君と、もみじ

Mari

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第三章

心のざわめき

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「なぁ、奏」
翌日の休み時間、別のクラスのはずの宏介が何故か居る。
「…あれ?宏介どうしたの?」
「お前に聞きたいことあってな」
千夏と顔を見合わせ、頭にハテナが浮かんだ。

「お前、昨日小林先輩と図書館に居ただろ」
「…うん」
その瞬間、昨日の小林先輩の話がよぎる。
「ていうことは、…より戻したの?」
昨日から度々、先輩の言葉ばかりがグルグルと頭の中でループしていた。
ボーッと考え込んでしまった私には、宏介の質問も届かず…。

「おーい」
呼び掛ける宏介に、千夏が笑いながら言う。
「今日は何を聞いても無駄かも。朝からずっとこんな調子なの」
「そっか」
ため息をついて教室に戻ろうとする宏介を追って、千夏は廊下に出た。
「宏介っ」
「どうした?」
千夏は、朝から様子のおかしい奏を不思議に思い、理由を聞き出したのだと言う。
そして、同じように奏を心配する宏介に、奏から聞き出した小林先輩の話をした。

「…そんなことが…」
「…私もびっくりして。でも、聞いてやっと納得した」
「奏は…、もしかして気持ちが揺れてる?」
宏介のその言葉に、千夏はゆっくりと頷く。
「多分ね…」
ここにきて、まさかの大どんでん返しが起ころうとしている…
二人は、そんな予感さえしていた。


その日の放課後、宏介は体育館で練習をしている男子バレー部に顔を出す。

「うあぁぁぁー、ヤバい。明日絶対筋肉痛…」
練習に付き合った宏介は、やっとの休憩時間に床にゴロンと倒れ込んだ。
「笹田先輩ー、運動不足っすよ」
隣で響が笑う。
そんな響をジーっと見つめる宏介。
「…なんすか?…俺、の気ないっすよ」
「アホか。俺もねぇっつーの」
尚も響を見つめる宏介にたまらずもう一度聞いた。
「だから…なんすか?」
「お前さ、奏のこと本気で好きか?」
「…」
唐突な質問に、響は固まる。
「…本気で好きなら、悠長にしてる場合じゃねぇかもよ」
「…どういうことっすか」
「小林先輩にマジで持ってかれるぞ」
真剣な眼差しと声色。
宏介の言葉が冗談なんかじゃないことくらい、響にも易々と分かった。

すると、隣で聞いていた和真が口を開く。
「奏先輩…、より戻したんすか?」
宏介はゆっくり首を横に振り、千夏から聞いた〝小林先輩に起こった出来事〟を話した。
「奏は、そんな小林先輩を憎むわけもないし、あいつのことだから、側に居られなかった自分のことを責めてるだろうな」
宏介のその言葉に黙り込む二人。

「正直、あの様子じゃ結構揺れてると思うぞ」

響は胸がザワザワするのを感じ、拳を握りしめる。
そんな響に和真がこそっと耳打ちした。
「…彼女とはまだ決着ついてないのか?」
「あぁ…」
短く返すと、肩を落とすように和真はため息をつく。
「お前、もうさ、気持ち伝えるだけ伝えたら?」
「…そんなことしたら、奏ちゃん振った時の小林先輩と同じだし」
奏を想う故の不器用さが、和真にはもどかしかった。


響はおもむろに携帯を取り出す。
焦りからなのか、状況が変わらない苛立ちからなのか分からないが、居てもたっても居られなかった。




「陽菜ー!置いてくよー!どうしたのー?」
「あ、すぐ行く。先に行ってて!」

〝そろそろ、ちゃんと話そう〟

陽菜に届いたメール。
それは、響からのメールだった。
溢れ出しそうな涙を拭う。

少し前に持ち掛けられた別れ話を一度は交わし、保留にまで持っていった陽菜は、そのまま別れ話自体を無かったことにしようとしていた。

「…嘘だって言ってよ」

しばらく携帯の画面を見つめ、鞄に入れる。
陽菜は、響に返信することなく、そのまま放課後の街へとくり出したのだった。






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