「…あぁ」
「だけどそれは、相澤さんのことを無理に忘れようとしてる証拠だったってことに、私は気付けなかった」
「…」
雪乃は思う。
自分の怪我のせいで、自分の言った〝結婚して〟の一言で、晃平は瑞希のことを無理にでも忘れようとしてくれた。
正直な気持ちじゃなくても、晃平は晃平なりにちゃんと自分と向き合おうとしてくれていたんだと、雪乃は気付く。
今度は自分がちゃんと向き合う番だと。
晃平を想って、晃平のために出来ることを…。
「晃平、今度こそ何も考えずに正直な気持ちで答えてほしい」
「…え?」
雪乃は一度深呼吸をすると、晃平に向き直った。
「好きです。私と結婚して下さい」
目を見開いた晃平は、雪乃の目を見つめる。
雪乃の目は、真剣だった。
〝今度こそ何も考えずに正直な気持ちで〟
雪乃の言葉に晃平はハッとする。
そして…
「ごめん、他に幸せにしたい人がいる」
そう答えた。
雪乃は、涙を目にいっぱい溜めながら、晃平に笑顔を向ける。
「…うん、知ってる…」
これは、あの日のやり直し。
晃平はそう気付く。
最初からこうしていれば、必要以上に雪乃や瑞希を傷付けることはなかったのだ。
「雪乃…、ごめんな。ありがとう」
雪乃は立ち上がると、
「晃平、幸せになって。じゃなきゃ、絶対許さない」
そう言って背を向けて歩き始める。
「雪乃もな!」
晃平は、雪乃に精一杯の言葉を投げた。
一度振り向いた雪乃は、
「晃平!三年前の今日をちゃんとやり直しなよ!
バイバイ!晃平!」
涙で頬を濡らしながら、笑顔で手を振る。
愛が一欠片もなかったわけじゃない。
それでも、本当の気持ちを隠し、向き合わずに後悔だけが残るような日々を過ごしてしまった。
結果、誰も幸せに出来ないのなら意味がないと、晃平は改めて思う。
コートに入れたままの小箱に触れ、晃平は微笑んだ。
「もう遅いかもしれねえけど…」
そう呟くと、雪乃と反対の方向に歩き出す。
〝三年前の今日をちゃんとやり直しなよ〟
その言葉に背中を押され、顔を上げた。
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