君と、もみじ

Mari

文字の大きさ
24 / 29
第四章

不器用な想い

しおりを挟む
奏が去った教室に、一人残った響はそっと奏の席に腰を下ろす。
そして先程奏の腕を掴んだ手のひらを見つめて呟いた。
「情けねぇ…」
陽菜とちゃんと別れて筋を通してからだとか、奏を傷付けた小林先輩と同じことしたくないだとか、本当はそんなものどうでも良いくらいに好きなのに…。
不意に緑色のもみじの葉に視線を移す。
放課後、ここにいつも奏が居たから何度も休憩中に足を運んだ。
「…俺を待ってるんじゃないかってずっと期待してたのは…、俺だ」
ぼんやりともみじの木を見つめながら呟く。
「…すっげぇ好きなのにな」
行き場のない想いが溢れ出して、苦笑いした。
響の頭の中には、奏の笑顔だけが浮かぶ。


しばらくすると、パタパタと足音が近付いてきた。
〝奏が戻ってきたらいいのに〟と思うが、明らかに奏の足音とは違うことが分かる。
案の定、教室を覗き込んだのは和真だ。
「おっ、こんなとこに居た」
「おぅ」
短く返事をすると、和真がゆっくりと教室に入ってくる。
「さっき、奏先輩が門を出るの見た。…話せたか?」
「少しだけな」
笑ってはいるものの、どこか切なげな響の表情に、和真は苦笑いだ。
「どうせ、言わなかったんだろ。好きだってこと」
「お見通しか…」
「お前のことだからな」
和真は響が座っている目の前の席に座る。


「俺たちも四月から三年かぁ」
和真が大きなため息をついて響に目を向けた。
頬杖をついて、中庭を眺める響の目は見たことのない程寂しそうに映る。
そんな響に和真はもう一度聞いた。
「お前、いいの?このままで」
響はゆっくりと口の端を持ち上げると、穏やかな顔で答える。
「諦めるつもりはないよ」
その言葉に和真は一瞬目を見開いて、
「なのに、そんなに余裕でいいの?」と笑った。
「余裕じゃないよ、全然。内心、超焦ってるし」
「奏先輩、大学生になったら小林先輩だけじゃなくて他の男に持ってかれるかもよー」
和真は冗談っぽく追い打ちを掛ける。
すると響は一度目を伏せて息を吐いた。
「今の俺じゃ、子供すぎるっしょ。奏ちゃんの周りに居る男に勝てない」
「今度は何?自信なくしてんの?」
そう言って和真が笑うと、響は言葉を続ける。
「奏ちゃんの隣に立っても恥ずかしくない男になったら、気持ち伝えに行く」

恋に関して、不器用で真っ直ぐな響。
それでいて自分の考えを曲げずに頑固なところがある、そんな響を、和真は〝カッコイイ〟とさえ思った。

「お前らしいね」
ため息混じりにそう呟くと、響も笑う。
「それはどうも」



三月上旬、桜の季節に行われた卒業式。
だけどそれは別れなんかじゃない。
響にとっては、新しいスタートを切るための序章でしかないのだ。
離れても、繋がっていられる。
そんな簡単に切れる間柄ではないと確信していた。
そこに理由なんてないし、確かに今はまだ、単なる先輩後輩でしかない。
だけど目に見えない何かで繋がっているような気がしてならなかった。
それが例え腐れ縁であったとしても、気持ちをちゃんと奏に伝えるまではと、もう一度前を向くのだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...