君と、もみじ

Mari

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第二章

小林先輩

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千夏と別れ、一人家までの道を歩く。

カフェで聞いた響と陽菜のこと、宏介から聞いた小林先輩のこと…
頭の中をグルグルグルグル、キリがない程巡っていた。
響へは愛しさが募り、小林先輩へは辛い気持ちが募る。
「馬鹿みたい…なんでこんな恋ばっかり…」

好きという感情なんて知らなければ良かった。
そうすればこんなに辛くなかったはずなのに…。

涙で視界が歪む。

その時だった。


「奏…」
後ろから腕を掴まれ振り向くと…
「小林…先輩…」
涙をいっぱいに溜めていることに気付いたのか、小林先輩は動きを止めて言う。
「なんで…、泣いてるの?」

「あ、いや、今あくびしちゃって…」
私は慌てて誤魔化した。
「本当に?」
「…本当に!」
まさか、家の近くで小林先輩に会うなんて思いもしなかった私は、突然のことに頭の中はプチパニック状態になる。

どうしよう、腕を振り払って走り出すのも無理があるし、でも話したいこともないし…
ぐちゃぐちゃと色んなことを考えてるうちに、私は小林先輩の腕の中に閉じ込められてしまった。
「先輩…」
「奏、何があったか分かんないけど、泣きたい時は我慢しないで泣いていいよ」

あ…
小林先輩の匂い…
懐かしいぬくもりが身体を包み込む。

あんなにこの人に泣かされたのに…
もう二度と会いたくないと思っていたのに…

なんで、こんなに優しい声で優しいことを言うんだろう。


不覚にも涙がポロポロと零れ落ち、小林先輩の胸で泣いてしまった。
ハッとして慌てて身体を離す。
何をやってるんだ私は…と、頭を抱えた。

「奏、あの時はごめん…」
小林先輩の言う〝あの時〟とは、六月のあの別れの日のことだということが分かる。
何て返せば良いのか分からず、声を出せない代わりに首を横に振った。
「俺は…、やっぱり奏が好きだよ」

あんなに大好きだった先輩の言葉も、今は心に響かない。
理由はハッキリしていた。
私が今、好きなのは響だからだ。

それに、一度傷つけられた心はそう簡単に癒せるものでもなく、小林先輩の言葉を信用するには〝あの日〟からまだ日が浅い。
「先輩、ごめん…。もうその言葉は信用出来そうにないよ…」
私の返した言葉に、小林先輩は黙り込んだ。
そしてこう告げる。
「そうだよな…、じゃあさ信用してもらえるまで、返事待っててもいい?」
「……え?」
正直、意外だった。
悪く言えば、女の子に不自由しないだろう容姿と頭脳を併せ持っている先輩が、なぜ…と不思議でならない。

「先輩…そんな人でしたっけ…」
思わず言葉にした私に、
「俺どれだけ悪いイメージ持たれてんだよ」
と笑うその顔は、付き合ってた頃のまま変わらず、優しい笑顔だった。

「私、そんなに簡単に信用しませんよ?」
「いいよ、待つから」
即答する小林先輩の言葉に目をぱちくりさせる。
四ヶ月前に振られたとは思えないこの会話。
なんだか、新鮮に感じた。

家まで送ってくれると言われたが、さすがにそこまでされると身構える。
「大丈夫、すぐそこだもん」
そう言ってやんわり断ると、小林先輩もそれ以上しつこくは言ってこなかった。

少しだけ、心が晴れたそんな夜。
〝過去は過去〟と割りきれそうな気がするのは何故だろう。
許したわけじゃない。
だけど、許せないわけでもなさそうだ。
恋は不思議なもの。
高ぶる自分の気持ちをコントロールすることさえ、時に難しい。
だとしたら、先輩の浮気も、先輩にとっては淡いちゃんとした恋だったのかもしれない…。
そう思えたら、それはそれで仕方のないことだったのだと先輩の気持ちが解ったような気がした。





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