ポケットに隠した約束

Mari

文字の大きさ
22 / 31
第六章

光の出口

しおりを挟む
その週の土曜日、私が担当する結婚式がまた一つお披楽喜おひらきを迎えた。

私はゲストの見送りを一通り見届けてから、ブライズルームへ足を運ぶ。
一年かけて準備してきた結婚式を終えて、この時間が無性に寂しく感じるのは、毎度のことだ。

「今日は本当におめでとうございます」
「相澤さん、本当にありがとうございました」
手を取り合い、握手を交わす。
新郎新婦のこの言葉と笑顔で疲れなんて一気に吹き飛んでしまうようだ。


新郎新婦は二次会へと向かうため、ブライズルームを出る。
名残惜しそうに会場を一度見渡すと、私へ向き直った。
「相澤さん」
「はい」
「一年間ありがとうございました。たくさん我が儘を聞いて頂けて、こんなステキな結婚式にして頂けて、感謝しかないです」
新婦が涙ぐんでそう告げる。

「お二人の結婚式のお手伝いが出来て嬉しいです」
そう伝えると、新婦は私の手を取って言った。
「相澤さんが担当で本当に良かったです。これからもたくさんの結婚式を作り上げていって下さいね!
私も友達に相澤さんをどんどん紹介するので!」
「ありがとうございます」

やっぱりこの仕事をやってて良かった…そう思える。
お客様と一緒に作り上げる結婚式は、私の心をも満たしてくれるものだった。


オフィスに戻ると、フロアマネージャーと莉奈が何やら話し込んでいる。
「あ、瑞希お疲れ様ー!ねえねえ、瑞希知ってた?」
莉奈が手招きして私を呼んだ。
「何?」
「マネージャー、一年前に支配人にならないかって話、蹴ったんだって!」
「え…、知らなかった…」
フロアマネージャーは、今年36歳で結婚式の担当件数が多いにも関わらず要領良く仕事をこなしていて、人望も厚い、支配人としても申し分のない人。
それなのに、話を断ったのはなぜだろう。
そんな疑問が浮かぶ。

「どうして、断っちゃったんですか…?」
私は素直に疑問を投げ掛けてみた。
「もう少し、プランナーで居たかったからかなあ」
マネージャーはそう言って微笑むと、話を続ける。
「支配人や副支配人になってしまえば、プランナーとして担当を持つこともなくなるでしょう?」
私も莉奈も、うんうんと耳を傾けた。

「売上や運営、管理の仕事も、もちろんやりがいはあるだろうし、スキルアップにも繋がるとは思うの。
でも、私はもっとたくさんの結婚式を担当していたかったの。今自分がやりたいことを優先させただけよ」


その時のマネージャーの顔はとってもキラキラしていて、この仕事が好きだということも、プランナーとして誇りを持っていることも分かる。

〝今自分がやりたいことを優先させただけ〟
その言葉が私の中にストンと入ってきた。

私が今やりたいこと…

支配人になりたい?
それとも、プランナーとして結婚式のお手伝いをしたい?

そっか…
そう考えれば答えなんてすぐだったんだ…

雪乃さんと結婚する晃平と会わずに済むとか、そんなこと今は考えずに、自分の人生どうしたいかをまず考えよう。


難しく考える必要はない。
今の気持ちをそのまま優先させたらいい。
モヤモヤしていた心の中に、光の出口が見えたような気がした。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...