ポケットに隠した約束

Mari

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最終章

約束の場所

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ブライダルフェアの受付を終えたカップルの名簿の中に、晃平と雪乃の名前が無い。
「相澤さん、一組まだいらしていないようですが…」
「…もうスタートの時間ですね…。大丈夫です、始めて下さい」
一度会場の入り口を見るが、他のお客様を待たせるわけにもいかないと、私はスタートの合図を出した。

模擬挙式が終わり、模擬披露宴の中盤に差し掛かっても、二人の姿は一向に現れなかった。
「来ないね、晃平くんたち…」
莉奈が隣でコソッと呟く。

用意された席は、ポッカリ空いたまま。
何かあったのかな…そんな胸のざわめきを必死で抑えた。


ブライダルフェアも無事終わり、参加したカップルを見送っていると、雪乃が一人会場へと入ってくる。
雪乃の姿を見つけ、私は駆け寄った。
「雪乃さん…!」
「相澤さん…、今日は何の連絡も無しに参加出来なくてごめんなさい」
「…いえ」
「…私、晃平と離れたくないってそればっかりで、晃平の気持ちなんて考えてもいなくて…」
「…え?」

急に雪乃から語られる言葉に、私は戸惑うばかりで…。
見ると雪乃の目には涙が浮かんでいる。

「別れたんです、私たち…。私では、晃平を笑顔にすることは出来なかったんです…」
ポロポロと溢れ出した雪乃の涙。
私は混乱する中、慌ててハンカチを差し出した。

出逢ったその日から、晃平を想い続けてきた雪乃の気持ちに嘘は一つもないことが分かる。
ただ、好きな人の側に居たい、好きな人に愛されたい…
その気持ちが少し先走っていただけなのだ。

「雪乃さん…」
「相澤さんにも、たくさん辛い想いをさせてしまった…」
その言葉に首を横に振ると、雪乃は僅かに微笑む。
「高台にある、あなたと晃平の思い出の場所…、きっと今日そこで晃平は待ってますよ」
「…え?」

高台の公園…
そこは、まだ晃平の転勤が決まる前に、クリスマスデートの最後はそこでイルミネーションを見ようと約束していた場所だ。
そこに、晃平が居る?
それって…どういうこと…?

「三年前のあの日の約束を叶えるために…」
雪乃は、そう教えてくれる。

行っていいの…?
晃平に会ってもいいの?

「相澤さん」
「はい…っ」
「辛い想いをさせてごめんなさい。どうか、幸せになって…」
「っ…」
ペコリと頭を一度下げた雪乃は、そのまま会場を後にした。

いてもたってもいられなくなった私だったが、性格上ブライダルフェアの片付けを放って行くわけにはいかない。
焦る気持ちを押し込めて、急いで片付けに入った。

ようやく全てが終わり、タイムカードを切ったのは二時間後…。
「お疲れ様です!」
鞄を持って帰る準備をする私に、莉奈が呼び止める。
「瑞希ー、飲みに行こうー!」
「ごめん莉奈、今日はこの後用事がある」
「えぇ?そうなのー?」
「ごめんね、また今度」
急いでサロンを後にした。


晃平があの場所に居るかは分からない。
居ないかもしれない。
雪乃との会話から既に二時間も経っているわけだから。
それでも、少しでも可能性があるのなら…。

走りにくいスーツにハイヒール。
脱ぎ捨ててしまいたいほどのもどかしさを感じながら、私は走っていた。




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