君と、もみじ

Mari

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第三章

揺れる心

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本屋で小林先輩に大学試験の問題集を選んでもらった後、私と小林先輩は図書館へと立ち寄っていた。

一緒に勉強するなんて、いつぶりだろう…。

私が早速問題集を開いている隣で、小林先輩は参考書を手にパラパラと捲っている。


途中、難問に引っ掛かり〝うーん〟と首を捻っていると、
「どうした?」
と小林先輩が覗き込んできた。
不意に近付く距離に、私は思わず身を反らす。
そんな私の様子に小林先輩は噴き出して笑うと、私の頭に手を置いて言った。
「そんなに警戒すんなって」
ポンポンと撫でられて、恥ずかしさで顔から湯気が出そうな勢いに私は焦る。

小林先輩に難問の解き方を分かりやすく教えてもらい、気を取り直して問題集に集中した。


気付けば二時間近く経っていただろうか。
「わっ、先輩ごめんなさい!付き合わせてしまって…」
「いいよ、俺で良ければいつでも」
そう言って小林先輩は笑う。

そんな小林先輩の笑顔を目の前にして、私はずっと気になっていたことを思いきって口にした。
「…小林先輩は、どうしてまた私のことを…?」
一度は別の人に恋心を抱いたはずなのに、こんなに早く想いは戻るものなのだろうか。
「聞きたい?」
「…いえ、やっぱりいいです」
「そこは聞いとけよ」
笑いながら会話を交わして、フーッと息を吐くと小林先輩は話し始める。
「大学に入ってそのうちに友達も出来て、言い寄ってくる子も居たりして…、楽しくて高校の時とはまた違った新しい自由な生活に浮かれていたのかもしれない」
「……」
「ゴールデンウィークに友達と数人で遊びに行った日の帰りに、そのうちの一人が目の前で事故に遭って…亡くなったんだ…」
「え…?」
小林先輩は一度私の目を見て力なく微笑むと、また伏し目がちに話を続けた。
「その時、毎日毎日ずっと側で慰めてくれた子が居た」
「それって…」
あの日の待ち合わせに、小林先輩と一緒に現れた人だと分かる。
「…一時の感情に流されて、本当に大事なもんを見失ったんだ、俺は」
ドクドクと脈打つ心臓。
そんなことが私の知らないところで起こっていたなんて…。
自分の見てる前で友達を亡くして、どれほど辛かっただろう。


「奏…、都合が良いって思われても仕方ないと思ってる。でも、それでも…俺は奏が好きだよ」
先輩の言葉に、嘘は一つも無いことが伝わってきた。

好きだと言って戻ってきたあの日、〝信用出来ない〟と言い放った私の言葉を、この人はどんな想いで聞いていたのだろう。
チクチクと棘が刺さるように、胸が痛んだ。

「返事は…、急がないから。奏は受験に集中しろよ」
気遣ってくれる優しさは、昔から何も変わらない。
そうだ、この人はこういう人。
いつも、自分の悩みや愚痴は何も話さず相手のことばかり気遣ってた。

友達が亡くなった時も、きっとそうだったのだろう。

辛さや苦しみを私に言えば私が心配すると、言えずに一人で抱え込んだのだろう。
そんな一番辛い時、状況を知ってて側に居てくれた人に私が敵うわけなかったんだ。
先輩のことをちゃんと解ろうと思えば、表情にも心の内にも気付けたはずなのに。



揺れる心を、抑えられない。

鼓動が激しく鳴る。


「私、何も知らなくて…、分かってあげられなくてごめんね…」
「…知らなくて当然だよ。謝らなくていい」
そう言って、小林先輩はもう一度私の頭をポンポンと優しく撫でた。






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