君と、もみじ

Mari

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第二章

戸惑い

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「か・な・で・ちゃん、土曜日はあの後どうだったのかなぁ?」
月曜日の朝、教室に着くなり千夏がニヤニヤしながら聞いてくる。
「…なんのこと?」
そう言ってとぼけてみたが、
「一緒に帰っていったじゃん、響くんと。私、見てたんだからー」
無駄のようだ。

「どうだったも何も、あの後彼女と偶然会って、私は一人で帰ったし」
「はぁっ?マジで?彼女、響くんを待ってたの?」
「そうみたい」
そんな会話をしているうちに、担任が教室に入ってくる。
千夏は渋々席に戻っていった。

会話が途中で終わり、私は正直ホッとする。
これ以上響の話をすれば、私はどんどん響のことを考えてしまうからだ。
考える時間を減らして、そのうち〝好き〟という気持ちも消してしまえたらいい。
彼女持ちの響。
その側に居るのは、やっぱり辛い…そう実感した。



放課後、いつもなら読書をして帰るところだが、奏は席を立ち鞄を持つ。
「あれ?奏、今日はもう帰るの?」
千夏が不思議そうに問い掛けた。
「…うん」
私の返事に千夏は一度首を傾げるが、すぐに笑顔を向ける。
「じゃあさ、カラオケ行こ!」
「千夏、この前バレー部で行ったばっかりじゃない?」
「だって、人数多すぎて歌い足りないんだもん!」
千夏の押しに負け、二人でカラオケに行くことになった私たちは、そのまま校門に向けて歩き始めた。

「奏」

校門の向こうから呼び掛ける声に、ビクッと肩を揺らし立ち止まる。
そこに居たのは、夏に別れたばかりの小林先輩だった。


「小林…先輩…」
今更、私に何の用があるのか…
どうしてここに小林先輩が居るのか…
そんな想いがグルグルと頭の中を埋め尽くし、思考が止まる。

「…奏、行こう」
千夏が私の腕を引っ張り、小林先輩を無視するよう促した。
「うん…」
素通りしようとしたその時、小林先輩が私の腕を掴む。
「奏、話がしたい」
「っ…」
力強い手の感覚が、私の腕に刺激を与えるようだった。
それと同時に、忘れたはずの六月の記憶が蘇る。

駄目…
これ以上、私に触らないで…

「…私は…何も話したくない…」
小林先輩の手を振り切るように腕を離した。

もう、あんな想いはしたくない。
放っといてほしい。
逃げるようにその場を後にした。


カラオケボックスに着いて、何もかもを忘れるように歌ってタンバリン叩いて、千夏と二人ではしゃぐ。
ざわめく気持ちを、大丈夫、大丈夫と言い聞かせるように。

それなのに…
二時間が過ぎカラオケルームから出てフロントへ向かう途中のこと。
不意に聴こえてきた小林先輩との思い出の曲が耳に入ってきた。
「あ…」
そう口にした時には既に一筋の涙が零れ落ちる。

「…奏」
心配してくれる千夏をよそに、溢れ出した涙は次から次へと頬を濡らした。

大好きだった人。
初めて、〝ずっと一緒に居たい〟と思えた人。

響を好きになって、やっと忘れられたと思っていたのに…
その時の私には、辛い別れより先輩との楽しかった日々の方が、脳裏に簡単に思い出せたのだった。


〝これはただ、久しぶりに小林先輩と会って動揺してるだけ〟
何度も心の中で呪文のように繰り返す。

戸惑いは、秋の青空を隠す雲のように、私の中に広がっていった。




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