君と、もみじ

Mari

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第四章

卒業式の夜

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家族で卒業祝いの夕食を終え、私は自室へ戻った。
ベッドに倒れ込むように仰向けになる。

思い浮かぶ響の姿。
それを振り払うように、私は横向きに体勢を変えた。
すると、ふと目に留まる荷物。
卒業式で貰ったアルバムや卒業証書、そして男子バレー部からの寄せ書き。

ずっとこのまま読まないでおくのも、どうなんだろう。
そんな想いで起き上がった。

手にした寄せ書きを一つずつ読んでいく。

そして…

〝俺にとって、奏ちゃんはもみじ。またね。 響〟

オレンジ色のペンで書かれた響の文字。
「また、変なこと書いてる…何これ」
そう言いながらも涙が止めどなく溢れてきた。
「…〝俺はもみじが好きだよ〟って言葉、思い出しちゃうじゃん。変な期待させないでよ…」
いつの日か、響が言った言葉。
低くて優しい響の声を思い出す。

「…響…」

伝えられなかった想い。
中途半端で、臆病で、情けなくて…
そんな自分が大嫌いだ。

後悔と切なさが心の中いっぱいに広がる。


そんな時、携帯に着信が入った。
画面に映る〝小林先輩〟。
涙を拭い、電話に出る。

「はい」
『奏、卒業おめでとう』
「ありがとう」
『今、奏の家の前に居る』
「えっ…」
『ちょっと出てこれる?』

突然のことに慌てて家の外に出ると、塀に寄り掛かった小林先輩が微笑んだ。
「直接会って言いたくて」
「小林先輩…」
「改めて、卒業おめでとう」
「ありがとう…ございます」

小林先輩の笑顔を見て、私は急に罪悪感に襲われる。

ちゃんと、言わなきゃ…
こんな優しい人を、いつまでも待たせてちゃ駄目だ。

「あの…先輩…」
「奏」
言葉を口にしようとすると、小林先輩の声が遮る。
「他に好きな奴、居るんだろ?」
「…どうして、それ…」
思わぬ言葉に目を見開いた。
「前に、校門のとこで響の彼女と話してただろ?」
「っ…」
「あの日奏に会いたくて、門の外に居たんだ。他校の女の子に先越されて話が終わるの待ってたんだけど、…ごめんな、聞こえちゃってさ」

そうだとしても、あの時私は響のことを一言も〝好き〟だと口にしていない。
なのに、どうして…。

「〝なんで?〟って顔してる」
そう言って小林先輩が笑う。
「…だって…」
「…奏の顔も、声も、つらそうだったから」
目の奥がじんわり熱い。
駄目だよ、そんな優しい声で言い当てないで…。

「響が走ってきた時はビックリしたよ」
「…」
「響が奏のこと何とも想ってないなら、俺は諦めないつもりだった。…でも、響の言葉を聞いて、奏と同じ想いでいることが分かったから…」
「…同じ想い…?」
どういうことなのか聞き返してみるが、小林先輩は微笑むだけだ。
「奏、正直な気持ち、聞かせて」
真っ直ぐな小林先輩の目が私を見つめる。

大好きだった先輩。
今でも、大切な人には代わりない。

だけど…

「…ごめんなさい、先輩。私は、響のことが、好き…」
一つ一つの言葉を繋ぎ合わせていくように答えると、小林先輩は一度目を伏せた。
そして、肩の力を抜くようにため息をつくと優しく告げる。
「だったら、もう響にも嘘をつくなよ?」
「先輩…」
「自分の気持ち、大事にしろ」
その言葉で、一粒の涙が頬をつたう。

小林先輩は大きな手をポンと私の頭に乗せると、ぐしゃっと撫でて笑った。
「言っとくけど、お前が幸せになんねぇと、俺が諦める意味も無駄になるんだからなっ」
明るく言い放つ言葉は、優しくて暖かい。
涙ながらに小さく頷くと、「じゃあな」と小林先輩は手を振って帰っていった。

先輩、ごめんなさい…
ありがとう。
本当に、大好きでした。


夜空を見上げると、明るく照らす月がぽっかりと浮かんでいる。
いつか、響にも気持ちを伝えることが出来たなら、今度こそその時は嘘のない想いを言葉にしたい。

そう心に思ったのだった。





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